遥かなる宇宙の彼方、暗黒星雲の奥深くから……
美しい緑の星・地球を我が物にせんと狙い続けている、恐怖の怪獣軍団。
今日も配下の怪獣たちへ、怪獣魔王・イフの檄が飛ぶ。
またしても恐るべき侵略の魔手が、地球へ向けて伸びるのだ!
イフ「うぐぐぐっ、それにつけても憎むべきは宙マンよ。
……奴さえおらなんだら、ワシらはとっくに地球を征服して
あの美しく、青い星の支配者として君臨できていたものを!」
イフ「今度こそ、地球を我が怪獣軍団のものにする……
その輝かしい第一歩を示す、悪の勇者はいないのか!?」
「俺に任せてもらうぜ、叔父貴!」
どこか嘲るような怒号とともに、ずいっと前に進み出てきたのは……
怪獣軍団の幹部候補生集団「ダークネスファイブ」でも屈指の武闘派、
イフ「おおっ、ヴィラニアスよ、その口ぶりは既に……」
ヴィラニアス「ああ、もうとっくに動き出してるぜ、次の怪獣は。
南海のモンド島で、喧嘩に明け暮れてきた荒くれ者……」
ヴィラニアス「そのふてぶてしさこそ、まさに怪獣の原点さね。
あぁ、今度と言う今度こそは、宙マンも勝てやしねぇ!」
イフ「うむっ、最も忘れてはならぬ要素じゃな!」
ヴィラニアス「(頷き)ガハハハッ、まァ見ててくれや!」
イフ「よかろう、ワシも何だかワクワクしてきたぞ!」
ヴィラニアス「ガハハハハハッ……さぁ、頼んだぞゴロザウルス。
かの「怪獣王」さえ一目置く、お前のケンカ上手っぷりを
今こそ地球の奴らに見せつけてやれィ!」
おお、またしても……
怪獣軍団の新たなる魔手が、地球に向けて迫るのだ。
危うし北海道、危うし宙マン!
と、ひとまずそれはそれとして……。
こちらは毎度お馴染みの舞台、北海道千歳市。
これまたお馴染み、宙マンファミリー。
ちょうどこの時、彼らは連れ立って街まで出てきていた。
宙マン「やぁやぁ、お待たせ、お待たせ!」
落合さん「あら、お殿様、また随分と男ぶりが上がりましたこと!」
宙マン「はっはっはっ、おだてたって何も出ないよ、落合さん。
にしても、アレだね――」
宙マン「久しぶりに散髪してもらうと、気分までリフレッシュするねぇ。
まったくもって、街の床屋さん様々だよ!」
落合さん「えぇ、本当にすっきり、さっぱりなさって!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、かっこいいの~♪」
ビーコン「……(ジト目)」
落合さん「あら、どうかなさいましたの? ビーコンさん」
ビーコン「やー、あのっスね、落合さん。
オイラもぐだぐだ、野暮な事は言いたくないっスから……」
ビーコン「……もうね、オイラ。
いちいちツッコまないっスよ!?」
宙マン「(首を傾げて)……?」
落合さん「……あらあら、おかしなビーコンさん!」
宙マン「と、まぁ、それはさておき。
今回のお話、「宙マン・床屋でさっぱりの巻」はこの辺で!」
落合さん「皆様、また次のお話でお目にかかりましょうね」
ピグモン「はうはう~、まったね~♪」
「……って、コラコラ!
勝手に終わらすなやぁぁ~っ!!」
どこからともなく、街に響き渡った野太い声。
そして、次の瞬間……!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
落合さん「きゃ、きゃあああっ!?」」
ビーコン「うわ、うわ、うわ~っス!」
のどかな、平穏な時間を破るかのように……
不意の局地的大地震が、またまた千歳の街を襲った。
大量の土砂を天高く撒き上げ、舗装道路をもやすやすと引き裂いて
地の底から今また新たに、その姿を現わさんとしている邪悪な影。
……果たして、それは!?
「ぎゃおおお~んっ!!」
ピグモン「あっ、何か出てきたの!」
ビーコン「ありゃ、気のせいか、見覚えのある顔っスね!?」
宙マン「そうだ、確か、あいつは……」
落合さん「(頷き)地底怪獣・バラゴンさんですわ!」
「……原始怪獣・ゴロザウルスだっ!!
