北海道千歳市、ほんわか町5丁目……
今回もまた、毎度おなじみの「宙マンハウス」から物語は始まる。
9月に入り、暦の上では既に秋。
……にも関わらず、今年は例年にないほど残暑が厳しいのである。
今日も今日とて、頭上の太陽が無駄にやる気を出していたわけで――
ビーコン「だーっ、もう! クソ暑くてやってらんないっスよ!
落合さん、ちょっと、落合さんはいるっスか~!?」
落合さん「なんですのビーコンさん、そんな大声出してっ!
私はちゃんと、こうしてここにおりますわ――
貴方みたいな極楽トンボと違って、今日もお仕事で忙しいんですから」
ビーコン「な~にがお仕事っスか、忙しいのが聞いて呆れるっスよ!
今日は一発オイラが、そんな落合さんにガツンと苦言を呈するっス」
落合さん「……ちょっ、聞き捨てなりませんわね、働き者の私をつかまえてっ!
その暴言がどこ由来なのか、とくと伺おうじゃありませんのッ」
ビーコン「おう、だったら遠慮なく言わせてもらうっスよ!
……落合さん、なにノンキに服なんか着てんスか!?」
落合さん「……はァ!?」
ビーコン「カーッ、もう、皆まで言わせないで欲しいっスよ!
これだけ残暑が厳しいんスから、涼しげな水着とか、いっそ全裸とか……
肌色面積多めなビジュアルの需要は、世の中に満ち満ちてるってことっス!」
落合さん「……もしかしなくても、あなたバカですわね!?」
ビーコン「あー、もう、まだるっこしいっスねぇ!
無駄にオッパイ大きいんスから、こういう時こそ世の中に還元っスよ!
それ脱げ、やれ脱げ、パーッと脱げっス落合さん!」
落合さん「ふ、ふふ、ふふふふふ……ええ、ええ、よーっく判りましたわ――」
げ し っ !
落合さん「貴方はやっぱり、私の敵ですっ!!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、判りあえないのは悲しいコトっスねぇぇ~!」
ピグモン「わ~、今日もすっごい飛んでったの~」
宙マン「はっはっはっ、落合さんにビーコン、今日も元気にやってるね!」
落合さん「あらまぁ、お帰りなさいませ、お殿様にピグモンちゃん!
待ってて下さいね、何か冷たいお飲み物でも……」
と、落合さんがいそいそ台所へ向かおうとした時――
「宙マンハウス」の門がまえをくぐって、庭先に顔を出した者がいた。
ピグモン「あ、みくるんちゃんなの!」
宙マン「やぁ、これはどうも、いらっしゃい」
ビーコン「わざわざ抱かれに来てくれるなんて、オイラ超感激っスよ!」
落合さん「ビーコンさんの世迷言はともかくとして……
みくるん様、今日はどういったご用向きでしょうか?」
みくるん「あの……うちのながもんが、こちらに来てませんでしたかぁ?」
ビーコン「……ながもんちゃん、っスか?」
宙マン「いや、今日は来てないけど」
みくるん「……あ、そうですか……」
落合さん「ながもん様が、どうかなさいましたの?」
みくるん「はい……
実は今朝、ちょっと図書館へ行ってくるって家を出て……
で、お昼過ぎなのに、まだ帰ってきてないんですぅ」
宙マン「ふーむ、なるほどねぇ」
ピグモン「ながもんちゃん、どっかで寄り道してるんじゃないかしらー、なのー」
ビーコン「もしくは本に夢中ンなって、時間の経つのも忘れてるとかっスね~」
みくるん「はい、私もそう思いたいんですけど。
でも、ここ最近は……
怪獣さんたちが、頻繁に街に出るようになってから……」
ビーコン「……あー!」
落合さん「そう言われてみれば……確かに(汗)」
そう。
怪獣軍団の地球侵略における第一の攻撃目標として、この北海道千歳市が
はた迷惑にも目を付けられ、人智を超えた怪事件が頻繁に起こっている以上
ながもんの身に何かあったとしても、実は何の不思議もないのであった。
みくるん「私の取り越し苦労なら、それでいいんですけど。……
でも、もしまたあの子に何か悪いことでもあったとしたら……!」
ビーコン「うんうん、わかる……分かるっスよ、みくるんちゃん!」
落合さん「肉親のお立場……心中、お察しいたしますわ」
ピグモン「はわわわ、ピグちゃんもなんか心配になってきたの~」
その場に集った一同が、不安げに顔を見合わせた時。
……そう、まさにその時である!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
ビーコン「お、おろっ、おろろろろろっ!?」
みくるん「きゃああああんっ!」
落合さん「あらイヤですわ……この揺れは、もしかして……!?」
ビーコン「ひぇぇぇ、も、もしかするっスよ、こいつは~!(汗)」
ながもんの身を案じ、みくるんと宙マンたちの心配がつのり出したところへ……
あまりにも、絶妙なタイミングで起こった大地震。
北の大地を揺さぶり、引き裂いて、地中からその巨大な姿を現わした者とは!?
