天気は快晴、気温は高すぎず、低すぎず。
7月に入った北海道千歳市は、いよいよ訪れた夏本番の中では
珍しく過ごしやすい、穏やかな心地よい空気に包まれていた。
だが、そんな束の間の平和を破る異変がここに発生した。
甚だ困った話ではあるが……そうでなければ、本シリーズのお話は
どうにも転がっていかないのだから致し方ない。
さて、今回の異変はこちら――
千歳市の上空に、突如として巨大な発光体が出現したのである!
「千歳の皆さん、よくお聞きなさい!
私は神、この星に幸福をもたらす大宇宙の神なのです」
天空の眩い光の中から、朗々と響き渡るダンディな声――
自称「神」の声に誘われるように、あちらこちらからゾロゾロと集まってくる人々。
その中には毎度おなじみの落合さん&ビーコン、みくるん&ながもんの姿も。
落合さん「(呆然と)あ……ああ……」
みくるん「(幻惑されている)……かみさま……救い主さまぁ……」
ビーコン「なんなりと……オイラたちにお言葉をっス~」
ながもん「……(いつもの無表情)」
「正義をこの地上に実現するため、私は宇宙の彼方からやって来ました。
しかし地球上では、私の力を100%完全に引き出すことができません――
だからこそ、そのためには皆さんの協力が必要なのです」
「……そう、そのためにはお金が必要なのです、マネーが!
お金を触媒にして私の全能力は解放され、地球は天国となりましょう。
さぁ宇宙平和のため、今すぐお金を! 一刻も早く! 一円一銭でも多く!」
……何のことはない、これはもう完全な詐欺行為。
いや、詐欺だとしてもかなり粗く強引な手口だが、それでもこの場の誰ひとり
疑念を抱くそぶりも見せず、声もあげないのは、ひとえにこの怪しい光が
地球上の生物にもたらす、強力な催眠作用があったればこその物であった。
落合さん「(陶酔しきって)うう……お金、お金……神様のためにお金を……」
みくるん「いそがなきゃ……いそがなきゃ……」
ある者は通帳を取りに自宅へ、またある者は預金を引き出すべく銀行ATMへ。
そしてまたある者は、その場で財布の中の現金を取り出そうとして……
謎の怪光の企み通り、トントン拍子で事が運んでしまうかに思えたその時!
「――待てィッ!!」
高らかな声を響き渡らせて、その場にさっそうと姿を見せたのは……
毎度お馴染み宙マンと、その「家族」であるピグモン。
そして宙マンの一喝が「気付け」の効果をもたらして、催眠状態にあった
落合さんはじめ千歳の人々も、次々に正気を取り戻したのであった。
落合さん「(ハッとして)あ……あらあらっ?」
ビーコン「はてな……オイラたち、今まで一体何を……?」
ピグモン「はうはう~、よかったの、みんな元に戻ったの~♪」
みくるん「ほにゃ? 元に戻った、って……」
落合さん「一体どういう事なのでしょうか、お殿様?」
宙マン「いやいや、もう何も心配いらないよ。
みんなはただ……
あの光の催眠術にかけられて、お金を騙し取られるトコだったんだ」
みくるん「(驚き)……え、ええええっ!?」
「……な、何をバカな! 私は間違いなく大宇宙の神……」
宙マン「はっはっはっ……そんなお粗末な嘘に、誰が引っかかるものか!」
宙マン「お前のことは、既に宇宙警備隊のゾフィー隊長から聞いているぞ。
ブレイン星とパールム星でも、同じ手口で荒稼ぎしたそうじゃないか――
市街地に妖しい光の玉が現れたと聞いて、もしやと思ったら……案の定だ!」
「ぐぬぬぬっ……私の事は先刻承知か!」
宙マン「さぁ! 正体を現せ、この宇宙詐欺師め!」
「おのれェ……おのれおのれ、おのれェェッ!!」
千歳上空に浮かんだ怪光を核として、急速に実体化していく巨体。
ゴツゴツした岩を思わせる、重量級の異形!
「ごごご……ゴギゴギゴギ~っ!!」
そして、遂に……
謎の怪光は、恐るべき巨大怪獣としての正体を顕わにした!
