季節は2月、日本全国において続く連日の厳しい冷えこみ……
こと、列島の最北端にあたる当地・北海道ともなれば尚のこと。
そんな冬の寒さとともに、否応なしのお付き合いを強いられるのが
この、白くて美しくも厄介な「雪」というやつである。
そんな、寒い寒いある日のお昼ちょっと前。
今回の『宙マン』もまた、そんな北海道千歳市から物語を始めよう。
さてさて、こちらは毎度お馴染み……
北海道千歳市、ほんわか町5丁目の「宙マンハウス」。
玄関先を塞いでしまうほどに降り積もった、折からの雪を前にして
これまたお馴染み、宙マンファミリーの面々が、除雪道具を手にして
もっか、雪国には欠かせない「雪かき」の真っ最中であった。
ビーコン「ひ~こら、へ~こら……
ったく誰っスか、今年が雪不足なんて言ったのは!?
蓋を開けてみりゃ、結局この有様じゃないっスか!」
宙マン「たっはっはっ……まぁまぁ、ビーコン」
宙マン「降り方の傾向に、いろいろムラはあったにせよ……
必ず季節のどこかで、それなりに辻褄は合うものかもねぇ。
それもまた、大自然のおおらかさって言うのかな?」
ピグモン「はうはう~、冬らしくてピグちゃんワクワクなの~♪」
ビーコン「チェーッ、お子様は呑気でいいスねぇ!」
ビーコン「そのせいで結局、真面目に働くオイラみたいな労働者に
いろんなしわ寄せがきて、泣きを見るんすよ。とほほ……」
落合さん「あらあら、まぁまぁ……
居候のビーコンさんが仰ると、説得力も段違いですこと!」
ビーコン「っがー、グサッと来る言い方ッスね、落合さん!
毎日ゴロゴロ食っちゃ寝の生き方、何か文句があるんスか!?」
落合さん「(呆れつつ、きっぱり)文句しかありませんっ!」
落合さん「と、それはともかく……もうひと頑張りなさって下さいな。
雪かきの後には、美味しいご飯を用意してますから――
今日は豚バラの焼肉ですわよっ!」
宙マン「おおっ、焼肉か、いいねぇ!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃん焼肉大好きなの~♪」
ビーコン「う~ん、でも豚バラっスかァ……」
落合さん「あら、ビーコンさんだって大好物でしょう?」
ビーコン「や、それは確かにそうっスし、旨いんスけど……
今日みたいな肉体労働のあとは何つっても牛っしょ、牛肉!
カルビを噛みしめると、じゅわりと溢れる肉汁と脂!
くぁぁ~っ、想像しただけで堪らんっス!」
落合さん「えぇ、私もそのお言葉に異論はありませんわ。
でも、今日は豚バラ、断固として豚でいきますっ!」
ビーコン「いやいや、ここはやっぱ牛っスよ!」
落合さん「いいえ、豚です!」
ビーコン「(意地になって)牛っ!」
落合さん「(同じく意地になって)豚っ!!」
ピグモン「……はわわ~、また始まっちゃったの~」
宙マン「(苦笑)……いやはや、あの二人にも困ったもんだねぇ」
ビーコン「大体アレっスよ、アレ、豚なんつったら……
落合さん、共食いになっちゃわないっスか!?」
落合さん「……ちょ、それ、どういう意味ですの!?」
ビーコン「いやいや~、オイラの口から多くは言えないっスよ~。
事実を語って、落合さんを傷つけたくないっスからね!」
落合さん「んーまっ、んーまっ、もひとつおまけでんーまっ!
ドヤ顔と言い方、相乗効果で余計にムカッときますわね!」
落合さんの憤りが、例によっての鉄拳制裁になろうとした刹那。
そう、事件が起こったのは、まさに「その時」であった!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
ビーコン「ど、ど、どひ~っ!(汗)」
落合さん「あらあらまぁまぁ、これはまた……!?」
ピグモン「はわわわ、これってひょっとして……」
宙マン「うむむっ、ひょっとすると……!」
ビーコン「どひ~っ、ひょっとするんスかねぇ、やっぱ!?(汗)」
そう、今回も「ひょっとする」のである、甚だ残念ながら。
大地を割り裂き、地上に躍り出てきたものとは!?
