木々の草も生い茂り、溢れんばかりの生命力を滾らせるこの季節――
北海道は今や、生命の輝く初夏であった。
そんな大前提のもと、今回の『宙マン』もまた、毎度おなじみの舞台である
千歳市ほんわか町5丁目の「宙マンハウス」からその幕を開ける。
宙マン「ふぅ~、さっぱり、さっぱり!
庭仕事で一汗かいた後のシャワーは、格別の気持ちよさだねぇ」
ピグモン「はうはう~、宙マン、お疲れ様なの~」
ビーコン「ヒヒヒ、毎日毎日ご精が出るっスね~、アニキ。
オイラ、思わず感心しちまうっスよ~」
落合さん「(ジト目)感心するのは結構なんですけどね。
ビーコンさんも、少しはお殿様を手伝われてはいかがです?」
ビーコン「いやいや~、オイラは風のような自由人っスから☆」
落合さん「(呆れて)……これですものねぇ!」
宙マン「はっはっはっはっ」
そんなこんなの軽口も含めて、いつも通りの平和な団欒。
と、そこへ――
「おお~い、宙マンさん、宙マンさ~んっ!」
落合さん「あら、熊澤様ではございませんの!」
宙マン「こんにちは、今日もまたいい日和で!」
ビーコン「ヒヒヒ、もしかして初夏の山菜、お裾分けっスか?」
熊澤さん「や、そうするつもりだったけどねぇ。
でも、でもでも、今日はそれどころじゃないんだよ――!」」
宙マン「(察して)……山の中で、何かありましたか!?」
熊澤さん「……(こくこくっと頷き)」
落合さんの淹れた紅茶を飲んで、ひと心地ついた熊澤さん曰く……
フキや蕨、筍などと言った山菜類を求め、勝手知ったる山の中へ
足を踏み入れたところ、不意に立ち込めてきた濃い霧に混じって
不気味に生臭い、魚の臭いが濃密に漂ってきたのだ、と言う。
落合さん「はぁ、魚の臭い……ですか」
宙マン「海辺ならともかく、千歳の山の中で魚の臭いとは……」
熊澤さん「ねっねっ、変でしょ、奇妙でしょ!?」
ビーコン「……どう思うっスか、落合さん?」
落合さん「そうですわねぇ、俄かには信じがたいですけど……
普通では考えられないことですもの、魚の臭いなんて」
ビーコン「んじゃ、普通じゃない出来事だとしたら、どうスか?」
落合さん「……普通じゃ、ない?」
ビーコン「(頷き)そうっスね、例えば――」
と、その時である!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
ビーコン「おおおっ、これこれ! 正にこんな感じっスよ!!」
落合さん「……って、喜んでる場合ですかっ!(汗)」
大地が揺れ、めきめきと音を立てて道路が割れ裂ける。
そして、巨大な水の柱を立ち上げて……
濛々たる蒸気の中から、姿を現わした異形の巨体とは!?
「ピギャアアア~んっ!!」
熊澤さん「どわぁぁ~っ! さ、魚だよ、バカでかい魚っ!(汗)」
落合さん「魚どころではございません、あれはもう怪獣ですわ!」
ビーコン「そう言えばあの怪獣、確か……」
宙マン「(頷き)ムルチ。……巨大魚怪獣・ムルチだ!」
ピグモン「ピグちゃんも前に、ながもんちゃんの御本で見せてもらったの~」
宙マン「そうか、これで腑に落ちたぞ。
熊澤さんが山で嗅いだ臭いは、ムルチ出現の前兆だったのか!」
落合さん「確かに……そう考えるのが妥当でしょうね」
ムルチ「(怪訝そうに)……ピギャアァァ~ッ、あァん?
俺の臭いがどうかしたってのかぁ、オラぁ?」
宙マン「あぁ、いやいや、何でもないよ!」
熊澤さん「そうそう。こっちの話、こっちの話!」
宙マン「と言うわけで、ふとした疑問も綺麗に解決したところで……
今回のお話はこれにて、って事で!」
落合さん「また、次回のお話でお目にかかりましょうね♪」
今日も本当にありがとう、宙マン!
