北海道、某所……
分厚い霧と雲がたちこめる、「幻想的」と言う言葉を通り越して
ある種の異様な妖気さえ漂って感じられる場所。
こんな異様なたたずまいの中で、何も起こっていないはずもなく
次なる北海道の危機は、この濃霧の中、とある離れ小島において
深く静かに、そして着実に進行しつつあったのである。
と言うわけで、今回も開幕となる『宙マン』の物語。
勿論ここでは、件の離れ小島にスポットを当ててみることにしよう。
ゴゴゴ……グラグラグラグラッ……!
離れ小島の剥き出しの岩肌を破り、地中から吹き出す蒸気ガス。
濛々たるその煙こそ、大怪獣出現の前兆に他ならなかった――
ガラガラと崩れる岩、裂ける地表。
煙の中から、地上にその姿を現した者とは!?
「ギシャアアア~ッ!!」
甲高い咆哮とともに、地上に姿を現した悪の使者。
怪獣軍団の一員、火山怪鳥バードンだ!
バードン「ギシャアァァ~っ、魔王様、魔王様!
俺っちの準備は万端、モウいつでもいけちゃいますぜ!」
イフ「よしよし、元気一杯だな、その意気だぞバードン!
では、その元気をもって、早速仕事にかかってもらおうか。
改めて説明するまでもないとは思うが、お前の使命は――」
バードン「地球前線基地建設の下地作りでやんすね、分かってますって!」
イフ「(頷き)うむうむっ、ならば結構、大いに結構!」
イフ「この青い星の上に、真の支配者として君臨する……
ワシらの地球征服の野望達成のためには、前線基地の建設は
是が非にも成し遂げねばならない悲願なのだ」
イフ「前線基地から次々に、ミサイルの雨を降らせれば……
北海道は勿論、全世界を瞬時に壊滅させることも容易い。
そうなれば、地球はワシらの物も同然よ!」
バードン「ギシャシャシャ、ワクワクしますねぇ!」
イフ「なればこそ……
改めて頼むぞ、全てはそなたの双肩にかかっておる!」
バードン「ギシャシャ、任しといて下さいよ、魔王様!
このバードンにかかりゃ、そんな仕事は朝飯前……」
「おおっと、そうは問屋が卸さんぞ!」
バードン「(訝しみ)ギギッ、どこのどいつだ!?」
不意に響いてきた凛たる声に、驚いて振り返るバードン。
次の瞬間、華麗な空中回転とともに舞い降りてきたのは……
もちろん、この男だ!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
怪獣軍団の悪党め、正義の宙マン・キックを受けてみろ!」
バードン「ギ、ギギーっ!?」
先制攻撃、宙マンの空中キックが命中!
不意を突かれて直撃を受け、もんどりうって倒れるバードン。
バードン「(よろめきつつ)ちゅ、宙マン……だと……!?」
宙マン「あぁ、そうとも、はるばる千歳からやって来たのさ!」
ファイティングポーズをとり、颯爽と身構える宙マン。
さぁ、今日もまたビッグファイトの幕開け……と、思いきや?
バードン「(慌てて)ま……待て待て、ちょ~っと待った!」
バードン「どうしてお前が、ココを突き止めることができたんだ。
……ちゃんと説明してくんなきゃ、納得いかんぞ!?」
宙マン「う~ん、どうしても説明しなきゃダメかな?」
バードン「そりゃそうだろうがよォ。
物には道理ってモンがあるし、それをすっ飛ばしたご都合主義は
「りぼんマンガスクール」じゃ即・減点対象だぞ?」
宙マン「……なるほど、確かにねぇ。
ちょっと長くなっちゃうかもしれないけど、いいかな?」
バードン「まずは話してみろよ。聞くから!」
宙マン「ありがとう、そう言うことなら……
まず事の起こりは、三日前。
私たちが家族で遠出をして、ご当地の和食レストランにて
ミニかつ丼と蕎麦のセットを注文したところから始まる」
宙マン「肉質が軟らかく、さらりと甘い脂のフルーツポーク。
だが、その典雅な味わいが、思いもよらぬ事態に繋がるとは
神ならぬ私たちには知る由もなく……」
バードン「だーっ、待て待て待てーいっ!!(汗)」
バードン「そっからか? そっから説明しなきゃダメなのか!?」
宙マン「やー、物事の筋道を通すにはどうしても……」
バードン「(イライラと)……あー、もう判った判った、判ったから。
やっぱさ、その辺のところはサクっとすっ飛ばして……
テンポよく、いつものヤツ行ってみよう! な!」
宙マン「ありがとう、分かってもらえて助かるよ!」
と言うわけで、相互理解が成立――
説明パートはさくっと飛ばし、今日もビッグファイトの幕開けだ。
真っ向激突、宙マン対バードン!