ねーい、全く、見え見えのボケかましゃがって!」
宙マン「やー、ごめんごめん、申し訳ない!」
落合さん「ついうっかり、口が滑ってしまいまして……(赤面)」
ビーコン「で、そのゴロザウルスさんが……
今日はどんな用向きで、千歳までやってきたワケっスか?」
ゴロザウルス「(ぎろりと一睨み)それ、今更聞く必要あるかぁ!?」
ビーコン「(ガクブル)……どひ~っ……っスよねぇ~!」
ピグモン「えう~、ピグちゃんも怖いの~(涙目)」
宙マン「くっ、例によって例のごとく……かね!」
イフ「わははは! さぁ行け、思い切り暴れるのだゴロザウルス!
お前の力で、邪魔な全てのものを破壊せよ!」
ゴロザウルス「ぎゃおぉ~んっ、任しといて下さいや、魔王様!
ぶっ壊しなら、俺っちの大得意ですぜィ!」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始するゴロザウルス!
迫り来る巨体を前に、悲鳴をあげて右往左往、逃げ惑う人々。
ビーコン「どひ~っ、さっきまでの平和は何処へやらっス!」
落合さん「これもこれで、千歳の日常ですかしら!?」
ピグモン「はわわ、とにかく逃げなきゃなの~!」
おお……北海道千歳市、早くも絶体絶命の大ピンチ。
原始怪獣の暴虐、許すまじ!
千歳の平和を守るべく、航空防衛隊が直ちに出撃した。
ビーコン「おおっ、今日も今日とて航空防衛隊っス!」
落合さん「今度こそは大丈夫、そう信じてますからね!」
ピグモン「はうはう~、おじさんたち、がんばってなの~!」
「ようし……全機、一斉攻撃開始っ!」
攻撃、攻撃、また攻撃!
怪獣めがけ、嵐の激しさで叩きこまれる一斉砲火。
……だが、ゴロザウルスには全く通用しない!
「なっ……全然効いてないって言うのか!?」
ゴロザウルス「ぎゃおぉ~んっ、当たりめ~だっちゅ~の!」
猛り狂い、敏捷な身のこなしで街を駆け抜けて行くゴロザウルス!
だが、なにぶんあの巨体であるから……
奴が動くだけで様々なものが破壊され、たちまち大混乱に。
ピグモン「はわわ、どうしよう、街がたいへんなの~!」
落合さん「こうなると、あとはお殿様を頼るしかございませんわ!」
ビーコン「アニキ~、ここは一発なんとかして欲しいっス!」
宙マン「ああ、やるとも! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、暴れ回るゴロザウルスの前へ舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
この南海の荒くれ者め、粋がるのもそこまでだ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「待ってましたっス、アニキの十八番!」
落合さん「えぇ、やっぱりこうでなくてはいけませんわね!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
ゴロザウルス「ぎゃおお~んっ、出やがったな、宙マン!」
宙マン「ゴロザウルス、正義の力で打ち砕いてやる!」
全身にみなぎる怒りを力に変え……
ファイティングポーズをとって、敢然と身構える宙マン。
ゴロザウルス「ぎゃおお~んっ、とことんやったろうじゃねェか!」
宙マン「ああ、私もそうするつもりさ!」
真っ向激突、宙マン対ゴロザウルス!
人々が見守る中、今日もまたまたスーパーバトルの幕が開く。
持ち前の野獣性を全開にしての、荒々しい連撃……
単純ではあるが、決して油断のならないゴロザウルスの猛攻。
しかし宙マンも、洗練された格闘技の冴えで一歩も引かない。
幾度となく響き渡る打撃音、ヒートアップしていくバトル!
ゴロザウルス「ぎゃおお~んっ、やりやがるな!?」
宙マン「あぁ、お前さんもな――
でも、悪いがこの勝負、負ける気がしないよ!」
ゴロザウルス「ぎゃおお~んっ、ナメたこと抜かしやがって!
……でもな、そんな軽口もそこまでだぜ! おりゃあッ!」
尻尾をばねにして、勢いよく地面を叩いての大跳躍!
