2004年には、国土交通省が行っている全国一級河川の水質調査において
堂々の第1位に選ばれていると言う清流である。
だが、その清らかな川の流れを汚すかのように、今。
この沙流川上流部の渓流において、恐るべき悪の企みが進みつつあった!
イフ「さぁ、今こそいでよ、栄光ある怪獣軍団の戦士たちよ!」
イフ「怠惰な平和を貪る、地球人どもの頭上に鉄槌を下し……
この緑豊かな地球を、我ら怪獣軍団の手に入れる時が遂に来たのだ。
さぁ、立ち上がれ、そして戦え!」
沙流川上流部に響き渡る、恐るべき怪獣魔王の宣言。
その声に応えて、すっくと立ち上がった者たちは――
「ヴォッフォッフォッフォッ……!」
まずはこちら……
数々の怪忍術を会得した怪獣界屈指のテクニシャン、宇宙忍者バルタン。
「ぐおぉぉぉ~~んっ!!」
片や、もう一頭はこちら……
驚異的なスタミナに定評のある怪獣界きってのタフガイ、暴れん坊イカルス。
名にしおう喧嘩好き二頭が、沙流川流域に今、その姿を見せた。
スライ「んー、ふふふふ、バルタン君にイカルス君!
君たちの使命はただひとつ……わかってますよねぇ!?」
バルタン「(頷き)恨み重なる、にっくき宙マンを……」
イカルス「……ギッタンギッタンにして、倒すこと!」
スライ「んーふふふ、よろしい!」
スライ「ヤマメ料理の専門店「仁世宇園(にせうえん)」……
昨日のワイドショー番組において、このお店が紹介されていたからには
宙マンたちは必ず、この沙流川上流部までやって来る!」
イフ「うむっ、相変わらず鋭い読みだな、“魔導の”スライよ!」
スライ「二人で同時にかかれば、いかな宙マンとて敵ではぎございません。
二人それぞれに、それは素晴らしいご褒美の品も用意してありますから……
お二人で力を合わせ、見事、任務を完遂していただきたいっ!」
イカルス「おうおうっ、万事承知だぜ、スライの旦那!
バルタンよ、ここは俺とお前とで力を合わせて――」
バルタン「ヴォッフォッフォッ……そうはいくかっ!」
で - ん
イカルス「あ、痛だだっ……手前ェ、いきなり何しやがる!?」
バルタン「うるせェ! お前みたいなトンマと組むなんざ真っ平御免だ――
宙マンごときの相手は、この俺一人で充分なんだ!
でもって、ご褒美の商品も二人分まとめて、全部俺のものだ!」
イカルス「(ムカッ)……野郎っ、本音はそれかぁ!
そりゃこっちの台詞だぜ、全部まとめてお前に叩き返してやらぁ!」
褒美の品に目がくらんだか……
それとも人気怪獣ゆえのプライドの高さが生んだ愚行か。
血の気の多い二頭のこと、こうなってしまっては簡単には止まらない。
イフ「えぇい……何をやっておるか、この大馬鹿者ども!
……“魔導の”スライよ、これはお前の任命責任でもあるぞっ。
まずはとにかく、詳しい話を聞かせてもら(う)……」
スライ「(こそこそ逃げ出し)……私、知~らない、っと」
イフ「あーっ、こら馬鹿者! 逃げるなスライ!」
……と、怪獣軍団の皆さんが楽しく盛り上がっている一方で。
こんち、お馴染み宙マンファミリー。
昨日のワイドショー番組における紹介コーナーを見て、食用と好奇心を刺激され
家族揃って沙流川上流部、平取町の「仁世宇園」までやって来ていた。
確かにその辺り、“魔導の”スライの読み通りではあったのだった。
ビーコン「おおっ、見るっスよみんな、生け簀にヤマメが一杯っス!」
落合さん「沙流川の美しい水で、ここまで元気に育ったのでしたら……」
宙マン「はっはっはっ、これは嫌でも、味への期待が高まってしまうよ!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃん今からおなかペコペコなの~♪」
ビーコン「ウヒヒヒ、めっちゃ楽しみっスねぇ~!」
厨房の方からほんのりと漂ってくる、串焼きにされたヤマメの香ばしい煙が
他の何物にも代えがたい、食欲を煽る最高のオードヴル。
でもって、その一方では……
これ、この通り。
仲間割れしたバルタンとイカルスが、今もなお死闘を続けていた。
何しろ二頭揃って頭に血がのぼりやすい、無類のケンカ好きと来ているから
一度「こう」なってしまうと、どうにもこうにも止まらない。
が、「仁世宇園」の宙マンたちは、勿論そんな事など知る由もなく――
宙マン「おおっ! 来た来た、来ましたよ!」
ビーコン「うひょ~、コイツがヤマメ料理のフルコースっスか!
