気候も穏やかになり、食べ物もまた美味しく……
この日の北海道は、抜けるように青い秋晴れであった。
そして、間近に迫りつつ冬を見据え、この機を逃せないとばかりに
全道の各地では、様々なお土地柄の個性を活かし、趣向を凝らした
数々の秋祭りイベントが目白押し。
ここ、北海道千歳市で催されているこのイベント……
北海道をはじめ、全国各地の旨いものが集った秋の収穫祭も
秋をより楽しく彩ってくれるスペシャル企画に他ならない。
宙マン「と、言うわけでですね!」
落合さん「私どももお邪魔しておりますのよ、秋の収穫祭!」
ピグモン「はうはう~、あっちこっちからいい匂いなの~」
ビーコン「いえっふ~、早くもテンション上がって来たっス!」
千歳市・秋の収穫祭……
「千歳産」と「道産」こだわり、同市近辺で生産されたいいもの・うまいものを
良心的価格で気軽に味わえる嬉しいイベント。
札幌などの大都市開催イベントが、よそ行きの豪奢な楽しさならば
こちらはまさに庶民派そのものといったところ――
財布と人情の優しさ、両方ひっくるめた温かみが実に心地よい。
ピグモン「はうはう~、どれも美味しそうなの~」
みくるん「ほ~んと、歩いてるだけで目移りしちゃうよねぇ」
宙マン「あれもこれも、全部食べてしまいたいのに……
ああ、惜しむらくは胃袋のキャパシティーに限りがあることさ!」
ながもん「これこそ、まさに……甘美な、拷問」
みくるん「(くすっ)……もう、宙マンさんもながもんも!」
ビーコン「ああ、全くっスよねぇ、アニキの嘆きはもっともっス!
これだけ旨いもんが揃えば、目移りするのも無理ねぇっス――」
落合さん「えぇ、どれもこれも魅力的過ぎますもの!」
ビーコン「でも、バ~ット、だがしかし!
それら綺羅星に惑わされず、真に価値あるものを選んでこそ
北のグルメの本領ってもんっスよ!」
落合さん「あら、仰いますわね、ビーコンさん。
それではもう、何を頂くかの目星はついてますの?」
ビーコン「ドゥヒヒ、そりゃもう女体盛り一択っスよ!
さぁ落合さん、オイラとどっか適当なホテルにシケこんで――」
落合さん「(ジト目)いけしゃあしゃあとッ。警察呼びますわよ!?」
ビーコン「っがー、何スか落合さん、そのシラける反応は!?
いよーっし、こうなっったら腕づく、力づくっス!」
落合さん「(腕まくり)上等。鉄火場には慣れてますことよ!」
痴漢行為の貫徹か、あるいは血生臭い鉄拳制裁か。
どちらに転んでもポリス沙汰は避けられぬ……と、思われた時。
そう、まさにその時である!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
落合さん「きゃああっ……じ、地震ですの!?」
ビーコン「どひ~っ、また最悪のタイミングで来たっスね!(汗)」
大地を引き裂き、地中から現れた巨大な影は……
そう、今回もまたまた、怪獣軍団の送りこんだ悪の使者だ!
「ぐわっ、ぎゃぎゃぁぁ~っ!」
みくるん「ああっ、何か出てきたですぅ!」
ながもん「あれは……怪獣、モングラー」
ピグモン「えう~、例によってそういうのは聞いてないの~(涙目)」
ビーコン「どひ~っ、野郎、こっちに来やがったっスよ!」
耳をつんざく、この恐るべき咆哮。
奴こそ悪の手先、モグラが巨大化した地底怪獣モングラーだ!
モングラー「ぐわっぐわっ、祭囃子に誘われて……
俺・モングラー、はるばる千歳に来ちゃったぜ~!」
モングラー「地元産の農作物、旨い物だらけとなりゃ……
怪獣グルメのモングラー様が、素通り出来るワケがねぇ。
俺が片っ端から食い散らかし、食い尽くしてやるぜィ!」
ビーコン「どひ~っ、何つーハタ迷惑な宣言っスか!?」
落合さん「お祭りを楽しむなら、お行儀よくなさればよいものを!」
宙マン「……残念だが、言って聞くようなタマじゃなさそうだ!」
スライ「んー、ふふふ……大いに楽しんで下さい、モングラー君!
君の欲求を満たすことが、怪獣魔王様のお喜びにも繋がります。
……んふふ、これぞ怪獣軍団の理想的怪獣像そのもの!」
イフ「左様じゃ、スライの言う通りッ。
思い切り収穫祭をエンジョイするがよいぞ、モングラー!」
モングラー「ヒャッホ~、そうこなくっちゃ!
魔王様からのお墨付き、確かに頂きましたぜィ!」
イフ「モングラー、行けィッ!!」
怪獣魔王の命を受け、猛然と進撃開始するモングラー!
迫り来る巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
ビーコン「どひ~っ、せっかくの収穫祭がメチャクチャっス!」
落合さん「全く……怪獣軍団からのお客様は、これですから!」
ピグモン「はわわわ、ピグちゃん怖いの~!」
おお、秋のイベントが別の意味での大騒ぎに!
大怪獣の暴虐、もはや断じて許すまじ。
千歳の平和を守るべく、航空防衛隊が直ちに出撃した。
ビーコン「おおっ、航空防衛隊のお歴々っスよ!」
落合さん「タイミング「は」、いつも良いんですけど……(汗)」
ピグモン「はうはう~、おじさんたち、しっかりなの~!」
「ようし……全機、一斉攻撃開始っ!」
モングラーめがけて、一斉に攻撃をかける戦闘機!