「ギュギャギャギャ~っ!!」
耳をつんざく咆哮とともに、姿を現わすヘビー級の巨体。
怪獣軍団から送り込まれた新たなる使者、結晶怪獣ギラルスだ!
ピグモン「はわわわ、なんか出てきたの~!」
みくるん「か、怪獣さんですぅ!」
ギラルス「ギュギャギャ~ッ、その通り、俺は結晶怪獣のギラルス様だ!
そして偉大な怪獣魔王様から、この俺に与えられた使命は……」
「そうか、わかったぞ!!」
ギラルス「……へっ?(目がテン)」
いきなり叫んだ宙マンの声に、思わずギラルスの進撃もピタリと止まる。
ビーコン「このタイミングでの顔出し……これは、ひょっとするっスよ!?」
落合さん「……ええ、間違いありませんわね!」
宙マン「ああ、私も今こそ確信を得たよ――
結晶怪獣ギラルス、ながもんちゃんを攫ったのは貴様だな!?」
ギラルス「……はァ!?(目がテン)」
落合さん「ながもん様を人質にして、一切の反撃を封じ込める……
ああ、なんていう卑劣なやり口なんでしょう!?」
宙マン「……ううむ、考えただけで身の毛もよだつ話だね!」
ピグモン「えう~、そんなのズルいの、ながもんちゃんが可哀想なの~」
ギラルス「いや、あの、そのっ、何を仰ってるのかサッパリ……?(困惑)」
ビーコン「トボけても無駄っス、もうネタは挙がってるっスよ!」
みくるん「ふぇぇん、ながもんを返して下さいですぅぅ~(涙)」
宙マン「結晶怪獣ギラルスよ、よーく聞くがいい!
お前がどんなに奸智を巡らし、巧みな戦略で私たちの隙を突いてこようとも……
私たちは決して挫けることなく、知恵と勇気で戦い抜くぞ!」
ギラルス「な、ナンタルチヤっ……!
お、俺の知らないトコで、なんかどんどん話が進んでるぅぅ~!?」
一致団結して盛り上がる宙マンファミリーと、そんな彼らに困惑顔のギラルス。
この両者の温度差が、なんだかえらいことになっていたところへ――
「……ただいま」
いつものポーカーフェイスで、ひょっこりと顔を出したのは……
他でもない話題の主、ながもんであった。
ピグモン「あ、ながもんちゃんなの!」
落合さん「ようございましたわ、よくぞご無事でっ!」
宙マン「それにしても、ながもんちゃんがどうしてここに……」
ビーコン「結晶怪獣に攫われて、人質になってたんじゃなかったんスか!?」
ながもん「(キョトンとして)怪獣……人質……なんのこと?
私は、ちょっと……図書館まで……行ってた、だけ」
みくるん「でも、だったらどうしてこんなに帰りが遅く……」
ながもん「ハンバーガー、食べながら、ちょっと休憩の……つもりが……
時間の、経つの……忘れてた。
……借りてきた、本が……おもしろいの、なんのって」
みくるん「もう、ながもんったらぁ……。
駄目だよぉ? 遅くなるなら、ちゃんと連絡してくれなきゃ」
ながもん「以後、気をつける……ご勘弁。……てへぺろ」
ビーコン「いや~、よかったっスねぇ、無事でなによりだったっスよ!」
落合さん「これで私たちも、ほっと一安心ってところですわね」
ピグモン「はうはう~、めでたしめでたしなの~♪」
宙マン「いやぁ、何と言いますか……
本当に申し訳ありません、こちらの勘違いでとんだご迷惑をおかけして!
