季節の上では秋、9月も早や半ば……
とは言え、不意打ちのような残暑が未だしぶとい北海道。
というわけで今回の『宙マン』も、9月の暑気にうだり気味の
千歳市ほんわか町、「宙マンハウス」から幕を開けよう。
落合さん「ふぅ~、今日も今日とて暑いですわね~。
……ところで皆様、今日のお昼は何に致しましょう?」
ビーコン「はーい、ハイハイハーイっ!」
ビーコン「そりゃもうズバリ、女体盛りっ!!」
げ し っ !
ビーコン「ハンニャラ、ヒ~っ……」
落合さん「ビーコンさんの世迷言はさておき……
お殿様からは、何かリクエストございませんか?」
宙マン「う~ん、そうだねぇ。……
こんな日だから、さっぱり爽やかに冷や麦がいいかもねぇ。
確か、倉本さんからお中元にもらったやつがまだあっただろう?」
落合さん「あぁ、ようございますわねぇ、冷や麦!」
宙マン「まぁ、何にせよ、だ。
このしぶとい暑さだけれど、食欲がしっかりあるのは
いい傾向なのかもしれないねぇ」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんも冷や麦大好きなの~♪」
ビーコン「ヒヒヒ、そしてオイラは食欲ばかりか性欲も……♪」
落合さん「だーっ、そんな風に纏めないで下さいなッ!(汗)
……それはともかく、大急ぎで準備いたしますので!」
宙マン「うん、頼んだよ、落合さん」
……と、そんな昼餉間近の賑やかなひととき。
だが、そんな「宙マンハウス」の庭先の様子を
こっそり覗き見ている不審な影があった。
触角宇宙人・バット星人、もちろん怪獣軍団の一員だ!
バット星人「ケケケケッ、宙マンと地球人どもめ……
やれ冷や麦がどうの、昼飯がどうの。
……呑気にしてられるのも、今のうちだけだ!」
スライ「んーふふふ、そしてそして……
バット星人君に、この時間帯を選んで出撃してもらったのは
決して単なる偶然ではありませんですよ、魔王様」
イフ「おお! 何か考えあってのことと?」
スライ「食事の邪魔をされること、すなわち全宇宙共通の不快事項。
食道楽の宙マンのランチタイムを邪魔し、一本取る……
これに勝る嫌がらせが、果たして他にありましょうや!?」
イフ「ううむっ、流石の悪知恵だな、“魔導の”スライ!
……聞いての通りだ、バット星人。
全ては、お前の働き如何にかかっておるぞ!」
「お任せ下さい、ケケケケケ~っ!!」
おお、見よ! 戦慄せよ!
両目を爛々と輝かせ、みるみるうちに巨大化するバット星人!
ピグモン「あっ、怪獣が出てきたの!」
落合さん「いえ、あれは宇宙人ですわ、ピグモンちゃん……」
ビーコン「や、どっちでもいいっスよ、この際――」
宙マン「(頷き)どちらにせよ、傍迷惑に違いはなし!」
バット星人「ケケケケ、期待通りの反応、有難う有難う。
それでこそ、わざわざこのランチタイムの時間帯を選んだうえで
出てきた甲斐があったってものさ、私も!」
宙マン「何っ!?」
バット星人「ランチがフイになって残念だったなぁ、千歳市民諸君。
ああ、そのがっかりする顔が見たかったのさぁ――
そしてもう、お前たちには何も食わせはしない!」
ビーコン「ずげっ! そのために、昼飯どき狙いで……!」
落合さん「っがー、何て根性悪な方なんでしょう!」
イフ「わはは……いいぞバット星人、まずはワシらの一点先取じゃ!
さぁ、その勢いで大いに暴れ、破壊せよ!
千歳市民にも宙マンにも、昼の憩いなど与えるな!」
バット星人「ケケケケーっ! やりますとも、魔王様!」
バット星人、進撃開始!
迫り来る巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
ビーコン「どひ~っ、せっかくのランチタイムが台無しっス!」
落合さん「これから美味しく、冷や麦を頂くところでしたのに……!」
ピグモン「はわわ、ピグちゃん怖いの~!(涙目)」
おお、何ということであろう――
平和だった千歳市が、一瞬で洒落にならない大ピンチ!
宇宙人の暴虐、もはや断じて許すまじ。
千歳の平和を守るべく、航空防衛隊が直ちに出撃した。
ビーコン「おおっ、航空防衛隊のお歴々っスよ!」
落合さん「タイミング「は」、いつも良いんですけど……(汗)」
ピグモン「はうはう~、おじさんたち、しっかりなの~!」
「ようし……全機、一斉攻撃開始っ!」
戦闘機隊、バット星人めがけて猛烈アタック!
無数のロケット弾が、凄まじい勢いで叩きこまれるが……
星人は傷つくどころか、それに対して怯む様子さえも見せない。
バット星人「ケケケケッ……下等動物めが、無駄なあがきを!」
「……ど、どわぁぁぁ~っ!?」
バット星人の爪から放たれる閃光弾!
その洗礼を受け、一機、また一機と撃ち落されていく戦闘機。
ピグモン「ああっ、やられちゃったぁ!」
落合さん「毎度のこととは言いながら……」
ビーコン「しーっ、それは言わないお約束っスよ!(汗)」
バット星人「ケケケケ、調子出てきたぞ~っ!」
林立する建物が、次々に爆散・炎上し……
平和だった千歳市は、たちまち混乱の巷と化していた!
