豊かな自然に恵まれた、6月の北海道。
ここは、そんな道内の一角に位置する、とある海岸沿いの道路である。
この海岸道路を走る、一台のトラックがあった。
まもなくその眼前に現れる、恐るべき災厄のことなど知らぬまま――
はてさて、これからこのトラックに何が起こるというのか?
その答えは、このあとすぐ!
「おいっ、見ろ……アレは何だ!?」
「グワバババぁぁ~ッ!!」
疾走するトラックの前に、ぬうっと現れて立ちはだかった影……
ガマガエルとクジラとを、ひとつにかけ合わせたかのような異形の巨体。
それもそのはず、そのものズバリの「汐ふき怪獣」ガマクジラ!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!?」
迫り来るガマクジラを前に、慌てて急ブレーキを踏むが間に合わない。
巨大な足の一撃で、派手に転倒してしまうトラックであった。
道内のとある海岸道路で起こった、このトラック転倒事故。
まさにこれこそが、北海道に降りかかる更に怖ろしい災厄の幕開けなのであった。
が、ひとまずそれはそれとして――その事件から数日後。
2006年3月31日、静内郡静内町と三石郡三石町の廃置分合(合併)で設置された、
道内における比較的新しいまちのひとつ、新ひだか町。
北海道日高振興局管内に属する、この海沿いの町に……
毎度お馴染み、千歳の宙マンファミリーが遊びにやって来ていたのであった。
ビーコン「さすが海沿い、歩いてるだけでほのかに潮の香りが漂ってくるっスね~」
落合さん「こういう町に来た以上、どうしたって手ブラでは帰れませんわよね~。
……あ、ほらほら皆様、あんなところにお魚の直売所が!」
宙マン「ほほぅ、さすがに漁業の盛んな町だけのことはあるねぇ」
落合さん「なんたって水揚げされたばかりの魚介類ですもの……
あれもこれもピチピチ新鮮で、それに……こんなにお安いんですのよ!
アー、もうっ、台所を預かる身としては気持ちが舞い踊っちゃいますわ!」
落合さん「えぇ、こうしてはいられませんわ、さっそくお買い物です!
お殿様、うんと美味しいお魚料理、楽しみにしていて下さいましね」
宙マン「うん、それはそれで嬉しいことなんだけど……
やはり新ひだかまで来たからには、何か当地の旨い物を食べたいよねぇ」
ピグモン「うんっ、ピグちゃん、おなかぺっこぺこなの~」
ビーコン「ハイハイハーイっ! だったらオイラ、行きたい店が一軒あるっスよ!」
宙マン「ほう?」
落合さん「(ジト目)キャバレーだのパブだの、そんなのは却下ですからねッ」
ビーコン「いやっスね~落合さん、大体まだ開いてる時間じゃないっしょ?」
落合さん「では、どんなお店だと仰いますの?」
国道235号線沿いの「あさり浜」……
ココで出してるラーメンと天丼が、メッチャ評判いいらしいんスよね!」
宙マン「ほほぅ、天丼ね……そりゃあよさそうだ!
しかしビーコン、よくそんな情報を知ってたもんだね?」
ビーコン「ヒヒヒ、ダテに毎日、飯関連の口コミ情報はチェックしてないっスよ~
ひとえにこの辺、インターネット様々っス!」
落合さん「あらまぁ、ビーコンさんにしては上出来ですこと!」
ビーコン「(ジト目)……ヒトコト多いっスよ、落合さん」
落合さん「なーにを仰ってますの、アナタなんてヒトコトどころか二言、三言……」
宙マン「はっはっはっはっ、まぁまぁ、二人とも。
そじゃ新ひだか見物を楽しむ前に、まずは天丼で腹ごしらえを――」
「ちょっと待ってなの、みんな!」
落合さん「急にどうしましたの、ピグモンちゃん?」
ピグモン「(一方を指し)あれ、あれなのっ……海のようすが、なんかヘンなの!」
ビーコン「はへっ!?」
不気味な海面の泡立ち、激しく飛び散る波飛沫とともに現れたのは!?
「グワバババぁぁ~ッ!!」
ピグモン「(怯えて)きゃああんっ、出たの、怪獣なの~!」
宙マン「おうっ、あれは……汐ふき怪獣・ガマクジラか!」
ビーコン「オイラも聞いたことあるっスよ、確か真珠が大好物ってヤツっスよね。
(ハッとして)……あ!