以後はこのようなことがないように気をつけますので、どうかご容赦下さい」
ギラルス「ああ、いえいえ、そんなご丁寧に!
判って頂けたんでしたら、俺としてはそれで充分ですんで」
宙マン「有難うございます、そう仰ってもらえると助かりますよ」
ギラルス「ははは、まぁまぁ、もうお互い笑って水に流しましょうよ。
じゃ、まぁ、そういうコトで♪」
「……って、何を言っとるか、馬鹿者めが~っ!!」
ギラルス「ひぇぇっ! ま、魔王様!?」
イフ「えぇい! 宙マンめのペースに乗せられおって――
地球まで行って、使命も果たさず帰ってくるバカがどこにいる!」
ギラルス「も、申し訳ありません、危うく素で忘れるトコでしたっ!(汗)」
イフ「もうよい、よいから暴れろ、とにかく暴れろ!
暴れに暴れて暴れ抜き、千歳の街をメチャクチャに破壊するのだ!」
ギラルス「ギュギャギャギャ~ッ、お任せを!」
ピグモン「はわわ、こっちへ怪獣さんが来るの!」
ビーコン「どひ~っ、せっかくイイ話で終われると思ったのにィ……」
落合さん「ああ、とかく現実とはままならないものですわね~!?(汗)」
怪獣魔王に檄を飛ばされ、本来の使命を思い出したギラルス。
その使命とはもちろん、地球征服のための破壊活動に他ならない――
巨体を唸らせ、ギラルスの巨体が大進撃を開始する!
ギラルス「ギュギャギャギャ~、これでもくらえっ!」
結晶怪獣ギラルスの武器は、堅牢なクリスタル状の外殻と怪力……
そして、口から吐き出す超高圧の破壊ガスである。
破壊ガスの洗礼を受けた建物が、一瞬にして木っ端微塵に消し飛んでいく!
ギラルス「ギュギャギャギャ~、そうだ、そうだよ、そうだった……
俺は他でもない、コレをやりに地球くんだりまで来たんだっけ!」
ビーコン「だーっ、思い出さなくていいコト思い出しちまったっスよ!」
落合さん「このままでは、千歳の街が大ピンチですわっ」
ピグモン「宙マン、宙マン、なんとかしてなの~」
宙マン「ようし、行くぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うギラルスに躍りかかっていく!
ギラルス「ギュギャっ、いきなり来ちゃうの~!?」
宙マン「ああ、速攻で行かせてもらおうじゃないか――」
宙マン「エイヤァァーっ!
宙マン・ミラクル・キック!!」
電光石火の必殺キックが、ギラルスの頭部めがけて炸裂!
その痛烈な一撃を食らって、大きく吹っ飛んで倒れるギラルス。
ビーコン「いよっしゃ、アニキ、ナイス先制っス!」
落合さん「素敵ですわ、いつもながら惚れ惚れ致します……♪(うっとり)」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
宙マン「さっきの私たちの勘違いについては、改めてここでお詫びする。
……だがギラルスよ、それはそれ、これはこれだ。
千歳の街を混乱に陥れるお前を、黙って見過ごすわけにはいかない!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ!
ギラルス「ギュギャギャギャ~、上等だ! 来やがれ宙マン!」
宙マン「よし来い、勝負だ!」
激突、宙マン対ギラルス!
人々が固唾を呑んで見守る中、ふたつの巨体がダイナミックに渡り合う。
持ち前の超怪力で、猛然と挑みかかってくるギラルス!
さっきのお返しだとばかりに、しゃにむに押しまくってくる。
パワーだけに限って言えば、ギラルスのほうが有利と言ってよいかもしれないが
我らが宙マンにはそれに加えて、磨き抜かれた熟練のテクニックがあるのだ。
宙マン「そぉりゃっ!」
宙マンのハイキックが、再びギラルスの頭部に炸裂!
