大人も子どもも、みんなが待ちに待っていた年に一度のクリスマス。
だが宇宙の誰もが、この日を笑顔で迎えられるわけではなかった――
年末の合コンにおいて女の子に振られ、クリスマスデートの夢が費えてしまった
怪獣軍団の一員、ギエロン星獣もまた、笑顔で楽しいクリスマスを迎えられない
哀れさの十字架を背負ってしまった一匹(ひとり)である。
かくて傷心のギエロン星獣は、怪獣魔王に無断で地球へと飛来。
自らがこんなに切ないのに、自分以外が楽しそうにしているのが許せないのだと
「クリスマス終了」を高らかに宣言し、千歳の街を破壊し始める。
そうはさせじと立ちはだかるは、正義のヒーロー・ご存じ宙マン。
だが、憎悪と嫉妬に狂うギエロン星獣は、予想以上の強敵であった。
そして、今、宙マンめがけて――
ギエロン星獣の口から、勢いよく黄色の霧が浴びせかけられた!
宙マン「(苦悶)ゲホ、ゴホッ……うう……うっ……!」
ギエロン星獣「グワッガァァ~ッ、俺の威力を思い知ったか!?」
ピグモン「ああんっ、宙マン!」
落合さん「あれは、まさか……」
ビーコン「ど、毒ガスっスかぁ!?」
ながもん「(頷き)宇宙の……有害成分が……いっぱい」
ギエロンの毒霧をまともに吸いこんでしまい、足元がふらつく宙マン。
宙マン「な、何のっ……これしきの事で――」
ギエロン星獣「ああ、そうとも! これで終わっちゃ面白くもなんともねぇ!」
「グワッガァァ~ッ! 死ね、宙マン!」
攻撃の手を緩めず、次々と必殺技で畳みかけてくるギエロン星獣。
次なる一撃は、両手の爪をスパークさせて放つリング状の破壊光線だ!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
みくるん「ああっ……このままじゃ宙マンさんが!」
ながもん「これは……まずい。……色々と……!」
ビーコン「どひ~っ、どうすんスか、マジでクリスマス終了っスかぁ!?」
落合さん「……って、どさくさ紛れに私の胸へ手を伸ばさないで下さいなっ!(汗)」
ピグモン「はわわ、がんばってなの宙マン、負けちゃダメなの~!」
ギエロン星獣の連続攻撃を受け、遂に地面へと倒れこんでしまった宙マン。
そんな彼へと向かって、勝ち誇ったかのように悠然と歩を進めてくるギエロン。
宙マン「(苦悶)……うう……うっ……!」
ギエロン星獣「グワッガァァ~ッ、光栄に思えや宙マン……
最後のクリスマスが、お前の命日だッ!!」
雄叫びとともに、両腕の羽を勢いよく振り上げるギエロン星獣。
小惑星をも切り裂く鋭利な刃によって、宙マンを真っ二つにする気なのだ!
ピグモン「宙マン、あぶないの~!」
ながもん「(絶句)……これはッ――」
みくるん「駄目ェ! 宙マンさん逃げて……逃げてーっ!!」
嗚呼、宙マン絶体絶命!
その光景に、その場の誰もが絶望しかかった時……
そう、まさにその時である!
ズバーン! シュパパパパーンッ!
ギエロン星獣の鋭い翼が、宙マンの脳天を叩き割らんとした刹那!
突然、ギエロンの周囲に爆発が巻き起こり、大怪獣の巨体を怯ませる。
ギエロン星獣「(訝り)……な、何だ何だぁ!?」
宙マン「おおっ……あなた方は……!」
宙マンの危機を救ったのは、蒼い鋼の煌くこの機体。
ながもん「おおっ……これは……有難い」
ビーコン「っかー、また美味しいトコで来てくれるっスよねぇ、あの人たちァ!
まさか今まで、出てくるタイミング計ってたんじゃないスよね!?」
落合さん「(ビーコンを小突いて)こらっ、失礼なこと言うんじゃありません!」
「これより、陸・空合同での一斉攻撃を開始する――
怪獣を牽制し、ダメージを与えて、宙マンのために突破口を開くんだ!」
うなりをあげる戦闘機の機関砲!
そのスピーディーな小回りとも相まって、ギエロン星獣を翻弄する。
地上からは戦車部隊も加わり、更に激しさを増す猛攻撃!
ギエロン星獣「(苛立ち)グワッガァァ~ッ、どいつもこいつも……
弱っちいチビの癖に、チョロチョロ粋がりゃがって!」
戦闘機と戦車の攻撃に、ペースを乱されるギエロン星人。
同時にそれは宙マンが態勢を立て直し、反撃へと転じる好機でもあった――
力を振り絞り、すっくと立ち上がって身構える巨大ヒーローの勇姿を見よ!