そう言やこないだ、真珠を積んだトラックの事故があったっスけど……」
落合さん「さてはあの事故、アナタの仕業でしたのね!?」
ガマクジラ「グワバババ、大正解だぁ、ピンポンピンポ~ン!」
宙マン「だとしたらガマクジラ君よ、ここに出るのはお門違いってものだよ。
確かに新ひだか町は漁業が盛んだが、真珠の養殖とは無縁……」
ガマクジラ「グワババ~、判ってるんだ、百も承知だよそんなコトっ!」
宙マン「その上で敢えてココに出てくる……何か事情がありそうだな?」
ガマクジラ「ウン、話せば長い話なんだけど……」
宙マン「……手短に頼む」
ガマクジラ「要はアレだ、怪獣魔王様の奥様であられるサンドロス様……
あの方は宝石だの、貴金属だの、レアメタルだの、古美術品だの……
とにかく、そのテのもんに目がなかったりするわけなんだな」
落合さん「……その心情、判る気が致しますわ。同じ女性として」
ガマクジラ「そこで奥方様のため、特別製の真珠のネックレスを作ろうと……
軍団きっての真珠のオーソリティー、この俺が派遣されたってわけだ」
宙マン「なるほど、だから真珠を積んだトラックを……」
ガマクジラ「もとより、真珠の匂いにはどの怪獣より敏感な俺だ……
真珠輸送のトラックを嗅ぎ分けるなんてのは簡単なことだった。
トラックを襲って、真珠を荷台の外に出したまではよかったが……」
ガマクジラ「ほら、御存知の通り、俺って真珠が食料じゃない?
あんまり旨そうで、ついつい全部食べちゃったんだよね~!!
いやぁ、失敗、失敗。テヘッ☆」
ビーコン「な……な、なんつーしょうもなさっスか!?」
落合さん「(呆)……食欲に忠実すぎますわ、アナタ」
ガマクジラ「だよなぁ、我ながらお恥ずかしい。
こればっかりは、まったくもって返す言葉もないよ(赤面)」
ガマクジラ「で、このままじゃバツが悪くて、暗黒星雲にも帰れない。
……そこでこの新ひだか町を襲って、少しでも名誉挽回・点数稼ぎってわけ。
以上、俺がココに現れた理由――判ってもらえたかなァ?」
宙マン「う~む、なるほど。判りやすい説明、どうもありがとう!」
ガマクジラ「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ。
んじゃ、さっそく一仕事始めるんで、俺はこれで~!」
落合さん「そうですか、では道中くれぐれもお気をつけて!」
宙マン「ご縁があったら、またどこかでお逢いできるといいですね」
ピグモン「はうはう~、ガマクジラのおじさん、ばいば~いなの~」
にこやかに挨拶を交わしあい、足元の宙マンたちに一礼すると、そのまままっすぐに
海岸線を突き進み、漁港のほうへと向かっていくガマクジラ。
そんな汐ふき怪獣の背中を、宙マンたちは和やかな笑顔で見送って……。
ピグモン「はうはう~、行っちゃったの~」
落合さん「さて、お話し合いのほうも和やかに済んだことですし……
私たちは私たちで、新ひだか見物を楽しむと致しましょうか!」
宙マン「ああ、まずは何より天丼だよ、天丼!」
ビーコン「ヒヒヒ、これにて一件落着、万事めでたしめでたし……」
「……って、全然めでたしじゃないっスよ~!?」
そう、全くもってその通り!
人々の悲鳴が響き渡る中、ガマクジラは巨体を激しくゆさぶりながら
新ひだか町の漁港へと荒々しく乱入してきていたのであった。
ガマクジラ「グワバババ~ッ、驚け、騒げ、人間ども!
この俺の力で、北海道の地図から「新ひだか」の町名を消し去ってやる――
そうとも、今日は新ひだか町・最後の日だ!」
ピグモン「ふぇぇん、あんなこと言ってるの~(涙目)」
ビーコン「ど、どひ~っ、なんてやつっスか!?
自分の失敗をゴマカすために、町ひとつ全滅させちまおうだなんて!」
落合さん「いけませんわね……これではとても、天丼どころではございませんわ!」
宙マン「いいや、そうはさせない! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
空中回転とともに、猛り狂うガマクジラの前へ颯爽と舞い降りてくる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!」
ガマクジラ「ぶぎゅるっ!?」
ビーコン「いよっしゃぁ、まずはアニキが一点先取っスよ!」
落合さん「鮮やかですわ、流石はお殿様です!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
ガマクジラ「く、くちょおおっ、いきなりナメた真似しやがって!(汗)」
宙マン「ガマクジラ、新ひだかの人たちに迷惑をかけることは許さん!」
ガマクジラ「グワバババ~ッ、許さんのはこっちの方だ!」
宙マン「ならば来いッ、勝負だ!」
ファイティングポーズで敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまた、世紀のビッグファイトの幕開けだ。
激突、宙マン対ガマクジラ!
怒りに燃えて突進してくる大怪獣を前に、宙マンも渾身の力でぶつかっていく。
激しくあがる波飛沫、戦いの火花を散らすふたつの巨体!
落合さんたちが見守る中、またまた巨大戦がダイナミックに展開。
ガマクジラ「グワバババ~ッ、捻り潰してやる!」
宙マン「なんの!」
側面へ回り、そのまま怪獣の背中へ馬乗りになる宙マン。
そのままガマクジラの背面めがけて、怒涛のようなパンチとチョップの連打――
必死で振り落とさんとするガマクジラ、しがみついて攻撃の手を緩めない宙マン、
まさしくこれは巨大サイズのロデオそのものである。
宙マン「えいっ! それっ、どうだ、これでもか!」
ガマクジラ「グワバババ、調子に乗るなッ!」
ブシュウゥゥーッ!
