季節は四月、あれだけ分厚かった積雪もみるみるうちに溶け去って……
一面の銀世界の下から、再び顔を覗かせた大地の色が眩しい春の山道を
のんびり歩いていくのは、毎度お馴染み・この三人。
「宙マンハウス」のピグモンと、みくるん・ながもんのコロポックル姉妹であった。
ピグモン「はうはう~、もうすっかりお山の雪も溶けちゃってるの~」
ながもん「この様子なら……期待、できる?」
はてさて、こんちこの三人……
こんな郊外の山林に分け入って、一体何を「期待」するというのだろうか?
……と問われたならば、答えはひとつ。
フキノトウにアズキナ、アイヌネギ(ギョウジャニンニク)などなど、北国の山が
長い冬を耐え忍んだ「ご褒美」として、北国に暮らす人々へと分け与えてくれる
ほろ苦くも風味豊かな春の山菜たちである。
ピグモン「と言うわけで、ピグちゃんたち……
お山の様子がどうなのか、ちょっと偵察に来てみたの~」
みくるん「本格的な山菜採りには、まだちょっと早いですけど……
山の状況をこまめに把握しておけば、それに越したことないですもんね!」
ながもん「以上……説明……終わり」
雪溶け間もない千歳近郊の山林へ、どんどん足を踏み入れていく子どもたち。
山道を行く足取りもすこぶる快調、散歩としてもちょっと洒落たもの――
……だが、その途上で、不意にみくるんの足がぴたりと止まった。
ピグモン「(首を傾げて)はう?」
ながもん「どうしたの……みくるん」
みくるん「(怯えて)み、見て、みんな……あ、あれ……っ!」
おお、何と言うことだろう!?
山肌から沸き立つように、シュワシュワと立ち昇りはじめた異様な煙。
そして、それが何なのかを悟る暇さえ与えず……すぐさま第二の「衝撃波」が
山林を激しく揺さぶる局地地震という形で発現した!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラッ!
みくるん「きゃ、きゃあああっ!?」
局地地震が千歳の山林に亀裂を走らせ、勢いよく引き裂く。
地面に生じた断層から、待ってましたとばかりに吹き上がってくる噴煙……
そのヴェールの中から、ゆっくり立ち上がった巨大な影は!?
「ぶンにょ、ぶにょにょにょにょ~っ!!」
ピグモン「きゃああんっ、やっぱり何か出てきちゃったの~!」
みくるん「(怯えて)山の中なのに、タコ……そ、それともクラゲぇ!?」
ながもん「(首を振り)どっちでもない。……
あれは、円盤生物。……ブラックスター生まれの、星人ブニョ……!」
ブニョ「このオイラをご存じたぁ感心だぁぜ、褒めてやるぜぇ眼鏡の嬢ちゃん。
いかにも、そうです、オイラこそ星人・ブニョ様だ――
そして今は、怪獣魔王・イフ様の世話になってるモンだぁ!」
みくるん「(涙目)ふぇぇん、やっぱりぃ~!」
ながもん「私たちは……ただ……
山菜の……生え具合を……ちょっと、伺いに……来ただけ。
あなたに、用は……ないから……そこを、通して」
ブニョ「ぶにょにょ、そう言うワケにはいかないんだァなぁ、嬢ちゃん達。
何故ならオイラのお目当ても、その山菜だからなんだぁ――」
ブニョ「ぶにょにょ、そうとも、この一帯の山は今日から怪獣軍団が支配したぁ!
風味絶佳の春の山菜は、残らずみぃんな怪獣軍団が頂戴する……
その邪魔をしようってぇ奴は、力づくででも追い出すのがオイラの使命よ!」
ピグモン「う~、独りじめだなんてずるいの、欲張りなの~!」
ながもん「美味しい山菜は……北海道に、暮らす……みんなの、もの」
ブニョ「ぶにょにょ、シャラップ! うるせぇやいっ――
つべこべ抜かす奴らには、こうだッ!!」
おお――見よ! 驚愕せよ!
フード状の外皮がまくれ上がり、ブニョ本来の奇怪な顔が顕わとなる。
その口吻から地上めがけて、勢いよく火花が吐き出された!
みくるん「きゃ、きゃあああっ!?」
火花が驟雨のごとく地上へと降り注ぎ、周囲に断続的な爆発をもたらす。
爆発の中を、ただ逃げ惑うのが精一杯の子どもたちである。
イフ「ぬははは……いいぞ、いいぞブニョよ!
その調子で誰一人、山菜シーズン本番まで山の中に近づけるでない――
功労者のお前には、一番上等の山菜料理を優先的に食わせてやるぞ!」
ブニョ「ぶにょにょにょ、魔王様、有難き幸せぇ~!」
無差別に吐き散らされる火花の勢いで、郊外の建物までもが破壊され……
巻き上がる爆炎の中を、必死にピグモン、みくるん、ながもんが逃げ回る。
得意満面のブニョによる追い出し作戦が、ほぼ成功したかと思われたその時!
「コラーッ! もういい加減に止さないか!!」
強烈な一喝でブニョを叱り飛ばしたのは、もはや説明不要のこの男。
子どもたちの帰りが遅いのを心配して、山まで駆けつけてきた宙マンだ
みくるん「あっ、宙マンさん!」
ながもん「オウ、地獄で仏……修羅場で……宙マン」
ピグモン「びぇぇん、宙マン、ピグちゃんとっても怖かったの~(泣)」
宙マン「よしよし、私が来たからもう大丈夫だよ、みんな。
……こらっ、いい歳をして何だ、弱いもの虐めなんて大人げのない!」
ブニョ「ぶにょにょ、な~にをホザくか、カッコつけやがってェ!
