渦巻く暗黒星雲の彼方から、虎視眈々と地球を狙い続ける巨悪……
泣く子も黙る荒くれ揃い、その名も高き怪獣軍団。
今回の「宙マン」は、そんな怪獣軍団の本拠地における
怪獣たちのダベリング風景から物語を始めよう。
「ようようイカルス、お前最近、ちょっと太ったんじゃねぇのかぁ?
メタボはいろいろ怖いらしいぜぇ、合併症とかやらかそうもんなら……」
「いやいや、俺なんざ序の口よ、序の口!」
「あっちにも~っと、スンゴいのがいるから、ほれっ」
「うん?」
と、そう言って、イカルスが差し示した指の先。
どれどれ、とガンダーも振り返ってみると、そこには……。
「……ん あ ?」
そこにいた、丸々・コロコロと太ったその怪獣は……
シャドー星出身の、猛毒怪獣ガブラ。
「えーっ! ちょ、まさかアレが、あの……が、ガブラさん……!?」
「……なー、俺なんざまだまだ可愛いもんだろうがよ~(汗)」
ダベっていた二頭の怪獣たち……
イカルスとガンダーとがお互いに顔を見合わせ、面食らうのも無理はない。
かつてはこのガブラ、スマートに引き締まった若獅子のごときしなやかな肢体と
美しい黄金の鬣から「怪獣界のキムタク」と異名をとった美丈夫であったが……
今や、その昔日の面影は見る影もなくなっていたのだから。
「やっぱ、半年前の失恋がよっぽどショックだったのかね~。
あの後ガブラさん、完全にヤケ食い・ヤケ酒モードに入っちまって……」
「……心中、お察しするでやんす~」
と、周囲の怪獣たちはおおむねガブラに同情的。
だが、それらを束ねる怪獣魔王・イフは、もはや我慢の限界だ!
イフ「えぇい、ガブラよ……今日と言う今日は、言わせてもらうぞっ!
ろくに運動もせず、食っちゃ寝、食っちゃ寝の怠惰な生活だから
そのようなみっともない姿を晒すことになるのだ、分かっておるのか!」
ガブラ「分かってます、分かってますってば、魔王様。
そのお話の続きでしたら、昼飯の後の軽いおやつを食べ終わってから
ゆったり、のんびり聞かせてもらうってコトでぇ……」
イフ「(ムカッ)……ぜ~んぜん、分かっとらんっ!!」
イフ「よいか、今すぐ地球に降りて宙マンを倒してくるのだ――
さもなくばお前はクビだぞっ、退職金だって出さんっ!」
ガブラ「ひょえぇ~っ、しょ、しょんな殺生な~っ!」
イフ「クビが嫌なら、さっさと行けぃっ!」
ガブラ「(慌てて)は、ハハァーッ! 今すぐ早速、ただいまぁぁ~っ!」
この宇宙的不景気の折りに、首切りなどされてはたまらない――
と言うわけで、大慌てで暗黒星雲を飛び立っていったガブラ。
目指すはもちろん、北海道千歳市だ!
ゴウンッ!
落合さん「!!(ハッと空を見上げる)」
ビーコン「どわっ、今日はいきなり来たっスねぇ!?(汗)」
ズゴゴゴグワーンっ!
耳をつんざく大音響とともに、千歳市の上空から猛スピードで飛来し……
一直線に落下、千歳市内の地面に激突して大爆発を起こす赤い球体。
赤い噴煙の中から立ち上がったのは、もちろん……!
「ガブル~ッ、ガブガブガブ~ッ!!」
ピグモン「あっ、怪獣なの!」
ビーコン「今日のもまたまた、ヤバげな感じのヤツっスねぇ!」
ガブラ「がうう~っ、出てこ~い、宙マン!
