「空の玄関口」である新千歳空港に対しての「海の玄関口」、
北海道を代表する、港湾・工業都市のひとつ。
それが、『宙マン』シリーズの舞台・千歳市の“おとなりさん”にあたる
今、その苫小牧市の近海において……
誰の目にも触れることもない、凄絶な死闘が繰り広げられていた!
と言うわけで、場面は変わり……
ここは苫小牧港からほど近い海の中。
陽の光も届かぬ深淵において、死闘を演じるふたつの巨体!
宙マン「怪獣ナイフヘッド、苫小牧襲撃などはさせんぞ!」
ナイフヘッド「ギョボアァァ~っ、邪魔はさせんのデスよ、宙マン!」
片や正義の味方・宙マン、片や怪獣軍団の衝角怪獣ナイフヘッド。
海底で繰り広げられる正邪の凄まじい激突の決着を、苫小牧漁港で
ハラハラ伺っているのは、お馴染みの宙マンファミリーだ。
ビーコン「ひぇぇ……ウチのアニキは、大丈夫っスかねぇ!?」
落合さん「今は信じるしかありませんわ、お殿様のお力を。
……戦いの行方が見えない分、余計にもどかしいですけれど!」
ピグモン「はわわ……宙マン、宙マン、がんばってなの~!」
そんなファミリーの願いは、冷たい海の底で一人戦う宙マンにも
きっと……いや、間違いなく届いていたに違いない。
持ち前の凶暴性を全開に、猛然と襲い来るナイフヘッド。
だが、宙マンもまた、鍛え抜かれた超人技でこれと渡り合う。
死闘! 激闘!
力と技の応酬の果て、勝敗を決したのは正義の必殺技である。
宙マン「とどめだ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ナイフヘッドを直撃!!
ナイフヘッド「ぎょぎょっ、ギョボァァァッ……
残念、無念、今度もまた……怪獣軍団、雪辱ならずぅぅ~っ!」
ズガガガァァーンッ!
水中における死闘の終わりを告げたのは、不意の爆発音とともに
苫小牧の海上に立ちあがった、巨大な水柱であった。
ピグモン「ああっ!?(目をパチクリ)」
ビーコン「ど、どっちが……勝ったのは、一体どっちっスか!?」
落合さん「(微笑)ふふっ、そんなの決まってますわ。
……ほらっ、お二人とも、あれを見て下さいませ!」
ビーコン「(目を見張り)おおっ、うほほほっ!?」
おお、見よ!
波しぶきをあげて、勢いよく海から飛び出してきたこの雄姿を。
ビーコン「おおっ、やったやった、アニキの勝ちっス!」
落合さん「当然ですわ、私たちのお殿様ですもの!」
ピグモン「はうはう~、やっぱり宙マン、かっこいいの~♪」
やったぞ宙マン、大勝利!
かくて、海底下の戦いにおいて怪獣ナイフヘッドを退け……
北海道の平和を守った宙マンは、空中回転とともに等身大に戻って
ひらりと苫小牧の漁港へと舞い降りた。
ビーコン「いえっふ~、アニキ、どうもお疲れ様っした!」
落合さん「お殿様の事ですから、勝つと信じてはおりましたが……
それでもやはり、今回はハラハラさせられましたわぁ」
宙マン「や~、戦う場所が海底だと、やはり思いのほか手間取ってしまってねぇ。
……それもあって、すっかりお腹がすいちゃったよ」
ピグモン「はわわわ、宙マン、大丈夫?」
宙マン「(苦笑)う~ん、あんまり大丈夫じゃないかもなぁ。
怪獣は強敵だったし、冬の海は冷えるしで!」
落合さん「あらあら、それではすぐにどこかでお食事に致しましょう」
ビーコン「いえっふ~、急いで店を探すっス~☆」
戦い終わって、平和の中で……
ホッと一息、なごやかムード一杯の宙マンファミリー。
だが、その一方で、またも自らの野望を阻止された怪獣魔王にとって
この状況が面白かろうはずもなく……。
イフ「う、ぐぬぬぬっ……またしても、またしても宙マンめが!
このままで、このままで済むと思うなよ~!?」
「んふふふ……
まだまだ勝負はこれからですよ、魔王様!」
イフ「おおっ、“魔導の”スライ、お前か!
