渦巻く暗黒星雲の奥深くに陣を構え……
虎視眈々と地球を狙い続ける、恐怖の怪獣軍団。
今日も、怪獣魔王・イフの命令が配下の怪獣たちに飛ぶ。
また恐るべき侵略の魔手が、私たちの故郷・緑の地球に迫るのだ!
イフ「にっくき宙マンを倒せ! 地球を攻め落とせ!
我が軍団の誇るつわものどもよ、誰ぞ使命を果たすものはないか!?」
ゾネンゲ博士「ま……魔王様! 魔王様っ!」
イフ「おおっ、流石に素早いな、ゾネンゲ博士!
既に次なる地球攻撃の準備は整っておる、そうじゃろう?」
ゾネンゲ博士「ああ、いえ……。
誠に遺憾ながら、そうではございませんので」
イフ「(首を傾げて)……うン?
何かあったのか? いいからサッサと申してみよ」
ゾネンゲ博士「実はたった今、魔王様宛てに超空間通信が入りまして」
イフ「何、ワシ宛てとな?
……まさか督促詐欺とか架空請求とか、そういうものではあるまいな」
ゾネンゲ博士「いえ、そういうものとも違っておりまして……
何と申しましょうか、つまり、その……ですな……」
イフ「えぇい、じれったいのぉ!
とにかく通信を繋げ、まずはワシが対応する!」
ゾネンゲ博士「は、ははっ!」
ゾネンゲ博士の操作で、超空間通信のチャンネルが接続され……
怪獣軍団・本拠地の大広間に映し出された立体映像、それは!
「ぐぁぼはははは……
久しいな、怪獣魔王イフ!」
イフ「げげぇっ! き、貴様は……!」
「ああ、そうだともさ。
我輩の名はロード・ゼッド、全宇宙の者どもは“悪の帝王”と呼ぶ」
イフ「(舌打ち)……ああ、よーく知っているとも。
今更、改まって自己紹介などされるまでもなくのぉ!」
サンドロス「をほほほ……あ~ら、ゼッドちゃん、お久しぶりドロス~♪」
ロード・ゼッド「おお、サンドロス、相変わらず背筋も凍る美しさよな」
サンドロス「あ~ら、相変わらずお口がお上手ドロスわねぇ☆(ぽっ)」
イフ「……!(思わずイラっときて)
直径498km、土星からの距離は約24万km、土星の周りを33時間ほどで公転。
地表を一面の氷に覆われた、「太陽系で最も白い星」である。
その凍てつく地表の上に聳える、巨大な掌状のオブジェ。
まさにそれこそ、地球を自らの「獲物」に定めたロード・ゼッドが
侵略の拠点として築き上げた魔城なのである。
イフ「……で、今更ワシに何の用なのじゃ、ゼッドよ。
まさかわざわざ、ワシの妻に浮気のコナをかけにきたわけではあるまい!?」
ロード・ゼッド「ぐぁぼははは、久方ぶりの再会にしてはつれないな。
あの頃のように、もっとくだけて打ち解けようではないか――
“イフちゃん”、“ゼッドちゃん”と、こう親しく……な!」
イフ「……昔の話だ、終わった話ッ!」
ゾネンゲ博士「あの、魔王様、ゼッド卿とは古くからの懇意で……?」
イフ「(苦々しげに)……幼馴染の腐れ縁、と言うだけの話よ。
今より5万6千年前、宇宙幼稚園で同じ組になって以来――」
ロード・ゼッド「サンドロスへの求婚を巡って、お互いが袂を分かつまで
我輩とイフちゃんは仲良くつるんで力を合わせ、ともに手を取り合って
宇宙の至る所で悪の限りを尽くしてきたものよ」
ロード・ゼッド「近所から空き瓶をかっぱらって酒屋に売り飛ばしたり、
近所のガンコ親父の家に隕石落として窓ガラス叩き割ったり、
宇宙大学時代は講義そっちのけで喧嘩とナンパと深酒に明け暮れたり、
面白半分に惑星侵略しては我輩らの旗を立てまくったり……
ああ、楽しかったなぁ、あの頃は!」
イフ「ああ、懐かしくも甘酸っぱい青春時代の思い出よ……
……っと、そんな話はどうでもいいっ!(赤面)
勿体つけるなゼッドよ、さっさと要件を申せ!」
ロード・ゼッド「(頷き)ならば、単刀直入に言おう。
怪獣魔王イフよ、我輩もまたあの「地球」と言う星が気に言った――
これから侵略にかかるゆえ、お前たち怪獣軍団はその間の手出しをやめて
しばし我輩の手並みを静観してもらおう」
サンドロス「(苦笑)あらまぁ、相変わらず強引な物言いドロスこと!」
イフ「後から来ておいて、よくもそんな勝手なことを……。
……よいかゼッドよ、地球にはあの宙マンがおるのじゃ。
そう簡単に、片手間で侵略が出来るほど甘い場所ではないわ!」
ロード・ゼッド「いいや、出来るな。
我輩の権威の象徴、この“Zスタッフ”の大いなる魔力……
それはお前が一番よく知っているはずだぞ、怪獣魔王」
イフ「(歯噛みして)……ぐっ!」
ロード・ゼッド「まぁ、そう言う訳だ、しばしいい子で見ておるがいい。
……なぁに、昔馴染みのよしみだ――
地球征服完了の暁には、アラスカとシベリアくらいは分けてやろうぞ!
