遊びをせんとや生まれけり

全ての「面白がりやさん」へ――千歳より、愛をこめて。

渓流に咲く血染め花の巻

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北海道日高振興局管内を流れ太平洋に注ぐ一級河川……

沙流川水系の本流でもある、沙流川(さるがわ)。

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2004年には、国土交通省が行っている全国一級河川の水質調査において

堂々の第1位に選ばれていると言う清流である。

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だが、その清らかな川の流れを汚すかのように、今。

この沙流川上流部の渓流において、恐るべき悪の企みが進みつつあった!

 

 

イフ「さぁ、今こそいでよ、栄光ある怪獣軍団の戦士たちよ!」

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イフ「怠惰な平和を貪る、地球人どもの頭上に鉄槌を下し……

 この緑豊かな地球を、我ら怪獣軍団の手に入れる時が遂に来たのだ。

 さぁ、立ち上がれ、そして戦え!」

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沙流川上流部に響き渡る、恐るべき怪獣魔王の宣言。

その声に応えて、すっくと立ち上がった者たちは――

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「ヴォッフォッフォッフォッ……!」

 

まずはこちら……

数々の怪忍術を会得した怪獣界屈指のテクニシャン、宇宙忍者バルタン。

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「ぐおぉぉぉ~~んっ!!」

 

片や、もう一頭はこちら……

驚異的なスタミナに定評のある怪獣界きってのタフガイ、暴れん坊イカルス。

名にしおう喧嘩好き二頭が、沙流川流域に今、その姿を見せた。

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スライ「んー、ふふふふ、バルタン君にイカルス君!

 君たちの使命はただひとつ……わかってますよねぇ!?」

バルタン「(頷き)恨み重なる、にっくき宙マンを……」

イカルス「……ギッタンギッタンにして、倒すこと!」

スライ「んーふふふ、よろしい!」

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スライ「ヤマメ料理の専門店「仁世宇園(にせうえん)」……

 昨日のワイドショー番組において、このお店が紹介されていたからには

 宙マンたちは必ず、この沙流川上流部までやって来る!」

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イフ「うむっ、相変わらず鋭い読みだな、“魔導の”スライよ!」

スライ「二人で同時にかかれば、いかな宙マンとて敵ではぎございません。

 二人それぞれに、それは素晴らしいご褒美の品も用意してありますから……

 お二人で力を合わせ、見事、任務を完遂していただきたいっ!」

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イカルス「おうおうっ、万事承知だぜ、スライの旦那!

 バルタンよ、ここは俺とお前とで力を合わせて――」

バルタン「ヴォッフォッフォッ……そうはいくかっ!

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 で - ん

 

イカルス「あ、痛だだっ……手前ェ、いきなり何しやがる!?」

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バルタン「うるせェ! お前みたいなトンマと組むなんざ真っ平御免だ――

 宙マンごときの相手は、この俺一人で充分なんだ!

 でもって、ご褒美の商品も二人分まとめて、全部俺のものだ!」

イカルス「(ムカッ)……野郎っ、本音はそれかぁ!

 そりゃこっちの台詞だぜ、全部まとめてお前に叩き返してやらぁ!」

 

褒美の品に目がくらんだか……

それとも人気怪獣ゆえのプライドの高さが生んだ愚行か。

血の気の多い二頭のこと、こうなってしまっては簡単には止まらない。

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イフ「えぇい……何をやっておるか、この大馬鹿者ども!

 ……“魔導の”スライよ、これはお前の任命責任でもあるぞっ。

 まずはとにかく、詳しい話を聞かせてもら(う)……」

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スライ「(こそこそ逃げ出し)……私、知~らない、っと

イフ「あーっ、こら馬鹿者! 逃げるなスライ!」

 

……と、怪獣軍団の皆さんが楽しく盛り上がっている一方で。

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こんち、お馴染み宙マンファミリー。

昨日のワイドショー番組における紹介コーナーを見て、食用と好奇心を刺激され

家族揃って沙流川上流部、平取町の「仁世宇園」までやって来ていた。

 

確かにその辺り、“魔導の”スライの読み通りではあったのだった。

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ビーコン「おおっ、見るっスよみんな、生け簀にヤマメが一杯っス!」

落合さん「沙流川の美しい水で、ここまで元気に育ったのでしたら……」

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宙マン「はっはっはっ、これは嫌でも、味への期待が高まってしまうよ!」