だが、その凄まじい弾着も、大怪獣を怯ませるには至らない。
モングラー「ぐわぐわ~っ、これでも食らいやがれっ!」
口から黒い呼気を吐きだすモングラー。
さながら超小型のハリケーンを思わせる、凄まじい風力と圧力だ。
「(慌てて全力回避)……うおっ!?」
「気をつけろ、あれを受けたらひとたまりもないぞ!」
モングラー「ぐわぐわ~、怪我したくなきゃスッコんでな!」
本能の赴くまま、傍若無人に進撃するモングラー。
ただそれだけで街が破壊され、みるみる炎に包まれていく!
みくるん「……ああっ、大変ですぅ!」
落合さん「何てことでしょう、なまじ力があるばっかりに!」
ながもん「これは、いろいろ……シャレに……なってない」
ピグモン「はわわ……宙マン、宙マン、何とかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、モングラーの前へと舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
みんなの楽しみ、年に一度の収穫祭を荒らす真似はよせ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いよっ! 待ってたっスよ、アニキのコレを!」
ながもん「おお……いつもながら……頼もしい」
みくるん「宙マンさーん、頑張って下さーいっ!」
モングラー「ぐわぐわ~っ、また出しゃばりやがったか!」
宙マン「他でもない、収穫祭を楽しみにしている一道民としてな!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
今日もまたまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
モングラー「ぐわぐわ~っ、こうなりゃ殺っちまうぜよ、宙マン!」
宙マン「さぁ来い、モグラの化け物め!」
激突、宙マン対モングラー!
落合さんたちが見守る中、巨大バトルは早くも白熱。
溢れる野生のパワーで、力任せに突進してくるモングラー!
宙マンもまた、持ち前の力と技で真っ向から渡り合う。
宙マン「お前さんの弱点は、もう分かっている――」
宙マン「それっ、受けてみろ!
宙マン・サンブライト・スパークだ!」
宙マンの胸から周囲に迸る、太陽光のごときまばゆい閃光!
陽光には耐性のない地底怪獣が、これを至近距離で見てしまっては
どうにもこうにもたまらない。
ながもん「おお。……上手いっ」
みくるん「これでもう、完全に宙マンさんのペースですぅ!」
ビーコン「いえっふ~、アニキ、最高っスよ~!」
「ぐわぐわ、ぎゃぎゃぎゃ……と、思うじゃん!?」
ズ、ズゥーンっ!
おお、何ということだろう!?
閃光の中から平気で飛び出してきたモングラーが、宙マンめがけ
得意のメガトン頭突きをヒットさせたではないか!
ビーコン「ちょ、ど、どうなってんスかぁ!?」
落合さん「モグラの怪獣は光に弱い、これ常識のはずですのに!」
みくるん「こ、こんなことになっちゃうなんてェ……!(涙目)」
スライ「んー、ふふふ、その秘密はコレにあり……
我が軍団の科学力が生み出した、特殊レンズでございます!」
スライ「これを両目に嵌めこんだモングラー君は、あの通り。
弱点であった強烈な直射日光も、最早ものとも致しません――
ソフトで自然な付け心地の優れものにございます!」
イフ「うむっ、見事じゃ。流石は“魔導の”スライよ!」
イフ「さぁやれ! 一気にとどめだ、モングラー。
お前の爪と牙で、宙マンをズタズタに引き裂いてしまえ!」
モングラー「ぐわぐわ~っ、やりますぜぇ、魔王様!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ!」
モングラー「ギャゴゴゴ……悪いが、死んでもらうぜィ!」
「なんの……やられて、たまるかッ!」
おお、間一髪!
突進してきたモングラーの爪をひらりとかわし、強靭な脚力により
ジャンプ一閃、一気に大空へと舞いあがるヒーローの巨体。
モングラー「(驚き)ぎゃろっ、ギャゴゴゴぉぉっ!?」
宙マン「受けてみろ、モングラー!
宙マン・レインボーキック!!」
全身のエネルギーを瞬時に増幅させ、両足で蹴りこむ大技……
虹色の一撃、レインボーキックがモングラーめがけてヒット!
宙マン「とどめだ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、モングラーを直撃!!
モングラー「だハァぁぁぁっ、こ、こりゃまた悔しいぃぃ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
みくるん「よかったぁ、今日も宙マンさんの勝ちですぅ!」
ながもん「(頷き)……グッジョヴ」
ピグモン「はうはう~、宙マン、どうもありがとうなの~♪」
イフ「うぐぐぐっ、おのれ、またしても宙マンめが!
今日は大目に見てやる、せいぜい浮かれておれ……
だが、この恨み、何倍にもして叩き返してくれるぞ!!」
……などという、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
かくして宙マンの活躍により、もぐら怪獣モングラーは撃退され
千歳の街に、元のおだやかな平和が蘇った。
そして……
「秋の収穫祭」の会場にも、再び人々の活気と明るい笑い声、
香ばしく食欲を煽る良い匂いが戻ってきたのである。
ビーコン「改めて……お疲れさまっス、アニキ!」
落合さん「今日も見事なご活躍でしたわ、お殿様!」
みくるん「積もる話は、いろいろあったりするでしょうけど……」
ながもん「でも、そんなのは……後回し」
宙マン「うんうん、是非そうして欲しいもんだね――」
宙マン「何せね、もうねぇ、私はねぇ。
……怪獣と一戦交えたら、猛烈にお腹がすいちゃってねぇ!」
ピグモン「はうはう~、収穫祭の美味しいものが待ってるの~」
宙マン「ようし、みんなで屋台に突撃だ!」
一同「(声を揃えて)オーッ!!」
農業王国、我らが北海道……
宙マンよ、その豊かな実りを守り抜け!