あのうだるような、真夏の猛暑はどこへやら。
9月も早や半ば近く……野を、町を吹き抜ける風の爽やかさから
秋の訪れを肌で実感できるような北海道である。
そんな北海道の片隅、ご存じ千歳の「宙マンハウス」。
血相変えて訪ねてきたのは、これまたおなじみの……。
「おぉ~いっ、宙マンさん、宙マンさ~んっ!」
落合さん「あら、これはこれは……
私どもの良き知人にして、千歳市内で農業を営んでおられる
熊澤農場の経営者たる熊澤様ではございませんの!」
ビーコン「……ちょ、いきなりなんスか、その露骨な説明口調!?」
落合さん「もしかしたらいらっしゃるかもしれない、新規の読者様方に向けましての
不肖・落合の、メイドならではのサービス精神の発露ですわ(しれっと)」
ピグモン「熊澤のおじさん、こんにちはなの~」
宙マン「と、それはともかくとして……
今日は一体どうなさったんです、そんなに慌てて?」
熊澤さん「……そ、そう、それそれ! それなんだよ!」
熊澤さん「じ、実はね宙マンさん。
今朝、キノコ採りの様子見に入った原生林で……や、山の中で……!」
宙マン「山の中で……なんです?」
熊澤さん「み、見たんだよ私ゃ。
あ、あれは……あれはね、絶対、間違いなく、確実に……っ!」
宙マン「落ち着いて下さい、熊澤さん。
慌てないで構いません……ゆっくり、ゆっくりでいいですから!」
ビーコン「ありゃりゃ……
すっかり気が動転しちまってるっスね~、熊澤のダンナ」
落合さん「……お水の一杯も、用意した方がよさそうですわね?」
ビーコン「(頷き)……っスね~」
だが……ちょうど、その時である!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
落合さん「(驚き)きゃ、きゃあああっ!?」
ビーコン「ノン・チェ・プロブレーマ、緊急時でも慌てない!
弾力性のクッションで、素早く身の安全を確保っス!」
落合さん「……って、どさくさ紛れにドコを触ろうとッ!(怒)」
市内が激しく揺さぶられ、大地が音を立てて割れ裂ける。
大量の土砂を天高く撒き上げ、舗装道路をもやすやすと引き裂いて
地の底から今また新たに、その姿を現わさんとしている邪悪な影。
……果たして、それは!?
「ばお、ばおぉ~んっ!!」
熊澤さん「で、で、出たぁぁっ……か、怪獣だぁ!」
落合さん「あの、熊澤様の急ぎのお話っていうのは……」
宙マン「もしかして、あの怪獣のことだったのかな!?」
熊澤さん「……(コクコクっと頷き)」
ビーコン「ひぇぇぇ、もうちょっとタイミングが早けりゃ……
オイラたちも少しは、心の準備できたんスけどねぇ!?(汗)」
「ばおばおぉ~んっ……ボヤくな、ボヤくな♪」
「ちょうどいい機会だから、今のうちに自己紹介しておくか。
俺はコンゴ川流域生まれの地底怪獣・アルフォン――
特命を受けて千歳に派遣されてきた、怪獣軍団の一員さァ!」
ビーコン「どひ~っ、また無駄に怪獣知識が増えちまったっス!(汗)」
落合さん「なんのかんのと言っても、要は……」
ピグモン「いつもと同じ、悪い怪獣さんってことなの~!(涙目)」
宙マン「……うぬっ!」
イフ「わははは……さぁ行け怪獣アルフォン!
地球征服の第一歩として、千歳の街を徹底的に破壊するのだ!
南米で鍛えたお前の力、北海道民に見せつけてやれィ!」
アルフォン「ばおぉ~っ、やらせてもらいますぜ、魔王様!」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始するアルフォン。
迫り来る巨体を前に、人々はただ逃げ惑うより他に術がない。
熊澤さん「ひぇぇ、来てる、こっち来てるよぉ!(汗)」
落合さん「全くもう、秋の大運動会じゃありますまいし……」
ビーコン「こんな風に走らされるなんて、ご勘弁っスぅぅ~!」
怪獣アルフォンの出現により、早くも大混乱の千歳市!
