気が付いてみれば、あっという間に12月も半ばに差し掛かり
ひしひしと寒さが増してきている北海道千歳市。
だが、ひとまずそれはそれとして、地球に生きる人々はそれぞれに
それぞれの日常を、淡々と過ごしていたのであった――
そんなこんなで幕を開ける、今回の『宙マン』。
霜月の街を行く、宙マンファミリーの姿に目を向けてみよう。
落合さん「う~、風の冷たさが身に沁みますわねぇ!」
ピグモン「えう~、今日は一段と冷えてるの~」
宙マン「こんな寒い中、いつまでも外にいるテはないね。
用事の方も、滞りなく済んだことだし……」
落合さん「えぇ、今日はまっすぐお家に帰りましょう」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんも異議なしなの~」
ビーコン「いーや、オイラは異議ありっス!」
落合さん「あら? 何ですのビーコンさん、藪から棒に」
ビーコン「いやいや~、せっかく街まで出てきたんスよ!?
このまま素通りなんて、勿体ないじゃないっスか」
落合さん「そうは言いますけど、この寒さですし……」
ビーコン「や、だからこそあったかい食い物が旨いんスよ!
ラーメン食ってくっスよ~、濃厚味噌ラーメン!」
落合さん「まぁ、確かにこんな寒い日にはピッタりですけど……。
でも、どうしてこのタイミングで?」
ビーコン「や、ちょうど割引クーポン券の期限が今日までなんで。
ヒヒヒ、それにね……
今なら、アニキや落合さんの財布をアテにできるっしょ!?」
落合さん「だーっ、タカる気マンマンでしたのねっ!(呆れ)」
暑かろうと寒かろうと、宙マンファミリーはいつもの調子。
だが、そんな平穏を破るかのように、突如……!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
落合さん「(驚いて)……は、はぁっ!?」
ビーコン「どひ~っ、どひ~っ、なんスか何スか、なんなんスかぁ!?」
突如として、街のど真ん中に鳴り響いた爆発音。
そして、その爆心から……無数の巨大な岩石が飛び出してきて
さながらレミングの大群のごとく空中を移動していく。
落合さん「あらまぁ……なんですの、アレは!?」
ビーコン「どひ~っ、何か生きてるみたいな岩っスよ!」
落合さん「そんな、まさか……!」
いや――正に、そのまさかなのだ。
「ギュイ、ギュギィィ~っ!!」
宙マン「うおおっ!?」
ピグモン「あっ、岩のお化け……ううん、怪獣なの!」
落合さん「岩が寄り集まって、怪獣になるなんて……」
ビーコン「もうホント、何でもアリっスねぇ!(汗)」
おお、見よ! 驚愕せよ!
宙マンたちの眼前で、空中に飛び散った岩石群は地上へ舞い降り
そのまま集合・合体して、天を衝くような巨大怪獣と化した。
「ギュギィィ~、その名も隕石怪獣・サタンキング様だっ!」
宙マン「ああ、私も君の評判は何度も聞いたことがあるぞ。
破壊や殺戮のこと以外は一切考えないと言う、悪魔のような性質の――」
サタンキング「(宙マンの言葉を遮って)……あ、ごめん、それやめてくんない?
ちょっとねー、個人的にヤなこと思い出しちゃうんで……」
ビーコン「……おりょ?
普通ならソコ、自分から自慢するとこじゃないんスか?」
落合さん「何か、特別な事情がありそうですわね……。
よろしければ、お聞かせ願えませんこと?」
サタンキング「……あぁ、あれは一週間前のことだった。
久々に参加した合コンで、メチャ可愛い女の子と親しくなって
ようやくデートの約束を、なーんて思った矢先……」
「えぇっ、サタンキングさんって、破壊と殺戮以外はなさらないんですか?