「これから」……と言うからには、まだ何か打つ手が!?」
スライ「(頷き)既に地球には、ピット星人を派遣しております」
イフ「うむっ……アレをか!」
暗黒星雲に本拠を置く、怪獣軍団の一員……
「変身怪人」の別名を持つピット星人。
彼女らピット星人たちは、潜入した星々の可憐な少女に化けて
敵を油断させる得意の戦法から「怪獣界のマタ・ハリ」として
その技量を讃えられる凄腕の女スパイにして暗殺者なのだ。
スライ「既にピット星人は地球人の少女へと変身し……
誰にも気づかれることなく、苫小牧市への潜入を果たしております。
ナイフヘッドを倒し、油断している宙マンの寝首を搔くために!」
イフ「ううむっ、素晴らしい! これは期待できそうだな!」
スライ「んふふふ、見ていたまえよ宙マン。
このままグルメレポートだけで、終わらせはしませんともさ!」
おお、何ということであろう!?
未だ、苫小牧と宙マンへの危機は去ってはいなかった!
だが、そんな事とは露知らぬ宙マンファミリー。
最近オープンしたばかりながら、評判の良いラーメン屋があると聞きつけ
一路、苫小牧市内の住宅街へと歩を進めていたのであった。
落合さん「ほら、ごらん下さいませ、あのお店!」
ビーコン「おお~、間違いないっス!
前に熊澤さんから聞いたのと、同じ屋号っスもんねぇ!」
宙マン「よーし、何はなくともお邪魔しようじゃないか!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんもお腹ぺっこぺこなの~♪」
3月の寒風の厳しい中、いつまでも外で迷っている暇はない。
ぬくぬくとした店内に入り、注文を済ませて待つこと十数分……。
宙マン「おおっ、来た来た、来ましたよ!」
落合さん「ああ、もう、この香りからして堪りませんわよねぇ!」
海底での怪獣戦で冷え切った宙マンを、身も心も温めてくれる――
待ちに待ってた一杯は、こちらの“辛味噌ネギラーメン”。
もっちり、しこしこの麺に絡みつく赤味噌のコクと唐辛子のパンチ力、
それらを飽きさせず爽やかに食わせる長葱の清冽なアクセント。
宙マン「ん~、美味いねぇ、しみじみ旨いよ!」
ビーコン「たはは、アニキの場合はなおさらっスよね~」
落合さん「ピグモンちゃん、辛めのお味ですけど大丈夫?」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃん全然平気なの~♪」
と言う感じで、つるつる、もぐもぐ食べ進め……
お腹いっぱい、幸せいっぱいで店を出た宙マンファミリーであった。
宙マン「いや~、旨かった、これは評判になるわけだよ!」
ピグモン「うんうん、ピグちゃんまた食べに来たいの~」
宙マン「勿論だとも、我が家の贔屓の店にしよう!」
落合さん「ふう~、やはり冬場の味噌味は暖まりますわねぇ!」
ビーコン「ヒヒヒ、極楽ゴクラクっスねぇ~☆」
美味しいラーメンで幸せ気分、和気藹々な宙マンファミリー。
が、その一方で納得がいかないのは……。
イフ「おいっ! これは一体……何としたことだ、スライよ。
宙マンの油断を突いて、ピット星人が仕掛けるのではないのか!?」
スライ「は、ははっ……これはまた、何ともはや……(汗)」
結論から先に言おう。
地球人の少女に化け、苫小牧市内への潜入を果たしていたピット星人は
“魔導の”スライからの指令のもと、宙マンたちが目指すラーメン屋へと
先回りしたうえで、宙マンをちゃんと待ち受けていたのである――
……ただ、若干そのタイミングが悪かったと言うだけの話で。
「う~ん、むにゃむにゃ……もう、おなかいっぱい……」
「(苦笑)もしもし、お客さん……風邪、ひきますよ?」
「(こっくり居眠り、夢の中)……Zzz……」
イフ「(思わずズッコケ)……っがー、ピット星人め、あの大たわけがっ!
と言うかスライよ、これはそもそもお前の任命責任問題……」
スライ「(こっそり逃げ出し)……私、知~らない、っと!」
イフ「だーっ、コラ待てスライっ! 待たんかっ!!(プンスカ)」
北の寒風にも、悪の魔手にも……
宙マンファミリーの、元気の火は消せず。
だから勿論、次回も大活躍だよ~!