血のように赤黒く濁った空の色と、見渡す限りの不毛の荒野……
人間を決して寄せ付けぬ、荒涼たる死の世界の一角に轟然とそびえるのは
恐るべき悪の化身、「銀河暗黒魔女」の悪魔城である。
運命に導かれた光の戦士、伝説の勇者ビーコンは、幾多の苦難を乗り越えて
ついにこの「銀河暗黒魔女」の城へと辿りついていたのであった。
おお……まさに今、光と闇との最終決戦が始まる!
ビーコン「待ってておくれっス、可愛いお姫様たち。
絶対、絶対に、このオイラが助け出してあげるっスからね!」
「ほほほほ、よく来ましたわね、勇者ビーコン!」
ビーコン「おおう! 遂に出たっスね、銀河暗黒魔女・グレートオチアイ!」
暗黒魔女「よくぞここまで来ましたね……でも、ここまでです。
我が偉大なる暗黒の力の前には、この宇宙の全てが……」
ビーコン「ねーいっ、受けてみるっス、ブレイブソードの一撃を!
必殺、ビーコン・ダイナミック!!」
暗黒魔女「……ちょっ、さ、最後まで言わせて下さいよ~っ!!」
勇者の証・ブレイブソードが一閃して、銀河暗黒魔女を一撃で斬り倒す。
やったぞビーコン、大勝利!
かくして勇者ビーコンの活躍により、銀河暗黒魔女・グレートオチアイは倒され
邪神復活のための生贄として、悪魔城に浚われていた各惑星のプリンセスらも
無事、地下牢から救い出されたのであった。
ビーコン「さぁ、お待たせしたっスお姫様たち、もう大丈夫っスよ!
安心してオイラと一緒に、故郷の星の王宮まで帰るっス~!」
「いやっ! 私、帰りたくありません!
いつまでも、いつまでも、ビーコン様のお側にいたいのです……
ああっ、勇者様、どうかこのまま私を連れて逃げて下さいっ!」
ビーコン「……お、おひょひょっ!?」
「ああん、ずるぅい、私も私も!」
「ずっと前からお慕いしておりました、ビーコン様!」
「あはぁ~ん、私をビーコン様だけのオンナにしてぇぇ~ん♪」
ビーコン「ヒヒヒ、最近のお姫様たちときたら迫力満点っスねぇ!
ようがす、ようがす、み~んなオイラのオヨメサンにしてあげるっスよ~☆」
「……以上。めでたし、めでたしっス~♪」
落合さん「あ、あの~……何でしたの? 今の三文芝居は(汗)」
ビーコン「へ? ゆうべオイラが見た夢っスけど?
いやぁ、最高だったっスねぇ、久々にユメのような夢だったっス~!」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、道理で浮ついた展開だと思ったらッ!(怒)
そんなことを言うために、わざわざ私の家事を中断させたんですの!?」
ビーコン「チチチ、オイラはただ……
この甘くかぐわしい喜びを、みんなと分かち合いたかっただけっスよ~」
落合さん「な~にが喜びですか、イケシャーシャーとっ!
……大体なんで、私が銀河暗黒魔女の役なんですッ」
ビーコン「いいじゃないス、我ながらピッタリのキャスティングっスよ~。
……って言うか、おろろっ?
落合さん的には、オイラに嫁ぐお姫様役の方がよかったっスか?」
落合さん「ぁぐっ、それはそれでまた色々と問題が……
……って、そういう事を言ってるんじゃなくてですねっ!(汗)」
ビーコン「あーっ、もう、ああ言えばこう言う、そう言えばハウユー!
結局、落合さんはオイラに何をどうして欲しいんスか!?」
落合さん「その減らず口を閉じててくれればいいんですっ!!」
ビーコン「だー、何と言う暴言! 聞き捨てならないっスよ!?……」
ピグモン「……ぁう~、またやってるの~。
落合さんもビーコンちゃんも、ほんとにしょうがないの~」
宙マン「はっはっはっ、あれはあれで仲の良い証拠だよ♪」
「あの。……ごめん……下さい」
極楽コンビの非建設的口論が、エンドレスで続くかと思われた時……
ひょっこり顔を見せたのは、コロポックル姉妹の「妹のほう」こと、ながもん。
宙マン「やぁ、ながもんちゃん、いらっしゃい。
……どうしたんだね、そんな不安そうな顔をして?」
ビーコン「……ってアニキ、表情の変化とか判るっスか!?」
宙マン「まぁ、そろそろ付き合いも長いし、何となくはね。
……それで、ながもんちゃん、用件は?」
ながもん「みくるんが……ゆうべから、ずっと……目を、覚まさない」
宙マン「えっ、みくるんちゃんが!?」
ながもん「(頷き)しかも、すごく……うなされて、苦しんでる」
ピグモン「はわわ~、それはほんとにたいへんなの~」
落合さん「お殿様、これは一体……」
宙マン「……とにかく一度、様子を見てみよう。話はそれからだ」
と言うわけで、急ぎコロポックル姉妹の家に向かった宙マンたち。
眠り続けたまま、目を覚まさないというみくるんは……
今もなお、ベッドの中で悪夢にうなされ、苦しみ続けていた。
ながもん「ゆうべから……ずっと……この調子」
ピグモン「みくるんちゃん、みくるんちゃん、目を開けてなの~」
みくるん「(苦悶)うう……ぁう……っくぅぅっ!」
ビーコン「ひぇぇ、こりゃどう見ても普通じゃないっスよ~」
宙マン「みくるんちゃんに何が起こっているのか、まず調べてみよう」
プラネット星人ならではの超能力のひとつ、テレパシー能力の応用で
ベッドでうなされているみくるんの精神世界に、細心の注意を払いながら
柔らかく「探り」を入れてみる宙マン。
そして、それにより浮かび上がった驚くべきビジョンとは!?
