さんさんと照りつける太陽――
ここ・北海道千歳市も、暑い日が続く文字通りの「盛夏」である。
8月も早や下旬、そんな勢いにもさらに拍車がかかろうかというこの日。
千歳市の郊外において、またしても不気味な異変が生じていたのであった。
メキメキと音を立てて、局地地震とともに大地が割れ裂ける。
激しく土砂を吹き飛ばし、その姿を見せた巨大な影とは何者か!?
「ウキャウウウ~ッ!!」
勢いよく地中より躍り出てきたのは……
ご覧の通り、特大コロッケかトンカツに手足を生やしたかのような異形。
その名も怖ろしい双頭怪獣・パンドン、もちろん怪獣軍団の一員だ!
重々しい足音を千歳市郊外の岩山いっぱいに響かせながら、
パンドンの巨体がのっし、のっしと歩いてくる。
その目的は、もちろん――
イフ「わははは……ワシらの悲願、地球征服!
パンドンよ、お前こそまさに、その大理想を達成するに相応しい戦士だ」
パンドン「ウキャウウウ~、まぁ任しといて下さいよぉ、魔王様!」
イフ「うむうむ、頼もしいヤツよ。
ではパンドンよ、さっそくワシの前に、お前の力を示すがよい!」
パンドン「ウキャウウウ~、ほんじゃ、まずはこんな感じで!」
得意満面で、左右一対の頭部の口から交互に火炎を吐き出すパンドン。
直撃を受けた荒れ地の一角に、そのたび凄まじい爆炎があがる――
もしもこの威力が市街地で奮われたとしたら、多大な被害が出るのは確実だ。
パンドン「ウキャウウウ~!
そうでなけりゃ、俺がわざわざ暗黒星雲から来た甲斐もねぇ!
このまま市街地へ向かい、千歳の街を火の海に……」
「こらこら、そこーっ!
ちょーっと、待ちたまえ!」
パンドン「(訝しんで)ムムムーッ! だ、誰だっ!?」
パンドンが驚いて、自分の足元を見下ろすと……
そこにいたのは誰あろう、もはやお馴染みの宙マン・その人であった。
パンドン「げげっ、宙マン!(汗)」
宙マン「こらこら、駄目じゃないか火遊びなんて、危ないだろう」
パンドン「あー、いや、俺はそもそもその危ないことしに来たわけで……
……って言うか宙マン、どうしてこうもタイミングよく来るんだ!?」
宙マン「う~ん、いや、まぁ……言ってしまえば「たまたま」なんだけど」
宙マン「もっかうちの町内会では、近所の子供たちに危険なことがないように
町内会の大人たちが役割分担して、定時パトロールの実施中でね。
今日がたまたま、私の当番だったというわけさ――
改めてもう一度言うよ、火遊びなんて危ないからやめたまえ!」
パンドン「ウキャウウウ~、ナメたこと言ってんじゃねぇぞ!
千歳攻撃の手始めに、まずはお前から踏み潰してやるぞぉ!」
のっしのっし、猛然と迫り来るパンドンの巨体!
それに対して宙マンもまた、怯むことなく敢然と身構え――
宙マン「なんの、そうはいかんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、突き進んできたパンドンの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
地域の平和を乱す凶悪怪獣、この私が打ち倒してやる!」
ズ、ズーンっ!!
宙マン「何度でも言うぞ、火遊びは危ないからよしたまえ!」
パンドン「ウキャウウウ~、どこまでもナメくさりゃがって!」
パンドン「いいだろう、どうせどこかでお前の存在が邪魔になるんだ。
だったらこの場でお前を捻り潰してやるぜよ、宙マン!」
宙マン「聞く耳持たずか……ならば、止むを得ん!」
ファイティングポーズを取り、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトルの幕開けだ!
激突、宙マン対パンドン!
抜けるような青空と照りつける日差しの下、両者の攻防戦が展開。
宙マン「さぁ、どこからでも来るなら来い!」
パンドン「ウキャウウ~、いつまでもそんな余裕コイてられると思うなよ!」
鋭利な両手の爪を打ち振り、接近戦を仕掛けてくるパンドン!
宙マンもまた鍛え抜かれた格闘技で渡り合い、容易に有効打は喰らわない。
ここで宙マン、怒りの水平チョップ!