こちとらぁコレが仕事なんだ、邪魔をするならただじゃ済まんぞね!」
宙マン「聞く耳持たず、か……そんな事だろうと思ってはいたが!」
ブニョ「怪獣軍団の一員、星人ブニョ様に勝てるかなァ!?」
宙マン「ようしっ、それなら行くぞッ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂う星人ブニョの前へと舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
そこまでだ小悪党、もう乱暴なことはさせないぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ピグモン「はうはう~、宙マン、かっこいいの~!」
みくるん「(不安げに)だ、大丈夫だよね!? 宙マンさん……」
ながもん「(頷き)問題ない。……ご町内の、ヒーローは……負けたり、しない」
宙マン「星人ブニョよ、今一度言う。
山菜の独り占めなどと、大人げない真似はよせ!」
ブニョ「ぶにょにょにょ、しゃら臭ぇぇ~っ!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マンーー
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
ブニョ「ぶにょにょにょ~、邪魔者は容赦しないぞ~っ!」
宙マン「どこからでも来い、星人ブニョ!」
激突、宙マン対ブニョ!
ピグモンたちが見守る中、巨大宇宙人どうしの死闘が展開される。
ブニョ「くらえ!」
宙マン「なんの!」
ブニョの吐き出す火花を、プロテクションによって無力化してみせる宙マン。
そこから、両者の肉弾戦はヒートアップの一途をたどっていく――
ぐねぐねした軟体質の体を揺すぶり、宙マンめがけて襲いかかってくるブニョ。
とらえどころのないそのボディを前に、さすがの宙マンもいささか勝手が狂うものの
決して相手のペースに呑み込まれないのは、流石ベテラン戦士の年の功。
ブニョの攻撃パターンを素早く見切るや、すかさずパンチ、パンチ、パンチ!
敵の内懐に飛び込んでの連打が、ブニョを徹底的に痛めつける。
宙マン「どうだ、参ったか、これでもか!」
ブニョ「ぶにょにょにょ……な、ナメるなぁぁ~っ!」
両者の体が離れた、ほんの一瞬の隙を突いて……
ブニョの口から勢いよく吐き出される、緑色のスリップオイル!
ズ、ズーンっ!
スリップオイルによって足が滑り、大地に倒れこんでしまうヒーローの巨体。
みくるん「ああっ、宙マンさんが!」
ながもん「意外に、手ごわい……何という……悪知恵……!」
ピグモン「(慌てて)はわわわ、宙マン、負けないでなの~!」
ゾネンゲ博士「おおっ! ブニョの反撃が鮮やかに決まりましたぞ!」
イフ「わははは、そうでなくてはいかん――やれィ、やってしまえブニョ!
そのまま一気に今度こそ、宙マンめの息の根を止めてしまうのだ!」
ブニョ「ぶにょにょにょ~、いよいよ最期の時だなぁ、宙マぁ~ン!
宇宙ロープで縛り付けてやろうか、カチンカチンの氷漬けにしてやろうか……
それとも宇宙ノコギリで、全身バラバラにしちゃってやろうかぁ~!?」
「せっかくだが――まとめてご辞退するッ!!」
ブニョ「(悶絶)ぶ、ぶにょォォォォッ!?」
ヘッドビーム一閃!
宙マンめがけて突進してきたブニョに命中し、見事にその気勢を削いでみせる。
よろめくブニョめがけて、猛然とダッシュしていく宙マン。
その全身が、体内から溢れ出すエネルギーによってみるみる赤く染まる!
「トゥリャァァーッ!
宙マン・エネルギッシュ・ボンバー!!」
出た! 宙マンの肉弾戦法、エネルギッシュ・ボンバー!
真紅のエネルギーで全身を包んで、自らを巨大な光の弾丸と化し……
そのまま一気にブニョの懐へ飛びこみ、そのボディを貫通してしまう。
宙マン「―どうだっ!」
ブニョ「ぴぎゃああっ……ま、まいった~!」
エネルギッシュ・ボンバーの威力に崩れ落ち、大爆発する星人ブニョ。
やったぞ宙マン、大勝利!
みくるん「わぁっ、やったぁ!」
ながもん「さすが……安心と、信頼の……宙マン」
ピグモン「はうはう~、今日もバッチリ宙マンの勝ちなの~♪」
子どもたちの笑顔と歓声が、宙マンの勝利を讃える――
雪溶け間もない原野に立つ巨体は、どこまでも雄々しく、逞しかった。
イフ「ぐぬぬぬっ……またか、またしても宙マンにしてやられたか!
覚えておれ、覚えておれ~ッ、次こそは必ず……!」
……と、怪獣魔王がいつもの負け惜しみを叫ぶまでが毎度の恒例。
かくして我らが宙マンの活躍により、星人ブニョは追い払われ……
千歳の山林には再び、元の平穏なやすらぎの光景が戻ってきたのであった。
みくるん「ありがとうございました、宙マンさん!」
ピグモン「はうはう~、宙マンのおかげで助かったの~」
宙マン「うんうん、よかったよかった、ホントによかったよ。
さて、それじゃそろそろ家に帰……」
ながもん「(ボソッと)……待った」
不意のその声に、へっ? と驚いて振り返る宙マンたち。
無言のままでながもんが、山の片隅を指差したその先に見えたものは……。
みくるん「わぁ~、フキノトウだぁ!」
ながもん「……ねっ、そういうこと」
ピグモン「はうはう~、今年の山菜第一号なの~♪」
宙マン「う~ん……これは期待できそうだぞ、今年の山菜取りもね!」
そう、今まさに――
この北海道でも、春の息吹がそこかしこから沸き立っているのであった。
千歳の街に春を呼び……
みんなの笑顔を守る、宙マンパワーの素晴らしさ。
さァて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?