渦巻く暗黒星雲の奥深く、怪獣軍団の本拠地では……
今日も今日とて、地球征服のための悪企みが進行中。
イフ「おのれ、宙マン……にっくき奴め。
彼奴のために、絶対の自信をもって臨んだ作戦が次々に潰され
どれほど数限りなく、ワシらの面子が潰されてきたことか!」
イフ「今度こそ宙マンを倒し、地球を怪獣軍団のものにする。
……その輝かしい第一歩を示す、悪の勇者はいないのか!?」
「あー、魔王様、魔王様っ!」
イフ「おお、誰かと思えば“魔導の”スライか。
宙マン打倒と地球征服、またそなたが引き受けてくれるか?」
スライ「えぇ、実は……その件にも関わることなのですが」
スライ「今日は魔王様に一人、紹介したい男がおりまして」
イフ「ほうほう、ワシに?」
スライ「御目通り、お許し頂けますでしょうか?」
イフ「よかろう、まずは会ってみようではないか」
スライ「(頭を垂れ)有難き幸せ。
……さぁ、魔王様のお許しがでましたよ、どうぞこれへ!」
「どうも、お初にお目にかかりますぅ~」
スライに招かれ、本拠地の大広間に進み出てきたのは……
ご覧の通り、スライの同族のメフィラス星人であった。
イフ「はて、この者は……?」
スライ「はい、私の同族たるメフィラス星人……
ちょうど、私の父方の従兄弟にあたりますですな」
イフ「その従兄弟殿が、今日はまた何用で?」
スライ「そのあたりを、これからご説明させてもらえばと」
スライ「ここにおります我が従兄弟、宇宙のブラックマーケットにて
その中毒性のゆえに、全宇宙的には違法ドラッグ扱いの
宇宙ラッキョウを密かに売りさばき、手堅くもそれなりに
利益を得ていたワケなのですが……」
スライ「つい先日、銀河連邦警察の銀河パトロール隊から
手入れを受け、経営していた宇宙ラッキョウの製造工場を
ことごとく叩き潰されてしまいましてねぇ」
イフ「おお……それはまた、難儀な……。
それが年末ともなれば、浮世の風も更に冷たかろうて」
メフィラス「それまでの儲けが全てパァになり、途方に暮れて……
そこで、怪獣軍団の幹部候補生“ダークネスファイブ”として
よろしくやっている、従兄弟のスライに泣きつきました次第で」
イフ「ふぅむ……なるほど!」
スライ「身贔屓抜きで申し上げますが……
この男、これでなかなかよく気が付き、使える奴にございます。
どうかひとつ、怪獣軍団に迎えてやってくれませんか?」
メフィラス「前向きにご検討下さい、何でもやりますので!」
イフ「うむっ、他でもないスライの頼みだ。
……が、ただ無条件というわけにはいかんぞ、メフィラス星人」
イフ「怪獣軍団の傘下に入りたいのであれば、まずはお前の忠誠心……
そして、やる気と実力の程を示してもらわねばならん。
判るか? ワシの言っておることが……」
メフィラス「(得心して頷き)勿論ですとも、魔王様!」
メフィラス「私のやる気、実力、そして怪獣軍団に捧げる忠誠心……
全ては地球に赴き、宙マンを倒して千歳市を征服することで
見事、証明してご覧に入れましょう!」
イフ「ようし、よくぞ申した! ならば行けぃ!」
メフィラス「ははぁーっ!」
かくして、怪獣軍団への「再就職」を遂げるべく……
一人のメフィラス星人が、地球を目指して飛びたった。
そして、今……
新たなる悪の使者は、無限に広がる宇宙空間を一気に飛び越えて
ここ・北海道千歳市の上空に達したのであった!
ゴウンッ!
落合さん「!!(ハッと空を見上げる)」
ビーコン「どひ~っ、今日も今日とていきなりっスねぇ!」
ズゴゴゴグワーンっ!
大音響とともに、千歳市の上空から猛スピードで飛来して
一直線に落下、大爆発を起こす赤い球体。
吹き上がる赤い噴煙の中から立ち上がったのは、勿論……!
