4月を目前に控え、積もった雪も溶け去って……
外の空気も、優しいぬくもりに満ち溢れつつある今日この頃。
北のさいはて・北海道。
ここにようやく、名実ともに春を迎えたのであった。
ここ・千歳市ほんわか町5丁目の「宙マンハウス」もまた
何時にも増して、のんびり、ゆったりな空気に包まれていた。
……のだが。
その一方で……
航空防衛隊・千歳基地の動きは、俄かに不穏な慌ただしさを見せていた。
爆音を響かせ、編隊を組んで、次々に飛び立っていくジェット戦闘機。
その勇壮な飛行っぷりは、「宙マンハウス」の庭先でも容易に見てとれた。
ピグモン「あっ、防衛隊のヒコーキなの!」
ビーコン「訓練飛行っスかねぇ、いつも精が出るっスね~」
落合さん「でも……それにしては、しょうしょう仰々し過ぎませんかしら?」
宙マン「うん、それは私もそう感じたよ。
何て言うのかな……実戦さながらの緊迫感、って言ったらいいかな?」
ビーコン「……うー、経験豊富なアニキが言うと説得力が違うっスねぇ」
落合さん「と言うことは……また、どこかに悪い怪獣が!?」
宙マン「かもしれないね。
……気になるんでちょっと様子を見て来る、夕飯までには戻るよ!」
落合さん「あらあら、行ってらっしゃいませ、お殿様!」
ビーコン「(呑気に手を振り)いえっふ~、アニキ、気ぃつけてっス~」
全速力の宙マン・ダッシュ!
自動車をも上回るスピードで駆け抜け、戦闘機隊の向かっていった方角へと
疾風のように突っ走っていく我らがヒーロー。
そして、そんな宙マンの向かった先……
郊外の山奥では、今まさに怪獣軍団の悪企みが始まろうとしていたのだ!
イフ「さぁ、今こそ立ち上がれ、怪獣軍団の勇猛なる戦士よ!
地球を征服し、ワシら怪獣が支配者として君臨する時は今なるぞ!
行け! 行け、行けーいッ、魔神怪獣コダイゴン!」
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
「ヌオォォォォ……ンッ!!」
低い唸り声と共に、地上にその姿を現した巨体……
古代戦士の戦装束を思わせる、武骨なスタイルの大怪獣!
怪獣軍団の一員、魔神怪獣コダイゴン。
コダイゴン「蓮根の湖から、ご当地・千歳にはるばる到着ぅ~!」
イフ「うむっ、大儀であるコダイゴン!
だが到着したてのところ、悪いが……
お前にはこれから、重要な任務をこなしてもらわねばならん」
コダイゴン「ウォォォン……何を仰いますやら、魔王様。
蓮根神社で戦さの神として祀られていた拙者、三度の飯より喧嘩好き……
早く暴れたくて、今からうずうずしておりまする!」
イフ「よしよし、実に頼もしいことよ!」
イフ「……では、改めて確認しておくぞ、コダイゴンよ。
この地球にてお前の為すべき使命、それは……」
コダイゴン「(その言葉を遮って)……むむっ!」
イフ「今度はどうした?」
コダイゴン「あいや。魔王様、少々お待ちを――」
「……すぐに、“掃除”を終わらせますゆえ……!」」
コダイゴンが、ギロッと睨みをきかせた大空……
そこには、今まさに駆けつけてきた戦闘機隊の姿があった。
「やっぱりいたな、怪獣め……
ようし、全機で一斉攻撃をかけるぞっ!」
怪獣めがけ、雨あられと叩きこまれるロケット弾!
だが、武骨で堅牢な甲冑に全身を覆っているコダイゴンの前には
それらの猛攻撃でさえも全く効果をなさない。
コダイゴン「ウォォォンっ……この、たわけが!」
「ど、どわぁぁぁ~っ!?」
げに恐ろしきは、コダイゴンの手先から迸る火炎!
その威力によって、勇戦空しく全滅となった戦闘機隊である。
イフ「ううむっ、見事じゃコダイゴン!
それでよい――もはや、お前に言うべき事は何もない!」
コダイゴン「ウォォ~ンっ、万事このコダイゴンめにお任せを!
我が力によって、瞬く間に千歳を全滅させ……」
「おおっと待った、そうはさせないぞ!」
コダイゴン「(訝しんで)ムムウッ、何奴!?」
不意に響いてきた凛たる声に、慌てて振り返る魔神怪獣。
山道を踏みしめて毅然と歩いてきたのは、もちろん彼だ!