「グェヘヘヘヘヘ……」
「イーッヒッヒッヒッヒ……」
みくるん「いやぁん、来ないで、こっち来ないで下さいぃ~っ!(涙)」
夢の中のみくるんの前に、次から次へと現れては迫ってくる異形の影……
いかにもおどろおどろしい、不気味な悪夢の絵図である。
ピグモン「ふぇぇん、ピグちゃんおっかないの~(涙目)」
落合さん「これが、みくるん様の見てらっしゃる夢……」
ビーコン「アニキ、こりゃ一体どういうことっスか!?」
宙マン「……何者かが精神体となって、みくるんちゃんの中に入り込んだに違いない。
その上でこんな悪夢を見せて、みくるんちゃんを苦しめ続けているんだ」
ビーコン「それじゃ、その“何者か”さえ追い出しちまえば……」
宙マン「確かにね……だが、それはかなり難しいな。
精神体のそいつが、半分みくるんちゃんと一体化してしまってる以上……
下手に攻めれば、誤ってみくるんちゃんの精神も傷つけかねない」
落合さん「そんなっ!……」
みくるん「……ぐう……うぁ、あ……あああっ!」
ながもん「……みくるん!?」
ビーコン「可哀想に……また、夢の中で怖い目にあわされてるっスよ~」
ながもん「みくるんが、こんなに苦しんでるのに……
私……なにも……して、あげられないなんて。
たった一人の……大好きな……お姉ちゃん、なのに」
ピグモン「……ぁうう、ながもんちゃん、元気出してなの~」
ビーコン「いよーしっ! こうなったら、最後の手段っス!」
落合さん「何か良い方法でもあるんですの、ビーコンさん!?」
ビーコン「モッチのロンっスよ、これならバッチシ、間違いなしっス。
さぁ、みくるんちゃん、もう少しの辛抱っスよ――
今から王子様のキスで、目覚めさせてあげるっス~!」
げ し っ !
ビーコン「……ちょ、痛いっスよぉ、落合さん!?」
落合さん「ねーい、お黙りんこっ、このエロ怪獣!
どうしてこの非常時に、そんな冗談が言えるんです!?」
ビーコン「心外っスねぇ、オイラは100%本気っスよ!」
落合さん「だったらなおのこと、命に代えても阻止しますッ。
純真なみくるん様を、ビーコンさんの毒牙にはかけさせません!」
ビーコン「オイラのテクニシャンぶりも知らずに、よくもそんなこと言えるっスね!?
唇を重ねて舌を入れるや否や、歯茎や上顎の粘膜、咽仏までもをねちっこく、
それでいて優しくチロチロ、ペロペロ、チュパチュパと……」
落合さん「うがーっ、おぞましい! 断固阻止です、阻止っ!!」
ある意味、「いつも通り」な極楽コンビの不毛な言い争い。
だが、ここにおいて……その口論は、思いがけない効果をもたらした。
.o○(チロチロ、ペロペロ、チュパチュパ……だと……!?)
ビーコンが、みくるんにキスをするということ……
イコールそれは、彼女に憑依している自分の唇も奪われてしまうということ。
精神世界に潜む敵にとって、それは切実なる「純潔の危機」であった!
「じょ、冗談じゃないぜ、気持ち悪い~っ!!」
切羽詰った悲鳴をあげて、みくるんの体から飛び出してくる精神体。
そのまま外へと飛び出して――急激に膨れ上がって、実体化を遂げていく。
「オヴァ、オヴァヴァヴァ~っ!!」
不気味な咆哮とともに、「本来の姿」へと戻った精神体。
異次元人ヤプールの使者、獏超獣バクタリだ!
宙マン「おおっ……あれが、見えない敵の正体か!」
ビーコン「へっへ~ん、どうっスか落合さん、効果覿面だったっしょ!?」
落合さん「(ジト目)まぐれ当たりが、な~にを偉そうにッ!」
バクタリ「くそう、順調に進んでた作戦だったのに……
ええーい、こうなりゃヤケだっ、思い切り暴れちゃるっ!」
ながもん「あ。……街のほうに、向かってる?」
宙マン「いかんっ!」
巨体を唸らせ、千歳の市街地へと進撃してくる超獣バクタリ。
悲鳴をあげ、逃げ惑う人々――
バクタリの火焔噴射で街が焼かれ、みるみる大パニックと化していく!
