完全防寒の分厚いコートに頼らずとも外出できる陽気の中で、
あちこちで雪溶けが急速に進みつつあるここ数日。
そう、暦の上だけのことではなく……
北のさいはて・北海道も、ようやく名実ともに春を迎えつつあった。
そんな中、今回もいつも通り幕を開ける『飛び出せ!! 宙マン』。
「いつも通り」を謳うからには、物語の始まりも当然、例のごとく
北海道千歳市から、ということになる。
てなわけで、こちらは千歳市・ほんわか町5丁目……
そしてその一角に建つ、おなじみの「宙マンハウス」。
ちょうどその庭先に、今年最初のフキノトウがちょこんと顔を出していた。
みくるん「あっ、みんな……あったよ、フキノトウ!」
宙マン「これを見ると、春が来たんだってしみじみ実感できるよねぇ」
ピグモン「今年は普段より、フキノトウ出るのが早い気もするの~」
ながもん「そこは、それ……今年……暖冬、だったから?」
みくるん「理由はさておき、嬉しいものは嬉しいですぅ♪」
宙マン「(頷いて)あぁ、全くだね!」
ビーコン「そう、理由はさておき嬉しいものは嬉しいんスよ!
ヒヒヒ、良い事言うっスねぇ、みくるんちゃん。
てなわけでオイラも、早速いつも以上のセクハラで……」
げ し っ !
落合さん「ねーい、お黙りんこっ、このエロ怪獣!
そんな理不尽な行為は、ほんわか町では通りません――
えぇ、この落合が通しませんともっ!」
ビーコン「ハンニャラ、ヒ~っ……
……だ、だけどオイラはくじけないっス、これしきで!」
ビーコン「日本全国……うんにゃ、世界各国の同志たちが!
このオイラのセクハラを待ち望んでくれている限りはっ。
オイラの使命感が、簡単にあきらめるなと叫んでるっス!」
落合さん「そんな使命感、ドブ川に叩き捨てておしまいなさいっ!」
ビーコン「っがー、何で判ってくれないんスか、落合さぁん!?」
落合さん「判ってたまるものですかッ!!」
ピグモン「えう~……落合さんとビーコンちゃん、またやってるの~」
宙マン「(苦笑)たっはっはっ……
良くも悪くも通常営業だねぇ、あの二人は」
みくるん「ええっと、私たちは敢えてノーコメントで……」
ながもん「(無表情に頷き)それが、正しい……処世術」
ビーコン「オイラの命ある限り、ポリコレ棒なにするものぞっス!
それよりも尊く逞しい一本の棒が、オイラにはあるんスからっ。
あ、具体的にその「棒」がどこを指すかってぇと……」
落合さん「だーっ、そんな説明いりませんからっ!(赤面)
それ以上言ったら、本気でお仕置きですわよ……!?」
またまた落合さんの鉄拳が炸裂するかと思われた時……
事態は、思いもよらぬ急展開を見せたのであった!
ピグモン「あっ、みんな見て、あれ……!」
落合さん「(ハッとして)えっ!?」
おお、何と言うことであろう!?
ピグモンの指差した先……
振り返った宙マンたちの視界に飛び込んできたのは、街の建物が
泡に包まれ、溶け去っていく怖ろしい光景であった!
落合さん「こ、これは一体、どうしたことでしょう!?」
ビーコン「ひえぇ、あっちもっスよ、あっちも!」
異変はひとつの建物のみにとどまらなかった――
ひとつ、またひとつと、市内のビルが異様な泡の中に包まれて
グズグズと溶解し、跡形もなく消え去っていくではないか!?
ピグモン「て、手品か何かみたいなの~!」
ビーコン「手品にしては、たちが悪すぎるっつーか……」
落合さん「少なくとも、種も仕掛けもあるってことですわよね」
宙マン「ああ、それも、とびきりろくでもない種だろうさ……!」
「ギロロッ、グルルッ……
ああ、そうともさ、大・正・解~っ!」
みくるん「(ぎょっとして)!?」
みくるん「み、皆さんも今の……聞きましたよ、ね!?」
ながもん「(無表情に頷き)……はっきりと」
ビーコン「ひぇぇ、この流れ、もしかして……!?」
そう、今回もまた「もしかする」のである――
宙マンたちの見守る中……
市内のとある排水溝から、勢いよくブクブクと噴き出してくる泡。
宙マン「(驚愕)!?」
あとからあとから、とめどなく噴き出してくる不気味な泡。
「それ」はみるみる、天を衝くような高さにまで膨れあがって
急速にひとつの「かたち」を成していく。
しかして、その正体は!?