ではまた後ほどな、ぐぉぼはははは……!」
イフ「ああっ、えぇいコラ、なにを勝手なことを! まだ話は終わっておらんぞ――
こらゼッド、待てと言うに……!」
かくして、怪獣魔王との超空間通信を一方的に打ち切り……
自慢の“Zスタッフ”の先端に、邪悪な魔力を集中させるロード・ゼッド。
「ウソル・デラピダトーレ・テンタトーレ・ソイナトーレ……
デボラトーレ・マンシトーレ・エシェデュクトーレェ……
朽ち果てし万物の精霊よ、大気に遍く邪悪の意思よ!」
「悪の心を呼び醒まし、魔可異の姿を創り出せ!
カァァーッ!!」
Zスタッフから迸る、邪悪そのもののエネルギー!
それは宇宙空間を飛び越え、エンケラドゥスから一気に地球へ、
北海道千歳市近辺の沼地へと達し……
そこに生息していた魚たちの残留思念へと強力に干渉して
みるみるうちに邪悪なモンスターを創造、実体化させていく。
「ギョバババァァ~ッ!!」
おお、見よ! 驚愕せよ!
無から有を作り出す、神にも等しきロード・ゼッドの邪悪な魔力!
そして、その暴力的なまでに場違いな異形の巨体は……
ちょうど秋の山歩きを楽しんでいた、お馴染み宙マンファミリーに
しっかりと目撃されていた。
ピグモン「はわわわ、沼から何か出て来たの~!」
落合さん「あらあらまぁまぁ、何てことでしょう!」
「ギョバババ、俺の名は怪魚獣人グー・フィッシュ。
偉大な悪の帝王、ロード・ゼッド様の魔力によって生み出された……
この地球に破壊をもたらす、暗く冷たい深淵よりの使者よ!」
宙マン「ロード・ゼッド? 確か……」
ビーコン「(ハッと思い当たり)そーだ、アイツっスよ、アイツ!」
ビーコン「ハロウィンの時に出てきて、アニキに宣戦布告したあいつ……
あの筋肉ムキムキな、人体模型お化けみたいなヤツっス!」
宙マン「(も思い当たり)……ああ、そうだった、そうだった!」
グー・フィッシュ「ギョバババ、もっとも忠実な部下である俺の手によって……
地球は間もなく、ロード・ゼッド様の物になるんだ!」
落合さん「(呆れ半分)ああ、お定まりの何とやら……ですわねぇ」
宙マン「あのね、君みたいな悪党は、みんなそう言うんだよ!」
グー・フィッシュ「ギョババ~、何とでもほざけ!」
ロード・ゼッド「ぐぉぼははは……ならば、行動と結果をもって語らしめよ!
行け、グー・フィッシュよ、このゼッドの名のもとに!」
グー・フィッシュ「ギョバババ、御意のままに~、マイ・ロード!」
宙マン「あっ! こら、おい、待たないかっ――」
……と言う、宙マンの静止の声をあっさり振り切って。
沼を出て、森を駆け抜け、ぐんぐん突き進んでいくグー・フィッシュ。
宙マン「ううむっ、いかんな、あのまま進まれたら――」
ビーコン「と、苫小牧のど真ん中じゃないっスか!(汗)」
ピグモン「はわわ、街が大変なの~!」
山林を一気に駆け抜け、苫小牧の市街地へ乱入してくるグー・フィッシュ!
異形の巨体を前に、苫小牧市はたちまち大パニックに陥る。
悲鳴をあげ、右往左往して逃げ惑う人々。
その阿鼻叫喚をアザ笑うように、グー・フィッシュは傍若無人な足取りで
猛然と苫小牧の街を突き進んでいく。
グー・フィッシュ「ギョバババ~ッ、驚け、騒げ、ちっぽけな人間ども!
まもなくこの地は、ロード・ゼッド様のご領地となるんだ――
全ての悪が、腐敗と混乱を謳歌する世界にな!」
グー・フィッシュの単眼から、地上めがけて迸る破壊光線。
たったの一撃で、問答無用のこの威力!
爆発! 炎上!
紅蓮の炎に包まれ、早くも地獄のごとき様相を呈した感のある苫小牧市。
その火炎の中に立ち、勝ち誇って笑うグー・フィッシュの憎々しさときたら!
落合さん「う~ん、いけませんわ、これはどうにもいけません!」
ビーコン「このままじゃ、色々シャレんなんない事態っス!」
ピグモン「はわわ……宙マン、宙マン、なんとかしてなの~」
宙マン「おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂ううグー・フィッシュの前へ舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
宇宙の悪党モンスターめ、たちの悪いおふざけもそこまでだ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「ヤッター! アニキはやっぱこうじゃなきゃっス!」
落合さん「本日も頼もしゅうございますわ、お殿様……♪(うっとり)」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
グー・フィッシュ「ギョバババ~ッ、出たな、お前が噂の宙マンか!」
宙マン「ああ、そうとも、私が宙マンだ――
お前みたいな悪党を見逃しておけない、ただのお節介な一般市民さ!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
今日もまたまた、世紀のスーパーバトル開幕だ!