まともに喰らったパンドンの巨体が、じりじりっと後退する。
どうやらこの戦い、まずは宙マンのペースといったところか。
だがそこに、宙マンの油断があり……
そしてパンドンの双頭は、そこに生じた隙を目ざとく捉えて見逃さなかった!
パンドン「脇がガラ空きだぜ!」
バキィッ!
パンドンのパンチが、宙マンのボディに炸裂してヒーローを吹っ飛ばす。
更にたたみかけるかのごとく、パンドンの左右の口から同時に火炎噴射!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
まさにパンドン・火の車!
周囲に巻き起こる凄絶な爆発の衝撃波に吹っ飛び、地面に叩きつけられ
大ダメージを負ってしまった宙マンである。
ゾネンゲ博士「おおっ……相変わらずやるではないか、パンドンの奴め!」
イフ「いいぞパンドン、そのまま宙マンにとどめを刺すのだ!」
宙マン「(苦悶)う、うう……っ!」
パンドン「ウキャウウウ~、このまま丸焼きになっちまえ!」
勝利を確信し、猛然と走り寄ってくるパンドン!
その嘴がクワッと開き、渦を巻くような勢いで火炎が吐き出される――
だが宙マンは、今度はその一閃を冷静に見切ってかわし、大空にジャンプ!
パンドン「な、何だとっ!?」
宙マン「やられっぱなしの私じゃないぞ、今度はこっちがお返しだ!」
宙マン「エイヤァァーっ!
宙マン・ミラクル・キック!!」
出た、電光石火の必殺技!
これにはたまらず、ドドーッと雪崩を打ってブッ倒れるパンドン!
痛烈なダメージに、なかなか態勢を立て直せない双頭怪獣である。
パンドン「(悶絶)……う、きゃ、ウウウウ……っ」
宙マン「ようし、この一発で決めてやる!」
パンドンめがけて、真っ向から突っ込んでいく宙マン。
その全身が、体内から溢れ出すエネルギーによってみるみる赤く染まる!
「トゥリャァァーッ!
宙マン・エネルギッシュ・ボンバー!!」
出た! 宙マンの肉弾戦法、エネルギッシュ・ボンバー!
真紅のエネルギーで全身を包んで、自らを巨大な光の弾丸と化し……
そのまま一気にパンドンの懐へ飛びこみ、ボディを貫通してしまう。
宙マン「―どうだっ!」
パンドン「うギャうぅぅっ……ど、どうもこうも……ねぇってばよ~っ!!」
エネルギッシュ・ボンバーの威力に崩れ落ち、大爆発するパンドン。
やったぞ宙マン、大勝利!
必殺の肉弾戦法で、パンドンを見事に打ち倒し……
華麗な空中回転とともに、かっこよくその場への着地を決める我らが宙マン。
真夏の太陽を浴びて立つ雄姿は、どこまでも逞しく、頼もしかった。
イフ「ぐ、ぐばばばばばっ……おのれおのれ、よくもやってくれたな!
だが覚えておれよ、ワシら怪獣軍団の奥深さには限りがないのだ。
宙マンよ、この次こそは、お前にそれを思い知らせてやる!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍により、双頭怪獣パンドンは撃退され……
千歳を火の海にしようという怪獣軍団の謀略は、今度も未然に防がれた。
そして引き続き定時パトロールの町内巡回を終え、宙マンは家に帰ってきた。
宙マン「ふぅ~、ただいまぁ!」
落合さん「あらあら、暑い中お疲れ様でした、お殿様!
ご町内の定時パトロール、今日のお当番はいかがでした?」
宙マン「はっはっはっはっ、例によって異常なし。
変わりのない、ごくごく平凡な私たちの日常ってやつさ」
ビーコン「すべて世はこともなし。平和で呑気なもんっスね~」
宙マン「(頷き)うんうん、平和で呑気、それが一番さぁ。
……それはそうと、何だかすっかりお腹がすいちゃったな」
落合さん「(にっこり)お昼のご用意、出来ておりますわ」
宙マン「はっはっはっはっ、さすが落合さん!」
宙マンの人知れぬ活躍があったことを、誰も知らぬまま……
千歳市のランチタイムが、今日もまた穏やかな空気とともに訪れたのであった。
めでたし、めでたし。
今日も本当にありがとう、宙マン!
だが、未だ怪獣軍団の野望は尽きない……
さて、次回はどんな冒険が待っているのかな?