遥かなる宇宙の彼方、暗黒星雲の奥深くから……
美しい緑の星・地球を狙い続けている、恐怖の怪獣軍団。
そんな彼らの秘蔵っ子たる幹部候補生にして邪悪の五人衆、
人呼んで“ダークネスファイブ”は、怪獣軍団の若きエリートとして
将来を嘱望されているのであった。
そんな五人のひとり――
それが彼、グローザ星系人“氷結の”グロッケンである。
と、言うわけで……
こちらは暗黒星雲の奥深く、これもまた毎度お馴染みと言ってよい
怪獣軍団の本拠地。
彼こと“氷結の”グロッケンは、今まさにここにいた。
グロッケン「ケケケケッ……しめしめ、誰もいないな。
よしよし、出かけるなら今のうち――」
「あ、グロッケンの兄ぃ!」
グロッケン「(ギクッとして)……わ、わわわわっ!?
何だ、お前たちかぁ、びっくりさせんなよ!」
「えへへ、兄ぃ、どーもこんちはっす!」
「グロッケンの兄ぃ、確か今日は休みでしたよねぇ」
「今から、どっかへお出かけで?」
グロッケン「んー、まぁまぁまぁ、そんなとこだな、うんっ。
そんじゃ、急ぐんで……俺はこれで!」
と、傍目にも分かってしまうほどの動揺ぶりで、その場を取り繕い
急ぎ足で、逃げるように去って行ってしまうグロッケンである。
「いってらー、気を付けてー!」
「……つーか、ここ最近。
な~んか、グロッケンの兄ぃの様子、おかしかねぇか?」
「そうそう、休みのたんびにああやって……
こそこそ出かけて行くんだよな、まさか外に女でも?」
「わははは、ないない、兄ぃに限ってそりゃねぇって!」
「だよなぁ……♪」
と、そんな噂になっているとは露知らぬグロッケン。
結論から言おう。
休みのたびに、グロッケンがこそこそと出かけて行く目的地は
毎度おなじみの舞台、北海道千歳市なのであった。
今日もまた、暗黒星雲を後にして地球にやってきたグロッケンは
一面の銀世界が広がる、千歳市の一角にその姿を現した。
グロッケン「ケケケケ、今日もまた来ちゃったぜぇ~。
……ああ、今やこいつが人生の楽しみのひとつだよ!」
などと言いつつ、弾んだ足取りで千歳市の住宅街をてくてく歩いて
グロッケンが向かった先、そこは――
とある、一軒のラーメン屋であった。
「いらっしゃいませー。
……おー、グロッケンちゃん久しぶり、元気してた!?」
グロッケン「ま、ぼちぼちだなー。
……大将、いつもの頼むぜ、大盛りでな!」
「あいよっ、毎度ありー!」
既に顔なじみになっているらしい店主と、親しく会話を交わしながら
しばし、待つこと十数分。
グロッケンの前に運ばれてきたもの、それは!
「あいよっ、極辛味噌ラーメン、大盛りね!」
グロッケン「ケケケケッ、待~ってましたぁ!」
そう、同店の看板メニューたる、激辛のレベルを更に飛び越えた
「極辛」の味噌ラーメン。
これこそが、グロッケンのお目当てだったのである。
グロッケン「っかー、このスープ!
脳みそブッ飛んで、火ぃ吐くみてぇなこの辛さ!