コダイゴン「ウォォォンっ、誰かと思えば……」
宙マン「そうとも、ご存知……千歳市民の宙マンだ!」
宙マン「また何か、物騒なことをしようとしてるみたいじゃないか。
悪い事は言わないから、やめておくがいい――
……どうせ、失敗するに決まってるんだから!」
コダイゴン「何っ!?」
宙マン「ああ、怪獣軍団の好き勝手になどさせないさ。
私がこうして、この場にいる以上はね!」
コダイゴン「こ……小癪なァァッ!」
巨体を唸らせ、宙マンめがけて迫るコダイゴン!
宙マン「あくまでやる気か!
ならば、やむを得ん……宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、コダイゴンの前へと舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
千歳の平和を乱そうとする奴は、私が許さんぞ!」
ズ、ズーンっ!!
宙マン「いま一度言う、大人しく暗黒星雲に帰れ!」
コダイゴン「ウォォォ~ンっ、聞く耳持つか!」
ファイティングポーズをとり、決然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまたスーパーバトルの幕開けだ!
コダイゴン「ウォォォ~ンっ、どの道いつかは仕合わねばならぬ相手。
さぁ来い宙マン、拙者が捻り潰してくれようぞ!」
宙マン「いいだろう、ならば勝負だ!」
真っ向激突、宙マン対コダイゴン!
北海道の原野を舞台に、巨大戦が凄絶なる火花を散らせる。
乱心した戦さ神の猛々しさで宙マンに迫ってくるコダイゴン。
その打撃をかいくぐりながら、宙マンは務めて冷静さを保ちつつ
相手の隙を伺い、果敢に敵の懐へと飛びこんでいく。
コダイゴン「ウォォォ~ンっ、お前の技はそんなものか!?」
宙マン「なんの、だったら……これならどうだ!」
炸裂、宙マン得意の浴びせ蹴り!
びしっと小気味よい打撃音を立てて、敵に鋭いキックが決まれば
さしもの頑健なコダイゴンも怯み、後退せざるを得ない。
宙マン「どうだ、参ったか!?」
コダイゴン「ウォォォ~ンっ……侮るでないぞ、宙マン!」
バキィィィッ!
無造作に繰り出した、コダイゴンの一撃が宙マンにヒット!
何しろ超怪力の持ち主だけに……
そんな一発でも、当たればダメージの量が尋常ではない。
更に、コダイゴンの火炎が宙マンに追い打ちをかける!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
コダイゴンの連続攻撃にダメージを受け、地面に倒れてしまった
我らがヒーロー、宙マン……危うし!
コダイゴン「ウォォォ~ンっ……思い知ったか、我が力!」
宙マン「(苦悶)……うう、うっ……!」
コダイゴン「さぁ、約条通りに……捻り潰してくれようぞ!」
「いいや、まだまだ……やられて、たまるかッ!」
おもむろに、宙マンめがけて火炎を放つコダイゴン!
が、宙マンもまた、とっさにパワー全開――
得意の回転戦法で、ひらり、ひらりとこれをかわしていく。
コダイゴン「おのれ……ちょこまかと!」
怒り、更なる火炎噴射で攻めたてるコダイゴン。
だがそれは、宙マン・プロテクションの前に無力化された。
コダイゴン「(驚き)な、何とっ!?」
宙マン「さぁ、今度は私がお返しさせてもらう番だな!」
コダイゴンの眼前で、大空高くジャンプする宙マン!
空中回転によって勢いをつけ、急降下で繰り出すその技は――
宙マン「テリャァァーっ!
宙マン・南十字チョップ!!」
両腕を真っ赤に燃え上がらせて放つ、渾身のクロスライン!
正義の南十字チョップが、コダイゴンの急所へ見事に決まった。
コダイゴン「ウォォォっ……ざ、残念、無念……!」
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「ぐぬぬぬっ……またしても宙マンにしてやられたか!
覚えておれ~ッ、次こそは必ず……!
怪獣軍団の恐ろしさ、思い知らせてやるぞ~ッ!!」
……と、怪獣魔王がいつもの負け惜しみを叫ぶまでが毎度の恒例。
かくして宙マンの活躍により、大怪獣コダイゴンは撃退され……
千歳の山林には再び、平穏なやすらぎが戻ってきたのであった。
宙マン「ふぅ、どうやらこれで一件落着、っと。
……あぁ、ひと仕事済んだら、お腹がすいちゃったなぁ!」
そして、そんな宙マンを待ってくれているお昼ごはんは……
落合さん謹製・根菜たっぷりの旨煮が主菜。
ほっこり、しみじみ、心と体が安心する一皿であった。
平和の春呼ぶ、宙マンパワー。
さぁて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?