アレですね、例えば果物なんかでもそうですが……
内包されている糖度が一定量を超えると、却って人間の舌や脳って言うのは
それを「旨味」として知覚出来なくなっちゃうんだそうで。
今回の『ウルトラマンデッカー』においても、そのことは強く感じてしまって。
……と、言いますのも……
「パゴスの出現を契機に、次から次へと地底怪獣が出現する!」サプライズと
インパクトに重点を置くあまり、どうしてもその作劇上の「仕掛け」のために
制作時のカロリーを消費せざるを得ず、結果として個々の怪獣たちの描写が
非常に薄味に、どころか無味乾燥の一歩手前ぐらいまで来てしまっていると言う
とても残念な、そして悲しい事例を目の当たりにしたものですから。
特に本日、この第6話との完全連動で、鳴り物入りで新作ソフビリリースとなる
パゴスの場合は、それが致命的で……
本来ならば「新商材のアピールとして、魅力ある怪獣のアピールを」と言う意図で
しっかり描かれていたであろう冒頭~前半部での暴れっぷりも、後半部においての
「グドンも、テレスドンも、ツインテールも続々登場」と言う情報量過多によって
結果的にその印象が希釈されてしまい、トータルとしては何だかドタバタしているうち
いつの間にやら退場、と言う非常に残念な結果に(涙)。
エンターテインメントアーカイブ ウルトラQ ウルトラマン (NEKO MOOK)
「これまでにないアクティブなパゴス像を」と言うメインスタッフ陣の意図は
しっかり伝わってきましたし、目を見張る画作りも随所に見てとれただけに
一挙に詰めこみすぎた種々の要素が販促ノルマともども交通渋滞を起こし
その消化のための駆け足的な「巻き」が、旺盛なサービス精神の産物だったはずの
「地底怪獣ぞくぞく登場」を非常にせわしないものにしてしまいました。
この辺の駆け足ぶりと描写の「巻き」は、ある意味『デッカー』のみに限らず
多量の販促ノルマを義務付けされているニュージェネ・ウルトラマンにおける
共通の悪癖のようなもので……
流石に「販促イコール悪」などとナイーブなことを申し上げるつもりはないですが
その上でただ駆け抜けるだけでなく、溜めるべき描写はしっかりと尺的な余裕をもって
しっかりと「溜め」た編集上のメリハリも凄く大事だと思うんですよね。
特に今回のパゴスの場合は、今日この日にこそ全力で売るべき「商材」なればこそ
デッカーとの対決もじっくり腰を据えて描写しきるべきだったはずですし。
……と、その一方で、今回のもう一方の眼目は、GUTS-SELECT新人隊員トリオの一角・
クールで冷淡な印象が強いリュウモン隊員にまつわる人物像の掘り下げ。
彼が「常に完璧であること」を目指し、求め続けている理由……は割と妥当な感じで
極端なひねりや新味こそなかったものの、それを極端にクドくなりすぎることなく
さりげなく、さらりと描写し、かつそれまでの話数の積み重ねで確実に縮まった
カナタや仲間たちとの「心の距離」を、大仰な演技のぶつけ合いや台詞に頼らずに
これまたさらりと、いい塩梅の表情芝居で見せてくれるのもよかったですね。
生まれ育った環境や過去の経験から「常に完璧であろう」と努力を続けている
リュウモン・ソウマのまっすぐさ、それゆえの危うさ、彼もまた精一杯にあがき
背伸びを続ける「若い雛」であるという事実……
そんな青春群像のワンピースとしての描かれ方のさじ加減がなまじ良かっただけに
駆け足&詰め込み過ぎな特撮パートのせわしない慌ただしさとの釣り合いがとれず
非常にチグハグな回になってしまったな、と言うのが本話の偽らざる感想ですね。
とは言え今後とも、視聴は続けたいと思っています――
今回こそかなり腐すかたちの感想文になってしまいましたものの、その上でなお
本作にしかない滋味、本作ならではの魅力はあまりに多すぎますので!
あ、そうそう、これは完全なる余談ですが。
ミクラスに次ぐ第二のディメンションカード怪獣として今回初登場のアギラ君、
カナタに召喚されて「用が済んだらさっさと帰ってカードに戻る」と言う
生命体と言うよりは完全に「ヒーローの繋ぎ技」扱いでの割り切った登場は
その是非は別として、怪獣描写の在り方として非常に興味深くはあります――
ディメンションカード怪獣のオリジンたる『セブン』のカプセル怪獣たちが
当時のスタッフ陣からどれだけ持て余され、ほとんど使われなかったかと言う
その事実を念頭に置いたうえでの、50余年を経た上での現代スタッフ陣らの
考え方と「変化」と「進化」、そして「深化」と言う意味において。