広大な原生林と山々に囲まれた、大雪山国立公園の一角……
そんな国道39号線の石北(せきほく)峠から始まる、今回の『宙マン』。
一見すると、実にのどかで平穏そのものの光景ではあったが――
怪獣軍団の魔手は、今、まさにこの石北峠へと及んでいたのであった!
ガサガサッ……ガサガサッ……
石北峠の原生林の一角が、不意に不自然なざわめきを見せ……
生い茂る草木を掻き分けながら、ぬっと顔を出した怖~いカオ。
スプリング状のしなやかなボディに、両手に携えた硬質な鋏。
彼は岩石怪獣サドラ、言う間でもなく怪獣軍団の一員である――
怪獣魔王の命を受け、この石北峠で宙マンを待ち伏せているのだ。
サドラ「ビュイィ~ンっ……それそれ、それなんだよなぁ!
「待ち伏せ」はいいんだけどよォ、スライの旦那……
……問題は、本当に宙マンがここに来るのかどうかってコトだろ!?」
「んふふふ……来る、来ますとも! 絶対です!」
現地のサドラのボヤきに対し、自信たっぷりの含み笑いでそう返してみせたのは
軍団の幹部候補生として将来を嘱望される若手五人組“ダークネスファイブ”の
実質的リーダーであるメフィラス星人“魔導の”スライ。
スライ「私の調査によれば……
昨日より宙マンが、道内在住のローカルヒーローとの交流を深めるための
懇親会出席のため、旭川入りしていることは間違いありません」
イフ「うむ、そこは流石に“魔導の”スライと褒めておこう。
だが、それが何故、サドラを石北峠へ張りこませておく根拠になる?」
スライ「んふふふ、そして同時にですな……
宙マンが旭川へ向けて出発する前日、道内ローカルのバラエティ番組において
旭川よりほど近い石北峠の“峠の茶屋”にて評判が高い、特製山菜ラーメンを
大々的に特集していたことも確認済みです」
イフ「おおっ……何と!」
スライ「旭川からすぐに足を運べる場所に、そんな旨いものがあるとなれば……
みすみす、そのチャンスを見送るような宙マンではございません。
……他の誰にもわからずとも、私にはよーっく判ります!」
イフ「根が気楽な道楽者同士だからこそ……というわけか。
正直いろいろ言いたいことはあるが、今はお前の判断を信じよう!」
スライ「んふふふ……そういうワケです、サドラ君。
見事に宙マンを片付けて、ご当地名物のラーメンを愉しんでいらっしゃい!」
サドラ「んー、そう言われてもなぁ……お、おおっ!?」
未だ半信半疑だったサドラの目が、一方を見てまるまると見開かれる――
空の彼方からやって来たもの、それは鳥でも飛行機でもない。
それはお馴染み・我らが千歳のヒーローその人だ!
旭川におけるローカルヒーロー懇親会を滞りなく終えて、千歳への帰途……
一昨日のローカル番組で紹介されていた、石北峠で評判の特製山菜ラーメンを
味わってみようじゃないかと、ちょっと寄り道して飛んできた宙マン。
こんな文字通りの「美味しい」話題に、彼が食いつかないはずはない。
そう、ここまでは全て、“魔導の”スライの読みが見事に的中したのである。
山の清々しい空気の中を、爽快感たっぷりに飛翔して……
石北峠の“峠の茶屋”近くの駐車場へ、ひらりと着地を決める我らが宙マン。
宙マン「んー、いい感じに小腹も減ってきたことだし……
それじゃ早速、評判の特製山菜ラーメンを味わうことにしますかァ!」
完全に物見遊山モードの宙マンが、峠の茶屋に足を向けようとした時――
「ビュイィ~ンっ……ちょ~っと、待ったァッ!!」
宙マン「(びっくり)わ、わわっ、いきなり何だね君は!?」
サドラ「ビュイィ~ンッ、怪獣軍団の岩石怪獣サドラ様だァ!」
宙マン「さては君も、わざわざ暗黒星雲からラーメンを食べにお越しかね?」
サドラ「ビュイィ~ンッ、それも魅力的だなぁ、確かに。
……お前を倒した後なら、特製山菜ラーメンも更に旨かろうぜェ!」
宙マン「(表情が引き締まり)そうか。……そういう事か、結局は!」
ファイティングポーズを取り、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトルの幕開けだ。
真っ向激突、宙マン対サドラ!
