12月25日、今日の地球はどこもかしこもクリスマスムード一色。
もちろんここ、北海道千歳市もその例外ではない。
寒いながらも、華やいで賑やかな街の装い。
年に一度の盛り上がり、この期を逃してなるものかとばかりに
道行く人々の表情も明るく、活気が宿って見える。
そしてここ、千歳市ほんわか町5丁目のお馴染み「宙マンハウス」でも
毎年恒例、親しい仲間たちが集まってのクリスマスパーティーに備えて
朝からせっせと忙しく宴会の準備が続いていたのであった。
と言うわけで、今回の『宙マン』は……
雪化粧に彩られた「宙マンハウス」より物語を始めよう。
みくるん「さぁっ、どんどん焼けますよぉ~!」
宙マン「んー、今年のもまた良い匂いだ、堪らないねぇ!」
ながもん「みくるんの、ミートパイは……いつ食べても……絶品」
みくるん「あ、つまみ食いはダメだよぉ、ながもん?」
ながもん「(ギクッとして)おう……バレテーラ」
次々に仕上がっていくパーティー料理、きらびやかな飾り付け。
クリスマスの準備は、それだけで人々の心を浮き立たせてくれる。
ピグモン「はうはう~、すてきすてき~!
ピグちゃん、今からもう夜が待ちきれないの~♪」
宙マン「はっはっはっはっ、私だってそうさ」
ピグモン「あれれ、それはそうと宙マン……
落合さんとビーコンちゃんがいないけど、どこ行っちゃったの~?」
宙マン「あの二人のことだから、きっと買い出しにでも行ってるんだろう。
なぁに、すぐに帰ってくるさ、心配いらないよ」
ピグモン「ふぅ~ん」
そう、宙マンの推察通り……
毎度お馴染み・落合さん&ビーコンの極楽コンビは「宙マンハウス」を抜け出し
千歳の市街地までやって来ていたのであった。
だが、宙マンをはじめ、誰もが考えるような「買い出し」かと言えば
どうも少しばかり事情が違っていたようで……。
落合さん「ああー、美味しいお蕎麦でしたわねぇ!」
ビーコン「普通の蕎麦と違って、ツナギでワカメの粉も練りこんであるから
あの緑色と一緒に、独特の風味と歯ごたえが出るらしいんスよ」
落合さん「新潟県の“へぎそば”みたいなものでしょうか」
ビーコン「(頷き)っスね~。
ヒヒヒ、そしてもうひとつ、今日の蕎麦が旨かった最大の理由は――」
ビーコン「そう、仕事をサボって、皆に内緒でこっそり食ったこと!
ズバリ、これに尽きるっスよね~!」
落合さん「(慌てて)シーッ、お声が大きいですわよっ!
……ふふふ、でも仰ることに異存はございませんわよ、ビーコンさん」
ビーコン「しっかりまぁ……
このクソ忙しい中、自分だけこっそり蕎麦っ食いのお道楽だなんて。
なんつーか、落合さんも結構ワルっスね~」
落合さん「出来るメイドの証明、と仰って欲しいものですわねっ。
適度に息を抜いてこそ、日々のお仕事もより確実にこなせますのよ」
ビーコン「ヒヒヒ、物は言いようっスね!」
落合さん「こっそり抜け出す途中で、ビーコンさんに見つかった時には
流石にどうしたものか、と冷や汗もかきましたけど……
でもまぁ、一回の食事分の口止め料で済むなら安いものですわ」
ビーコン「(ニヤニヤ)ノンノンノ~ン。
……さっきの蕎麦が口止め料だなんて、一体誰が言ったっスかぁ?」
落合さん「……はぁ!? ビーコンさん。あなた何を――」
ビーコン「いや~、オイラ、部屋のPC回りを一新したいんスよね~。
つきましては落合サンタさんに、資金面での援助を願えりゃあ……」
落合さん「な、何を仰ってるんです、図々しい! なんで私がそんな大金を……」
ビーコン「おろ、いいんスか!? そういう態度、ヤバくねっスか!?