ピグモン「はわわ……な、なんか凄いのが出てきたの~!」
みくるん「(パニック)かっ……かかかか、怪獣!?」
ながもん「(無表情に頷き)講●社・ウルトラ怪獣完全超百科にいわく……
あれは……催眠魔獣・ラグストーン」
ビーコン「なぁる、詐欺にはうってつけってわけっスね!」
宙マン「ううむっ、どこの誰がこんな厄介な奴を地球へ……」
落合さん「(苦い顔で)……どうせまた、怪獣軍団の差し金に決まってますわ!」
ラグストーン「ゴギゴギゴギ……その通りだ!」
ラグストーン「俺の催眠光線で星々の住民を操り、現金をごっそり巻き上げ
その稼ぎによって、俺たち怪獣軍団の財政基盤を充実させる。
ブレイン星でも、パールム星でも成功したこの手口……
今度も上手くいくはずだったのに、よくも邪魔だてしてくれたな!」
宙マン「あぁ、いつだって邪魔してやるともさ。
みんなの大切なお金を、お前みたいな小悪党の好き勝手にさせるか!」
ラグストーン「(地団駄踏んで)……ぐあぁ~っ、こいつムカつく~っ!」
イフ「ぬううっ……止むを得ん、作戦変更だラグストーン!
こうなったら、お前の力で千歳の街を徹底的に破壊せよ――
ワシらを敵に回すことが、どれだけ高くつくのか教えてやれィ!」
ラグストーン「ゴギゴギゴギーっ! お任せを、魔王様!」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始するラグストーン!
催眠光線の呪縛から解放され、正気に返った人々が右往左往する。
ラグストーン「ゴギゴギゴギ、この攻撃を受けてみろ!」
ラグストーンの単眼から迸る破壊光線!
建造物を、車を、一瞬でなぎ払っていく恐るべき威力だ。
爆発! また爆発!
目もくらむばかりの閃光と炎の中を、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
あぁ、今や千歳の平和は風前の灯であった!
ラグストーン「ゴギゴギ、俺様が本気を出せばザッとこんなもんだぜ!」
みくるん「ふぇぇん、そんな本気ちっとも嬉しくないですぅ!(涙目)」
ビーコン「アテが外れたからって、こりゃ逆ギレもいいとこっスよ!」
落合さん「とにかく、このままあの怪獣に暴れ続けられたのでは……」
ピグモン「はわわ、みんなの街がメチャクチャになっちゃうの~」
ながもん「(宙マンを見て)ここは……あなただけが……頼り」
宙マン「(頷き)ようし、やるぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、猛り狂うラグストーンの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
怪獣軍団の使者・ラグストーン、お前の悪企みもここまでだ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いよっしゃ、アニキの巨大化キタッ! これでもう安心っス!」
みくるん「(不安げに)でも大丈夫かなぁ、あの怪獣さん強そうだし……」
ながもん「(ボソッと)……信じよう。……宙マンを」
宙マン「正義に勝る悪はないと、その身に直接教えてやろう。
それが嫌なら負けを認めて、大人しく暗黒星雲に帰るがいい!」
ファイティングポーズを取り、敢然と身構える宙マン。
ラグストーン「ゴギゴギゴギ……大口を叩くな、宙マン」
ラグストーンの単眼から放たれる催眠光線!
だが、宙マンは慌てず騒がず、両腕のクロスガードでこれを完全に無力化。
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトルの幕開けだ!
宙マン「はっはっはっ……その攻撃、私には通じないぞ。
お前などにたやすく操られるほど、ヤワな私であるものか!」
ラグストーン「ゴギゴギー! おのれおのれ!」
猛然と襲い来るラグストーンに、敢然と立ち向かっていく宙マン!
落合さんたちが見守る中、今日も凄絶な巨大バトルが展開される。
力と力、技と技。
宙マンとラグストーン、両者の闘志と意地がぶつかりあって火花を散らす。
宙マン「エイ、やぁっ! どうだラグストーン、これでもか!」
ラグストーン「ゴギゴギゴギ……糞ったれが!」
吐き捨てるような悪態とともに、ラグストーンが放つ破壊光線!
その一閃をひらりとかわして、大空に舞う宙マンの巨体。
宙マン「トォリャァァーッ!
宙マン・イリュージョン・キック!!」
華麗な空中回転の連続で幻惑し、すかさず放つキック技……
宙マン自慢のイリュージョン・キックは、敵に回避の隙を与えない。
痛烈なその一撃に、もんどりうって倒れるラグストーン。
ながもん「(頷き)……よしゃっ」
ビーコン「オッケーオッケー、こうなりゃもうアニキのペースっスよ!」
落合さん「お殿様、今ですわ!」
イフ「ああああ……
いかんぞ、いかんいかん、これは色々まずいのではないか!?(汗)」
ゾネンゲ博士「ご心配なく魔王様、ラグストーンにはまだ奥の手がございます。
……さぁ、今こそ宙マンにガツンと一泡吹かせてやれ!」
「 ウ オ オ ッ ス !! 」
重低音の凄味ある気合とともに、猛然とダッシュしてくるラグストーン!