ごめんなさ~い、私、一緒に家事も手伝ってくれないような方に
一方的に貢がされる夫婦生活は、ちょっと……」
サタンキング「……なーんて鼻で笑われて、淡い恋が潰えたときの
あの悔しさ、みじめさ、やりきれなさっ!(泣)
お前らに分かるっていうのか、この俺の憤りがよぉ!?」
ビーコン「(思わずドタこけ)……って、またこのパターンっスか!?」
サタンキング「俺だってなぁ、俺だってなぁ、破壊と殺戮以外にも……
自炊もするし、部屋の掃除もこまめにやるってーの!
常識で考えろよ、ジョーシキでよ~っ!(涙目)」
落合さん「……いえ、分かりますとも、よく分かりますわ!」
宙マン「一度イメージが定着しちゃうと、それに伴う風評被害もねぇ……。
あぁ、君の心中、察するに余りあるよ!」
サタンキング「おおっ! 分かってくれるか、有難ぇ――」
サタンキング「だったらさ、今から怒りと悲しみのままに暴れるけど!
破壊と殺戮しちゃうけど、分かってくれるよね!?」
ビーコン「どひ~っ、それはダメっスよ~!(汗)」
落合さん「それだけは断固、分かるわけには参りませんっ!」
イフ「いいや、ワシは分かっておる――そして許すぞ、サタンキング。
お前のやりきれない思いの全てを、破壊のパワーに変えて
今こそ千歳の街を、徹底的に叩き潰すのだ!」
サタンキング「ギュギィ~っ、有難うございます、魔王様!」
怪獣魔王に焚きつけられ、進撃開始するサタンキング!
迫り来る巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
ピグモン「きゃああんっ、怖いの~!」
落合さん「(ボソッと)……これじゃ遅かれ早かれ、フラれていたのがオチですわよ!」
サタンキング「(ギロッ)あ゛あ゛っ、ソコ、何か言ったかぁ!?」
落合さん「(ビクっとなり)……ひいっ!?」
ビーコン「どひ~っ、なんつー地獄耳っスか!(汗)」
だが、こんな緊急事態を、航空防衛隊は放置などしない――
直ちに空の精鋭たちが、最新鋭の戦闘機でスクランブル!
ビーコン「おおっ、航空防衛隊っスよ!」
ピグモン「はうはう~、おじさんたち、しっかりなの~!」
落合さん「今回こそは、期待……できますかしら!?」
「ようし……全機、一斉攻撃開始っ!」
戦闘機編隊から、雨あられとばかりに叩きこまれるロケット弾!
それらの猛攻撃をものともせず、怪獣は悠然と突き進んでくる。
サタンキング「ギュギィィ~、屁ぬるいってんだよっ!」
「……う、うわぁぁぁ~っ!?」
サタンキングの口から吐きだされる破壊光線!
その威力の前に、次々に撃墜されていく戦闘機隊である。
ビーコン「だ~、やっぱりやられちまったっス!」
落合さん「(慌てて)シーッ! ビーコンさん、シーっですわよ!
“やっぱり”だなんて言うべきではございませんわっ。
そう、たとえそれが事実であろうとも……!」
ビーコン「って、そっちの方がヒドくないっスか?(汗)」
ピグモン「えう~、おじさんたち頑張ってくれたの~」
と、人々が嘆いたりボヤいたりしている間にも。
サタンキングの大暴れで、千歳の街は絶体絶命の大ピンチ!
落合さん「あらあらまぁまぁ、どうしましょう!?」
ビーコン「どひ~っ、もうダメっス、おしまいっス!」
ピグモン「はわわ、宙マン、どうにかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、サタンキングの前へと舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
怪獣軍団の悪の使者め、もう好き勝手はさせないぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いよっ! 待ってましたアニキ、千両役者っ!」
落合さん「こうなってはもう、お殿様だけが頼みの綱ですわ!」
ピグモン「宙マ~ン、がんばってなの~!」
サタンキング「ギュギィィ~、宙マン、てめぇよぉ……
ついさっき、俺の気持ち分かるって言ったばっかだろォ!?」
宙マン「ああ、確かに……だからと言って……
こんな身勝手な破壊を、黙って見逃せるような私でもない!」
正義の怒りを力に変え……
ファイティングポーズをとって、敢然と身構える宙マン。
サタンキング「ギュギィィ~、だったら叩き潰しちゃるっ!」
宙マン「行くぞ、サタンキング!」
激突、宙マン対サタンキング!