ちょくちょく仕事サボって、一人でこっそり外食を愉しんでるだなんて
もしアニキに知れたら……ヒヒヒ、ん~!?」
落合さん「(歯噛みして)う、うぐぐぐっ……この悪党!」
教育上よろしくないこと甚だしい、握った弱みを傘に着てのタカリ行為。
これが官能小説であったなら、ぐっと淫猥な展開に雪崩れこんでいるところだが……
幸か不幸かこれは『宙マン』なので、次なる展開は当然、こうなるのである。
ズゴゴゴグワーンっ!!
落合さん「(驚愕)!?」
ビーコン「ど、どひ~っ……何なんスか、いきなりィ!?」
クリスマスの明るい賑やかさを破るかのごとく……
突如として起こる連続爆発。の凄まじい音と光をファンファーレに、
虚空から忽然とその姿を現した者とは!?
「ぬほっ、ぬほはははは……!」
ビーコン「ひぇぇ、やっぱりっスよ、やっぱりぃ!」
落合さん「怪獣軍団の方たちときたら……
クリスマス・シーズンでもお構いなしなんですものねぇ!」
「ぬほほほ、我が名はゴールドサタン。
影の国・惑星X出身……
そして今は怪獣魔王・イフ様の忠実なる配下でありますぞ!」
ゴールドサタン「ぬほほほ、魔王様、暗黒星雲よりご照覧あれ。
魔王様より直々に仰せつかりました、クリスマスの余興……
不肖ゴールドサタン、見事やり遂げて見せますぞ!」
落合さん「……余興!?」
ビーコン「どひ~っ、破壊活動のコトっスよぉ!(汗)」
イフ「わははは! さぁやれ、思い切りやるがよいゴールドサタン!
地球征服の第一歩たる千歳の完全制圧、そして宙マン打倒……
クリスマスの宴会を盛り上げる演目、これをおいて他になし!」
イフ「楽しく見させてもらうぞ、ゴールドサタン!
見事に宴を華やげよ、これは怪獣魔王の至上命令である!」
ゴールドサタン「ぬほはは、了解でっす、魔王様~♪」
ゴールドサタン、進撃開始!
足音を響かせながら迫る巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
ビーコン「どひ~っ、こっち来てるっスよ、こっちぃ!(汗)」
落合さん「逃げるんですのよ、さぁ早く!」
ゴールドサタン「ぬほはははは……!」
哄笑とともに、両目から破壊光線を発射する黄金怪人!
建物が次々と破壊され、街が炎に包まれていく。
ゴールドサタンの大暴れによって、聖夜の賑わいは踏みにじられ
千歳の街は、今や大いなる混乱の巷と化しつつあった。
と、そこへ!
宙マン「(呑気に)おお!
落合さんにビーコン、こんなとこにいたのかねぇ!」
ピグモン「帰りが遅いから、心配になって探しに来たの~」
落合さん「ああ、お殿様にピグモンちゃん!
話せばいろいろと長~いお話なのですけれど、つまり――」
ピグモン「(ジト目)……二人でこっそり、お蕎麦たべてきたんでしょう」
落合さん「(ギクッとなり)へっ!?」
ピグモン「二人の体から、お蕎麦のいいにおいがプンプンするの~」
落合さん「……そうでした、ピグモンちゃんは人一倍鼻の効く娘でしたのよね」
宙マン「なんだなんだ、落合さんも案外ちゃっかりしてるな~。
でも、どうせなら、そのお店、今度は二人だけじゃなくて――」
落合さん「(苦笑)ええ。今度はみんなで一緒に参りましょう」
宙マン「はっはっはっ、そうこなくっちゃ!」
ビーコン「だ~っ、アニキってば、もう!
な~に。ほのぼの風味のまとめに入っちゃってるんスか!?