宙マン「随分とやりたい放題やってくれたな、ギエロン星獣。
だが、ここからは私がお返しさせてもらう番だぞ!」
ギエロン星獣「(カッとなり)抜かせッ!!」
刃状の両翼を振り回し、宙マンめがけて襲いかかってくるギエロン星獣。
その切っ先の動きを冷静に読みつつ、羽の一閃を軽快なフットワークでかわし、
かいくぐりながら、宙マンは果敢にギエロンへと肉薄していく。
宙マン「さぁ、これでもう自慢の羽は使えまい!」
ギエロン星獣「(焦り)し、しまったぁっ!」
宙マンを振りほどこうともがくギエロン星獣だが、時すでに遅し。
その顔面めがけて、宙マンのストレートパンチが叩きこまれた!
正義の鉄拳をまともに受け、たまらず吹っ飛ぶギエロン星獣。
その痛烈な一撃に、怪獣が目を回したところへ――
宙マン「とどめだ! 宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ギエロン星獣を直撃!!
ギエロン星獣「く、クリスマスなんて……大っ嫌いだぁぁ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ピグモン「はうはう~、やったのやったの、宙マンの勝ちなの~!」
ながもん「一時は……どうなることかと……思ったけど」
みくるん「千歳が好きなみんなが、力を合わせたおかげだね?」
ながもん「……(こっくり頷く)」
かくして我らが宙マンと地球人との共同戦線によって、ギエロン星獣は撃退され
千歳市の……いや、全世界のクリスマスは無事に守り抜かれたのであった。
ビーコン「いや~、よかったよかった、さすがはアニキっス!
さてと落合さん、一件落着でホッとしたところでオイラたちも……」
落合さん「(ジト目)おもちゃ屋さんだったら行きませんわよ!?」
ビーコン「おもちゃ屋はもういいっス、それよりもっといいトコっスよ!」
落合さん「は? どこへ行こうって言うんですの?」
ビーコン「ヒヒヒ、オイラたちの絆を確かめあえる場所、俗に言うラブホテr……」
げ し っ !
落合さん「ねーい、なお酷いですわよ、このエロ怪獣っ!!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、いつになったら落合さんは素直になってくれるっスかねぇぇ~」
落合さん「(憮然)……よして下さい、人聞きの悪いっ!」
宙マン「はっはっはっはっ」
全ての騒動が落着して、楽しい日常は取り戻され……
一方、宙マンに叩きのめされたギエロン星獣は、全身にダメージを受け
ほうほうの体で暗黒星雲に逃げ帰ってきていたところであった。
「ギエロン星獣、この大馬鹿者めが~!!」
ギエロン星獣「申し訳ございません、魔王様!
力及ばずに、宙マンを倒すことが出来ず……」
イフ「それも確かに屈辱的だ……だが、それ以上に許せぬのは!」
イフ「ワシに一言の断りもなく、フラフラ地球へなど行きおって……
皆がパーティーの準備で、てんてこまいの大忙しだったと言うに!」
ギエロン星獣「(恐縮)め、面目次第もございませんっ」
イフ「えぇい、もういい、早く傷の手当てを済ませてパーティーに参加せい!
……ああ、それとだな、ギエロン星獣よ」
ギエロン星獣「……はい?」
イフ「合コンでの一件は、確かに不幸で悲しい出来事であったな――
今夜はパーッと騒いで、そんな女の事など忘れてしまうがよい」
ギエロン星獣「(ほろり)ま、魔王様ぁっ……」
ひ し っ !
ギエロン星獣「(号泣)びぇぇ~ん、有難うございましゅう、魔王様ぁぁ~っ」
イフ「(汗)えぇい、抱きつくでない、鬱陶しい!……離れろと言うに!」
……と言う感じで、こちらも何とか収まるべき鞘に収まって。
そして夜が更け――
地球でも、そして宇宙でも、楽しいクリスマスパーティーが始まったのであった。
色とりどりの飾りに囲まれ、趣向を凝らしたご馳走の数々をずらりと並べて
年に一度しかないこの「特別な夜」を、最高の楽しさと共に過ごそうとする
人々の熱気と笑顔は、宵闇とともに深まる冬空の寒さも寄せ付けない。
賑々しくも楽しく更けてゆく聖夜。
きっと……いや間違いなく、宙マンたちにとっても、怪獣たちにとっても
今宵こそが「最高のクリスマス」であったに違いない。
来年も、再来年も、そのまた次の年も……
遥かな未来までずっと、みんなで楽しくクリスマスを祝うことが出来ますように。
そんな「最高の夜」が、いつまでもみんなの笑顔と共にありますように!
メリー・クリスマス!