さて、次回はどんな活躍を見せて……
「……って、コラ!
か、勝手に終わらすなやぁぁ~っ!!(汗)」
イフ「えぇい、奴らのペースに惑わされるな、ムルチよ!
連中の疑問が解決しようが、そのまま残ろうが……
お前の成すべきことはただひとつ、千歳の徹底破壊じゃ!」
ムルチ「ピギャアァァ~ッ、ですよね、そうですよねぇ魔王様!
えぇもう、張り切って行かせてもらいますともさ!」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始するムルチ!
迫り来る巨体を前にして、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
ビーコン「どひ~っ、なんつーハタ迷惑な魚っスか!(汗)」
落合さん「全くもう、怪獣軍団の方々はコレだから……!」
ピグモン「はわわ、ボヤいてる場合じゃないの~!(汗)」
巨大魚怪獣の暴虐、許すまじ!
千歳の平和を守るべく、航空防衛隊が直ちに出撃した。
落合さん「ああ、何て頼もしい真紅の機体でしょう!」
ビーコン「なんつーか、通常の三倍くらい強そうっス!」
ピグモン「はうはう~、防衛隊のおじさんたち、がんばってなの~!」
「ようし……全機、一斉攻撃開始っ!」
激しいアタックをかける、真紅の戦闘機隊!
持てる火力の全てが、怒濤のごとくムルチめがけて叩きこまれる。
ムルチ「ピギャアァァ~ッ、小うるさい奴らめ!」
大きく裂けた口が、グワッと勢いよく開かれた次の瞬間……
ムルチの口から吐き出された熱線が、戦闘機隊めがけて迸った!
「……ど、どわぁぁぁぁ~っ!?」
げに恐るべきは、怪獣ムルチの熱線照射!
戦闘機隊は勇戦空しく、一機、また一機と撃墜されていく。
熊澤さん「あぁっ、やられちゃったぁ!」
ビーコン「色が赤けりゃ、強いわけでもなかったんスねぇ!?」
落合さん「正直、割と期待はしていたのですけど……(汗)」
落合さん「そんなことより、このままでは……」
ビーコン「千歳が、千歳が、大ピンチっス!」
ピグモン「はわわわ……宙マン、何とかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うムルチの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
巨大魚怪獣、悪ふざけはそのくらいにしておくがいい!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いよっしゃ! アニキの十八番が出たっスよ!」
落合さん「ああ、やはり素敵ですわ、お殿様っ!(うっとり)」
熊澤さん「宙マンさん、よろしく頼んだよぉ……!」
ムルチ「ピギャアァァ~ッ、出たな宙マン!」
宙マン「ああ、本当ならば隠居らしくノンビリしてたいところだが……
君らのヤンチャのせいで、そうもいかない有様さ!」
全身にみなぎる怒りを力に変え……
ファイティングポーズをとって、敢然と身構える宙マン。
ムルチ「ピギャアァァ~ッ、行くぞぉ、宙マン!」
宙マン「聞き分けのない奴め、どこからでも来い!」
真っ向激突、宙マン対ムルチ!
人々が見守る中、今日もまたまたスーパーバトルの幕が開く。
両腕の鰭によるチョップ攻撃と、大きな口の噛み付き殺法。
そこに持ち前の凶暴性が加わった時、巨大魚怪獣ムルチの威力は
怪獣軍団でも屈指の破壊力となって爆発するのだ。
だがしかし、力と技ならば宙マンだって負けてはいない。
両者、格闘戦での勝負はほぼ互角!
宙マン「ふふん、なかなかやるじゃないか!?」
ムルチ「ピギャアァァ~ッ、こんにゃろ~っ!
無駄に余裕ぶっこきやがって、超ムカツク~っ!」
バキィィッ!