街は今、この通りのえらい有様だってのに、もう!!(汗)」
宙マン「おっと……いかんいかん、言われてみればそうだった」
落合さん「このままでは、お蕎麦屋どころか……
今夜のクリスマスパーティーさえ危のうございますわっ」
ピグモン「宙マン、宙マン、千歳のまちを守ってなの~」
宙マン「ああ、勿論だとも!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
まばゆい閃光を放って、みるみるうちに巨大化する宙マン。
さぁ、今日もまた、正義の味方のお出ましだ!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
地域の平和を乱す者は、千歳市民の私が許しはしないぞ!」
ゴールドサタン「ぬほはは、出てきよったな宙マン!
お前を倒し、地球を征服して……
今年の怪獣クリスマスを、史上最大の盛り上がりにしてやる!」
宙マン「そんな思惑など、千歳では通らないぞ……
いいや、この宙マンが通さん!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マンーー
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
ゴールドサタン「ぬほはは、参るぞ宙マン!」
宙マン「おうッ、どこからでもかかって来い!」
遂に激突、宙マン対ゴールドサタン!
人々が固唾を呑んで見守る中、凄絶な攻防戦が火花を散らす。
黄金に輝く硬質のボディをきらめかせ、左右からのチョップ攻撃で
猛然と宙マンを攻めまくるゴールドサタン。
硬く「重い」打撃に、迎え撃つ宙マンも決して気は抜けない。
攻められっ放しでいるかとばかり、宙マンも果敢に反撃!
怪人の腕を押さえこみ、相手の内懐へ飛び込んでいく。
ゴールドサタン「ぬうう、小癪な!」
宙マン「これでもくらえ! 宙マン・パンチ!」
バキィィッ!
真っ向からのパンチが、ゴールドサタンめがけてヒット!
黄金怪人がよろめいた隙に、すかさず大ジャンプの宙マンである。
ゴールドサタン「ムムッ!」
宙マン「エイヤーッ! お次は宙マン・キックだ!」
空中からの急降下とともに、勢いよくキックを繰り出すが……
その一撃は、ゴールドサタンの体をすり抜けてしまう。
まるで陽炎のように、そのままフッと消え失せてしまう敵の巨体。
ピグモン「ああっ、消えちゃった!?」
落合さん「……こ、これは一体どうしたことでしょう」
ビーコン「あ、ありゃりゃのりゃっ!?」
相手の姿を見失い、驚きと狼狽の色を隠せない宙マン――
その背後に、再びすーっと現れるゴールドサタン。
宙マン「(ハッと気付いて)むうっ、こっちか!?」
急ぎ、振り返る宙マンだったが……
ゴールドサタンの姿は再び空中に溶け、消え失せてしまう。
宙マン「(苛立ち)……小賢しい真似をしてくれるな!」
消えては現れ、現れてはまた消えるゴールドサタン。
その幻惑戦法にまんまとはまり、すっかり翻弄されている宙マンである。
……消えた黄金怪人は、次はどこから現れるのだろうか?
ゴールドサタン「ぬほほほ、私はここだ!」
不意打ちで姿を見せ、ショック光線で攻撃するゴールドサタン。
そのエネルギーの洗礼が、宙マンのボディを直撃!
ショック光線のダメージで、たまらずドドーッと倒れる宙マン。
それだけでは容赦せぬとばかり、畳み掛けるような追撃……
両目からの破壊光線が、宙マンを襲う!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
落合さん「お、お殿様っ!?」
ビーコン「あぁもう、相手も一筋縄じゃいかねっス!(汗)」
ピグモン「はわわ……宙マン、しっかり! 負けちゃダメなの~!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ……!」
ゴールドサタン「ぬほほほ……
今日こそ最期のようだなぁ、宙マン!?」
「なんの! 貴様の思い通りにはいかんぞ!!」
ゴールドサタン「ぬほはは、どの道コレで終わりだぁッ!」
とどめだとばかりに、再びゴールドサタンが放った破壊光線。
だが宙マンは、残された気力と体力を一気に振り絞り……
光線をかわすや否や、そのまま大空へとジャンプ!
