遥かなる宇宙の彼方、暗黒星雲の奥深くから……
美しい緑の星・地球を我が物にせんと狙い続けている、恐怖の怪獣軍団。
今日も、怪獣魔王・イフの命令が配下の怪獣たちに飛ぶ。
また恐るべき侵略の魔手が、私たちの故郷・緑の地球に迫るのだ!
イフ「にっくき宙マンを倒し、地球を我らのものとして征服すること……
正にそれこそが、ワシら怪獣軍団の望むところである!
その悲願達成のためには、どれほど予算をつぎこもうと……」
「あいや、お待ちを、お待ち下さい魔王様!」
イフ「何だゾネンゲ博士、そんなに慌ててどうしたのだ?」
ゾネンゲ博士「地球征服の悲願達成、その第一歩としての宙マン打倒……
それにつきましては、私もまったく異論はございません。
ただ、出来うるなれば、予算の方はなるべく節約の方向で……」
イフ「……うん?」
ゾネンゲ博士「ただでさえ今月は、外部の業者に宮殿の外壁修復を依頼したり
配下の怪獣どもの冠婚葬祭などが重なり、出費がかさんでおります。
ここらで締めてかからねば、宙マンの前に我々が破産・破滅でございます」
イフ「えぇい、天下の怪獣軍団が、なにをケチ臭いことを言っておるか!
地球征服のためだからこそ、予算を出し渋るわけには……」
ゾネンゲ博士「ごもっともです、仰る通り――
ですが、そこのところを如何に切り詰めて、かかる予算を浮かせながらも
見事やってのけるのが、侵略者の腕の見せどころではないか、と」
ゾネンゲ博士「と、そのような大前提のもと……
魔王様、今回の地球侵攻は全てこの私にお任せ頂けましょうや!?」
イフ「ううむっ、長年ワシに尽くしてくれておるそなたの言葉じゃ……
無下にも出来まい、いいだろう、やってみろ!」
ゾネンゲ博士「(深々と一礼)ははぁーっ、有難き幸せ!」
かくしてここに、地球を狙って動き出した怪獣軍団。
またしても恐怖の侵攻作戦の魔手が、僕らの街に迫るのか!?
が――ひとまず、それはそれとして。
こちらは毎度お馴染み、夕刻の北海道千歳市……
ほんわか町5丁目「宙マンハウス」の周辺も、ほんのり茜色に染まっていた。
みくるん「ふぅ~、気が付いたら……
いつの間にか、もうこんな時間になっちゃってたんですねぇ~」
ながもん「楽しい、時間は……あっと、言う間」
宙マン「ああ、全くだよ、今日もまたすごく楽しいひとときだった。
それにしても、すっかり陽の落ちるのが早くなったよねぇ」
落合さん「ほんとですわねぇ、お殿様。
夏の間は、まだまだ今の時間は日が照って明るいぐらいでしたのに」
ピグモン「それに、お日様が沈むと急に冷え込むようにもなってきたの~」
ビーコン「秋が過ぎ去って、もう冬……あ~っと言う間っスね~。
ついこないだまで暑さで唸ってたのが嘘みたいっスよ」
ビーコン「でも、そんなうつろいゆく時間の中だからこそ……
色あせない絆を求めて、固く抱き合うってのもおつなもんスよね。
さぁ、みくるんちゃんたちに落合さん!
まとめて相手してあげるっスから、どうぞ遠慮なくオイラの胸に――」
落合さん「(無視して)さてと、そろそろ晩ごはんの支度を……」
ビーコン「(憤慨)っがー、全くもう、このオネーチャンときたらっ!」
宙マン「はっはっはっはっ」
夕餉前の、どこにでもある穏やかな団欒と軽口の応酬。
だが、そんな人々のやすらぎの時間を破るかのように!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
みくるん「きゃ、きゃあああんっ!」
落合さん「この揺れ方……只事ではございませんわね!」
ビーコン「どひ~っ、ってコトは、また……!?」
そう、その通り!
街を揺るがし、大地を裂いて……今回もまたまた、怪獣軍団の新たな刺客が
夕陽に染まった千歳市のド真ん中へその巨体を現した!
「ゴゴゴォォォ……!!」
ピグモン「はわわわ、な、何か出てきたの~!(涙目)」
みくるん「か、怪獣……じゃ、ない……みた、い?」
ながもん「(目をパチクリ)……おおっ……あの姿……どう、見ても……」
宙マン「(息を呑み)……す、スペクトルマン……!」
そう!
