地球から遥か彼方の暗黒星雲……
そこは、凶悪無比な怪獣たちの集う、全宇宙の悪の総本山である。
絶対の支配者として君臨する怪獣魔王・イフのもと、怪獣軍団は
飽くことなく、地球征服の野望に燃え……
恐るべき配下の怪獣を、次々に送りこみ続けているのだ……が。
時に西暦2022年・1月3日。
怪獣たちは未だ、ゴキゲンなお屠蘇気分の只中にあった。
「ヒャッハ~、正月は楽しいねぇ!」
「おこたでぬくぬくしながら、アニメやら映画やら一気見して……
チビチビおせちつまんで、好きな時に好きなだけ寝て」
「なんてったって、昼間っから飲み放題だよ!
これが罷り通るんだから、全く正月休みサマサマだぜィ!」
「あ~ん、もう、正月休みサイコー!」
「この幸福に、いつまでも溺れてしまいた~い!」
イフ「わはは……そうであろう、そうであろう!」
イフ「で……ところでだな、お前たち。
正月気分もよいが、そろそろ程々にしておかんと……
仕事始めの際に、色々と……響くぞ?」
イフ「何と言っても今年こそはだな、にっくき宙マンを打倒して
ワシらの悲願、地球征服を成就させると言う目標が……」
「あ~、魔王様、魔王様!」
イフ「……うン?」
「ほんと、申し訳ないんですけど……
そういうの、また後にしてもらえませんかねぇ?」
「そーそー、せっかく正月満喫中だってのに!」
イフ「(目がテン)……な、なぬッ?」
「あれですよ、アレ。
もういっそ、今年は一年中ずっと正月休みってことで!」
「そいつぁいいや、大賛成!」
「そーしましょ、そーしましょうよ、ねぇ魔王様!?」
……ぶ ち っ !
イフ「えぇい、この大バカ者どもが~っ!!
黙って聞いておれば何だ、どいつもこいつも!」
「ひょぇぇぇ、ですよねぇぇ~っ!?(汗)」
「ごめんなさいでした、魔王様ぁぁ~っ!」
イフ「(プリプリ怒って)全く……これだから、うちの連中は!」
お屠蘇気分の度が過ぎて、うっかり怪獣魔王の逆鱗に触れてしまった怪獣たち。
このままでは不味い、なんとか魔王様のご機嫌をとらなくては……
……と言う訳で、急ぎ怪獣軍団の有志のひとりが地球を目指し、
暗黒星雲を慌てて飛び立ったのであった。
危うし地球、危うし宙マン!
日本全国津々浦々、お正月気分のまっただ中……
そして、そんな人間たちの都合などお構いなしで、降り積もる雪とは
否応なしに付き合わざるを得ないのが北海道民の冬なのだ。
と、言うわけで……
ここ・北海道千歳市ほんわか町5丁目にある「宙マンハウス」の住人たちもまた
朝も早くから玄関先の雪かきに追われていたのであった。
ビーコン「ひ~こら、へ~こら……
毎度ながら、いくら撥ねても撥ねてもキリがないっスねぇ!
ホ~ントこれさえなければ、景色もいいし、空気も水も食い物も旨いしで
北海道は住みやすいトコなんスけどね~」
落合さん「ほらほらビーコンさん、ボヤかない、ボヤかない。
力を合わせて、雪かきなんてチャッチャと終わらせてしまいましょう!」
ビーコン「そうは言うっスけどね、落合さぁん……
なんか労働に見合う対価がなけりゃ、モチベーションは低下する一方っスよ」
落合さん「はぁ、対価? 今月分のお小遣いに、お年玉の分まで上乗せして
雪かきの後には、あったかい落合特製のお雑煮まで待っておりますのに……」
ビーコン「……お雑煮ィ?」
落合さん「んーま、何ですのっ、その露骨なうんざり具合は!」
ビーコン「チチチ、そー言うのとはまた別腹っスよ、別腹。
オイラの言う対価ってのは、主にしっぽりねっとりセクハラ的な意味の……」
ハァハァハァ、さぁ落合さん、オイラと愛のウデタテフセを……♪」
げ し っ !
落合さん「っがー、寝言は寝てから仰いませ!(怒)」
ビーコン「ハンニャラ、ヒ~っ……」
ピグモン「えう~……あの二人、またやってるの~」
宙マン「(苦笑)たっはっはっ……これじゃ、雪かき終了はいつになることやら」
明るくドタバタ賑々しい、そんな宙マンファミリーの日常の一齣。
と、そこへやって来たのは――
「ふぇぇん……宙マンさん、宙マンさ~んっ!」
落合さん「あら、みくるん様にながもん様!」
ビーコン「そっちはもう雪かき終了っスか? 早いっスね~」
宙マン「私たちの方も、もう少しで雪かきを終わらせる予定だから……」
ピグモン「そしたらまた、みんなで一緒に遊ぼうなの~」
みくるん「そ、それどころじゃないんですってば、皆さん!」
ながもん「街が……大変なことに……なってる」
ビーコン「ええっ、なんスかソレ!?」
落合さん「大変なことって、一体どういう――」
みくるん「とにかく来て下さい、冗談抜きの一大事なんですぅ!」
宙マン「……よし、とにかく行ってみよう!」
と言うわけで、宙マンたちが千歳市の中心部に出向いてみると……
街に一歩入ったとたん、先ほどまでの好天が嘘のような風雪の大荒れが!