宙マン「うぶっ!?」
ガマクジラの背中から、不意に勢いよく噴き出される体液――
まともにそれを顔面に浴びてしまって、バランスを崩し振り飛ばされる宙マン。
別名「汐ふき怪獣」とは、よくぞ名付けたものである。
宙マン「(咳込み)ゲホ、ゴホッ……」
ガマクジラ「グワバババ、宙マンよ、ヘバるにゃまだ早いぜぇ~!?」
シュルルルルっ!
さながらカメレオンのように、これまた勢いよく伸びるガマクジラの舌!
宙マンの全身に巻きつき、たちまち動きを封じてしまったではないか。
落合さん「(驚愕)ああっ、お殿様!?」
ビーコン「間抜けそうなツラなのに、意外とヤリ手っスよ、あいつ!」
ピグモン「はわわわ、宙マン、まけないでなの~!」
ガマクジラ「グワバババ~、勝負あったな宙マン、お前の負けだァ!」
宙マン「(苦悶)……う、うう……っ!」
サンドロス「をほほほ! やってるドロスわね、ガマクジラちゃん!」
イフ「そのまま一気に、宙マンへとどめを刺してしまうのだ!」
ガマクジラ「グワバババ! このまま骨までへし折ってやるぞ~!」
落合さん「強敵ですわ……なんて恐ろしい怪獣なんでしょう!
舌をあんなに伸ばしたまま、普通にお喋りが出来るなんて!」
ビーコン「ちょ、落合さんっ、驚くところソコっスかぁ!?(汗)」
「なんの……負けて、たまるかッ!!」
宙マンの額が輝き、パワー全開!
全身のエネルギーを超高圧電流へと変換し、ガマクジラへと一気に放出。
さしものガマクジラも、これにはたまらず舌をほどいてしまった。
ガマクジラ「(悶絶)ぶ、ぶぁっ! し、しびしび、しびれるぅぅ~!」
宙マン「よし、今だっ!」
素早く駆け寄り、のたうつガマクジラの巨体を軽々と持ち上げる宙マン。
そのまま宙マン・リフターで、一気に地面へ叩きつけたところへ――
宙マン「とどめだ! 宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ガマクジラを直撃!!
ガマクジラ「こっ、この一撃……どうにもガマんがならないのぉぉ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
落合さん「お見事ですわ、お殿様!」
ビーコン「ヒューヒュー、やったっスよ、今日もアニキの勝ちっス!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
サンドロス「ぐぬぬぬ……ムキーッ! またしても宙マンに負けちゃったドロス!」
イフ「確かに黒星は口惜しいが、ガマクジラもあやつなりに奮戦したのだ。
どうだ、ここらでそろそろアレを許してやっては……」
サンドロス「えぇ、判ってるドロスわ、あ~た。
ガマクジラちゃんのことなら、もうとっくに許すつもりでいるドロス――」
サンドロス「……だが宙マン、お前だけは絶対に許さないドロス!
この次こそは、きっと泣きっ面にしてやるドロス~っ!!」
かくして宙マンの活躍により、大怪獣ガマクジラは撃退され……
新ひだか町の平和は、無事に守り抜かれたのであった。
そして宙マンファミリーも、国道235号線沿いのドライブイン「あさり浜」において
人気ナンバーワン・メニューの天丼を無事に堪能できたことは言うまでもないだろう。
宙マン「いやぁ、美味しい天丼だったねぇ、予想以上だよ!」
しっかり吟味されたネタひとつひとつの鮮烈さ、サクサク、からりと揚がった衣の
花が咲いたような美しさと香ばしさ、歯応えの心地よさ、少し濃い目の甘辛さの中に
海辺のほのかな「潮の味」さえ感じられるタレの調味の絶妙さ、それらを受け止め
どっしりと土台を固めるホカホカご飯の旨味……と、つらつら列記した要素の全てが
「本当に美味しい!」という一言のもとに食べるものを圧倒し、かつ幸せにしてしまう
何とも嬉しく、楽しく、ボリュームたっぷりな一杯。
落合さん「あらあらまぁまぁ、どうしましょう……
まだお買い物も済んでいないのに、天丼だけで早くも大満足ですわ」
ビーコン「チチチ、落合さんもアニキも、それじゃ困るっスねぇ!
ここで終わっちゃ、読者の皆さんが欲求不満で暴動起こすっスよ?」
宙マン「ほう、まだ何か足りてないものがあるのかね」
落合さん「(ジト目)……いちおう訊いておきましょうか。
一体なにをやらかすおつもりなんですの、ビーコンさん?」
ビーコン「いえっふ~、そんなの決まってるじゃないっスか!
不肖・ビーコンちゃん選りすぐりのノンストップ下ネタラッシュ……」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、このエロ怪獣! 断じてさせませんからね!?(怒)」
ビーコン「どひ~っ……読者の皆さん、次こそは必ずっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
美しい海がもたらす恵み……
町の優しさがもたらす笑顔……
今日も颯爽、全てを守った正義の味方。
我らが宙マン、次回もバッチリ頼んだぞ!