「バオォォォ~ンっ!!」
ビーコン「あっ、やっぱり怪獣だったっス!」
ピグモン「なんか、すっかり慣れっこになっちゃった気がするの~」
落合さん「……それも宜しくないんですけどね、本当は(苦笑)」
千歳市のど真ん中に、突如として姿を現した異形の巨体。
その名も水牛怪獣オクスター、もちろん怪獣軍団の一員である。
宙マン「ううんっ、毎度毎度、ほんとに懲りないなぁ……!」
オクスター「バオォ~ッ、ほっとけ!
懲りず、しつこく、諦め知らず。
それが怪獣軍団の一員、悪の怪獣たる所以よ!」
落合さん「でもまぁ、それはそれとしまして。……
……あのお顔を見ていたら、私も考えが変わりましたわ」
オクスター「(訝しんで)……うン?」
落合さん「えぇ、これはもう前言撤回せざるを得ません――」
落合さん「お昼の焼肉、やっぱり牛でいきましょうっ!」
オクスター「(思わず目がテン)……はぁぁ~っ!?」
ビーコン「やー、嬉しいっスよ、判ってくれたんスね落合さん!」
落合さん「えぇ、やっぱり牛肉の魅力には勝てませんものねぇ。
あのルックスが、私にそれを思い出させてくれましたわ」
宙マン「ようし、これでメニューも決定だね!」
ピグモン「はうはう~、めでたし、めでたしなの~♪」
「……って、コラコラコラ~っ!!(怒)」
オクスター「あのなァお前ら、言うに事欠いて……
よりにもよって、ヒトの顔見て“焼肉”だぁ!?
こちとら仕事で来とんのじゃ、もっと真面目にやれっ!」
ピグモン「えう~、おこられちゃったの……(しゅん)」
落合さん「あらあら、まぁまぁ。
これでハッピーエンドでも、全然ようございましたのに……」
ビーコン「世の中、そうそう上手くはいかねぇもんっスね~」
宙マン「(溜息混じりに)……ううむっ!」
ジャタール「ヒュホホホ……そうだオクスター、怪獣稼業はナメられたら終わり!
緊張感のない地球人どもを、ガツンと一発シメてやっちゃって!」
イフ「うむ、ジャタールの言う通りだぞ、オクスター。
お前の力を存分に奮え、そして千歳を制圧するのだ!」
オクスター「バオォ~ンっ、やりますぜ、魔王様~っ!」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始のオクスター!
迫り来る巨体を前にして、悲鳴をあげて逃げまどう千歳の人々。
落合さん「全くもう、怪獣軍団の皆様ときたら……
私どものランチタイムに限って、コレですもの!」
ビーコン「狙ってやってるなら、効果抜群すぎっスよ!」
ピグモン「えう~、二人とも、ぼやいてる場合じゃないの~!」
怪獣オクスターの出現で、混乱の巷と化した千歳市!
だが地球人とて、ただ座して見ているだけではない――
怪獣の進撃を阻むべく、航空防衛隊がスクランブルをかけた。
ビーコン「おおっ、今日もまたまたお出ましっスよ!」
ピグモン「はうはう~、いいところで来てくれたの~!」
落合さん「今日こそは……今回こそは、何とかなりますかしら!?」
「これ以上、怪獣による市街地への被害を広げてはならん――
全機、攻撃開始っ!!」
最新鋭戦闘機からのロケット砲攻撃!
怪獣のボディや周囲に直撃するたび、激しく火花が飛び散るが……
その威力をもってさえも、オクスターは全くびくともしない。
「な……何てやつだ、全然こたえてないだと!?」
オクスター「バオォ~ンっ、当たり前、当然、そして常識!」
大きく開いた口から、白い液汁を吐き出すオクスター!
その成分によって、高層ビルがみるみる溶け崩れていく。
オクスター「バオォ~ンっ、この調子でどんどん行くぜぇ~っ!」
爆発! 炎上!
オクスターの傍若無人な進撃が、街を阿鼻叫喚の地獄へと変えて
今や千歳の平和は、風前の灯と言ってよかった!
落合さん「何てことでしょう、これでは焼肉を楽しむどころか……
先に私たちの方が、ローストになりかねませんわ!」
ピグモン「はわわ……宙マン、宙マン、なんとかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うオクスターの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
怪獣オクスター、これ以上の乱暴狼藉は見過ごせんぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いえっふ~、頼んだっスよアニキぃ~!!」
落合さん「市民のランチタイムを守って下さいませ、お殿様!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、しっかりなの~!」
オクスター「バオォォ~ンッ、やっぱり出てきたな、宙マン!