だが、それを阻むべく、航空防衛隊の精鋭たちが直ちに出動した。
ピグモン「あ、防衛隊が来てくれたの!」
ビーコン「頑張ってくれっス、頼むっスよ~!」
落合さん「毎度毎度、割と本気で期待しておりますのよ!?」
「う~ん、“割と”が引っかかるんだけど……
気にしないで行こう、それっ、攻撃開始っ!!」
戦闘機隊の一斉攻撃!
雨あられと叩きこまれるロケット弾にも、びくともしない地底怪獣。
アルフォン「ばおぉ~んっ、今度は俺がお返しだぁ!」
「ど、どわぁぁぁ~っ!?」
アルカリ性の土壌を好むアルフォンが、口から吐き出す融解ガス。
その強アルカリ成分により、たちまちのうちに機体を腐食させられ
一機、また一機と撃墜されていく戦闘機隊。
熊澤さん「あぁっ、やられちゃったよぉ!」
ビーコン「ただの、でっかい芋虫のお化けと思ってたら……」
落合さん「まさか、あんな“隠し玉”があったなんて!」
ピグモン「はわわわ……宙マン、宙マン、何とかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
今日もまた、正義の味方のお出ましだ!
ビーコン「いよっしゃ! アニキの十八番が出たっスよ!」
落合さん「ああ、やはり素敵ですわ、お殿様っ!(うっとり)」
熊澤さん「頼んだよぉ宙マンさん、頑張っておくれよぉ~!
ピグモン「なの~!」
アルフォン「ばおぉ~っ、お前が噂の宙マンか。会いたかったぜ!」
宙マン「私のサインを受け取って、大人しく暗黒星雲に帰るか……
それともこの場において、私の手で徹底的に叩きのめされるか。
二つに一つだ、さぁ選ぶがいい!」
全身にみなぎる怒りを力に変え……
ファイティングポーズをとって、敢然と身構える宙マン。
アルフォン「ばおぉ~っ! だったら迷わず三つ目……
お前を倒して、暗黒星雲に錦を飾るコースを選ぶぜィッ!」
宙マン「とことんやるかね……ならば、やむを得ん!」
激突、宙マン対アルフォン!
落合さんたちが見守る中、巨獣と巨人の死闘が展開される。
二本の鋭い牙を振りかざし、突進攻撃を仕掛けるアルフォン。
その物騒な先端を、軽快なフットワークにて巧みにかわしながら
冷静に相手の隙を伺い、確実なパンチを入れて行く宙マンである。
宙マン「行くぞ、怪獣アルフォン!」
アルフォン「ば、ばおおっ!?」
突進してきたアルフォンの体を、大ジャンプでひらりと飛び越え
華麗な空中回転とともに、見事な着地を決める宙マン。
ズ、ズーンっ!
宙マン「ははは、どうした、こっちだこっちだ!」
アルフォン「ばおお~んっ、なめやがって、コンニャロっ!」
怒りにカッカとなりつつ、宙マンめがけて襲いかかるアルフォン!
こうなればもう、完全なるヒーロー側のペース……
……と、言いたいところだが。
何しろ南米コンゴから地面を掘り進んで、日本までやって来られる
ケタ外れのスタミナとタフネス、そして怪力を誇るアルフォンだけに
その凶暴性が全開になると、それはそれでまた苦しい戦いである。
お互いの立ち位置が何度も入れ替わり、巨体が交錯し……
いつ果てるともしれない、凄まじい戦いが続く。
宙マン「さぁ、今度はどう来るね!?」
アルフォン「ばおぉぉ~っ、もちろんこう行かせてもらうぜィ!」
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
炸裂、怪獣アルフォンの南米流メガトン頭突き!
その強烈な一撃を受け、大きく吹っ飛ばされた宙マンである。
熊澤さん「ひぇぇぇっ……ちゅ、宙マンさんが!」
落合さん「地底怪獣なんて、今更珍しくもないと思っておりましたら……」
ビーコン「あのデカ芋虫野郎、とんでもない曲者っスよ!(汗)」
ピグモン「はわわわ……宙マン、負けないでなの~!」
サンドロス「をほほほ、どうドロスか、あ~た?」
サンドロス「アタクシがわざわざ、出張費をかけて南米まで出向き……
コンゴの山奥で、アルフォンちゃんをスカウトした甲斐があったドロしょ!?」
イフ「ううむっ、さすが我が妻、素晴らしい目利きよの!」
イフ「そしてアルフォンよ、分かっておろうな?
