季節は移り、春から初夏へ……
その存在と生命力を誇示している、まさにそんな季節。
6月の北海道。
その一角に位置する、とある海岸沿いの道路。
何気ない、平和そのものに見える情景。
だが、北海道と地球の危機は……そんな表向きの穏やかさに紛れ
人知れず静かに、そして確実に迫りつつあったのだ!
最初に、その異変を察知したのは……
海沿いの岩場で羽を休める、海鳥の群れだったかもしれない。
「グロロロ……ガロロロッ……」
海風に混じり、聞こえてくる不気味な音……
そう、それはまるで、巨大な獣の唸り声としか思えないような。
……ただの空耳であろうか?
否、そうではないことは、次の瞬間に明らかとなった。
太平洋の荒波を蹴立て、海中からのっそりとその姿を現した異形。
正に「異形」としか形容しようのない大怪獣!
「グオォォォ~ンっ!!」
陸地でも、水中でも、戦う場所を選ばないパワフル・ファイター。
イフ「ぐふふふ! 相変わらず頼もしい奴よ、張り切っておるなジラース。
では早速、お前に命令を与えるとしよう――」
ジラース「グオオオ~ンっ、任しといて下さい、魔王様!
考えるのは苦手スけど、ぶっ壊しなら得意中の得意ですぜ!」
イフ「ふはは、話が早くて助かるぞ――そうだ、それでいい!
太古の昔から磨き抜いた野生のパワーを全開にして暴れ回
まずはこの新ひだか一帯を、徹底的に破壊し尽くすのだ!」
イフ「そしてその上に、ワシら怪獣軍団の前線基地を築き……
そこを足掛かりとして北海道を、日本を……
いや、全世界をワシら怪獣軍団のものとするのだ!」
ジラース「念願の地球征服! 楽しみですねぇ、魔王様!」
イフ「頼むぞジラース、全てはお前の働き如何にかかっておる!」
ジラース「グオォォ~ンっ、やらせてもらいますぜ、魔王様!
この俺の手にかかりゃ、街の一つや二つ、あっという間に……」
「はっはっはっはっ……
果たして、そう思い通りにいくものかな!?」
ジラース「(訝しんで)ムムッ! 誰だ!?」
不意に響いてきた凛たる声に、驚いて振り返るジラース。
次の瞬間、華麗な空中回転とともに舞い降りてきたのは……
もちろん、この男だ!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
エリ巻恐竜ジラース、道内の平和を乱す真似は許さんぞ!」
ジラース「ゲゲェーッ、宙マン!
ど、どうしてお前がここにいるんだ!?」
宙マン「う~ん……
一言で行ってしまえば“たまたま”なんだけれども」
ジラース「たまたまぁ……?」
宙マン「この辺は漁業が盛んで、海産物に因んだ旨いものが
そりゃもう盛り沢山なもんで……
うちの家族と一緒に、楽しみにしつつ来てみたんだが」
宙マン「着いたら着いたで、不穏な気配だ!
で、どうにも気になって来てみたら……
案の定、お前たち怪獣軍団が悪さをしかけていたってわけさ」
ジラース「ふーむ、なるほど……
いつものお前らしく、お節介の虫が疼いたってわけかィ」
ジラース「つーか、宙マン……お前、現役引退の身なんだろ!?
隠居なら隠居らしく、余計な揉め事には首を突っ込まずに
悠然と構えて、ノホホンと遊んでりゃいいのによ!」
宙マン「そうなんだよなぁ、確かにそうなんだけど……
でも、それじゃ、私の気持ちが納得できんのだッ!!」
ファイティングポーズをとり、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまたスーパーバトルの幕開けだ!
ジラース「グオォォ~ンっ、だったら来いやぁ、勝負だっ!
そのお節介癖、今日こそとことん後悔させてやるぜ!」
宙マン「なんの、そう簡単に負けやしないぞ!」
激突、宙マン対ジラース!
