一夜が明けて今日もまた、地球の上に朝が来た――
この星の誕生以来、何十億回となく繰り返され続けてきたそんな光景。
「新しい朝が来た、希望の朝だ」なんて、なじみの深いラジオ体操の歌さえも
聞こえてくるのにはちょっとまだ早い時間帯。
昇り始めた朝日を浴び、澄みきった朝の空気の爽やかさを胸一杯に感じつつ
住宅街を往くのは、もはやお馴染みの顔。
千歳市ほんわか町5丁目在住のヒーロー、我らが宙マンその人であった。
そう。
こんち宙マン、毎朝の日課であるウォーキングの最中なのである……が、
不意に、その足がぴたりと止まった。
宙マン「(怪訝)むむっ……なんだ、この気配は?」
風に乗って流れてきたのは、名状しがたい剣呑な空気。
ごく普通に暮らしている人ならば、気づくことさえもないごくごく僅かな気配を
だがしかし、銀河連邦の元・英雄として知られるベテランヒーローの鋭敏な勘は
逃がすことなくハッキリ捉えていたのであった。
そんな気配が蠢く、ほんわか町内の外れ。
のっしのっしと足音を響かせ、原生林を我が者顔でのし歩いていくは……
怪獣軍団の一員、忍者怪獣サータンだ!
サータン「けーっけっけっけっけっ!
細工は流々、首尾は上々、あとは仕上げをごろうじろ、だぜ。
秘密裏にことを運ぶのが、このサータン様の忍者怪獣たる所以……」
「やぁ、どうもどうも、おはようございます!」
サータン「(驚いて振り返り)げげっ、き、貴様は……宙マン!?」
宙マン「はっはっはっ、オーバーだなぁ。
たまたま姿を見かけたから、挨拶がてら声をかけただけじゃないか」
宙マン「……と言うか、その大袈裟な反応、なんだか怪しいなぁ。
また怪獣魔王の命令で、悪いことでもしようと言うんじゃあるまいね?」
サータン「わ、悪いこと?」
宙マン「そうともさ。
ホラ、例えばマグマ層に刺激を与えて火山の大噴火を呼ぼうとか……」
サータン「いやいや~、俺に限ってそんな事はしないって!
俺はせいぜい、毒ガス発生装置でこの一帯から住人を追い出して
その隙に怪獣軍団の前線基地を築k……ハッ!?(汗)」
宙マン「(ジト目)ほほう……なるほど、それは興味深いねぇ。
毒ガス発生装置に前線基地か、そうかそうか、よく判ったよ!」
サータン「ゲゲェッ、し、しまったぁ!?(汗)」
サータン「ごめんなさ~い、魔王様、うっかり下手こいちゃいましたぁ!
こ、これからどうしましょう~!?(涙目)」
イフ「えぇい、この大バカ者め! 自分から全部バラしてしまう奴があるか!
……えぇい、やむを得ん、こうなったら作戦変更だ」
サータン「このままズラかっちまうんですかい?」
イフ「そんなわけあるか、戦えサータン!
この場で宙マンを叩き潰し、お前の手でミスを帳消しにするのだ!」
サータン「うおおおっし! こうなりゃヤケだ、かかって来い宙マン!」
宙マン「ああ、私もそうさせてもらうつもりだった。
街に仇をなそうというのなら、見逃すわけにはいかん!」
颯爽とファイティングポーズをとり、全身に闘志をみなぎらせる宙マン。
さぁ、今朝もまたスーパーバトルの幕開けだ!
サータン「ぐぎぎぎっ、格好つけやがって!」
宙マン「さぁ、やるならとことんやろうじゃないか。
……それとも尻尾を巻いて、大人しく暗黒星雲に帰っておくかね?
いっそ、その方が君の身のためかもしれんぞ!?」
サータン「うがーっ、なめやがって、なめやがって! もう許さんぞぉ!」
宙マン「あくまでやる気か……ならば、やむを得ん!」
激突、宙マン対サータン!
雄大な北海道の原生林狭しと、ダイナミックに展開される死闘。
サータン「ぐおおお~っ、くたばれ宙マン!」
宙マン「なんの、それしき――これを受けてみるがいい!」
大きく振りかぶって繰り出す、宙マン渾身のストレート・パンチ!
その威力に、さしものサータンも大きくよろめく。
サータン「(悶絶)ぐうっ! う、おおっ……」
宙マン「このまま一気に決めてやる!」
更なる攻撃で畳みかけんと躍りかかる宙マン、そうはさせじとサータン。
両者、もみあいながらゴロゴロと激しく地面を転がり……
そして逆に、サータンの怪力が宙マンを押し返した!
大きく吹っ飛び、そのままドドーッと地面に叩きつけられてしまう宙マン。
宙マン「(呻き)くッ……!」
サータン「けっけっけっ……宙マン、今度こそ最期だぜ!」
宙マン「なんの……ここでやられて、なるものかッ!」
宙マン、パワー全開!
右足で、のしかかってきたサータンの体を蹴り返し……
サータンが怯んだ隙を突いて、自慢のジャンプ力で大空へと舞い上がる。
宙マン「エイヤァァーっ!
宙マン・ミラクル・キック!!」
出た、電光石火の必殺キック!
悪名高き忍者怪獣も、この一撃をまともに喰らってはひとたまりもない。
サータン「おおうっ……つ、痛烈ぅぅ~っ!……ガクリッ(昏倒)」
やったぞ宙マン、大勝利!
宙マン「ふぅぅっ……やった。やったぞ!」
イフ「ぐぬぬぬっ……やったな、やってくれたな宙マンめ!」
イフ「毎度毎度、ワシらの邪魔ばかりしおって……だが、これで勝ったと思うなよ。
今度こそ、この次こそは必ず、この仕返しをしてみせるからな……!
よいか、覚えておくがいい宙マン!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍で、怪獣サータンによる毒ガス散布作戦は阻止され
千歳市の平和は、またしても人知れず密かに守り抜かれたのであった。
そして、日課のウォーキングから帰宅していた宙マンを待っていたのは……
落合さんの手作りによる、ほかほか出来立ての朝ご飯。
この朝ご飯の美味しさと、待っていてくれる「家族」の笑顔。
誰も知らない戦いに勝利した宙マンにとって、それが最大の報酬であり
何にも勝る栄光そのものなのである。
今日もまた、北海道に朝が来た。
皆様、どうかご安全に……
そして、よりよく楽しい一日をお過ごし下さい!