ビーコン「どひ~っ、こいつァまずいっス、マジヤバっス!(汗)」
落合さん「このままでは、千歳の街が瓦礫の山に……!」
ビーコン「そうなったら、昼に冷や麦どころじゃないっスよ!」
ピグモン「はわわわ……宙マン、宙マン、何とかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、バット星人の前へ舞い降りる!!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
触覚宇宙人バット星人、これ以上は暴れさせんぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いよっ! 待ってましたっス、アニキの十八番!」
落合さん「ああ、お殿様、素敵です……♪(うっとり)」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
バット星人「ケケケッ! 宙マン、殺されに来たか!」
宙マン「いいや、泣いて逃げ帰るのは君の方さ!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日も世紀のビッグファイト開幕だ!
バット星人「ケケケッ、私の実力、思い知らせてやろう!」
宙マン「大きく出たな、ならば何処からでも来るがいい!」
激突、宙マン対バット星人!
落合さんたちが見守る中、巨大バトルは一気にヒートアップ!
勢いよく右手の大爪を振りおろすバット星人!
が、宙マンもさるもの、その一撃をクロスガードで受け止める。
邪悪な武術で迫る星人に、華麗な体術で渡り合う宙マン。
力と技が火花を散らす、巨大サイズの無制限一本勝負!
バット星人「ケケケケ、お前の実力も大したことはないな!?」
宙マン「ならば、これを受けてみろ!」
出た、宙マン得意のストレートキック!
鋭い足先が、バット星人の腹部へめりこむように炸裂する。
バット星人「(悶絶)……ぐぶっ、こりゃ効いたァ!」
宙マン「どうだ、恐れ入ったと頭を下げる気になったかね!?」
バット星人「うぐぐぐっ……なめるなよ、宙マン!」
バット星人の怒りとともに、爪から放たれる閃光弾!
その射撃を、得意の回転戦法でかわしていく宙マンだったが……。
バット星人「ケケケケ、お次のこいつはどうだ!?」
「ぐ、ぐぁぁぁぁぁ……っ!?」
バット星人の次の一手、腹部から放つ“バット超音波”!
相手の頭脳に激しい苦痛を与える攻撃による、耐えがたい頭痛が
さしもの宙マンをも大きくよろめかせる。
落合さん「ああっ、お殿様!」
ビーコン「こ、これは……ちょっとヤバげな流れっスかぁ!?」
ピグモン「はわわわ、宙マン、まけないでなの~!」
バット星人「ケケケ、そうとも、宙マンのお話も今日で終わりさ!」
バット星人「そして次回からは、全怪獣の絶大なる期待とともに
『飛び出せ! バット星人』が連載開始だ―
そのためにも宙マン、お前には死んでもらうッ!」
「いいや……勝ち誇るのは、まだ早いぞ!?」
宙マン、パワー全開!
バット星人の触角光線を、ひらりとかわして大空へ。
バット星人「(驚愕)の、のわわわっ!?」
宙マン「バット星人、今度はこっちがお返しだ!」
宙マン「セイヤぁぁーっ!
宙マン・レインボー乱れ蹴り!」
出た、絢爛豪華の超絶技!
虹色の連続蹴りを食らい、バット星人が倒れたところへ――
宙マン「とどめだ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、バット星人を直撃!!
バット星人「がぁぁっ、露と消えにし新連載の夢ぇぇ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ピグモン「はうはう~、やったのやったの、宙マンの勝ちなの~!」
ビーコン「アニキ~、今日もまたお疲れ様っした!」
落合さん「ああ、輝いてますわね、お殿様の雄姿……♪(うっとり)」
イフ「うぐぐぐっ……宙マンめ、またしても邪魔だてを!
だが忘れるな、ワシらはあくまで地球を諦めない決意だ……
この次こそは、必ずお前の息の根を止めてやるからな!」
……などと言う、いつもの負け惜しみはさて置いて。
だが、その一方で……
やはり今度もまた、宙マンは気が付いていなかったのだ。
彼とバット星人との激闘を、人知れず密かに見守り続ける
ひとつの不穏で、邪悪な視線があることを!
「クォコココココ……」
だが、それもまた……今は、ひとまずさておいて。
宙マンの活躍により、千歳市民の昼餉時を台無しにせんと図った
怪獣軍団からの使者、バット星人は撃退されたのであった。
落合さん「お殿様、どうもお疲れさまでした!」
宙マン「いやはや、何とも……
この炎天下で一戦交えたら、お腹はペコペコ、喉もカラカラだよ。
落合さん、申し訳ないけど改めて……」
落合さん「(頷き)冷や麦ですわね、大至急支度を!」
落合さん「……ああ、でも。
冷や麦だけだと、栄養価的にはちょっと不安ですかしら?」
ビーコン「ヒヒヒ、心配ないっスよ、落合さん!
そんな落合さんのために、オイラの本格派ブルストを……」
げ し っ !
落合さん「燻製でも何でも、勝手になっておしまいっ!!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、スモークみたいに風に舞うオイラっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
星人去って、平和が戻り……
今日もまた、みんなの笑顔の花が咲く。
頑張れ宙マン、次回も千歳を頼んだぞ!