春の日差しに暖められ、心地よいまどろみの中にある北海道千歳市。
いつもと変わりない、平和で穏やかな日常がそこにはあった。
そう、それも当然と言えば当然、そうであってくれなければ――
何と言っても列島は今、ゴールデンウィークの真っ只中なのだから。
と、そんな大前提のもとに幕を開ける『飛び出せ!! 宙マン』。
「平和な日常」を謳うからには、その物語の始まりも当然、例によって例のごとく
千歳市内の「宙マンハウス」から、ということになる。
みくるん「ここのところ、あったかい日が続いて嬉しいですね!」
ながもん「まさに……春……らんまん」
「宙マンハウス」の庭先に集うのは、宙マンファミリーとコロポックル姉妹。
馴染みの面々が集まって、のんびり、まったりと歓談中であった。
落合さん「いよいよ我が北海道も、行楽日和といった感じですわねぇ!」
ピグモン「はうはう~、行きたいところ、い~っぱいなの~☆」
ビーコン「いえっふ~、食いたいもんも、い~っぱいっス!」
ながもん「そして、食べ物と……言えば」
ビーコン「毎年恒例、春のバーベキュー大会っスよね!?」
ながもん「……(頷く)」
宙マン「いいねぇ、今年は例年よりもあったかい日が続いていることだし……
五月の連休に相応しく、盛り上がること請け合いだよね!
それには、どうしても落合さんの力を借りる必要があるけれど……」
落合さん「えぇ、お任せ下さいませ、お殿様。
そう言うことでしたら、この落合、腕によりをかけますわ!」
宙マン「ありがたいねぇ、そうこなくっちゃ!」
落合さん「うふふふっ♪」
ビーコン「……ちょ~っと、ちょっと、落合さぁん。
何スか、今の“うふふふっ”ってデレ顔は――
オイラにはそんな顔いちども見せたことないのに、アニキにばっかり!」
落合さん「(澄まして)あら、当然のことじゃございませんこと?」
ビーコン「ムキ~ッ、オイラの何がいけないって言うんスか!?」
落合さん「その胸に聞いてみてはいかがです? ビーコンさんの日頃の行いを!」
ビーコン「えっ、落合さんのオッパイ、略して落合ッパイ触っていいんスか!?」
落合さん「っがー、そんなわけないでしょうがっ!(怒)」
……などと言う、良くも悪くもいつも通りのやり取りと光景。
だが、その時である!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
ビーコン「お、おろろろろっ!?」
落合さん「この揺れ方……ちょっと、只事ではございませんわね!(汗)」
そう、落合さんの言葉は不幸にも正しかった――
ビルを崩し、大地を裂いて、地底からその姿を現した巨大な影とは!?
「ギチギチギチ……ギギギぃぃ~っ!」
ピグモン「はわわわ、なんか出てきたの~!(涙目)」
みくるん「あれは……か、カマキリ!?」
ながもん「(頷き)ゾルゲル島、出身の……両刀怪獣・カマキラス」
カマキラス「ギチギチギチ……ギギギぃぃ~っ!
やぁやぁ、遠からんものは音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!
拙者の名はカマキラス、“怪獣界の宍戸梅軒”と呼ばれておる!」
ビーコン「どひ~っ、そんなの初耳っスよ!?」
カマキラス「ギチギチギチ~、実は拙者も「初言い」でな。
なぁに、こういうのは言ったモン勝ちよ!」
落合さん「(鼻白む)あらまぁ……良い根性してらっしゃいますこと!」
落合さん「……で。
その“怪獣界の宍戸梅軒”さんとやらが、一体なんの御用です!?」
カマキラス「ギチギチギチ、そんなもの決まっておろうが!
春だからな、長い冬眠でなまった体を思いきり動かしたかったのだ――」
カマキラス「そして丁度、拙者の鎌の切れ味も確かめたかったことだし、な!」
ながもん「(ボソッと)要約。……今日も、今日とて……大暴れ」
みくるん「ふぇぇぇ、やっぱり今回もそうなっちゃうんですね~!?」
宙マン「……うぬっ!」
イフ「ぬははは……遠慮はいらん、思い切り暴れるがいいカマキラス!
お前の鎌の切れ味で、千歳の街を瓦礫の山に変えてしまえィ!」
カマキラス「ギチギチギチ……承知でござる、魔王様!」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始するカマキラス!
迫り来る巨体を前に大パニックに陥り、悲鳴をあげて逃げまどう人々。
カマキラス「ギチギチギチ、そうら逃げろ、もっと悲鳴をあげるがいい!」
ながもん「うわ……めちゃくちゃ……楽しんでる?」
宙マン「ううむっ、いくら大型連休だからって元気が良すぎだろうに……!」
落合さん「(空を見上げて)あっ、あれは!?」
ビーコン「おおっ、防衛隊の戦闘機っス~!」
落合さんとビーコンに倣い、宙マンたちが仰いだ空の彼方――
三機編隊を組んで、爆音とともに飛来してくる真紅の新型戦闘機。
精鋭・レッドウィングス小隊が、傍若無人の進撃を続ける怪虫を迎え撃つ!
ロケット弾が次々と炸裂し、カマキラスの周囲に凄まじい爆発を生じさせる。
「攻撃の手を緩めるな! 撃って撃って撃ちまくれ!」
カマキラス「ギギギーッ……拙者をなめるでないわ、人間風情が!」
カマキラスの大鎌が一閃!
その鋭い切れ味の前に、回避の遅れた戦闘機が一撃で破壊されてしまう。
爆発! 炎上!