グー・フィッシュ「さぁて、勝負だ!
このグー・フィッシュ様は、パンプキンラッパーとは訳が違うぞ!」
宙マン「いいだろう、徹底的にやってやる!」
激突、宙マン対グー・フィッシュ!
落合さんたちが見守る中、巨大な攻防戦が熾烈な火花を散らす。
濡れた全身を、不気味にぬらぬらと光らせながら……
鋭い牙と爪を武器に、猛然と宙マンを攻めたてるグー・フィッシュ。
だが宙マンとて、ただやられっぱなしでいる訳ではない。
グー・フィッシュのパンチ攻撃を冷静に見切り、時に受け流しながら
相手の隙を伺い、果敢に接近戦を挑んでいく。
宙マン「えい、やぁっ! それ、どうだ、参ったか!」
グー・フィッシュ「ギョバババ、ナメるんじゃねぇぞ、宙マン――」
グー・フィッシュ「ギョギョギョギョッ、これでもくらえ!
俺の得意技、シャボン玉爆弾の威力をその身で知れ!」
グー・フィッシュの口から吐き出され、空中に舞う無数のシャボン玉……
それは怪魚獣人の体内器官で生成される、恐るべき爆発力を秘めた爆弾なのだ。
宙マンの周囲で次々と弾け、凄まじい爆発を生じさせるシャボン玉爆弾!
宙マン「う、うわぁぁぁぁっ……!」
グー・フィッシュ「ギョギョギョ、まだまだこんなモンじゃ済まさねぇぜ!」
駄目押しとばかりに、叩きつけられるグー・フィッシュの鰭チョップ!
一撃をまともに食らい、吹っ飛んだ宙マンの巨体がドドーッと倒れ伏す。
落合さん「ああっ、お殿様!?」
ビーコン「怪獣軍団の連中に、負けず劣らずの曲者っス!」
ピグモン「はわわわ、宙マン、まけないでなの~!(涙目)」
宙マン「(苦悶)う……ううっ……!」
グー・フィッシュ「ご照覧あれマイ・ロード、憎むべき宙マンの最期を!」
グー・フィッシュの単眼が、再び急速に光を増し始めていく――
最大出力の破壊光線で、宙マンを木っ端微塵にするつもりなのだ!
グー・フィッシュ「ギョバババァ~、死ね、宙マンっ!」
「――な ん の っ !!」
間一髪!
すんでのところで、グー・フィッシュの放った光線をかわす宙マン。
そのままの勢いで、瞬時に大空へと舞い上がる。
グー・フィッシュ「(目をパチクリ)ぎょ、ギョギョッ!?」
宙マン「とどめだ! 宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、空中からグー・フィッシュを直撃!
グー・フィッシュ「ぎょ、ギョオッ……魚だけに、捌かれちゃいましたぁぁ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ロード・ゼッド「う、うがぉぉっ……おにょ~れッ、宙マン!!」
ロード・ゼッド「一度ならず二度までも、この我輩に屈辱を……
だが見ておれ、決してこのままでは済ますまいぞ!
我が陣営を整えた暁には、更なる悪辣な手段で、必ず……!」
「ケケケケ、良い気味、良い気味!」
「さんざん大口叩いて、あのザマだってんじゃあ……」
「ゼッドの野郎も今ごろ、さぞ悔しがってるでしょうねぇ、魔王様!」
イフ「うむっ、確かにな!
流石は宙マン、大いに胸のすく思いをさせてもらったわい――」
イフ「……などと浮かれている場合ではないぞ、お前たち!
宙マンを倒し、地球を征服するのはワシら怪獣軍団なのだ。
よいか、直ちに次の戦略会議に入るッ!」
怪獣一同「「「「(一斉に平伏)ははぁーッ!!」」」」
かくして、我らが宙マンの活躍により……
怪物グー・フィッシュは倒され、北海道に平和が蘇った。
そして別宇宙からの来訪者、悪の帝王ロード・ゼッド。
地球を狙うこれらの勢力が互いに競いあい、鎬を削ることによって
宙マンの戦いも、更にその激しさを増していくのかもしれない――
だが読者諸賢よ、どうか心配ご無用に願いたい。
持ち前の泰然自若な気性と、この暖かな地域との絆がある限り
宙マンファミリーの楽しい「日常」は、決して失われることはない!
ビーコン「うお~い、アニキ、お疲れ様っした!」
宙マン「いやぁ、今日も一戦交えてすっかりお腹がすいちゃったよ!」
落合さん「何か美味しいものでも食べて帰りましょう、お殿様」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんハンバーグがいいの~♪」
宙マン「はっはっはっはっ」
怪獣、怪人、超獣に魔物……
どんなワルでも、どんと来い!
がんばれ宙マン、次回もよろしく頼んだぞ!