４月も早や下旬に差し掛かり、もうすぐゴールデンウィーク……
大型連休へのひそやかな期待を胸に、ここ・北海道の空気もまた
春らしい暖かな風とともに、どこかウキウキ弾んでいるかのような。
そう、冬から春へ、そして初夏へ。
何気ない日常の中でも、季節は間違いなく移り変わっているのだ。
と、柔らかな春のぬくもりの中で幕を開ける今回の『宙マン』。
舞台はもちろん、北海道千歳市である。
でもって、こちらはそんな千歳市の一角、毎度お馴染みの場所……
「宙マンハウス」のある、ほんわか町５丁目。
落合さん「それではお殿様、ちょっと出かけて参りますので」
宙マン「あぁ、車に気をつけてね」
「宙マンハウス」の住人、これまたお馴染みメイドの落合さん。
こんち落合さん、書類もろもろを市役所その他の公共機関に提出すべく
街へと繰り出していったワケだが……。
「……で、どうしてビーコンさんがついて来るんですの！？
お邪魔ですからさっさとお帰りなさいませ、シッシッ！」
ビーコン「チチチ、抜け駆けはダメっスよ～、落合さん」
落合さん「はぁ？ 何を仰ってますの？」
ビーコン「だめだめ、トボけたってオイラにはお見通しっスよ～」
ビーコン「書類提出なんて用事はさっさと済ませて、その帰りの足で……
前々からタウン誌とかでチェックしてたレストランなり喫茶店にシケこんで
一人でこっそり美味しいモン食べちゃおう、と！ そんなトコっしょ！？」
落合さん「ど、どうして私のトップ・シークレットを……
ビーコンさん、あなたいつの間にエスパー怪獣になったんですの！？（汗）」
ビーコン「ヒヒヒ、昨日や今日の付き合いじゃないっスからね～。
落合さんの考えそうなこたァ、オイラにも大概はお見通しっスよ～！」
落合さん「くうう～っ、全然嬉しくありませんわねぇ、そんな以心伝心！
せめてお殿様が、アナタの10分の１でも察しがよい方だったなら……」
ビーコン「ヒヒヒ、ぼやかない、ぼやかない。
……で、今日は何食うっスか？ ラーメン？ イタ飯？ 肉料理？」
落合さん「う～ん、そうですわねぇ……
なまじ千歳は美味しいお店が多い分、選択肢の多さが悩み所ですわねぇ。
……って、何でアナタがそんなコト気になさるんですの！？」
ビーコン「いいじゃないスか、二人でランチ！
賑やかな方が飯も旨いっスよ～☆」
落合さん「（憤慨）ねーいっ、勝手に既成事実化するんじゃありませんっ！」
春夏秋冬の季節に関わらず、極楽コンビは例のごとくこの調子。
と――その時である！
ゴ ウ ン ッ ！
落合さん「！！（ハッと空を見上げる）」
ビーコン「（冷や汗）な……なんスか、今の！？」
ズゴゴゴグワーンっ！
耳をつんざく大音響とともに、千歳上空から猛スピードで飛来し……
一直線に落下、地面に激突して大爆発を起こす赤い球体。
落下地点からほとばしる、妖しい閃光の中から立ち上がったのは！？
「デン、グぅぅぅ～ッ！！」
落合さん「あらイヤだ……怪獣ですわよ、また怪獣っ！」
ビーコン「しかも、今まで見たコトもないような奴っスよ！？」
「グゥゥゥ～ッ、俺様の名は宇宙大暴獣・デングー！
怪獣魔王様の命を受け、はるばる暗黒星雲から飛んできた破壊の使者だ――
地球侵略の手始めとして、まずは千歳をメチャクチャにするためにな！」
ビーコン「（震えて）わざわざの自己紹介感謝、と言いたいトコっスけど……」
落合さん「例によって、ち～っとも有難くない内容ですわねぇ！（汗）」
怪獣軍団の新たな使者・デングー、いまひとつの名は“宇宙大暴獣”。
隕石をも一撃で粉砕する鼻先の角で宇宙を荒らし、オベリスク島に棲息する
かの大巨獣ガッパとも互角に渡り合った、怪獣界でも札つきの暴れ者である。
サンドロス「をほほほ、勇ましいドロスわねぇ、流石はデングーちゃんドロス！」