たちまち火炎地獄の様相を呈した千歳の街で、我が者顔のカマキラスである。
カマキラス「ギギギ、拙者のカマキリ殺法、向かうところ敵なしでござる!」
みくるん「ふぇぇ、あの怪獣さん、あんなコト言ってますぅ!(涙)」
ビーコン「アニキ、ここは一発、天狗の鼻をへし折ってやって下さいっス!
(ボソッと)……相手はカマキリっスけど」
落合さん「私からもお願い致します、もうお殿様だけが頼りですわ!」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うカマキラスの前へと舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
怪獣カマキラスよ、時代錯誤の剣豪気取りもそのくらいにしておけ!」
ズ、ズーンっ!!
カマキラス「ギチギチギチ……出たな、宙マン!
わざわざ拙者の鎌の餌食となりに出てきたとは、ご苦労なことよ!」
宙マン「はっはっはっ、そうは問屋が卸すものか!」
全身にみなぎる怒りを力に変え……
ファイティング・ポーズをとって、敢然と身構える宙マン。
宙マン「行くぞ、カマキラス!」
カマキラス「ギチギチギチ……いざ尋常に勝負、勝負~っ!」
激突、宙マン対カマキラス!
ふたつの巨体が勢いよく同時に動き、そして真っ向からぶつかり合う。
槍状の右手と鎌状の左手、両手の武器を巧みに操ってフェイントをかけてくる
カマキラスの凄まじい勢いに、さしものヒーローもやや押され気味――
だが、これしきで相手のペースに飲み込まれるような宙マンではない。
カマキラスの斬撃を巧みにかいくぐり、巨大怪獣の内懐へ入り込み……
宙マンの繰り出すパンチの連打が、巨虫の外殻めがけて次々に炸裂する。
カマキラス「ギチギチギチ、おのれ……拙者をなめるな、宙マンっ!」
宙マン「うおっ!?」
カマキラスの反撃に、ぐらりとよろめく宙マン。
そして、両者の間合いが再び大きく開いたその隙を逃さず……
弾丸のようなカマキラスの体当たり攻撃が、宙マンのボディめがけて炸裂した!
宙マン「う、うわぁぁぁぁ……っ!」
ズ、ズーンっ!
大きく吹っ飛ばされた宙マンの巨体が、地響きをたてて倒れ伏す。
みくるん「ああっ、宙マンさんが!」
落合さん「力技一辺倒の怪獣さんだとばかり思っておりましたら……」
ビーコン「ちょっと、アニキ、押され気味じゃないっスかぁ!?」
ながもん「(頷き)……これは、ちょっと……まずい」
ピグモン「はわわわ、宙マン、負けないでなの~!」
イフ「わはは、いいぞ、カマキラス!
そのままお前の最強の武器で、にっくき宙マンを膾に刻んでしまえ!」
カマキラス「ギギギーっ……死ねぇ、宙マン!!」
宙マンめがけて振り下ろされる、カマキラスの大鎌!
だが、宙マンは――クロスした両腕に気力を集中させ、これを硬質化させることで
カマキラスの死の一閃を見事に受け止めてみせたではないか!
カマキラス「(驚き)……な、何とぉっ!?」
宙マン「カマキリ殺法、破れたり!」
ながもん「おおっ。……」
ピグモン「はうはう~、宙マン、今がチャンスなの!」
宙マン「ああ、判っているとも――それっ、今度はこっちがお返しだ!」
動揺したカマキラスめがけ、宙マンの熱い鉄拳が唸る!
痛烈なる直撃を受け、カマキラスがもんどりうって倒れたところへ――
宙マン「とどめだ! 宙マン・ヘッドビーム!!」
宙マンの闘志そのもののような、真っ赤に輝く破壊光線……
ヘッドビームの一閃が、カマキラスを直撃!!
カマキラス「ギギギギ……こんなはずでは……
む、無念でござるぅぅ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ピグモン「はうはう~! よかったの、今日も宙マンの勝ちなの~!」
ながもん「今日も、今日とて……激しく……グッジョヴ」
みくるん「宙マンさん、本当にありがとうですぅ!」
イフ「うぐぐぐっ、おのれ、またしても宙マンめが……
だが、いい気になっておれるのも今のうちだけだぞ!
この連休中に、必ず怪獣軍団の恐ろしさを思い知らせてくれるわ!」
これだけ毎回やられ続けて、それでも諦めない根性はいっそ見上げたもの。
だが、それはともかくとして……。
今回もまた宙マンの活躍で、怪獣軍団の尖兵たる切り裂き魔・カマキラスは
見事に撃退され、千歳の平和は守り抜かれたのであった。
落合さん「どうもお疲れ様でした、お殿様!」
みくるん「宙マンさんがいてくれるだけで、ホントに頼もしいですぅ!」
ながもん「安心と、信頼の……我らが、ヒーロー」
ピグモン「はうはう~、宙マンだいすきなの~♪」
宙マン「はっはっはっはっ……いやぁ、照れるなぁ」
ビーコン「ぐぐぐ……なんスかなんスか、みんなしてアニキばっかり!」
ビーコン「オイラの時との、この態度の違いときたら、もうね!
……つーか、オイラの一体なにが問題だって言うんスかぁ!?」
落合さん「その胸に聞いてみてはいかがです? ビーコンさんの日頃の行いを!」
ビーコン「えっ、落合さんのオッパイ、略して落合ッパイ触っていいんスか!?」
げ し っ !
落合さん「っがー、そういうトコですわよ、本当にそういうトコっ!!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、痛いほどに分かりやすいご解答っスねぇぇ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
平和と正義の美しい花……
ぱぁっと咲かせる、ご町内のヒーロー。
かっこいいぞ宙マン、次回も千歳を頼んだぞ!