地中から現れた巨人は、どう見てもネヴュラ71遊星の宇宙サイボーグ。
地球征服の野望に燃える生まれながらの独裁者・E惑星出身の宇宙猿人ゴリが
次々に作り出す公害怪獣たちを次々に打ち倒して地球の平和を守り抜いた
正義の勇士・スペクトルマンその人ではないか!?
落合さん「ですが、そのスペクトルマン様が……」
ビーコン「……何でまた、こんな怪獣みたいな現れ方するんスか!?(汗)」
みくるん「もしかして、職場で何か嫌なことでもあったんでしょうか!?」
ビーコン「ああ、いろいろ噂には聞いたことあるっスよ。
ネヴュラ71は、融通の利かないお役所仕事に定評があるって!」
ながもん「……諸々の、ストレスに……耐えかねて……?」
宙マン「いや、どうやら……そういうわけではなさそうだ」
この時、人間のそれを遥かに上回る宙マンの超聴力は……
スペクトルマン体内の、メカニック駆動音をしっかり聞き分けていた。
宙マン「ふむ、やはりそうか。……
この音は、ネビュラ製の宇宙サイボーグとは全くの別物だ!」
落合さん「(ハッとして)と、いうことは……お殿様、まさか!?」
宙マン「(頷き)こいつは……スペクトルマンの、偽物だ!」
ビーコン「どひ~っ、いつぞやのにせジャンボーグAに続いてっスかぁ!?」
ながもん「(ボソッと)一度、あること……二度……三度」
ゾネンゲ博士「ふふはははは……さすがは宙マンだ、よくぞ見破った!
かつて地球で、宇宙猿人ゴリとスペクトルマンの激闘が繰り広げられていた
1971年当時、ゴリと結託して暗躍していた“宇宙の破壊屋”イゴール星人の
ロケット宇宙船を改造して作りだされ、恐るべき地球侵略作戦の尖兵として
戦場に投入された怪獣ロボット・にせスペクトルマン。
ゾネンゲ博士「うち一機は、本物のスペクトルマンとの交戦で破壊されましたが……
にせスペクトルマンは、実はもう一機存在していたのです」
ゾネンゲ博士「宇宙猿人めの秘密基地の跡地を、密かに調査の上……
発見した二機めをレストアし、実戦投入にこぎつけましてございます。
予算もかからず、パワーは抜群、一石二鳥とはこの事かと!」
イフ「むむっ、ヤプールの後追いになったのは気に食わんが……
そなたに一任しておる此度の作戦じゃ、それ以上は言うまいて。
さぁ、暴れろ、にせスペクトルマン! 怪獣軍団の戦士よ!」
にせスペクトルマン「(唸り声)ゴゴゴォォォ……っ!」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始するにせスペクトルマン!
迫り来る巨体を目の当たりにして、大パニックに陥り、逃げ惑う人々。
だが、そのピンチに際して――
勇ましくもけたたましい、ジェットの爆音が上空から響き渡る。
超人ロボの進撃を阻むべく、防衛隊の戦闘機編隊が直ちに出動したのだ。
「ようし――全機、攻撃開始っ!」
にせスペクトルマンめがけて、雨あられと叩きこまれるロケット弾!
だが、イゴール星人と宇宙猿人ゴリの科学力で作られ、ゾネンゲ博士の手で
レストアされて現代に蘇った超人ロボは、猛攻撃にも全く怯まない。
にせスペクトルマン「(唸り声)ゴゴゴォォォ……っ!」
「う、うわぁぁぁぁ~っ!?」
みくるん「ああっ、やられちゃったですぅ!」
ながもん「これは……相手が……悪すぎる」
ビーコン「だーっ、冷静に分析してる場合じゃないっスよ!?(汗)」
にせスペクトルマンの指先から迸る、強力無比のスペクトル・フラッシュ!
その威力が戦闘機を撃ち落とし、平和な街をみるみる火の海に変えていく。
落合さん「こうなっては最早、お殿様のお力だけが頼みの綱ですわッ」
ピグモン「はわわわ……宙マン、宙マン、何とかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うにせスペクトルマンの前へ舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
ネヴュラ遊星の勇士・スペクトルマンの名前を汚す紛い物……
銀河連邦と正義の名において、木端微塵に打ち砕いてやる!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「出たっス、アニキの十八番!」
ながもん「これで、今日も……千歳が、救われる」
ピグモン「はうはう~、宙マン、頑張ってなの~!」
宙マンの出現とともに、夕暮れの空が更に赤く染まっていく――
それは、これから巻き起こる死闘を予感した血の装いであろうか。
にせスペクトルマン「(唸り声)ゴゴゴォォォ……っ」
宙マン「ああ、なにも言う必要はない――もはや、ここからは問答無用だ!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
真っ向激突、宙マン対にせスペクトルマン!