強烈なその一撃を受けて、クリスタル状のボディから火花があがる。
宙マン「さぁ、どうだ――まだやるか、ギラルス!」
ギラルス「ギュギャギャギャ~、なめんなっ!」
グワッツゥゥーンっ!!
宙マン「……う、うおおおおっ!?」
ギラルスの頭突きが、宙マンの胸板を急襲!
重量級のボディと秘められたパワー、突撃時のスピードなどが相まって……
直撃を受けた宙マンの巨体を、一撃で地面に叩き伏せてしまう威力である。
ピグモン「ああっ、宙マンがあぶないの!」
ビーコン「図体だけの奴かと思ったら……結構やるっスよ、アイツ!」
落合さん「往々にして、ああいうタイプの敵が案外手ごわかったりするものですわ」
みくるん「落合さん、落合さん、冷静に解説してる場合じゃないですぅ!(汗)」
ながもん「(じっと戦いを見守って)……宙マン……!」
宙マン「(苦悶)……く、う……っ!」
ギラルス「ギュギャギャギャ~、見たか、俺の強さを!」
ゾネンゲ博士「おおっ、一時はどうなることかと思いましたが……
ギラルスの奴、なんだかんだで頑張っておりますな!」
イフ「わはは! いいぞギラルス、そのまま一気に畳みかけろ!」
ギラルス「ギュギャギャギャ~! とどめだ、宙マン!」
口からの破壊ガスを吐きかけ、宙マンを倒さんとするギラルス。
だが、素早く態勢を立て直した宙マンは、前面にプロテクションを張りめぐらして
ギラルスの破壊ガスを受け止め、無力化した!
ながもん「よしゃっ。……宙マン、上手いっ」
ビーコン「アニキ~、今がチャンスっスよ~!」
宙マン「ああ、分かってるとも――」
宙マン「くらえ――宙マン・閃光波!」
ピッキュイィィーンっ!
高らかな音とともに、宙マンの手にストロボ状の発光が生じ……
次の瞬間、ギラルスのボディで激しい爆発が起こる。
ギラルスがひるんだところへ、一気に駆け寄り間合いを詰める宙マン。
そのまま宙マン・リフターで、ギラルスの巨体を持ち上げて投げ飛ばし――
宙マン「とどめだ! 宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ギラルスを直撃!!
ギラルス「ギュギャギャギャ~、こ、これはタマラン~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
みくるん「わぁっ、宙マンさん、すごいですぅ!」
ながもん「(ボソッと)オウ。……いつもながら、グッジョヴ」
ピグモン「はうはう~、やっぱり宙マンはかっこいいの~☆」
落合さん「ええ、そこが素敵なんですのよねェ、お殿様は……♪(うっとり)」
イフ「うぐぐぐ……おのれ、おのれ宙マン、またしても!
今に見ておれよ、この次はきっとお前に一泡吹かせてやるわ!」
……などと言う、いつもの負け惜しみはさて置いて。
かくして宙マンの活躍により、千歳を襲った結晶怪獣ギラルスは倒され……
ながもん絡みの不安が杞憂だったことも判って、万事めでたしめでたしであった。
みくるん「宙マンさん、どうもお疲れ様でしたぁ!」
ながもん「これで、みんな……一安心。
私も、心おきなく……読書タイムに、突入……できる」
ピグモン「はうはう~、そんなに面白い御本なの?」
ながもん「(頷き)しかも、今回……大量、だった。……ブイっ」
ビーコン「ほ~、ながもんちゃんのお墨付きなら、絶対面白い本っスよね~」
落合さん「本選びの目利きには定評ありますものねぇ、ながもん様は」
ビーコン「っスよねぇ、なんかオイラまでワクワクしてきたっスよ!
う~ん、いったいどんなえげつないエロ本なんスかねぇ!?(ニヤニヤ)」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、そんな最低なオチをつけるんじゃありませんっ!!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、こんな鉄拳制裁オチも勘弁して欲しかったっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
まだまだ残暑は厳しいけれど……
いつでも元気な、宙マンファミリー。
アクション込みの日常、スカッと爽やかです!