イフ「わはははは！ さぁ行け、破壊せよデングー！
まずは千歳を征服し、そこを拠点に地球全域を完全に攻め落としてしまえ！」
デングー「ギシャシャシャ～、任しといてちょーよッ！」
怪獣魔王夫妻の命を受け、俄然奮い立つデングー！
逃げ惑う人々を追い散らしながら、猛然と市街地へ乱入していく。
デングー「デン、グゥゥ～、驚くのはまだ早いでよ、地球人ども！
デングー様の必殺武器、この角の威力をとくと見やがれ！」
おお――見よ！ 驚愕せよ、この恐るべき破壊力！
宇宙空間を行く隕石をも、木っ端微塵に砕いてしまうデングーの一本角。
その一撃を受けては、高層ビルなどひとたまりもあろう筈がない。
落合さん「（戦慄）……な、何ていう威力なんでしょう！？」
ビーコン「ガタガタブルブル、おっそろしいっスね～！
……あ、でもオイラ、これでひとつ良い考えが浮かんじゃったっス～」
落合さん「へ？……良いお考えって、どんなお考えですの？」
ビーコン「ヒヒヒ、そんなの決まってるじゃないっスか――」
ビーコン「メシのことっスよ～、今日のラ・ン・チ！
色々悩んだっスけど、あの暴れっぷりを見てようやく結論が出たっス。
今日のお昼は串焼きフルコース、これで決まりっスね～♪」
げ し っ ！
落合さん「……ねーいっ、少しは状況を弁えなさいっ！！（怒）」
ビーコン「どひ～、あまりの恐怖に現実逃避っスぅぅ～」
……などと言うおバカなやりとりの間にも、宇宙大暴獣デングーは
ますます勢いに乗って荒れ狂い、千歳の街を蹂躙していく！
デングー「デン、グーーっ、驚け、騒げ、人間どもめ！」
爆発！ 炎上！
絶体絶命のピンチの中、のんびりその場に姿を現したのは……。
宙マン「やぁ、いたいた、ここだったのか落合さん！」
ピグモン「二人の帰りが遅いから、心配になって来てみたの～」
落合さん「ああっ、お殿様、いいところへおいで下さいました！
実はかくかくしかじかで……」
ビーコン「……って言うか、この有様を見てもらうのが一番早いっスけどね～（汗）」
ピグモン「（周囲を見回し）……はわわ、なんか大変なことになっちゃってるの～！」
宙マン「（頷き）……なるほどね。よーっく、判ったよ」
落合さん「お殿様、今回もまた……お願いできますかしら！？」
宙マン「ああ、これはどうやら出番のようだね！
宙マン・ファイト・ゴー！！」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、暴れ回るデングーの前に舞い降りる！
宙マン「トゥアーッ！ 宙マン、参上！
これ以上の傍若無人な振舞いは、この私が許してはおかないぞ！」
ズ、ズーンっ！！
ビーコン「オオウッ！ 今日も出たっス、ウチのアニキの十八番！」
落合さん「はぁぁっ……お殿様、やっぱり素敵です……♪（うっとり）」
ピグモン「はうはう～、宙マン、頑張ってなの～！」
デングー「デン、グゥゥーッ、宙マンだろうが肉まんだろうが……
宇宙最強の「鼻」を持つ、このデングー様の敵じゃねぇ！」
宙マン「大した自信だな――
ならば今すぐ、その天狗の鼻をへし折ってやろうじゃないか！」
ファイティングポーズを取り、敢然と身構える宙マン。
さぁ、世紀のスーパーバトルの幕開けだ！
デングー「（嘲笑）デン、グ～ッ、上手い事言ったつもりかよ！？」
宙マン「さァ、徹底的にやろうじゃないか！」
激突、宙マン対デングー！
落合さんたちが見守る中、今日もまた……
千歳をリングに、凄絶な巨大バトルのゴングが打ち鳴らされた。
長く鋭利な鼻先で、猛然と突きかかり、斬りつけてくるデングー。
その猛攻を右に、左に受け流しつつ、宙マンも必死に反撃のチャンスを探る。
だが、デングーは強い、小憎らしいほどに強い！