落合さんたちが見守る中、巨大な両者が戦いの火花を散らせる。
姿かたちばかりか、能力までも本物そっくりのにせスペクトルマン。
オリジナル譲りの格闘術を駆使して、宙マンめがけて襲いかかってくる。
鳴動する大地、躍動する巨体!
宙マンとにせスペクトルマン、どちらも相譲らぬ死闘。
にせスペクトルマン「(唸り声)ゴゴゴォォォ……っ!」
宙マン「そぉれっ、これでもくらえ!」
敵の胸板めがけて、宙マンが繰り出す水平チョップ!
その鋭さの前に、さしものにせスペクトルマンもよろめく。
みくるん「わぁっ、さすが宙マンさんですぅ!」
ビーコン「それ、アニキ、今がチャンスっスよ~!」
ピグモン「はうはう~、悪い子ちゃんはやっつけちゃってなの~!」
ながもん「……ファイッ」
戦いはもはや宙マンのペース。
……かと思いきや、にせスペクトルマンもそう簡単には退かない。
大きく空に舞い上がり、ジャンプキックが宙マンを急襲!
ドッスゥゥーンッ!
みくるん「ああっ、宙マンさんが!」
ながもん「どうやら……かっこだけの、偽物じゃ……ない、みたい」
ビーコン「くぅぅっ、そっちの方がどんなにラクだったか!(汗)」
落合さん「いけませんわね、このままではお殿様でも……!」
ピグモン「はわわ、宙マン、宙マン、まけないでなの~!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ!」
にせスペクトルマン「(唸り声)ゴゴゴォォォ……っ!」
宙マン「なんの……負けて、たまるかッ!」
とどめとばかりに、にせスペクトルマンが放つスペクトル・フラッシュ。
その恐るべき一閃をかわして、宙マンは大空高くジャンプ!
にせスペクトルマン「(唸り声)ゴぉぉっ!?」
宙マン「とどめだ! 宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、にせスペクトルマンを直撃!!
にせスペクトルマン「ご、ゴゴ……ヴぉぉぉ……ッ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ビーコン「いえっふ~、今日もばっちりアニキの勝ちっスよ!」
落合さん「(うっとり)ああ、お殿様、今日もまた最高に素敵です……♪」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~!」
ゾネンゲ博士「(狼狽)あ、あらららっ、そんな馬鹿な……
まさか、あのにせスペクトルマンまでが負けるなんて!?」
イフ「心しておくがよい、ゾネンゲ博士。
予算浪費への歯止めと引き締め、大いに結構――
だが、使うべき時は思い切り使わねば、宙マンには勝てぬのだ、とな!」
ゾネンゲ博士「(慌てて平伏)は、ははぁーっ! 肝に銘じます!」
イフ「それはさて置き……腹立たしいのは、相も変わらずの宙マンよ!
だが覚えておれよ、怪獣軍団はワシのある限り不滅の大軍団なのだ。
この次こそは、もっと強力な怪獣で必ずや……!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
かくして、今回もまた……
我らが宙マンの活躍で、千歳の平和は怪獣軍団から守られたのであった。
ピグモン「はうはう~、宙マン、お疲れ様なの~!」
落合さん「それにしても、今頃になってにせスペクトルマン様だなんて……」
ビーコン「怪獣軍団も、苦し紛れにいろんなこと考えるっスよねぇ~」
ながもん「でも、千歳には……宙マンが、いるから……安心」
みくるん「うふふっ、なんたって私たちのヒーローですもんねぇ!」
宙マン「はっはっはっはっ……
私みたいな隠居をおだてたって、何も出やしないよ~。
……さぁ、お腹もすいたし、そろそろ家に帰るとしようか!」
落合さん「(にっこり頷き)はい、お殿様。
今夜のおかずは、身も心も温まるボルシチをご用意いたしましたわ!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃん今から楽しみなの~♪」
宙マン「はっはっはっはっ」
夕陽に染まった、千歳の平和……
それを乱す者は、許しちゃおかない正義の味方。
さァて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?