遥かなる宇宙の彼方、暗黒星雲の奥深くから……
美しい緑の星・地球を我が物にせんと狙い続けている、恐怖の怪獣軍団。
今日も配下の怪獣たちへと向けて、怪獣魔王・イフの檄が飛ぶ。
恐るべき侵略の魔手がまた、我らの青い地球へ向けて伸びるのだ!
イフ「時は来た! 今こそ地球征服の時だ!
怪獣軍団の威力の前に、抗えるものは何もなし……
屈強の戦士よ、さぁ行け! 行け! 行けーいっ!!」
そう、今まさに。
怪獣魔王の命を受けた悪の使者は、既に地球への侵入を果たし
ここ・北海道千歳市の原生林で、行動を開始しようとしていた!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
「ギャゴォォ~~ンッ!!」
原生林いっぱいに響き渡る、銅鑼の音のように野太い声。
怪獣軍団の一員、牙怪獣ウオグラーである!
ウオグラー「ギャゴォォ~ンっ、魔王様、怪獣魔王様!
ウオグラー、お召しにより只今参上しやしたぜ!」
イフ「うむ、ご苦労である、ウオグラー!」
イフ「さて、既に分かっているとは思うが……
この地球において、お前の果たすべき使命とは何であるか!?」
ウオグラー「(頷き)地球侵略前線基地の建設、でやしょ!」
イフ「おお、そうだとも、その通りだ!
今まで幾度、怪獣たちの絶大なる期待とともに作戦が立案され
そして、そのたびに計画が叩き潰されてきたことか!」
イフ「もはや、単なる作戦失敗と言うだけの話ではない。
……これは、ワシら怪獣軍団のメンツの問題なのだ」
イフ「全怪獣の意地にかけ、今度こそ……今度こそ!
頼むぞウオグラーよ、全てはお前の働きにかかっておる!」
ウオグラー「ぬほほほ、お任せ下さい、魔王様!
この俺の腕っぷしにかかりゃ、基地建設なんざァ朝飯前……」
「おおっと、そう上手くいくものかな!?」
ウオグラー「(驚き)ぬうっ、どこのどいつでぇ!?」
不意に響いてきた凛たる声に、慌てて振り返る牙怪獣。
確かな足取りと共に現れたのは、勿論この男・宙マンだ!
ウオグラー「げげぇっ、宙マン!?」
宙マン「はっはっはっ、改めて自己紹介の必要はなさそうだね」
ウオグラー「ど、どうしてお前がここに!?」
宙マン「どうしてもこうしても……
この暑い時期なんだ、そりゃもう答えは一つさ」
ウオグラー「(首を傾げて)……?」
宙マン「そう、夏と言えば何と言っても冷たい麺類……
とりわけ冷水で洗われて、きりりと引き締まった盛り蕎麦の
馥郁たる香りと喉越したるや、まさに格別だよねぇ」
宙マン「だからこそ、この近場においしい手打ち蕎麦の店があるとなれば
ちょっと散歩がてら、出かけてみようって話になるわけで、ね」
ウオグラー「……“ね”じゃねぇんだよ、“ね”じゃっ!」
ウオグラー「ねーいっ、どこまでも緊張感のない野郎だな!
てめぇなんざ、このウオグラー様が踏み潰してやるってんだ!」
宙マン「(慌てて)あわわっ、おいおい、乱暴するな!」
宙マンの制止も聞かず、猛然と進撃してくるウオグラー。
巨大な足が、宙マンを踏み潰すべく迫る!
宙マン「いいだろう、これもまた成り行きだ――
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うウオグラーの前へ舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
怪獣ウオグラー、この私が相手になってやる!」
ズ、ズーンっ!!
ウオグラー「喧嘩上等……邪魔者は潰すだけの話よ!」
宙マン「よりによって、千歳の山に前線基地だと?……
……せっかくの手打ち蕎麦に、生臭い悪の臭いが移ったらどうするんだ!」
ウオグラー「(呆れ)……だーかーらー、一旦そっから離れろっての!」
経緯はどうあれ、こうなるともうやることは一つ。
ファイティングポーズをとり、敢然と身構える宙マン!
ウオグラー「ギャゴォォ~ンっ、思い知らせてやるぜ!」
宙マン「来い、ウオグラー!」
真っ向激突、宙マン対ウオグラー!
さぁ、今日もまた、時間無制限・一本勝負の幕開けだ。
自慢の腕っぷしにものを言わせ、隙あらば宙マンを鷲掴みにして
そのまま骨を砕いてやろう、と言わんばかりのウオグラー。
問答無用の打撃を前に、迎え撃つ宙マンも決して気は抜けない。
が――
このまま攻められっ放しでいるかとばかり、宙マンも果敢に反撃!
ウオグラーのパンチをかいくぐり、相手の内懐へ飛び込んでいく。
ビシッ! バシッ!
両者のテンション同様に、響き渡る打撃音も激しさを増す一方。
宙マン「ううむっ、しぶとい奴だな……まだ参らないか!」
ウオグラー「アホ抜かせ、誰が参るもんかよ!
……それに、俺にはこんな芸当もあるんだぜ……!」
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
ウオグラーの奥の手、口からの火球攻撃!
巻き起こった爆発と衝撃が、宙マンを横殴りに吹っ飛ばす。
イフ「わははは! よしよし、その調子だウオグラー!
ワシら怪獣軍団の悲願、前線基地建設の手始めに……
にっくき宙マンめを倒して、その血と命で景気づけじゃ!」
宙マン「(苦悶)う……うう……っ!
ウオグラー「グワォォ~、これで最後にしてやるぜィ!」
「なんの……これしきで、負けてなるものかッ!」
宙マン、土壇場でのパワー全開!
ウオグラーの火球連射を、ひらりとかわして大空へ。
ウオグラー「(驚き)ぎゃ、ギャゴッ!?」
宙マン「くらえ――宙マン・閃光波!」
ピッキュイィィーンっ!
高らかな音とともに、宙マンの手にストロボ状の発光が生じ……
次の瞬間、ウオグラーのボディで激しい爆発が起こる。
宙マン「――どうだッ!?」
ウオグラー「ぎゃぼぼぼっ……薬味の、辛味大根より辛口ぃぃ~っ!」
火花を散らして崩れ落ち、大爆発とともに吹っ飛ぶウオグラー。
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「ぐぬぬぬ、またしても宙マンめが!
だが、決してこのままでは済まさん……
怪獣軍団の真の威力、今に思い知らせてやるぞ~っ!」
……などと言う、いつもの負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍によって、牙怪獣ウオグラーは撃退され
地域の平和は、無事に守り抜かれたのであった。
そして、平和を取り戻した原生林にやって来たのは……。
ピグモン「はうはう~、宙マン、お待たせなの~!」
ビーコン「つーか、アニキ……
巨大化なんてして、一体全体どうしたっスかぁ?」
落合さん「まさか、またまた何か事件でも……」
宙マン「はっはっはっ、いやいや、何てことないさ。……
さぁ、それよりもだよ、みんな。
ここからは、大いに手打ち蕎麦を堪能しようじゃないか!」
落合さん「えぇ、勿論ですとも、お殿様!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんもたのしみなの~♪」
と、言うわけで……
食道楽に専念できるのも、地域の平和があったればこそ。
地元における「隠れ家」的名店としてひそかに名高いそのお店が
宙マンファミリーの期待に違わぬ手打ち蕎麦を供してくれたことは
この際、改めて語るまでもないだろう。
今日も本当にありがとう、宙マン!
だが、未だ怪獣軍団の野望は尽きない……
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?