ピグモン「はうはう~、ピグちゃん今からおなかペコペコなの~♪」

ビーコン「ウヒヒヒ、めっちゃ楽しみっスねぇ~!」

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厨房の方からほんのりと漂ってくる、串焼きにされたヤマメの香ばしい煙が

他の何物にも代えがたい、食欲を煽る最高のオードヴル。

 

でもって、その一方では……

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これ、この通り。

仲間割れしたバルタンとイカルスが、今もなお死闘を続けていた。

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何しろ二頭揃って頭に血がのぼりやすい、無類のケンカ好きと来ているから

一度「こう」なってしまうと、どうにもこうにも止まらない。

 

が、「仁世宇園」の宙マンたちは、勿論そんな事など知る由もなく――

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宙マン「おおっ! 来た来た、来ましたよ!」

ビーコン「うひょ~、コイツがヤマメ料理のフルコースっスか!

 TVでも旨そうだったスけど、現物のインパクトはけた違いっスねぇ!」

ピグモン「はうはう~、どのお料理も美味しそう~。

 ピグちゃん、どれから食べたらいいか目移りしちゃうの~」

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落合さん「(微笑)ええ、全くですわね、ピグモンちゃん。

 それでは私、まずはこのお刺身から……

 (ぱくっ)……あら、美味しい~!

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落合さん「見て下さいませ皆様、この切り身の透き通って綺麗なこと!」

宙マン「川魚だから淡白・淡麗なんだけど、その中に深いコクがあるんだよねぇ。

 さすがは“渓流の女王”と呼ばれる魚だけのことはあるよ――」

ビーコン「そして、この綺麗な水の環境で育ったから、でもあるんスよねぇ。

 ぜ~んぜん泥臭くなくて、なんつーか澄み切った旨さっス!」

落合さん「あーら、ビーコンさんにしてはお上手ですこと♪」

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宙マン「ではお次、やっぱりコレ行きたいねぇ、塩焼き。

 ……んんっ、こっちもいけるよ、期待通りだ!」

ビーコン「内臓抜いて、串に刺して、塩振って炭火で焼く……

 たったそれだけのシロモノが、どうしてこんなに旨いスかねぇ!?」

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バルタン「上等だ、まだやんのか!?」

イカルス「おんどりゃ~っ、血ぃ見さらせィッ!」

 

落合さん「さーて、お次は……この唐揚げ、行っちゃいましょうか♪」

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ビーコン「おおっ、これもいいっスねぇ――

 高温で揚げてっから、頭も尻尾も、骨まで丸ごと行けちゃうっスよ!」

宙マン「食感が楽しいよねぇ、香ばしさも相まってたまらないよ。

 で、この唐揚げに甘酢あんをかけると“南蛮漬け”になるわけか」

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落合さん「甘酢あんのおかげで、唐揚げとは異なる爽やかさがありますわね」

ビーコン「ちょっとの手間で、味ってがらりと変わるもんスねぇ~」

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落合さん「主婦の苦労と工夫、少しはリスペクトして頂けまして?」

ビーコン「へへーっ、お見それ致しましたっス~」

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ピグモン「ピグちゃんね、このお料理が一番好きなの~♪」

宙マン「はっはっはっ、たくさんお食べ!(なでなで)」

 

と言う感じで、あっちもこっちも楽しく盛り上がったそんな午後。

いつしか、周囲には夕暮れが迫っていた。

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宙マン「おお……もうこんな時間かぁ」

落合さん「9月に入ってから、陽の落ちるのが一気に早まりましたわね」

宙マン「(頷き)なんだかんだで……もう、秋なんだねぇ」

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ビーコン「ウヒヒヒ、ヤマメ料理のフルコース……結構この上なしっした。

 オイラもう、お腹いっぱい、幸せいっぱいっスよ!」

ピグモン「はうはう~、とっても美味しかったの~♪」

落合さん「またいずれ、機会を改めてお邪魔したいものですわね?」

宙マン「(頷き)ああ、そうだね。

 ……美味しいものも堪能したし、今日もいい一日だったなぁ。

 さぁ、陽が落ちて暗くなる前に帰ろうか!」

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美味しいヤマメ料理の余韻とともに、のんびり帰途に就く宙マンファミリー。

 

……だが、こっちの二頭はそれどころじゃない。

果てしなく、どこまでも果てしなく……死闘が続いているのであったとさ。

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イカルス「このヤロ~ッ、今日と言う今日はトコトンやるぜ!?」

バルタン「いいだろう、どっからでもかかって来やがれっ!……」

 

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嗚呼……

戦いつきず、陽は暮れて。

 

 

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