

北海道千歳市――
街を吹き渡る風も、今やすっかり秋の気配。

毎度お馴染み・千歳市ほんわか町5丁目。
「宙マンハウス」の庭園においては、美人メイドの落合さんが
今日も今日とて落ち葉掃除の真っ最中であった。

落合さん「♪海の底から 旨そな匂いするは
朝飯前の 攻撃済んで
揚げるお芋の 魚雷型~~♪♪」
穏やかな、本当に平和そのものの秋の午後。

だが、その一方で……
航空防衛隊・千歳基地の動きは、俄かに不穏な慌ただしさを見せていた。

爆音を響かせ、編隊を組んで、次々に飛び立っていく戦闘機。
その勇壮な飛行は、「宙マンハウス」の庭先でも容易に見てとれた。

ピグモン「あっ、防衛隊のヒコーキなの!」
ビーコン「こんな時間に、また訓練飛行っスかねぇ」
落合さん「……それにしては、雰囲気が変じゃありませんかしら?」

宙マン「うん、それは何となく私も感じたよ。
訓練と言うよりは、実戦での出撃に近いような……」
落合さん「お殿様が仰るのでしたら、それも頷けますわね。
(ハッとして)……と、言う事は……」
ビーコン「まさかまた、どっかで事件が!?」
宙マン「(苦笑)まぁ、あくまで「何となく」の勘だけどねぇ――」

宙マン「(首を振り)……ああ、ダメだ、一旦気になりだすともうダメだ。
済まない、ちょっと行って確かめてくるよ!」
ビーコン「ちょ、アニキ、今からっスかぁ!?」
落合さん「もうすぐお夕飯ですので……
お早めのお帰り、くれぐれもお願いしますわね!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、行ってらっしゃいなの~♪」

全速力の宙マン・ダッシュ!
自動車をも上回るスピードで、戦闘機隊の向かっていった方角へ
疾風のように突っ走っていく我らがヒーロー。

そして、そんな宙マンの向かった先……
千歳市郊外の山奥では、今まさに怪獣軍団の恐怖の侵略計画が
その幕を開けようとしていたのだ!

ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!

紅葉に染まる千歳の山を、突如として揺さぶった局地地震。
メリメリと音を立てながら大地を割り裂いて……
濛々と吹き上がる、赤い噴煙の中から立ち上がったのは!?

「ギョゴボボボぁぁ~っ!!」
奇怪な唸り声と共に、地上にその姿を現した巨体……

それはもちろん、怪獣魔王が暗黒星雲から遣わした尖兵。
セゲル星出身の暴れ者、毒炎怪獣セグメゲルだ!
セグメゲル「ギョゴボボぁぁ~っ!
魔王様、怪獣魔王イフ様、セグメゲルはこれに!」

イフ「よしよし、元気一杯だな、それでよいのだセグメゲル!」
セグメゲル「今の時期の北海道は、何を食べても美味しくて……
おかげ様で、全身にパワーが充ち満ちておりますよ!」

イフ「山のキノコ類に海の海産物、その他もろもろ……
秋の北海道は、まさに旨いものの宝庫と言ってよかろう。
だからこそ……」

イフ「左様、だからこそ!
そんな北海道の山々を、お前の全身からの毒素によって
ことごとく不毛の荒野へと変えるのが今度の作戦だ」
セグメゲル「ギョボボボ、しかし魔王様!
それをやっては、せっかくの今年のキノコ類が……」
スライ「んー、ふふふ、それこそがこの作戦の肝です!」

スライ「今年のキノコが食べられず、落胆している北海道民に
我々の倉庫に備蓄してある「キノコ炊き込みご飯の素」を
破格の安値で売りに出せば、地球人どもは必ず飛びついてきて
魔王様への感謝とともに、怪獣軍団の忠実なしもべとなり……
戦わずして、北海道は我らの手に落ちたも同じ!」
セグメゲル「ギョボボ~、なぁるほどっ!」

スライ「「キノコ炊き込みご飯の素」は、既に大量確保しております。
その買いつけ分を不良在庫化させないためにも……
此度の作戦、もはや後には退けません!」
イフ「そういう事だ、だからこそお前の力が不可欠なのじゃ。……
……やってくれるな、セグメゲル!?」
セグメゲル「ギョボボ~、お任せ下さい、魔王様!」

セグメゲル「ですが、その前に。
……ちぃと、お客さんの「歓迎」を!」
セグメゲルが、ギロッと睨みをきかせた大空……
そこには、今まさに駆けつけてきた戦闘機隊の姿があった。

「やっぱりいたな、怪獣め……
ようし、全機一斉攻撃開始っ!」

怪獣めがけて叩きこまれる、戦闘機隊のブライトレーザー!
だが、そんな最新鋭の超兵器をもってしても、セグメゲルには
いささかの痛痒も与えることが出来ない。
セグメゲル「ギョゴボボ、「ぶぶ漬け」どうどすかぁ!?」

「……ど、どわぁぁぁ~っ!?」
高熱に加え、成分中の毒素があらゆる物を腐食させる……
セグメゲルの“毒炎怪獣”たる所以は、そこにある。
恐怖の毒炎によって、次々に撃墜されていく戦闘機!

イフ「おお、相変わらず素晴らしいぞ、セグメゲル。
その力をもってすれば、作戦成功は疑う余地もなし!」
セグメゲル「ギョゴボ~、勿論ですとも、魔王様!」

セグメゲル「この俺の力をもってすりゃあ……
こんな山の一つや二つ、あっという間に腐らせて……!」
「おおっと……
流石にそれは聞き捨てならないねぇ!?」

セグメゲル「ギョボボッ、だ、誰だ!?」
不意に響いてきた凛たる声に、慌てて振り返る毒炎怪獣。
山道を踏みしめて毅然と歩いてきたのは、もちろん彼だ!