宙マン「……うわっ、何だこりゃ!?(困惑)」
ながもん「つまり……要するに……こういう、こと」
みくるん「うぷっ……み、皆さん、分かってもらえましたかぁ!?」
ビーコン「どひ~っ、よく分かったっスよ、分かりすぎるくらいっスぅぅ!(汗)」
宙マン「それにしても、街の限られた一角だけがこの荒れ模様……
コレはどう考えても、普通の自然現象とは思えないぞ!」
落合さん「(ハッとして)お殿様! と言うことは、まさか――」
ピグモン「……また、怪獣軍団のしわざなの~!?」
「……ヒュフフフ、その通り……」
みくるん「(怯えて)……ひっ!?」
宙マン「(ハッとして)その声は……何者だ!?」
「お見せしよう、我が偉大なる姿!!」
吹き荒れる寒波の中から、ギラリと不気味に輝く双眸。
みるみる実体を現して巨大化し、高層ビルをも上回るサイズの巨人と化したのは
怪獣軍団から、新たにやって来た悪の使者。
みくるん「ああっ、宇宙人ですぅ!」
ピグモン「はわわ……な、ながもんちゃんは、知ってる!?」
ながもん「(頷き)あれは……バルダック星人」
「Si! いかにもボクちゃんはバルダック星人!
雪男宇宙星人・バルダック様だ、よーく覚えておくがいい!」
宙マン「そうか……この異常な寒波は、全てお前の仕業だったのか!」
落合さん「今度はいったい何が狙いなんですの!?」
バルダック「ヒュフフフ、ボクちゃんの目的はただひとつ――
この地球上を全て凍りつかせ、美しい静寂に満ちた世界に変えること。
そしてその隙に乗じ、怪獣軍団が一気に地球を征服してしまうのだ!」
宙マン「大きく出たな……だが、そんな事が出来ると思っているのか!」
バルダック「出来るね、我がバルダック星は雪と氷に閉ざされた冷気の惑星。
その冷たい息吹を全身に受けて育ったボクちゃんなら、実に容易い事さァ!」
宙マン「(歯噛みして)むぅ……っ!」
サンドロス「をほほほ! 貴方なら出来るドロスわよ、バルダックちゃん!」
イフ「今こそお前の素晴らしい力を、ワシに見せてくれ!」
バルダック「Si! かしこまりました、魔王様!」
怪獣魔王夫妻から檄を飛ばされ、がぜん奮い立つバルダック!
のっし、のっしと重々しい足音を周囲に響かせ、巨体が進撃を開始する。
たちまち大パニックとなり、右往左往して逃げ惑う千歳の人々。
その混乱をアザ笑うように、星人の口から吐き出されたのは!
ピキピキピキ……バキィィーンっ!
見よ! 星人の冷凍ガス、マイナス234度の威力――
ガスを浴びた高層ビルが、一瞬のうちにカチカチに凍りつき
次の瞬間、木っ端微塵に砕け散ったではないか!?
宙マン「ううむっ、何て怖ろしいヤツなんだ!(汗)」
雪男星人の暴虐、許すまじ!
千歳の平和を守るべく、航空防衛隊が直ちに出撃した。
宙マン「おおっ、あれは千歳基地の!」
落合さん「どうか、どうか今回こそは頑張って下さいませ!」
ビーコン「くれぐれも、意気込みだけで終わらねーように……!」
「ようし……全機、攻撃開始っ!」
バルダック星人めがけて、上空から叩きこまれるロケット弾!
だが、そんな弾着の嵐にも、雪男星人は全くひるまない。
バルダック「ヒュフフ、チミらの出る幕ではないわいな!」
上空めがけて、冷凍ガスを吐き散らす星人。
その恐るべき威力の前に、戦闘機隊もうかつに接近できない。
バルダック「そうら、そらそら、地球氷河期の到来だ~!」
急速な街の凍結で自動車も只では済まず、次々に横転。
爆発! 炎上!
冷気が巻き起こす惨事を前に、いかにも満足げなバルダック。
バルダック「ヒュフフフ、どうだボクちゃんの力は!