人々が見守る中、巨大超人と巨大怪獣がお互いに鎬を削る。
太い腕からのパンチ攻撃で攻めまくるサタンキング!
私怨に基づいてのものとはいえ、そのパワーは決して侮れない。
獰猛な破壊衝動のまま、ぐいぐい「押して」いくサタンキング。
このまま一方的に、怪獣のペースになるかと思いきや――
宙マン「おおっと、隙あり!」
サタンキングの胸板へ、水平空手チョップを叩きこむ宙マン。
怪獣の動きが鈍ったところへ、更に畳みかけるがことく!
宙マン「お次は、これだっ!」
宙マンの浴びせ蹴りが、敵の脇腹に炸裂!
これにはたまらず、ズズっと後退させられるサタンキング。
サタンキング「ぎゅ、ギュギィィィ……っ!」
宙マン「どうだ、少しは頭が冷えたかね!?」
サタンキング「ギュギィィ~、ナメるんじゃねぇぞ~っっ!」
怒りの咆哮とともに、破壊光線を吐きだすサタンキング!
その恐怖の一閃を、得意の回転戦法で回避していく宙マン。
ズガーン! グワーンっ!
サタンキング「こん畜生めがっ、チョコマカと!」
宙マン「なんの!」
サタンキング「(目をパチクリ)む……ムムムーッ!?」
サタンキングの光線をかわし、大空高くジャンプする宙マン!
空中回転によって勢いをつけ、急降下で繰り出すその技は――
宙マン「テリャァァーっ!
宙マン・南十字チョップ!!」
両腕を真っ赤に燃え上がらせて放つ、渾身のクロスライン!
正義の南十字チョップが、サタンキングの急所へ見事に決まった。
サタンキング「じゅ、12月の風は……センチメンタルぅぅ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ビーコン「いえっふ~! アニキ、さっすがっスねぇ!」
落合さん「お見事でしたわ、お殿様!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
イフ「うぬぬぬっ……おのれ、おのれ、宙マンめ!
どうしてこう毎度毎度、ワシら怪獣軍団の邪魔立てばかり……
だが次はないぞ、覚えているがよい……!」
……などと言う、いつもの負け惜しみはさて置いて。
かくして、今回もまた宙マンの活躍により……
怪獣サタンキングは倒され、千歳に平和が蘇ったのであった。
落合さん「どうもお疲れさまでした、お殿様!」
ピグモン「宙マンのおかげで、今日もめでたしめでたしなの~」
ビーコン「……それはいいんスけど……
安心して気が抜けたら、また冷えてきたっスねぇ!?」
宙マン「無理もないさ、もう11月も半ばだものねぇ」
宙マン「よーし、それじゃ……
帰る前に、暖かいラーメンでも食べて行こうじゃないか!」
ビーコン「いえっふ~、ラーメンいいっスねぇ、異議なしっス!」
落合さん「“異議なし”はよいんですけど……
ビーコンさん、まだタカる気満々だったりしますの?」
ビーコン「おー、さっすが、話が早くて助かるっス!」
落合さん「(ジト目)んーまっ、いけしゃあしゃあと仰いましたこと!」
ビーコン「まぁまぁ、ちゃんと後で倍にして返すっスから!
ヒヒヒ、具体的にはベッドの上でしっぽり・ねっとり――」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、更にタチが悪いですっ!!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、北風が骨身に沁みるっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
吹き抜ける風は冷たいけれど……
今日も平和な、みんなの千歳。
次回も頼むぞ、我らが宙マン!