全身の原始パワーを全開に、猛然と肉弾戦を挑んでくるジラース。
その怪力をものともせず、宙マンも磨き抜かれた技で渡り合う。
力と技、息をもつかせぬ熾烈な応酬!
海岸いっぱいに、両者の打撃音が響き渡り……
いつ果てるとも知れない激闘は、更にヒートアップしていく。
宙マン「デリャアァァーッ! 宙マン・ショット!」
裂帛の気合いとともに、不可視の破壊衝撃波を放つ宙マン!
痛烈無比な一撃が、ジラースめがけて叩きつけられた。
宙マン「どうだジラース、正義の力を思い知ったか!」
「う、うわあぁぁぁ……っ!!」
宙マンの一撃が、ジラースの野生の怒りを呼び覚ました――
お返しだとばかりに吐き出した光線が、海岸に大爆発を生じさせ
その衝撃でヒーローの体を大きく吹っ飛ばす!
宙マン「(足元がふらつき)く……っ!」
ジラース「まだまだだぜ~、次はコレだぁ!」
ド ス ー ン っ !
よろめく宙マンに、態勢を立て直す隙など与えまいとばかり……
ジラースのメガトン頭突きが、宙マンの胸板めがけて炸裂!
宙マン「(苦悶)うう……うっ!」
ジラース「グオォォ~ンっ、ボロ雑巾みたいにしてやるぜィ!」
倒れ伏した宙マンにのしかかってくるジラース。
一気にとどめを刺さんと、激しい連打を叩きこんでくる。
ジラース「そうら、死ね死ね、くたばっちまえ!」
宙マン「なんの……負ける、もの、かぁっ!」
岩場を転がり、もみ合う中、巧みに宙マンが逆転!
マウント・ポジションを取り返して、逆にジラースへとパンチの連打。
ジラース「ギャ、ギャロロロッ……!」
宙マン「そうれ、どんどん行くぞっ!」
宙マンの水平空手チョップが、ジラースの胸板へヒット!
これにはたまらず、ドドーっと倒れるエリ巻恐竜である。
ジラース「ちょ、調子に乗るのもそこまでだぜ、宙マン!」
宙マン「いやいや、まだまだ!」
怒り、ジラーすが吐き出す破壊光線!
その一閃をひらりとかわして、宙マンは大空へと舞い上がる!
ジラース「(驚愕)う、ウオオオッ!?」
エリ巻恐竜の頭上から、稲妻のように急降下していく宙マン。
そして今、正義の怒りとともに繰り出す技の名は!?
宙マン「セイヤァァーっ!
宙マン・トルネード・キック!!」
空中で全身を高速回転させながら、敵めがけて突っ込む必殺技……
トルネードキックの一撃が、ジラースの胸板を抉るように炸裂!!
ジラース「回る、回るよ、地球と一緒に目も回るぅぅ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「うぐぐぐっ……おのれ宙マン、にっくき奴め!
よくもまた、怪獣軍団の邪魔をしてくれたな。
だが、覚えておれ……次こそは目にもの見せてくれるわ!」
宙マン「ふぅ、どうやらこの一件もやれやれか……」
宙マン「……っとっと、いかんいかん。
呑気に、余韻に浸ってる場合じゃなかったんだ!(汗)」
かくして……
我らが宙マンの活躍により、海沿いの街の平和は守られた。
そして、大怪獣ジラースとの戦いを終えた宙マンは、彼を待っている
ファミリーの元へと、大慌てで戻って行ったのであった。
ピグモン「ぶーぶ~、宙マン、おっそいの~!」
ビーコン「一体ドコほっつき歩いてたんスか、アニキぃ!?」
落合さん「お帰りが遅いので、少々心配しておりましたのよ」
宙マン「やぁ、ちょっと野暮用でね……
たっはっはっはっ、済まない、済まない!(頭かきかき)」
何はともあれ、ご当地名物の「カニのかき揚げ天丼」を平らげ……
終わりよければ全てよし、すっかりご機嫌の宙マン一家であった。
今日も颯爽、平和を守った地域の味方。
我らが宙マン、次回もバッチリ頼んだぞ!