セグメゲル「ゲゲェっ、お、お前は……宙マン!?」
宙マン「(頷き)話は聞かせてもらったよ、怪獣軍団」

宙マン「みんなが楽しみにしている、秋のキノコを台無しにしようなど……
数あるワルサの中でも、もっとも許されざる事だ!」
セグメゲル「ギョボボ~ッ、うるせぇ!
俺の邪魔するってんなら、容赦ァしねぇぞ!」

地響きを立て、猛然と迫ってくるセグメゲルの巨体。
その勢いに乗せて、一気に宙マンを踏み潰すつもりなのだ!
宙マン「やっぱりこうなるか、ならば……
やむを得ん! 宙マン・ファイト・ゴー!!」

閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
猛りたつセグメゲルの前へ、敢然と立ちはだかるこの雄姿!

セグメゲル「ギョゴボボ~、相変わらずカッコつけやがって!」
宙マン「怪獣セグメゲル、千歳の山での悪事は許さん!」

ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。

セグメゲル「ギョゴボボ、今度こそやっつけてやるぞな!」
宙マン「やらせはせんぞ、正義のためにも!」

真っ向激突、宙マン対セグメゲル!
紅葉に彩られた山中で、凄絶なる巨大戦が幕を開けた。

自慢の怪力でパンチ攻撃を仕掛けてくるセグメゲル。
負けじと宙マンも、磨き抜かれた格闘技で渡り合う。

力と力、技と技。
響き渡る打撃音とともに、両者の意地が拮抗!
宙マン「そりゃっ、こいつを受けてみるがいい!」

気合一発、宙マンの回し蹴りが敵の脇腹にヒット!
痛烈な打撃に、ズズッと後退を余儀なくされるセグメゲル。

セグメゲル「ぎょ、ギョゴボボぼぁっ……」
宙マン「どぅれ、一気に決めさせてもらおうかね!」

抜群の跳躍力で、大空高く舞い上がる宙マンの巨体。
空中回転の勢いも加え、得意の技を繰り出そうとした時!
セグメゲル「ギョゴボボ~、ナメるんじゃねぇっ!」

「う、ぐわぁぁぁぁ……っ!」

セグメゲルの毒炎が、空中の宙マンを直撃!
高熱と腐食、相乗効果によるダメージが相まって……
ぐらりとバランスを崩し、墜落してしまった宙マンである。
ジャタール「ヒョホホ……やりおるねぇ、セグメゲル!」

スライ「そうでなくてはいけません、それでこそ本作戦の要!」
イフ「その通りじゃ、皆もこうして応援しておるぞ――
宙マンにとどめを刺して、作戦を成功に導くのだ!」

宙マン「(苦悶)うう……う、ううっ!」
セグメゲル「ギョゴボボ~、ざまぁねぇな、宙マン。
そんな風に恥を晒すのも辛いだろう――
すぐ楽にしてやるぜ、骨まで溶かし尽くしてなぁ!」

「なんの、そうはいくものか――
くらえ! 宙マン・閃光波!」

ピッキュイィィーン!

高らかな音とともに、宙マンの手にストロボ状の発光が生じ……
次の瞬間、セグメゲルの眉間で激しい爆発が起こる。
セグメゲル「(悶絶)ぎょ、ギョゴボボぁ……っ!」

よろめく怪獣の隙を突き、再び大空へジャンプする宙マン。
宙マン「行くぞ、セグメゲル!」

「デリャァァーッ!
宙マン・火輪カッター!!」

熱エネルギーを身にまといながら、空中で高速回転し……
自らを炎の刃と化して、敵めがけて突撃する宙マンの荒技。
火輪カッターが、セグメゲルに炸裂!!

セグメゲル「ギョゴボぁぁ~、ま、参ったぁ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!

そして、正義の必殺技でセグメゲルを降した宙マンは……
華麗な空中回転とともに、鮮やかな着地を決めたのであった。
宙マン「ふう……どうやらこれで、この一件もやれやれか」

かくして、我らが宙マンの活躍により……
千歳の山に迫る危険は退けられ、再び平和が蘇った。
が、それでおさまらないのは、勿論……。

イフ「うぐぐぐっ……またも、またしても宙マンめが!
今に見ておれ、この仕返しは必ず……」
スライ「魔王様、それも確かにシャクですが……」

スライ「せっかく買い付けた「キノコ炊き込みご飯の素」。
作戦失敗で、使い道が無くなり……一気に不良在庫化ですよ!
……魔王様、これらの処分、いかが致しましょうや!?」
イフ「ううむっ、重ね重ね宙マンの奴めが……!」

イフ「……炊き込み飯の素、このまま消費期限切れとは忍びない。
やむを得ん、ならば今夜はキノコ炊き込みご飯だ――
皆の物、しっかり食べて地球侵略のパワーをつけよ!」
スライ「ははぁーっ、仰せの通りに!」

と言うわけで、怪獣軍団の夕飯は炊き込みご飯に大決定。
そして、千歳の「宙マンハウス」においても……。

落合さん「お待ちどうさまでした、お夕飯ですよ!」
宙マン「おおっ、これこれ、この匂い……!」

ピグモン「はうはう~、ボリボリのお味噌汁なの~♪」
ビーコン「ヒヒヒ、北海道の秋は、やっぱコレっスよねぇ!」
宙マン「落合さんの腕の冴え、大いに堪能しようじゃないか。
それじゃ、手と手を合わせて……」

「「「「いただきまーっす!!」」」」

吹き抜ける北風も怯むほど……
元気でホットな、宙マンファミリー。
次回もますます、愉快に大活躍だよ~!