たまんねー、もう病みつきだぜィ!」
グロッケン「そして、そんな極辛の中でこそ……
全卵無加水の縮れ麺と、細切り葱がイイ仕事するわけよ。
ヒィ辛い、ヒィ旨い、死ぬ死ぬ、旨すぎて死ぬーっ!」
グロッケン「ああ、でも……
俺がこんなに極辛料理を愛してるって事は、怪獣仲間にゃ
絶対知られるわけにはいかねぇぜ」
グロッケン「なんつーか、その……
冷凍星人としての俺のイメージが……なぁ?」
グロッケン「世界を震え上がらせることが使命の、冷凍星人の俺様が
火の出るみてぇな辛さでフゥフゥ汗かきながら大喜び、ってんじゃ
他の冷凍怪獣たちの手前、なんともかんとも……」
「や、別に気にすることないじゃないスかねぇ?」
グロッケン「だよねぇ、でもそこは矜持の問題でもあるし……
……って、う、うおぉぉっ!?」
不意に聞こえてきた声に、グロッケンが驚いて向き直ると……
そこにいたのは、これまたお馴染みの極楽コンビ。
グロッケン「お、お前ら、いつの間に!?」
落合さん「いえいえ、いつの間もお茶の間もございませんわよ!」
ビーコン「そうそう、あれだけでっかい声で感想述べられた日にゃ
「聞くな」って方が無理な相談っスよ、うん!」
落合さん「失礼ながら、大変お見事な食べっぷりで……」
ビーコン「オイラたち、思わず惚れ惚れしちまったっス~☆」
グロッケン「(思わず赤面)な、な、なななななっ……」
グロッケン「お前ら……お前ら、よくも……
俺の秘密を、知ってくれちまったなぁ……!?」
グロッケンの全身から、激しく迸るエネルギー!
ビーコン「どひ~っ、なんかヤバげな感じっスよ!?」
落合さん「三十六計、逃ぐるにしかずですわ!」
ビーコン「退却、退却っス~!」
「ケケケケケケ……!!」
おお、見よ! 驚愕せよ!
慌ててラーメン屋を飛び出した、落合さんとビーコンの眼前にて
みるみる巨大化する“氷結の”グロッケン!
落合さん「あらまぁ!」
ビーコン「どひ~っ、なんかヤな流れになってきたっスよ!?」
グロッケン「お前ら、俺の秘密を……
今日まで隠し通してきた秘密を、よくも暴いてくれたな!」
ビーコン「や、そんなそんな、暴くもなにも……」
落合さん「ぜ~んぶ、貴方様のモノローグじゃございませんの!」
グロッケン「ねーい、黙れ黙れ、問答無用っ!
俺様の秘密を暴き、屈辱を与えてくれたお前ら……
お前らには、ここで死んでもらわねばならんっ!」
ビーコン「そ、そんなムチャクチャなっスぅぅ~!(汗)」
突如、千歳市に巨大な姿を現したグロッケン!
その様子は、暗黒星雲にもしっかり伝わっていた。
スライ「ま、魔王様、千歳に“氷結の”グロッケンが!」
イフ「何、グロッケンだと?
アレは確か、今日はちょうど休みの日ではなかったか?」
スライ「そのはずなのですが、何が何やら……」
グロッケン「うぉぉぉ~、こうなりゃヤケクソだぜぇ!」
各方面の困惑をよそに、進撃開始するグロッケン!
迫り来る巨体に、慌てて逃げ出す人々。
落合さん「あらあらまぁまぁ、何てことでしょう!」
と同時に、人々の間からわっとあがる歓声――
防衛隊の戦闘機部隊が、グロッケンめがけて千歳基地から発進したのだ。
戦闘機編隊によるレーザー光線一斉攻撃!
だが、鍛え抜かれたグロッケンのボディは、相次ぐ光線の直撃にも
傷つくことさえなく、全く怯む様子を見せない。
グロッケン「ケッケッケッ……今度は、俺っちがお返しする番だな!」
「……う、うわぁぁぁ~っ!?」
実に恐るべきは、グローザ星系人の冷凍光線!
その威力の前に一瞬にして凍りつき、撃墜されていく戦闘機隊。
ビーコン「ひぇぇ、このままじゃ千歳が氷漬けっス!」
落合さん「こんな時、お殿様がいて下さったら……」
「んー、私を呼んだかね?」
と、呑気な声とともにやって来たのは……
もはや説明不要の、宙マンとピグモン。
ピグモン「二人が遅いから、様子を見にきたの~」
ビーコン「様子見結構! ナイスタイミングっスよ、アニキぃ!」
落合さん「あぁ、お殿様、実はかくかくしかじかで……」
宙マン「(頷き)なるほど、私の出番ってことだね!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うグロッケンの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
グローザ星系人グロッケン、悪ふざけもそこまでだ!」
ズ、ズーンっ!!