デングー「デンデン、グググ、お前の力はその程度かァ！」
宙マン「う、うおおおおっ！？（よろめく）」
デングー「そうら、これでもくらえっ！」
「ぐ、ぐわぁぁぁぁ……っ！」
その勢いは、剣術の達人が見せる唐竹割りのごとく……
凄まじい速さで、一気呵成に振り下ろされるデングーの一本角！
宙マンのスーパーボディが切り裂かれ、大ダメージを受けて倒れ伏す。
ピグモン「（涙目）ああっ、宙マンがあぶないの～！」
ビーコン「な、なんスか、あの切れ味！？（汗）」
落合さん「あの攻撃を何度も受けては、お殿様もご無事では……」
ピグモン「はわわわ、宙マンまけないでなの～！」
サンドロス「をほほほ、いい調子ドロスわねぇ、デングーちゃん！」
イフ「一気にそのまま畳み掛け、宙マンめに引導を渡してやるがよいぞ！」
デングー「おうさ！ 宙マン、串刺しにしてやるぜェ！」
一本角を振りかざし、宙マンめがけて猛然と突進していくデングー！
辛くも紙一重で交わし、角をがっしり掴んだ宙マンではあったが……
敵の猛パワーで、いつ振りとばされてもおかしくない危機的状況である。
宙マン「むうッ！」
デングー「ギャシャーっ！ 詰んだな宙マン、お前の負けだァ！」
宙マン「なんの……こうなったら、奥の手だッ！」
宙マンの額が輝き、パワー全開！
全身のエネルギーを超高圧電流へと変換し、一気に放出。
さしものデングーも、超・至近距離でこの洗礼を受けてはたまらない。
デングー「（悶絶）ア、あばっ、あばばばばばばっ！？」
宙マン「とどめだ！
宙マン・エクシードフラッシュ！！」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、デングーを直撃！！
デングー「……て、天狗の鼻も根元からボッキリで～っす！」
やったぞ宙マン、大勝利！
ピグモン「はうはう～、やったのやったの、宙マンの勝ちなの～！」
ビーコン「カ～ッコ良かったっスよォ、アニキ！」
落合さん「お殿様、本当に有難うございます！」
イフ「ぐがががっ……おのれ、またしても宙マンめが！
だが、これしきの事で地球を諦める怪獣軍団ではないからな～！」
……などと言う、毎度毎度の負け惜しみはさて置いて。
かくして、我らが宙マンの活躍によって……
宇宙大暴獣デングーは倒され、千歳の街に再び平和が蘇ったのであった。
落合さん「改めまして……お殿様、このたびはお疲れ様でした！」
ビーコン「ホント、感謝感謝っス！
アニキが来てくれなかったら、オイラたちマジでヤバかったっスよ～」
宙マン「はっはっはっはっ、みんなが無事で何よりだったよ。
それじゃ、私たちは一足先に家に帰ってるけど……
書類関係の用事は、引き続き落合さんに任せちゃっても問題ないね？」
落合さん「えぇ、えぇ、それは勿論ですわ、お殿様っ！」
ビーコン「ヒヒヒ、そのあとはこっそり美味しいラン（チ）……」
落合さん「（小声で）シーッ！ お静かに！ 声が大きいですわよ、ビーコンさんっ」
ビーコン「（小声で）だったらオイラも一緒にランチってことでいいっスね？」
落合さん「（小声で）い、嫌ですわよ！ 何でビーコンさんなんかと……」
ビーコン「（小声で、ニヤニヤ）んじゃ、この一件、アニキにバラすっスよ！？」
落合さん「（小声で、憤慨）う、うぐぐぐっ……この悪党！！
……あ、あんまり高すぎる料理はＮＧですから……ね！？」
ビーコン「（小声で）ヒヒヒ、毎度ありっス～☆」
ピグモン「はう～……ビーコンちゃんたち、何こそこそ喋ってるの～？」
宙マン「（首を傾げて）……さぁ……ねぇ？」
十人十色の思いを包みこんで……
今日も千歳は、のどかな春のまどろみの中。
はてさて宙マン、次回の活躍や……いかに！？