オクスター様をナメたこと、たっぷり後悔させてやるぜ!」
宙マン「いいや、悪いが……私は決して負けやしないよ!?」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ!
オクスター「バオォォ~ンっ、上等だ! だったら試してみるかァ!?」
宙マン「どこからでも来るがいい!」
激突、宙マン対オクスター!
真冬の街を舞台に、巨大なる死闘がダイナミックに展開。
二本の角を振りかざし、猛然と襲いかかってくるオクスター。
牛由来の怪獣だけあって、突進戦法はお手のものである。
だが、宙マンとてさるもの――
オクスターの懐に飛び込み、果敢に接近戦を挑んでいく。
宙マン「そぉれっ、行くぞ!」
宙マンのストレートキック!
続けざまに、ストレートパンチ!
痛烈な打撃技の連続に、さしもの水牛怪獣もたじろいだ。
宙マン「どうだオクスター、これが正義の力だ!」
オクスター「野郎っ……調子に、乗るな~っ!」
宙マンめがけて、勢いよく吐き出される白い液汁!
オクスターの恐るべき武器が、その強烈すぎる溶解作用によって
宙マンのスーパーボディにダメージを与えていく。
ピグモン「ああっ、宙マンがあぶないの!」
ビーコン「あんな物騒なもん、続けて浴びせられた日にゃ……」
落合さん「(息を呑み)……えぇ、いかにお殿様と言えども!」
……などと、落合さんたちがハラハラ見守っている間にも。
ズ、ズーンっ!
オクスターの液汁を浴びせかけられ続け、そのダメージによって
とうとう地面に倒れ込んでしまった宙マンである。
ジャタール「ヒュホホ~イ、いいぞ、その調子だわよオクスター。
勝てる、今度こそ勝てるぞぉ……
恨み重なる宙マンが、あの世へ行くのももうすぐだわさ!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ……!」
オクスター「バオォォ~ンっ、とどめだ、宙マン!」
勝利を確信し、猛然と突進してくるオクスター。
だが、宙マンの闘志は……未だ衰えを知らなかった。
「ぬううう……トゥアァーッ!!」
宙マン、気力を振り絞ってパワー全開!
気合一閃、全身にまとわりつく液汁を吹っ飛ばしてしまう。
オクスター「(目をパチクリ)ま、マジでっ!?」
宙マン「くらえ、正義の倍返し!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、オクスターを直撃!!
オクスター「バオォォ~ンっ、もうあと一息だったのにぃぃ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
落合さん「やりました……お見事ですわ、お殿様!」
ビーコン「いえっふ~、やっぱアニキはこうじゃなきゃっス!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
イフ「うぐぐぐっ……またしても、またしても宙マンめが!
良い気になるなよ、怪獣軍団の精鋭はまだまだおるわ!
いまに、いまに見ておれ~っ!!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
かくして我らが宙マンの活躍により、水牛怪獣オクスターは斃れ
街には再び、のんびりした日常が戻ってきたのであった。
ビーコン「いえっふ~、アニキアニキ、どーもお疲れさまっした!」
宙マン「いや~、お待たせ、お待たせ。
それはそうと、怪獣退治でお腹もすいたことだし……」
ピグモン「はうはう~、お待ちかねのお昼ご飯なの~♪」
落合さん「えぇ、勿論ですとも――
お昼は焼肉、脂も肉汁も滴り落ちる牛カルビですわよ!」
宙マン「待ってましたよ、そう来なくっちゃ!」
ビーコン「あー、いや、それも確かにいいんスけどねぇ……
もう一つ、美味しい肉があるのを思い出しちまったっスよ」
落合さん「もう一つの……美味しいお肉、ですか?」
宙マン「はて、鶏かな、鴨かな……あるいは、羊……?」
ビーコン「ヒヒヒ、どれでもねぇっスよ!
旨い肉ったら、女の色香たっぷりの柔肉に決まってるっしょ!?
さぁ落合さん、そうと決まれば早速ぱんつを脱いで……」
落合さん「……(ぷ ち っ!)」
げ し っ !
落合さん「ねーい、毎度毎度このエロ怪獣はっ!
ハッピーエンドの余韻をぶち壊すんじゃありませんっ!(怒)」
ビーコン「コチュジャン以上の激辛パンチ、頂きましたっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
今日も本当に有難う、宙マン。
だが、怪獣軍団の野望は尽きない……
さぁ、次回はどうなるかな?