軍団の誰も成しえなかった地球制圧、このボクちゃんが見事成し遂げてみせるぞ!」
ビーコン「ハンニャラ、ヒ~っ……こ、これは色々シャレんなんないっスぅぅ~」
みくるん「……だ、大丈夫ですかぁ、ビーコンさんっ!?(汗)」
ながもん「ここは、宙マン……あなただけが……頼り」
宙マン「ようし、やろう! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、バルダック星人の前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
バルダック星人、もうこれ以上は貴様の好き勝手にさせないぞ!
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いよっ! 待ってましたっス、アニキの十八番!」
落合さん「えぇ、えぇ、やっぱり困った時にはお殿様ですわよねぇ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
バルダック「ヒュフフフ、出たな宙マン!
ボクちゃんの力で、お前を氷の像にしてやる――
怪獣軍団が地球を征服した、その記念のモニュメントにな!」
宙マン「フフン、出来るかどうか……やってみるかね!?」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マンーー
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ!
激突、宙マン対バルダック星人!
人々がハラハラと見守る中、ふたりの巨人が鎬を削りあう。
折しも季節は冬、極寒の銀世界……
バルダック星人にとっては、持ち前の怪能力をフルに発揮できる
おあつらえ向きの“殺しの舞台”とでもいったところ。
猛然と攻め立ててくる星人に、宙マンも気力と根性で渡り合う。
パワー全開の前蹴りで、迫るバルダックを豪快に蹴り飛ばした!
バルダック「(悶絶)……ぐフゥッ!?」
宙マン「どうだバルダック星人、これが正義の力だ!」
バルダック「おのれ、おのれ宙マン……これを受けてみろ~!」
バルダックの口から、宙マンめがけて吐き出される冷凍ガス。
高層ビルさえ一瞬で凍結・粉砕してしまう、あの恐るべき冷気だ!
ピグモン「ああっ、宙マン!」
落合さん「まずいですわ、もしもあの冷凍ガスをまともに浴びてしまったら……」
みくるん「(涙目)……まさか宙マンさんも、さっきのビルみたいに!?」
ながもん「(息を呑み)そうなったら……おしまい」
ビーコン「どひ~っ、アニキ! とにかく、よけてよけてよけまくるっスよォ!」
宙マンめがけて、猛然と冷凍ガスを吐き散らすバルダック!
その威力によって、周囲の街がみるみる凍りついていく。
バルダック「これで終わりだ!……死ねィ、宙マン!」
バルダック星人の冷凍ガス、一閃!
だが、その死の洗礼は……空間そのものを湾曲させて形成する
宙マンの防御壁・プロテクションによって完全に無力化された!
バルダック「(困惑)ぐもももっ、馬鹿な!?」
宙マン「残念だったなバルダック星人、正義は必ず勝つ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、バルダック星人を直撃!!
バルダック「う、うぎゃあああっ……これは効いたぁぁ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ピグモン「はうはう~、やったのやったの、宙マンが勝ったの~!」
ながもん「今年も、ますます……宙マン……グッジョヴ」
みくるん「宙マンさん、ありがとうございますぅ!」
イフ「ぐぬぬぬ……あと一歩のところで、またしても宙マンめが邪魔立てをっ!
だが覚えておれよ、この仕返しは必ずしてやるからな……!!」
……などと言う、怪獣魔王の負け惜しみはいつも通りサラリと聞き流して。
かくして宙マンの活躍により、バルダック星人はその野望もろとも打倒され
千歳市は……いや、地球は氷河期到来の危機から救われたのであった。
落合さん「どうもお疲れ様でした、お殿様!」
みくるん「ひと勝負終わって、かなりお腹が減ったんじゃないですかぁ?」
宙マン「お腹がすいたのも勿論なんだけど……
なにせ今日は相手が相手だったから、とにかく体が冷えこんじゃってね~。
こういう時は、何か体の暖まるものが食べたいな」
みくるん「うーん、あったまるもの、って言いますとぉ……」
ながもん「今は、やっぱり……お雑煮?」
落合さん「大晦日から三が日は、お雑煮ばかりが続いてしまっておりますが……
それでよろしいでしょうか、お殿様?」
宙マン「よろしいも何も、有難く頂くよ、落合さん!」
ビーコン「いえっふ~、オイラは餅三つ、大盛りで頼むっス~☆」
落合さん「あ~ら、よろしいんですのよ、ビーコンさん……
そんな風にお気を遣って、私たちに合わせて下さらなくっても。
何しろお雑煮は飽き飽きだそうですもの、ねぇ?(にんまり)」
ビーコン「だーっ、意地悪言わないで下さいっスよぉ、落合さん!
お雑煮サイコー! お雑煮大好きっスー!!(涙目)」
宙マン「はっはっはっはっ」
爽やかな年明けに相応しく……
ご存じ宙マン、今日もホットな大活躍。
次回も応援してくれよ、なッ!