ピグモン「ああっ、また新しい怪獣なの!」
ながもん「あれは、確か……宇宙星獣・ギロ。
人に、よっては……ギロ星獣と……呼ぶ人も、いる」
みくるん「え~ん、また使い道のない知識が増えちゃったですぅ~(涙目)」
怪獣軍団の一員、宇宙星獣ギロ。
一見するとコミカルにも思える容姿だが、なかなかどうして……
悪知恵と破壊力ではあなどれない、宇宙の無法者なのである。
ビーコン「あー、やっぱねぇ、そうだと思ったっスよ!」
落合さん「あの目が……どうにも信用ならない感じですわ」
ギロ「ギロロロ~、まぁまぁ、そうおだてるなよ♪」
ギロ「んー、気分よくなったところで……
さっそくひと仕事始めますんで、よろしくゥ!」
みくるん「ほぇ、お仕事ぉ……?」
ビーコン「どひ~っ、破壊活動のコトっスよぉ!(汗)」
宙マン「……うぬっ!」
イフ「わはは! さぁやれ、思い切り暴れろギロ星獣!
お前の威力を、地球の者どもに思い知らせてやるのだ!」
ギロ「ギロロ~、万事このギロめにお任せを、魔王様!」
ギロ星獣、進撃開始!
迫り来る巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う千歳の人々。
ビーコン「どひ~っ、泡食って逃げるしかないっスねぇ!?」
落合さん「えぇ、泡だけに……って、おやかましいですっ!」
ピグモン「はわわ。ツッコミ入れてる場合じゃないの~!(涙)」
おお、北海道千歳市に早くも絶対の危機迫る!
だが、そんなギロ星獣の暴虐を阻まんものと……
ながもん「おお……今日もまた……来てくれた」
ビーコン「う~ん、来てくれるのは嬉しいんスけど……」
落合さん「あとはもう少し、成果が伴って下さいますと……!」
「う~ん、何かヒドい言われようだけど……
気にせず行くぞ、怪獣への攻撃開始っ!」
ギロめがけて、怒濤のように叩きこまれるロケット弾!
そんな凄まじい攻撃にも、全くびくともしない宇宙星獣である。
ギロ「ギロロ~、悪いがお呼びじゃないねぇ!」
「ど、どわぁぁぁ~っ!?」
ギロの角から発射される泡!
その溶解力にかかっては、戦闘機などひとたまりもない。
みくるん「あぁっ、やられちゃったですぅ!」
ビーコン「やっぱりっつーか、何つーか……(汗)」
ながもん「それでも……努力は……讃えたい」
ギロ「ギロロロ、もうどんどんやっちゃうよ~ん!」
調子に乗って、周囲に溶解泡を撒き散らすギロ!
街のビルが、家が……次々に溶かされ、消え去っていく修羅場。
爆発! 炎上!
今やギロ星獣により、千歳の平和は風前の灯であった!
落合さん「あぁ、もう、何てことでしょう!」
みくるん「これは色々、洒落にならないですよ~!」
ながもん「ここは、一発……ヒーローが、必要」
ピグモン「宙マン、宙マン、何とかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、暴れ回るギロの前へ舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
星獣ギロ、もうお前の好き勝手にはさせないぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ながもん「おおっ……宙マンの、十八番」
ビーコン「こうなりゃもう、アニキだけが頼りっス!」
みくるん「頑張って下さい、宙マンさ~んっ!」
ギロ「ギロロロ、僕と勝負しようってか~い!?」
宙マン「お望みならば、叩きのめしてあげるまで!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ!
ギロ「ギロロ~っ、上等! 行くぞ宙マン!」
宙マン「どこからでもかかって来い!」
遂に激突、宙マン対ギロ星獣!