TVでも旨そうだったスけど、現物のインパクトはけた違いっスねぇ!」
ピグモン「はうはう~、どのお料理も美味しそう~。
ピグちゃん、どれから食べたらいいか目移りしちゃうの~」
落合さん「(微笑)ええ、全くですわね、ピグモンちゃん。
それでは私、まずはこのお刺身から……
(ぱくっ)……あら、美味しい~!」
落合さん「見て下さいませ皆様、この切り身の透き通って綺麗なこと!」
宙マン「川魚だから淡白・淡麗なんだけど、その中に深いコクがあるんだよねぇ。
さすがは“渓流の女王”と呼ばれる魚だけのことはあるよ――」
ビーコン「そして、この綺麗な水の環境で育ったから、でもあるんスよねぇ。
ぜ~んぜん泥臭くなくて、なんつーか澄み切った旨さっス!」
落合さん「あーら、ビーコンさんにしてはお上手ですこと♪」
宙マン「ではお次、やっぱりコレ行きたいねぇ、塩焼き。
……んんっ、こっちもいけるよ、期待通りだ!」
ビーコン「内臓抜いて、串に刺して、塩振って炭火で焼く……
たったそれだけのシロモノが、どうしてこんなに旨いスかねぇ!?」
バルタン「上等だ、まだやんのか!?」
イカルス「おんどりゃ~っ、血ぃ見さらせィッ!」
落合さん「さーて、お次は……この唐揚げ、行っちゃいましょうか♪」
ビーコン「おおっ、これもいいっスねぇ――
高温で揚げてっから、頭も尻尾も、骨まで丸ごと行けちゃうっスよ!」
宙マン「食感が楽しいよねぇ、香ばしさも相まってたまらないよ。
で、この唐揚げに甘酢あんをかけると“南蛮漬け”になるわけか」
落合さん「甘酢あんのおかげで、唐揚げとは異なる爽やかさがありますわね」
ビーコン「ちょっとの手間で、味ってがらりと変わるもんスねぇ~」
落合さん「主婦の苦労と工夫、少しはリスペクトして頂けまして?」
ビーコン「へへーっ、お見それ致しましたっス~」
ピグモン「ピグちゃんね、このお料理が一番好きなの~♪」
宙マン「はっはっはっ、たくさんお食べ!(なでなで)」
と言う感じで、あっちもこっちも楽しく盛り上がったそんな午後。
いつしか、周囲には夕暮れが迫っていた。
宙マン「おお……もうこんな時間かぁ」
落合さん「9月に入ってから、陽の落ちるのが一気に早まりましたわね」
宙マン「(頷き)なんだかんだで……もう、秋なんだねぇ」
ビーコン「ウヒヒヒ、ヤマメ料理のフルコース……結構この上なしっした。
オイラもう、お腹いっぱい、幸せいっぱいっスよ!」
ピグモン「はうはう~、とっても美味しかったの~♪」
落合さん「またいずれ、機会を改めてお邪魔したいものですわね?」
宙マン「(頷き)ああ、そうだね。
……美味しいものも堪能したし、今日もいい一日だったなぁ。
さぁ、陽が落ちて暗くなる前に帰ろうか!」
美味しいヤマメ料理の余韻とともに、のんびり帰途に就く宙マンファミリー。
……だが、こっちの二頭はそれどころじゃない。
果てしなく、どこまでも果てしなく……死闘が続いているのであったとさ。
イカルス「このヤロ~ッ、今日と言う今日はトコトンやるぜ!?」
バルタン「いいだろう、どっからでもかかって来やがれっ!……」
嗚呼……
戦いつきず、陽は暮れて。