ゴールドサタン「ぬおっ、まだそんな元気が残っていたか!?」
宙マン「くらえ! 宙マン・超音波ストリーム!」
空中で全身を超速回転させ、発生させた超音波を敵にぶつける大技!
宙マンの超音波ストリームが、ゴールドサタンを直撃し……
瞬間移動に必要不可欠な精神統一に、大きな乱れを生じさせた。
ゴールドサタン「(苦悶)ぬぁぁぁっ……あ、頭がガンガンするぅっ!」
激しい頭痛にのたうち回り、遂にドドーッと倒れるゴールドサタン!
なかなか立ち上がれない黄金怪人に生じた隙を逃さず――
遂に宙マンは伝家の宝刀、伝説の「スーパー剣」を抜き放った!
宙マン「正義の刃、受けてみろ!
秘剣・スーパー滝落とし!!」
ザシュウッ!!
スーパー剣を抜き放ち、刀身にエネルギーを集中させ……
豪快な空中回転とともに、真っ向から振り降ろされる光の刃!
宙マンの「滝落とし」が、ゴールドサタンを唐竹割りに切り裂いた。
宙マン「それっ、もういっちょう!
秘剣・スーパー大波崩し!!」
ズバァァッ!
怒涛のような突進の勢いに乗り、斜め一文字にひるがえる光の刃!
ゴールドサタン「ぐはぁぁっ……く、口惜しや、残念すぎる~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「うぐぐぐっ、おのれおのれ、またしても宙マンめが!
もう我慢がならん、かくなる上は――」
「か、かくなる上は!?」
イフ「決まっておろうが、今夜は軍団挙げての大宴会だ!
呑んで食って騒いで、今夜は一晩中盛り上がるぞ! よいな!?」
「イエーッ! 最高っスよぉ、魔王様ー!!」
かくて、宴会はのっけからの大盛り上がり!
……その勢いが過ぎて、翌朝の怪獣たちは揃いも揃って二日酔いの頭痛と
胃もたれ等に悩まされる事になったのだが、ひとまずそれはさて置いて。
ビーコン「アニキ、どうもお疲れ様っした!」
落合さん「お見事でしたわ、お殿様♪(うっとり)」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~」
宙マン「何はともあれ、みんなが無事で本当に良かったよ。
さてと、これにて一件落着。全て綺麗に片が付き――」
「……もう、全然なんにも片付いてないですよぉ~!」
みくるん「パーティー準備で、猫の手も借りたいくらい忙しいのに……
何ですか宙マンさんまで、こんなトコで油売ってぇ!」
ながもん「(ボソッと)おさぼりは……許されざる」
ビーコン「タハハ……どうやら年貢の納め時みたいっスね~(汗)」
落合さん「いえ、私たちはともかく、お殿様とピグモンちゃんは……」
宙マン「はっはっはっはっ、もういいんだよ、落合さん。……
確かにこうしちゃいられない、早く帰ってパーティーの支度だ!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんもがんばるの~☆」
かくして、有志一同の大車輪の働きによって、準備は無事に整えられ
恒例のクリスマスパーティーが、今年も賑々しく開催されたのであった。
12月の夜空を華麗にデコレートする、イルミネーションのカラフルな輝き。
「宙マンハウス」を彩る光に誘われて、親しい知人のあんな顔、こんな顔が
今年もまた続々と集まってきた。
楽しい仲間が集まって、美味しい料理と明るい音楽が場に満ち充ちたなら
集まった誰もが、とびっきりのニコニコ笑顔にならずにはいられない。
あの場所、この場所、今宵は聖夜。
「今」を生きる誰もが等しく……
明日も、未来までも、幸福と笑顔で包まれますように!
メリー・クリスマス!