ムルチ、怒りの体当たり!
抑えこみにかかっていた宙マンの巨体を弾き飛ばし、逆に地面めがけて
勢いよく叩きつけてしまう。
ムルチ「ピギャアァァ~ッ、まだまだ! どんどんいくぞ!」
ムルチの熱線放射!
宙マンの周囲に凄まじい爆発を生じさせ、そして……!
グワーン! ズガガガガーンっ!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
熊澤さん「げげぇっ、ちゅ、宙マンさん!?」
落合さん「いけませんわ、このままではお殿様が……」
ビーコン「どひ~っ、マジでシャレになんねぇ事態っス!(汗)」
ピグモン「はわわわ……宙マン、負けないでなの~!」
ジャタール「ひょほほほっ! これは――」
グロッケン「このまま、今度こそはマジでいけるかもしれやせんぜ!
ねぇっ、魔王様!?」
イフ「いいや、「かも」ではないぞ、いけるのだ!
さぁ、一気にやってしまえ、ムルチよ!
怪獣軍団は最強だと、全宇宙に向けて知らしめるのだ!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ!」
ムルチ「ピギャアァァ~ッ! 悪く思うなよ、宙マン!
今日がお前の命日だ、潔く死んでもらうぜ!」
「なんの、これしき……負けて、たまるかッ!」
宙マン、起死回生のパワー全開!
ムルチの熱線をひらりとかわして、大空高くへとジャンプ!
ムルチ「(驚愕)うぉ、おおおっ!?」」
宙マン「さぁ、今度はこっちがお返しする番だな!」
宙マン「セイヤァァーっ!
宙マン・トルネード・キック!!」
空中で全身を高速回転させながら、敵めがけて突っ込む必殺技……
トルネードキックの一撃が、ムルチの胸板に炸裂!
宙マン「とどめだ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ムルチを直撃!!
ムルチ「ま……まな板の上の、ムルチのごとくぅぅ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
熊澤さん「おおっ、やったやった、さすがは宙マンさんだねぇ!」
ビーコン「そりゃそうっスよ、なんたってウチのアニキっスもん!」
落合さん「現役引退後も、銀河連邦の英雄は未だ健在なりですわ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
人々の笑顔と歓声が、宙マンの勝利を讃える――
青空の下に立ちつくす巨体は、どこまでも雄々しく、逞しかった。
イフ「ぐぬぬぬ……何という、何ということだ!
宙マンめが、またしてもワシらの邪魔だてをしおって……
だが、覚えておれよ、この次こそは思い知らせてくれる!!」
……などという、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの大活躍によって、巨大魚怪獣・ムルチは撃退され
千歳の街には、再び元の平穏が戻ってきたのであった。
熊澤さん「やぁやぁ、宙マンさん、ありがと!」
熊澤さん「ありがと、ありがと、ホントにありがとっ。
これでまた安心して、山菜採りのために山へ入れるよ!」
宙マン「はっはっはっ、オーバーだなぁ、熊澤さん。
私はね、ただ……
地域の一住民として、当然のコトをしたまでですよ」
熊澤さん「いやいや~、それがなかなか出来ることじゃないんだよぉ」
落合さん「(苦笑しつつ)えぇ、確かに……
それもひとえに、お殿様の超能力あったればこそ、ですものね」
ピグモン「はうはう~、宙マン、かっこよかったの~♪」
ビーコン「ヒヒヒ、さ~て、さてさて……
騒動が一段落して安心したところで、熊澤さんは山へ山菜採りに。
そして、オイラと落合さんは――」
落合さん「(ジト目)……私と、ビーコンさんは?」
ビーコン「ベッドルームで、しっぽり命のお洗濯っス~☆」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、このエロ怪獣っ!
せっかくの余韻をブチ壊すんじゃありませんっ!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、6月も落合さんは容赦ないっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
怪獣・怪人、どんと来い……
千歳の平和は、渡しやしない。
次回もまたまた、宙マン大活躍だよ~!