北海道において、札幌に次ぐ人口を有する第二の大都市……
彫刻のまち、骨董のまち、文芸のまち、旭川ラーメンの本場。
かくも様々な顔を有する、道内でも古くから栄えてきた旭川市は
また同時に、街を石狩川が横切るがゆえの「橋のまち」でもある。
そんなわけで、幕を開ける『宙マン』の物語。
今回は、そんな旭川市の数多い橋の中でも特にその名を知られた
旭川の象徴、旭橋(あさひばし)の付近よりお送りしよう。
一見すると、平和そのものの旭橋周辺。
だが、読者諸氏よ、決して油断してはならない。
これまでも、幾度となくそうであったように……
悪の野望や不気味な異変は、そんな平穏の中にこそ息を潜めて
牙を剥く機会を待ち構えているものなのだから。
おお、今まさに、この瞬間にも!
耳を澄ませてみれば、のっし、のっし……と言う無遠慮な足音が
石狩川沿いの河原に響き渡っているではないか。
「ギャギャギャギャア~ッ!!」
持ち前の好戦性の顕れのように、どこかヒステリックな咆哮……
多々良島出身の喧嘩好き、有翼怪獣チャンドラー。
もちろん、怪獣軍団の一員である。
イフ「さぁ、チャンドラーよ、行くがよい。
ワシら怪獣軍団の悲願、地球征服の野望達成のため……
今こそ、お前の力を旭川の地で存分に奮う時が来たぞ!」
チャンドラー「ギシャシャ、その言葉を楽しみに待ってましたァ。
やらせてもらいますぜ、魔王様!」
イフ「うむっ、よくぞ申した!」
イフ「その地形の関係から、数多くの橋が建つ旭川……
まさに橋こそは、旭川の発展には欠くべからざる生命線」
チャンドラー「ギシャシャ、逆に言うなら魔王様……
それが無くなりゃ、街はたちまち大混乱ってこってすな」
イフ「(頷き)そうだ、その通りじゃ!
橋を破壊し、旭川の機能を寸断させるのがお前の使命。
……まずは旭川の象徴、この旭橋が第一の標的である!」
チャンドラー「ギシャシャシャ~っ!」
チャンドラー「心得ましたぜ魔王様、万事この俺にお任せを!
あんな橋の一つや二つ、俺の力にかかりゃあ……」
「いいやっ、そんな真似はさせないぞ!?」
チャンドラー「(ギョッとなり)むむっ! だ、誰だっ!?」
不意に響いてきた凛たる声に、驚いて振り返る有翼怪獣。
次の瞬間、華麗な空中回転とともに舞い降りてきたのは……
もちろん、この男だ!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
有翼怪獣チャンドラー、旭橋の破壊など私が許さん!」
チャンドラー「ちゅ、宙マン……どうしてお前が旭川にいるんだ!?」
宙マン「んー、まぁ、話せば長いんだけどね?」
チャンドラー「……出来れば手短に頼む」
宙マン「(頷き)……努力はしてみよう」
宙マン「えーと、現役時代のツテだったり、コネだったり……
いろいろあって、この旭川で開催されるスーパーヒーロー向けの
講演会に出席して、講師を務めることになってねぇ」
チャンドラー「ふん、ふん」
宙マン「で、せっかく旭川まで来たんだから、講演会のついでに
本場の旭川ラーメンでも食べて行こうと思って……」
宙マン「『あさひかわラーメン村』に足を運んだその矢先に
何だか嫌な胸騒ぎがして、旭橋まで来てみれば……
……こうして君がいて、ワルサをしようとしていたわけさ。
ホントに、全く、どうしてくれる!?」
チャンドラー「(心底呆れて)……知るかっ!!」
宙マン「まぁいい、とにかく悪事は許さんよ!?」
チャンドラー「うるへー、とって付けたみてーに言いやがって!
な~にがラーメンだッ、こちとら仕事で来とんのlじゃっ!」
そこに至るまでの経緯はともかく……
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日も世紀のスーパーバトル開幕だ!