ビーコン「どひ~っ! なんかもう、いろいろ複合的にヤバいっス!」
ピグモン「宙マン、宙マン、なんとかしてなの~」
宙マン「ああ、判っているさ、もう許さんぞ!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で巨大化し、空中回転とともにヒーロー参上。
異次元超獣バクタリの暴虐の前に、そうはさせじと立ちはだかる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
超獣め、不埒な悪行三昧もそこまでだ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いえっふ~、出たっス、アニキの十八番!」
落合さん「あぁ、まさしく安心と信頼のシンボルですわ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
バクタリ「オヴァヴァ、出てきたな宙マンめ!
お前を倒して、作戦失敗のペナルティを帳消しにしちゃるっ!」
宙マン「抜かせ、超獣!」
全身にみなぎる怒りをパワーに変えて……
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン。
バクタリ「オヴァヴァヴァ~、行くぜ宙マン!」
宙マン「よくも罪のないみくるんちゃんに、悪夢を見せて苦しめてくれたな!
その落とし前は、何倍にもしてつけさせてやる!」
怒りに燃え、バクタリに挑む宙マン!
落合さんたちが見守る中で、凄絶な巨大バトルが火花を散らす。
異次元の生物兵器「超獣」に相応しく、バクタリのパワーは凄まじい。
鋭利な爪が激しく振るわれ、宙マンの体を切り裂かんとする。
だが、宙マンの正義の怒りは、そんなバクタリをも次第に圧倒!
宙マン「そぉりゃっ!」
鞭のようなしなやかさと鋭さで繰り出される回し蹴り!
これを腹部へまともに食らい、さしものバクタリもズズッとと後退する。
宙マン「どうだ、少しは思い知ったか!?」
バクタリ「オヴァヴァヴァ~、く、くらえっ!」
苦し紛れに、バクタリが爪から放つ火炎噴射。
が、宙マンは悠々とプロテクションで受け止め、無力化する。
バクタリ「(驚愕)オヴァヴァ、な、なんですとぉっ!?」
宙マン「とどめだ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、バクタリを直撃!!
バクタリ「オヴァヴァヴァ~、まさに真夏の白昼夢~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
みくるん「う~ん、むにゃむにゃ……」
みくるん「(目を開け)……ほにゃ?」
かくして宙マンの活躍で、少女の純真な心を弄んだ超獣バクタリは撃退され
悪夢から開放されたみくるんも、無事に目を覚ましたのであった。
だが、その一方で……
バクタリの黒幕たる、異次元人ヤプールはと言えば……。
ヤプール「えぇい、バクタリの間抜けが……しくじりおって!」
ヤプール「フッフフフ、だが……
地球の娘にとり憑いて悪夢を見せ、その恐怖と悲鳴の中から搾り出した
マイナスエネルギーはなかなかの上物だったぞ、それは褒めてやろう」
ヤプール「フッフフフ、そうだ、マイナスエネルギーだ。
超獣たちよ、これからもっともっと大量に……
そして、とびきり質の良いマイナスエネルギーを集めるのだ!」
「ハハァーッ! 創造主様の仰せのままに!」
ヤプール「そして、充分な量のエネルギーが集まったその時こそ……
このヤプールが再び現世に顕現し、全宇宙の支配者となるのだ!
今に見ておれよ、フッハハハハ……!」
おお――何度叩きのめされても、執念深く地球を狙う異次元人ヤプール。
そのドス黒くもおぞましい怨念は、未だ健在なのであった!
……が、いったんそれはそれとして――。
みくるん「へぇ……そうだったんだぁ。
ありがとうございます宙マンさん、おかげで助かりましたですぅ」
宙マン「はっはっはっ、いやぁ、なになに」
ピグモン「みくるんちゃん、お目々がさめてよかったの~」
ながもん「…………みくるん」
みくるん「ぅん、なぁに?」
ながもん「よかった。……ほんとに、よかった……」
みくるん「うん、私は大丈夫――
宙マンさんや、ながもんや、心配してくれたみんなのおかげだよ。
だから、もう心配ないってば……ね?」
みくるん「うん。うんッ……」
宙マン「めでたし、めでたし。これにて一件落着だねぇ」
落合さん「えぇ、お殿様。
今夜は私も、とびきり良い夢が見られそうな気が致しますわ」
ビーコン「いえっふ~、オイラも負けずにまた良い夢みちゃうっスよ~!
ヒヒヒ、今夜は落合さんのパイ枕の力を借りて……♪」
むにゅん、ふにふにっ
落合さん「(悲鳴)……きゃ、きゃああああっ!?」
げ し っ !
落合さん「うがーっ!! 何しやがりますか、このエロ怪獣っ!(怒)」
ビーコン「どひぇ~っ、眠れぬ夜は長くてつらいっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
夢のヒーロー、正義の味方。
我らが宙マン、次回の活躍にも乞う、ご期待っ!