濃霧の中の離れ小島で、両者の力と技とがしのぎを削る。
バードン「ギシャシャ~っ、死んでもらうぜ宙マン!」
宙マン「なんの、そう簡単にはやられない!」
ナイフのように鋭利な爪と嘴を武器に、接近戦を挑むバードン。
その猛攻をかわしつつ、宙マンもまた果敢に敵へと肉薄していく。
宙マン「くッ、なかなかやるな!」
バードン「ギシャシャ~っ、まだまだ! 次はこいつを受けてみろィッ!」
バードンの口から吐き出される高熱火炎。
恐るべき灼熱の洗礼が、宙マンの真横で炸裂する!
「う、うわあぁぁぁ……っ!!」
イフ「わははははっ……その調子だ、バードン!
そのまま一気に、にっくき宙マンへとどめを刺せ――
ワシらの前線基地建設、奴めに邪魔などさせるな!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ!」
バードン「ギシャシャ~っ、悪く思うなよォ、宙マン。
魔王様のご命令だ、このまま冥途へ行ってもらうぜ!」
よろめく宙マンに、反撃の隙など与えまいとばかり……
一気に間合いを詰め、嘴で突きかかってくるバードン。
ウルトラマンタロウやゾフィー、ウルトラマンメビウスらの英雄を
幾度となく死の淵へと追い詰めた、バードン族の鋭利な嘴。
その鋭利すぎる切っ先を、心臓に食らってはおしまいだ――
ああ、宙マン、今度と言う今度は絶体絶命か!?
宙マン「なんの、これしき……負けて、たまるかッ!」
宙マン「怒れ稲妻! 宙マン・ボルトサンダー!!」
ピカッ、ゴロゴロドドーンっ!
宙マンの気合とともに、念動力で発生させる正義の稲妻!
眩い閃光とともに、バードンの体を直撃したボルトサンダーが
怪鳥の全身を猛然と駆け巡り、容赦なく痛めつけて――
バードン「ぴ、ピギャアアアッ!?」
ボルトサンダーの洗礼を受け、のたうって倒れるバードン。
そして宙マンは、そこに生じた大きな隙を逃すことなく!
宙マン「でりゃあーっ! 宙マン・ショット!!」
とどめの一撃、裂帛の気合と共に放つ不可視の衝撃波!
宙マン・ショットが、怪鳥バードンの胸板めがけて炸裂した。
宙マン「――どうだっ!」
バードン「ギャルゥゥッ……ま、参ったぁぁ~っ!」
派手な爆発とともに、火山怪鳥バードンもあえなくノックアウト。
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「ぐぬぬぬっ……おのれ、おのれ、またしても宙マンめが!
だが、決してこのままでは済まさんぞ。
必ず復讐してやるからな、覚えておれよ宙マン……!」
……などと言う、いつもの負け惜しみはさて置いて。
かくして宙マンの活躍により、恐るべき大怪獣バードンは撃退され
道内某所の離れ小島には、再び静けさが戻った。
宙マン「ふうっ、やれやれ。……これでどうにか、今日も一件落着か!」
めでたしめでたし、よかったよかった――
……例の長くなる説明のことは、敢えて蒸し返さない方向で。
山に、海に、そして街に……
異変があるなら、黙っちゃいない正義の味方。
さぁて、次はどんな活躍を見せてくれるかな?