チャンドラー「ギシャ~っ、邪魔はさせねぇぞ、宙マン!」
宙マン「いいだろう、こうなったら腕づくだ!」
真っ向激突、宙マン対チャンドラー!
間近に旭橋を望む河原で、超人と怪獣がしのぎを削る。
鋭い牙で、宙マンの肩口に食らいつかんとする怪獣。
その猛攻をかいくぐり、宙マンも果敢に接近戦を挑む。
強靭な翼をうち振り、パンチ攻撃を仕掛けてくるチャンドラー。
その打撃を冷静に見切って回避し、受け流しながら……
果敢にチャンドラーの内懐へと飛び込んでいく宙マン。
お返しとばかり、今度は宙マンがパンチの連打!
一発、一発が大砲なみの威力を有している鉄拳が、怪獣のボディへ
めり込むようにブチ当たっていく。
宙マン「それっ、どうだ――これでもか!?」
チャンドラー「ギシャ~っ、なんだ、ンなもん!」
チャンドラー「そのくらいで参るほど、チャンドラー様はヤワじゃねぇや。
ギシャシャ~、そおれっ、これでもくらえ!」
「有翼怪獣」たる、彼の最大のアイデンティティ……
巨大な二枚の翼で起こす突風の勢いが、河原の石を吹き飛ばし
宙マンをも大きくよろめかせる!
宙マン「(足元がふらつき)――くッ!」
チャンドラー「ギシャシャシャ、さぁ、とどめだっ!」
宙マン「デリャアァァーッ! 宙マン・ショット!」
気合とともに、不可視の破壊衝撃波を繰り出す宙マン!
まともに受けて、チャンドラーが怯んだところへ――
宙マン「よし、今だっ!」
よろめくチャンドラーの間合いに飛び込み、その体をがっちり掴んで
軽々と持ち上げて見せる宙マンのパワー。
そして、そこから繰り出す技は――
宙マン「そぉれっ! 宙マン・リフター だ!!」
怪獣を高々と持ち上げる超怪力、相手を投げ落とすタイミングとスピード……
それら総てが相まった時、宙マン・リフターは充分に「決め技」たりうるのだ。
チャンドラー「ギャイィィ~ンっ、こ、こんなのってアリかよ~!?」
やったぞ宙マン、大勝利!
かくして、我らが宙マンの活躍により……
旭橋破壊を企てる、怪獣チャンドラーは撃退された。
そして、宙マンの事であるから……
この後、旭川市で催されると言うスーパーヒーロー向けの
講演会においても、見事に講師の任をこなしてくれることだろう。
そして、それと同じ頃、千歳の『宙マンハウス』においても。
落合さん「さぁ、皆様、お昼の用意ができましたわよ!」
ビーコン「おおっ、今日はニシンそばっスか、落合さん!」
落合さん「甘露煮のタレとニシンの旨味が、ほどよく溶けだして……
このツユの深み、一度知ったら病み付きですわよね!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんもニシンそば大好きなの~」
ビーコン「んー、でもでも、落合さん……
アニキ抜きで、こんな旨いもん食っちまっていいんスかね?」
落合さん「お殿様もご当地できっと、美味しい物食べてらっしゃいますもの。
ですから、私どもも負けずに……ですわ♪」
ビーコン「ヒヒヒ、落合さんも言うっスね~!」
ピグモン「はうはう~、おそば美味しいの~♪」
と、これらの流れだけを見れば、文句のつけようもないほのぼの大団円ムード。
……だが、今回ばかりは、そんなことではとても気持ちの治まらない者が
ここ、暗黒星雲にいた!
イフ「ぐぬ、うぬぬぬっ、おのれ宙マンめぇぇっ……」
イフ「怪獣魔王に楯ついて、このまま無事で済むなどと思うなよ……
貴様は決して、旭川からは生かしては出さん!
そうともよ、旭川をお前の墓場にしてやる、宙マン……!!」
……なんと、続いちゃうんです、今回のお話!
旭川滞在中の宙マンの運命や、いかに!?