落合さん「ああ、ホットな雄姿に思わずほっとしますわね!(うっとり)」
ビーコン「こうなりゃもう、アニキだけが頼りっス!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
グロッケン「ケッケッケッ……出しゃばらないほうが賢明だぜ、宙マン。
今の俺に触れると、冷凍火傷どころじゃ済まないぜ!」
宙マン「その言葉、そっくりそのままお返しだ!」
勇壮たるファイティングポーズで、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ!
激突、宙マン対“氷結の”グロッケン!
荒々しく烈しい闘気のぶつかりあいが、北の大地を震撼させる。
両腕のカッターをひらめかせ、猛然と斬りつけてくるグロッケン!
嵐の速さで襲い来る鋭利な一閃をかわしつつ、宙マンも怯むことなく
相手の隙を伺い、果敢に接近戦を挑んでいく。
ガキーン! バキーンっ!
両者の鉄拳が幾度となく交錯し、周囲に凄まじい打撃音が響き渡る。
「秘密を暴かれた」恥ずかしさと憤り。
それが、今のグロッケンにこれまで以上の力を与えることとなり
さしもの宙マンも、苦戦を強いられてしまっていた。
宙マン「――くッ!」
グロッケン「ケッケッケ、これでもくらえ宙マン!」
口から冷凍光線を吐き出すグロッケン!
得意の華麗なる回転戦法によって、これをかわしていく宙マン。
グロッケン「――チィィーっ、味な真似を!」
宙マン「グロッケン、これで決めさせてもらうッ!」
宙マン「正義の刃、受けてみろ!
秘剣・スーパー大波崩し!!」
ズバァァッ!
抜き放ったスーパー剣の刀身にエネルギーを集中させ……
怒涛のような突進の勢いに乗り、斜め一文字にひるがえる光の刃!
宙マンの「大波崩し」が、グロッケンの剛体を見事に切り払った。
グロッケン「がぁぁぁっ、この一撃も極辛だぁぁ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ピグモン「はうはう~、やったのやったの、宙マンの勝ちなの~!」
ビーコン「いえっふ~! サイコーっスよ、アニキ!」
落合さん「ありがとうございました、お殿様!」
かくして我らが宙マンの活躍により、グロッケンは倒され……
千歳市は、悪の八つ当たり被害を逃れたのであった。
……で、宙マンに叩きのめされたグロッケンはと言えば。
グロッケン「ぐ、うっ……あ痛テテテ……
……畜生……覚えてやがれ宙マン、次は見てろよ~!」
そして、そんなボロボロの彼が帰る場所……
怪獣軍団の本拠がある、暗黒星雲の奥深くにおいては。
「たはは……散々だったねぇ、グロッケンの兄ぃ!」
「しかしまぁ、冷凍星人が火の出る極辛好みでも……なぁ?」
「うんうん、別にそんなの構わないっつーか」
「気にしなくていいのに、変なとこでカッコつけて、なぁ!」
イフ「まぁまぁ、お前たち、そう言ってやるな。
そこもまた、グロッケンの可愛いところじゃ――
……なればこそ怪獣魔王の名において、改めて厳命するぞ」
イフ「これから、戻ってきたグロッケンに対し……
今度の件を蒸し返したり、からかいのタネにすることは
厳しく禁じるものとする! よいな!?」
「「「「ははぁーっ!!」」」」
イフ「えぇい、それにしても……
相も変わらず、忌々しい奴と言えばあの宙マンよ。
今に見ておれ、次こそはお前の最期の時なのだ……!」
……などと言う負け惜しみはさて置いて。
怪獣軍団は怪獣軍団で、割とアットホームなのであったとさ。
どんな理由があろうとも……
みんなの平和を壊す者は許せない。
次回も頼むぞ、我らが宙マン!