「ぬわっはっはっ……
私は、メフィラス星人だっ!!」
ピグモン「あっ、怪獣なの!」
落合さん「いえいえ、あれは宇宙人ですわよ、ピグモンちゃん」
ビーコン「だーっ、この際どっちでもいいっスよぉ……
どうせまた、大迷惑なことやらかすに決まってるんスから!」
宙マン「やれやれ……困ったものだなぁ!」
メフィラス「ぬわっはっはっ……私は、メフィラス星人だっ!」
ビーコン「はいはい、それはもういいっス!(汗)」
落合さん「それで、いちおう念のためにお伺いしますが……
そのメフィラス様が、今日は一体どのようなご用向きで?」
メフィラス「ぬわっはっはっ、それはだね……
このお話の冒頭部再読ってことで、ひとつよろしく!」
ビーコン「どひ~っ、なんつー強引な!(汗)」
ピグモン「えう~、何だかとっても嫌~んな感じなの~!」
宙マン「……うぬっ!」
イフ「わはは……さぁ、思う存分やるがよい、メフィラス星人。
お前の実力とやる気、しかと見定めさせてもらうぞ!」
スライ「ほぉんと……頼むよぉ、色々と!?
紹介人としての、私の面子だってあるんだし……」
メフィラス「ぬわっはっはっ……まぁ、ご覧じろ!」
鼻息荒く、猛然と進撃開始するメフィラス星人!
迫り来る巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う千歳の人々。
ビーコン「どひ~っ、せっかくのんびりしてたのに!」
落合さん「どうして毎度、こうなっちゃうんでしょう!?」
ピグモン「きゃああん、ピグちゃん怖いの~!(涙目)」
おお、北海道千歳市……早くも、絶体絶命の大ピンチ!
メフィラス星人の暴虐、許すまじ。
千歳の平和を守るべく、航空防衛隊が直ちに出撃した。
落合さん「あら、あれは……!?」
ビーコン「毎度おなじみ、航空防衛隊の戦闘機っスよ!」
ピグモン「はうはう~、おじさんたち、がんばってなの~!」
「ようし……全機、一斉攻撃開始だッ!」
激しいアタックをかける戦闘機隊!
持てる火力の全てが、星人めがけて叩きこまれる。
メフィラス「ぬぁっはっはっ、愚かな……
そんな原始的な武器が、このメフィラス星人に通じるものか!」
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
メフィラス星人の目から迸る破壊光線!
その威力の前に、戦闘機隊は次々と叩き墜とされていく。
メフィラス「ぬぁっはっはっ、それそれ、どんどん行くぞ~!」
図に乗って、目からの破壊光線を乱射するメフィラス星人。
爆発! 炎上!
平和だった街は、たちまち炎の地獄と化した!
ビーコン「どひ~っ、もうダメっス、おしまいっス!」
落合さん「いいから落ち着きなさい、と言いたいところですけど……
このままでは、本当にそうなりかねませんわ!(汗)」」
ピグモン「宙マン、宙マン、今日もたよりにしてるの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、メフィラス星人の前へ舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
メフィラス星人、さっさと宇宙へ帰るがいい!」
ズ、ズーンっ!!
落合さん「お殿様、今日もまたまた素敵です……♪(うっとり)」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
ビーコン「こうなったらもう、アニキだけが頼りっス!」
メフィラス「出たな、宙マン。
気の毒だが僕のため、再就職の踏み台になってもらうぞ!」
宙マン「いいや、この千歳で怪獣軍団の勝手は通らないね。
……この私が、決して通しはしないんだ!」
全身にみなぎる怒りを力に変え……
ファイティングポーズをとって、敢然と身構える宙マン。
メフィラス「ぬおおおっ! 捻り潰してやる!」
宙マン「さぁ、どこからでも来るがいい!」
真っ向激突、宙マン対メフィラス星人!
落合さんたちが見守る中、凄絶な巨大戦が火花を散らす!
猛然、パンチ攻撃を仕掛けてくるメフィラス星人。
その一撃を腕のガードで受け止め、反撃に転じる宙マン。
両者ともに、パワーの面ではほぼ互角の勝負。
となれば、二人の優劣を分けるものは……。
メフィラス「ぬぁっはっはっ、そりゃもう執念深さと悪知恵さね!」
宙マン「いいや、正義のド根性に決まっているよ――
そぉれっ、もういっちょうお見舞いだ!」
宙マンの水平空手チョップ! そしてストレート・キック!