強烈無比の飛び蹴りが、宙マンを大きく吹っ飛ばす。
落合さん「ああっ……お、お殿様っ!?(汗)」
ビーコン「どひ~っ、あんな隠し玉があったなんて!(汗)」
ピグモン「はわわ……宙マン、まけないでなの~!」
ヴィラニアス「ぬぁーっははは、いいぞゴロザウルスぅ!
ここまで追いこめば、もう勝ったも同じだぜ!」
イフ「ゴロザウルスよ、一気にとどめだ!」
宙マン「(苦悶)くううっ……今のは、効いたな……!」
ゴロザウルス「ぎゃおお~んっ、悪ィな……魔王様のご命令だ。
死んでもらっちゃうぜ、宙マンよぉ!」
「なんの、これしき……負けて、たまるかっ!」
宙マン、パワー全開!
立ち上がるとともに、おもむろに逆立ちしてみせることによって
ゴロザウルスの意表を突き……
ゴロザウルス「(目をパチクリ)!?」
そこに生じた隙を逃さず、ゴロザウルスの首を両足で挟みこんで
再び身を起こす勢いで、一気に怪獣の巨体を投げ飛ばす!
これぞ宙マン・回転足投げである。
ゴロザウルス「ぎゃごぉぉっ、そ、そっちのも効くじゃなぇかよぉ……」
ビーコン「っしゃ、こうなりゃもう完全にアニキのペースっス!」
落合さん「チャンスですわ、お殿様!」
宙マン「くらえ――宙マン・閃光波!」
ピッキュイィィーンっ!
高らかな音とともに、宙マンの手にストロボ状の発光が生じ……
次の瞬間、ゴロザウルスのボディで激しい爆発が起こる。
素早い連射で、原始怪獣に更なるダメージを上乗せしたところへ!
宙マン「とどめだ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ゴロザウルスを直撃!!
ゴロザウルス「ぎゃひぃぃんっ、ま、参ったぜぇぇ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ピグモン「はうはう~、やったのやったの、宙マンの勝ちなの~!」
落合さん「お殿様、今日もますます素敵です……♪(うっとり)」
ビーコン「いえっふ~、やっぱアニキはこうじゃなくちゃっス!」
イフ「うぐぐぐっ、おのれ、またしても宙マンめ!
だが覚えておれよ、この怪獣魔王の目に悪の光が灯っておる限り……
地球は必ず、ワシらのものにしてみせるぞッ!!」
……などという、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍によって、原始怪獣ゴロザウルスは撃退され
千歳には再び、のどかなひとときが戻ったのであった。
落合さん「改めまして……お疲れ様でした、お殿様!」
宙マン「たはは、怪獣のやつと一戦交えたら……
散髪のすっきり、さっぱりを通り越して、今度はお腹の中身が
すっきり、ペッコリ……って感じだよォ」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんもペッコペコなの~」
落合さん「あらあら、それはいけませんわね。
では、どこかで……お食事にしましょうか?」
宙マン「うん、この際なんでもいいから腹に入れたいな。
……とは言え、勿論できれば美味しいものを!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんも賛成なの、異議なしなの~♪」
落合さん「(微笑で頷き)えぇ、でもそうなりますと……
なまじ美味しいお店の選択肢が多い分、迷ってしまうのが
何とも贅沢な悩みですかしらねぇ」
ビーコン「ヒヒヒ、何も迷う事ぁないじゃないっスか!
落合さんの胸に二つある、でっかい柔らか肉饅にガブリと……」
落合さん(……ぶ ち っ !)
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、よくも毎度毎度、そんな減らず口をっ!
ビーコン「どひ~っ、コレがないと読者が納得しないんスよォォ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
一件落着、今日もめでたしめでたし。
誰の目にもそう見える、平和な千歳市の情景がそこにあった。
だが、この時、宙マンはまだ知らなかった――
どこからともなく、人知れず密かに。
じっと彼のことを「見つめ」る、不気味で悪意に満ちた視線のことを!
「クォコココココ……」
誰かが、何かが、確かに見ている。
宙マンへと向かって注がれ続ける異様な視線は
果たして、彼に何をもたらすのであろうか!?