格闘戦における最大の武器、両手の硬質な鋏をブンブン振り回しながら
持ち前の野獣性を全開にして襲いかかる怪獣サドラの怪力殺法を前に、
宙マンも磨き抜かれた格闘技によって怯まず渡り合う。
力と力、技と技。
そこかしこに雪が溶け残り、肌寒い5月の石北峠を真夏かと錯覚させる勢いで
両者のバトルは一気呵成にヒートアップしていく。
宙マン「それっ! どうだ、これでもか!」
サドラ「ビュイィ~ンっ、まだまだ! そんなもんじゃ全然まだまだだぜ!」
宙マンとサドラ、互角の格闘戦が展開される――
だが、特製山菜ラーメンを美味しく味わうため、小腹を減らしてきたのは
この場合、宙マンにとっての災いであったのかもしれない。
空腹感によって戦闘への注意が削げ、軽く足元がふらついてしまった宙マン……
その一瞬の隙を逃さず、猛攻撃のサドラ。
押しの一手で宙マンを攻めに攻めまくり、遂にこれを叩き伏せてしまう。
宙マン「ぐ、ううっ!」
サドラ「ビュイィ~ンっ、まだまだ! お次はサドラ火炎を受けてみやがれ!」
恐怖の火炎攻撃が、宙マンの足元に炸裂!
たちまち噴き上がった巨大な火柱と爆風が、容赦なく宙マンを吹っ飛ばす。
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
サドラ「ビュイ~ッヒヒヒ、どんなもんだィ!
このサドラ様の底力、今日と言う今日こそ思い知ったか宙マン!」
スライ「んふふふ、素晴らしい、実に素ン晴らしいッ!」
イフ「わははは……いいぞ、その調子だサドラ!
怪獣軍団・全怪獣の期待に応え、今こそ宙マンにとどめを刺すのだ!」
サドラ「ビュイィ~ンっ、勿論でさぁ、魔王様!
……さぁて宙マン、サドラ様の鋏でその首、チョン切ってやるぜィ!」
「な、なんの……負けて、たまるかッ! トゥアーッ!!」
宙マン、気合一閃!
残された力を瞬時に振りしぼり、大ジャンプと共に大空へ舞い上がる。
サドラ「(狼狽)う、うおおっ!?」
宙マン「岩石怪獣サドラ、今度はこっちからお返しだ!」
宙マン「くらえ!
宙マン・ストレートフラッシュ!!」
サドラ「……す、素直にラーメンだけ食って帰っとくんだったぁぁ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
宙マン「ふぅっ。……やれやれ!」
イフ「おのれ宙マン……よくも、よくもやってくれおったな!
やはり貴様こそ、ワシら怪獣軍団が全力で倒すべき最大の敵……
次こそは更に怖ろしい怪獣を送りこみ、必ず息の根を止めてくれるわ!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
宙マンの活躍によって、石北峠に罠を張っていた怪獣サドラは倒され
ご当地には再び、もとののどかな平穏が戻ってきたのであった。
宙マン「さてと、こうしちゃいられない。
今度こそしっかり、名物の特製山菜ラーメンを味わうことにしよう――
……ええと、みんなのお土産もついでに買っておくかな!」
平和を愛し、「家族」やご近所さんへの気配りも忘れない。
ラーメンに舌鼓を打つ宙マンは、やはり誰もが認めるナイスガイなのであった。
今日も本当にありがとう、宙マン!
だが、未だ怪獣軍団の野望は尽きない……
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?