そのまま一気に、宙マンめにとどめを刺してしまうのだ!」
サンドロス「これでもはや、怪獣軍団の勝利は疑いなしドロス~♪」
アルフォン「ばおぉぉ~っ、お任せを、魔王様に奥方様!
……さぁて宙マン、このままあの世へ行ってもらうぜ!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ!」
よろめく宙マンに対し、体勢を立て直す暇など与えまいとばかりに
アルフォンの巨体が、猛然とのしかかってくる。
宙マンの心臓を、首筋を、喉笛をめがけ……
幾度も振り下ろされてくる、怪獣アルフォンの一対の牙。
危うし、我らのヒーロー!
アルフォン「ばおぉぉ~っ! 終わりだ、宙マン!」
宙マン「なんの、これしき……負けて、たまるかッ!」
アルフォン「(虚を突かれ)……ば、ばおぉぉっ!?」
宙マンの額から、鋭く放たれるヘッドビーム!
その一閃によるダメージで、大きくのけぞって倒れるアルフォン。
落合さん「上手いですわ、流石お殿様です!」
ビーコン「よーし、今がチャンスっスよ、アニキ!」
ピグモン「宙マン、ゴーゴーなの~!}
アルフォン「くそったれ……調子に、乗るなーッ!」
アルフォンの口から吐き出される強アルカリの融解ガス。
だが、それは……空間そのものを湾曲させることで形成される
宙マン・プロテクションによって完全に無力化された!
アルフォン「(目をパチクリ)……な、何ですとぉぉっ!?」
宙マン「とどめだ! 宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、アルフォンを直撃!!
アルフォン「ば、ばおぉぉぉっ……
わざわざ南米から来て、コレだもんなぁぁ~っ!?」
やったぞ宙マン、大勝利!
熊澤さん「おおっ、やったやった、さすがは宙マンさんだねぇ!」
ビーコン「そりゃそうっスよ、なんたってウチのアニキっスもん!」
落合さん「銀河連邦の英雄、未だ健在なりですわ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
人々の笑顔と歓声が、宙マンの勝利を讃える――
青空の下に立ちつくす巨体は、どこまでも雄々しく、逞しかった。
イフ「ぐぬぬぬ……おのれぇぇ、またしても宙マンめが!
どこまでワシらの顔に泥を塗り、邪魔をすれば気が済むのか。
だが覚えておれよ、今にお前をギャフンと言わせてやる!」
サンドロス「いいドロスか、次こそ絶対ドロス~っ!」
……などという、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの大活躍によって、地底怪獣・アルフォンは撃退され
千歳の街には、再び元の平穏が戻ってきたのであった。
熊澤さん「やぁやぁ、宙マンさん、ありがと!」
熊澤さん「ちょ~っとばっかり、ここに来るタイミングが遅れちゃったけど……
でも、宙マンさんのおかげで、用事も済んで一安心だよ!」
宙マン「(頷きつつ)うんうん、結果オーライというやつですね。
……さぁ、ほっとしたところで、軽く食事にしましょうか。
よろしかったら熊澤さんも是非、ねっ!」
熊澤さん「ありゃ、いいんですかい、ご相伴に与って?」
宙マン「なぁに、食事は人数が多いほど楽しいものですよ。
そう言う事だけど、いいかな? 落合さん」
落合さん「えぇ、お殿様、それはもう――
(思案顔)……ああ、でも、どうしましょう?」
ピグモン「はう~、どうしたの、落合さん?」
落合さん「いえ、大勢で頂くならジンギスカンでも、と思ったんですけど。
冷蔵庫内の食材が、それには少々心もとないような……(汗)」
ビーコン「ヒヒヒ、心配ご無用っスよ、落合さん!」
落合さん「あら、ビーコンさんにしては珍しく頼もしいですこと!
何か、食材の心当たりでも?」
ビーコン「いえっふ~、秋の味覚と言えばキノコ、そうっスよね?
で、キノコと言えば、オイラの股間から最高級のがボロンと……」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、お黙りなさい、この毒キノコっ!!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、上手いこと言えたと思ったのにぃぃ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
怪獣・怪人、どんと来い……
千歳の平和は、渡しやしない。
次回もまたまた、宙マン大活躍だよ~!