連続攻撃に、さしものメフィラス星人もずずっと後退する。
宙マン「どうだメフィラス星人、思い知ったか!?」
メフィラス「ぬぐぐぐ……おのれェェーっ!」
逆上した星人の両目が、かっと輝きを放つ――
そう、破壊光線発射の前段にあたるモーションだ。
宙マン「おっと!」
防御技、宙マン・プロテクション発動!
空間そのものを湾曲させて形成する防御壁で、メフィラス光線は
完全に受け止められ、無力化される。
メフィラス「ぐがぁぁ-っ! 味な真似を……!」
宙マン「せいやぁぁーっ!
宙マン・バーニング・パンチ!!」
エネルギーを集中させ、燃え上がった拳で繰り出す必殺パンチ!
その破壊力ゆえ、炸裂した鉄拳にこめられた膨大なエネルギーが
星人のボディを一気に貫通、火花となって背に抜けるほど。
メフィラス「(悶絶)ぐ、ぐはぁぁぁッ……」
宙マン「よし、今だ!」
ジャンプ一閃、空中から繰り出す技の名は!
宙マン「くらえ――宙マン・閃光波!」
ピッキュイィィーン!
高らかな音とともに、宙マンの手にストロボ状の発光が生じ……
次の瞬間、メフィラス星人のボディで激しい爆発が起こる。
宙マン「――どうだっ!?」
メフィラス「うぎゃあぁっ、これはまた……強烈ゥゥ~ッ!」
宙マンの連続攻撃に怯み、大きくよろめくメフィラス星人。
そこに生じた一瞬の隙を見逃さず……
遂に宙マンは伝家の宝刀、伝説のスーパー剣を抜き放った!
宙マン「よし、今だッ――正義の刃、受けてみろ!
秘剣・スーパー大波崩し!!」
ズバァァッ!
スーパー剣の刀身にエネルギーを集中させ……
怒涛のような突進の勢いに乗り、斜め一文字にひるがえる光の刃!
宙マンの「大波崩し」が、メフィラス星人を見事に切り払った。
メフィラス「お、お、おおおおおっ……
……オーバーキルにも、限度があるでしょうがよ~っ!?」
やったぞ宙マン、大勝利!
ピグモン「はうはう~、やったのやったの、宙マンの勝ちなの~!」
ビーコン「いよっしゃ、さすがアニキっス!」
落合さん「お殿様のおかげで、改めてゆったりと日常を満喫できますわっ。
家周りのお仕事に、おやつに団欒、DVD鑑賞……」
ビーコン「ヒヒヒ、そしてセクハラも……っスよね♪」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、調子に乗り過ぎですっ!(怒)」
ビーコン「ハンニャラ、ヒ~っ……」
人々の歓声が、ヒーローの勝利を讃える――
春の陽光を浴び、すっくと立つ巨体は、どこまでも逞しかった。
イフ「ぐぬぬぬ……またしてもやってくれたな、宙マン!
だが、この次こそは……
もっと怖ろしい、凶暴な怪獣を送りこんでやる!」
……と、そんないつもの負け惜しみはさて置いて。
今回もまた宙マンの活躍で、悪質宇宙人・メフィラス星人は
見事に撃退され、千歳の平和は守り抜かれたのであった。
そして。
スライ「ああ、その……えぇと、ですね? 魔王様……」
スライ「我が従兄弟の働きぶり、いかがでした……でしょうか?」
イフ「えぇい、イカがもタコがもあるものかっ!
宙マンにしてやられ、ワシらに要らぬ恥をかかせおって――」
スライ「(ひたすら平伏)は……ハハッ……!」
イフ「まぁ、だがしかし……
奴の忠誠心とやる気には、満点をつけぬわけにもいくまいて。
……その点数分も考慮し、トータル点で……合格じゃ!」
スライ「おおっ、魔王様……!」
イフ「(頷き)直ちに書類をまとめ、編入手続きを済ますがよい。
……あぁ、それと、これから戻ってくる奴のために……
傷の手当と、何か旨い飯の用意も忘れるでないぞ!」
スライ「は、ハハァーっ! 有難き幸せ!」
かくして、ここにまた一体……
怪獣軍団の魔王・イフの傘下に、新たな宇宙人が加わる事になり
その分またちょっぴり、暗黒星雲は賑やかさを増したのであった。
イフ「(口の中で、呟き)……ううむっ、それにしても不愉快な……
宙マンの奴めが……!」
今回の『宙マン』は、これにて。
さてさて、次回のお話はどうなるかな?