人々が見守る中、巨大サイズの攻防はのっけからヒートアップ。
己の身一つで、宇宙を流れ歩いてきただけのことはあり……
ユーモラスな容姿に似合わず、格闘技の腕前と怪力にかけては
他の怪獣たちにもひけはとらないギロ星獣。
宙マン相手に一歩も引かず、凄まじいチョップの連打!
これにはさしものヒーローも、ズズッと後退させられるが……
宙マン「何の、これしき!」
怯むことなく、ギロめがけてストレートキックをお見舞い!
宙マンの反撃に、今度はギロがよろめき後退する番だ。
宙マン「どうだ星獣ギロ、正義のキックに怖れをなしたか!?」
ギロ「ギロロ~、勝ったと思うのは早いよ~ん!?」
自身の奥の手、魔の溶解泡で反撃するギロ。
そして宙マンは、それを全身に浴びてしまったではないか!?
宙マン「う、うわぁぁぁぁっ……!」
ズ、ズーンっ!
みくるん「ああっ、宙マンさんが!」
落合さん「いけませんわ、あの泡だけはどうにも!」
ビーコン「どひ~っ、このままじゃマジで……」
ピグモン「はわわ、宙マンまけちゃうの!?」
ながもん「負ける、だけじゃ……済まない……かも……!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ……!」
ギロ「ギロロ~、何だか僕ちゃん、大勝利の予感~♪」
自らの勝利を確信し、ウキウキと迫ってくるギロ。
……だが、これしきで挫け、やられる宙マンではないのだ。
「ぬうぅぅぅ……トゥアーッ!!」
宙マン、気力を振り絞ってパワー全開!
気合一閃、全身にまとわりつく泡を吹っ飛ばしてしまう。
ギロ「(目をパチクリ)な、何ですとぉっ!?」
宙マン「そォれっ、お返しさせてもらおうか!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ギロを直撃!!
ギロ「ギロ、ルロロォォォッ!?」
怯み、よろめく宇宙星獣の巨体。
その隙をついて、素早く空へと大ジャンプする宙マン。
スパークとともに、虹色の残像を描きながらの超速回転!
ギロ「な、何とぉぉっ……そう来ちゃうぅ~!?」
宙マン「とどめだ、ギロ星獣!」
「エイヤァァーっ!
宙マン・レインボーキック!!」
全身のエネルギーを瞬時に増幅させ、両足で蹴りこむ大技……
虹色の一撃、レインボーキックがギロめがけて炸裂!
ギロ「勝利の予感……泡みたいにはかない夢でしたぁぁ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
みくるん「やった、宙マンさんがやりましたぁ!」
ながもん「さすが、宙マン……まかせて、安心」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
イフ「うぐぐぐ、おのれ……おのれおのれっ、またしてもか!
だが、これで勝ったなどとは思うなよ、宙マン。
次こそは必ず、貴様の息の根を止めてやる!」
怪獣魔王の、毎度毎度の負け惜しみはさて置いて。
かくして我らが宙マンの活躍によって、宇宙星獣・ギロは撃退され
千歳の街には、再び心地よい平和が戻ってきた。
落合さん「お殿様、どうもお疲れ様でした!」
ビーコン「いや~、一時はどうなるかと思ったっスけどね~」
ピグモン「はうはう~、でもバッチリ宙マンの勝ちだったの~」
ながもん「結果……オーライ?」
宙マン「いやはや、一時は私も「泡食った」けどねぇ!」
みくるん「うふふ、一件落着でほんとによかったですぅ♪」
ビーコン「よ~し、オイラも改めて己の使命を……」
落合さん「(ジト目)どうせまた、卑猥なコト仰りたいだけなんでしょう?」
ビーコン「ヒヒヒ、さすが落合さん、判ってるっスね~!
泡怪獣のお話だけに、オチはソープランド絡みでひとつ……」
げ し っ !
落合さん「うがーっ! 泡のように消えておしまいなさいっ!!(怒)」
ビーコン「ひょえ~っ、報われぬオイラのサービス精神っスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
怪獣・怪人・怪能力……
何が来ようと、宙マンは怯まない。
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?