とっさの回避を図る宙マンだったが、とても間に合わない。
ラグストーンの勢いとスピードを前に、回避する暇もあらばこそ――
一気に間合いを詰められ、タックル攻撃をまともに食らってしまう宙マン。
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
充分に加速された魔獣の重量そのものが武器となって、歴戦のヒーローをも
軽々と吹っ飛ばしてしまう!
みくるん「ああっ……宙マンさんが!」
ビーコン「どひ~っ、なんてヤツっスか!?
詐欺師のクセして、力技もイケちまうなんて……」
落合さん「(歯噛みして)くぅぅ~、反則ですわよ、絶対反則っ!」
ピグモン「はわわわ、宙マン、負けないでなの~!」
ながもん「……(無言で拳を握りしめる)」
イフ「わははは! いいぞ、いいぞ、その調子だラグストーン!」
ゾネンゲ博士「もう一発食らわせて、宙マンの全身の骨をバラバラに砕いてしまえ!」
ラグストーン「ウオオッス!」
土砂を激しく巻き上げ、再び猛然と突進してくるラグストーン!
その攻撃を受け、一度は大地に倒れ伏した宙マンであったが……
遺された力を振り絞って、再びすっくと立ち上がった。
ラグストーン「ゴギゴギ、バカめ! ノシイカになるのがオチだぜ!」
宙マン「なんの! 目には目を、歯には歯を……
そして、体当たりには……体当たりだッ!」
ラグストーンの突進を怖れず、自らも真っ向から突っ込んでいく宙マン。
その全身が、体内から溢れ出すエネルギーによってみるみる赤く染まる!
「トゥリャァァーッ!
宙マン・エネルギッシュ・ボンバー!!」
出た! 宙マンの肉弾戦法、エネルギッシュ・ボンバー!
真紅のエネルギーで全身を包んで、自らを巨大な光の弾丸と化し……
そのまま一気にラグストーンの懐へ飛び込み、ボディを貫通してしまう。
宙マン「―どうだっ!」
ラグストーン「ご、ゴギゴギゴギ……これはたまら~んっ!」
エネルギッシュ・ボンバーの威力に崩れ落ち、大爆発するラグストーン。
やったぞ宙マン、大勝利!
みくるん「わぁっ、やったぁ!」
ビーコン「まさか怪獣の体当たりを、逆に体当たりで吹っ飛ばすなんて……」
落合さん「(笑顔で)そこがまた、お殿様ならではの芸当と言うものですわ」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
人々の歓声が、宙マンの勝利を讃える――
七月の空の下に立つ巨体は、どこまでも雄々しく、逞しかった。
イフ「うがぁぁっ……また失敗か、またしても宙マンのせいで!
だが、これしきで地球を諦めるような怪獣軍団ではないぞ。
次なる使者の必殺技が、今度こそ宙マン、貴様を地獄へ叩き落とすのだ!」
……などと言う、怪獣魔王の負け惜しみはさて置いて。
かくして――
今回もまたまた宙マンの活躍で、催眠魔獣・ラグストーンの計略は粉砕され
千歳の平和と、そこに暮らす人々の財産は守り抜かれたのであった。
ビーコン「アニキ、今日もまたまたお疲れ様っした!」
落合さん「お殿様のおかげで、貴重な財産を持ち逃げされずに済みましたわ」
ピグモン「はうはう~、事件が解決してほっとしたら……
なんだかピグちゃん、おなかがすいてきちゃったの~」
ながもん「(頷き)今日は、うんと……ご馳走……食べたい、気分」
みくるん「(苦笑)そんな、せっかくお金を盗られずに済んだばかりなのに……」
宙マン「いやいや、無駄遣いは確かに感心しないけど……
使うべき時は迷わず使う、それがお金との正しい付き合い方だよ」
ビーコン「いよっ! さっすがアニキ、いいコト言うっスねぇ!」
ビーコン「と言うわけで……
落合さんにも、メリハリあるお金の使い方を実践してもらいたいもんっスね!」
落合さん「(ジト目)な~にを、偉そうにっ。
お殿様から家計を任されている私に、抜かりなどあるはずがないでしょう」
ビーコン「いやいや~、オイラから言わせると全然まだまだっスね!
具体的にはオイラのために、エロゲとエロ同人誌とアニメのブルーレイとエロフィギュアと
その他もろもろの購入資金、バーッと大幅増額の方向で……
んでもって毎日セクハラ一回ごとに、別料金で小遣いくれれば完璧っス!」
げ し っ !
落合さん「私の拳固はプライスレスですっ、これでいかが!?(怒)」
ビーコン「どひ~っ、そんなサービスはノーサンキューっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
いつも正直、真実一路……
そんな宙マンの頭上には、今日も輝く正義の青空。
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?