お前にとりたてて恨みはないが、やらなきゃ俺の首が飛ぶ!」
落合さん「(首を傾げて)……は?」
ガブラ「コホンっ……こっちの話だ、気にするな」
ガブラ「……と、とにかくだな、宙マンよ。
お前が出てこないつもりなら、千歳の街をメチャクチャにしてやるぞ~!」
落合さん「んーまっ! なぁんて勝手な物言いでしょう!?」
ビーコン「まぁ、怪獣軍団の場合は毎度のコトっスけどねぇ!(汗)」
イフ「わはは、どちらに転んでもワシらにとって損はなしだ。
どれ、宙マンめのやる気が出るように手伝ってやるがよい……
まずは千歳の街を叩き壊し、奴をおどかしてやれ、ガブラよ!」
ガブラ「承知しました、魔王様~!」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始するガブラ!
迫り来る巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
落合さん「ああもう、四月早々怪獣さん達は元気一杯ですこと!」
ビーコン「そのテの嫌味が通じる連中じゃないっスよ、落合さん!」
宙マン「いいからみんな、逃げるんだ――早く!」
ピグモン「あ、宙マン、いいところに来てくれたの~!」
と、街は早くもドッタンバッタン大騒ぎ。
猛毒怪獣の狼藉、もはや断じて許すまじ。
千歳の平和を守るため、航空防衛隊が直ちにスクランブルをかけた。
落合さん「あらまぁ、航空防衛隊の戦闘機ですわ!」
ピグモン「おじさんたち、しっかりなの~!」
ビーコン「頼んだっスよ~、今回こそは!」
「見てろよ、怪獣め……全機、一斉攻撃開始っ!」
一斉に叩きこまれる、戦闘機隊のロケット弾!
相次ぐその直撃にさえ、ガブラは全く怯む様子を見せない。
ガブラ「がうう~っ、よせよせ、お前らなんかじゃ相手にならん!
出て来い、早く出てこ~い、宙マンっ!」
ビーコン「あ~んなコト言ってるっスけど……アニキ、どうするっスか?」
宙マン「どうするもこうするも……ここはやっぱり、やるしかないだろうッ。
でないと――」
落合さん「怪獣さんより先に、流れ弾で街が壊滅しかねませんものねぇ!?(汗)」
宙マン「(苦笑)そういうコトなんでね――じゃ、ちょっと行ってくるよ。
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、暴れ回るガブラの前へ舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
怪獣ガブラ、望みどおりにこの私が出て来てやったぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「おおっ、今日も出たっス、アニキの十八番!」
落合さん「お殿様、やっぱり素敵です……♪(うっとり)」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
宙マン「これ以上の無法な真似は、この宙マンが許さないぞ!」
ガブラ「がうう~っ! ぬかせ、宙マン!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
今日もまたまた、世紀のスーパーバトル開幕だ!
ガブラ「こちとらなぁ、こちとらなぁ、首がかかってんだ――
だからな、悪いが超本気でやらせてもらうぜ、宙マン!」
宙マン「そちらの事情は知らんが……とにかく、来るなら来い!」
激突、宙マン対ガブラ!
落合さんたちの見守る中、巨大バトルが凄絶なる火花を散らす。
自分の「首」がかかっているだけあって、ガブラはもう必死!
そのコロコロ太った体形からは想像もつかないような機敏な動きで
連続攻撃を繰り出し、宙マンを手こずらせる。
が、そこはそれ、長年の経験に裏打ちされた宙マン・アクションは
決してガブラの「させっ放し」を許しはしないのだ。
宙マン「どうだ、参ったか!?」
ガブラ「なめんなっ!
行くぞコノヤロー! ガブガブガブガブ、ガブ~ッと!」
ついにその巨大な口で、宙マンの腕にガブリと噛み付いたガブラ!
宙マン「ぐっ!……う、うう……うっ!」
慌てて、これを振りほどく宙マンだったが……。「
ガブラ「がぶるらら~、時すでに遅しだぜ、宙マンよぉ!」
宙マン「……なンだと!?」
ガブラ「既に俺の牙から、恐ろしい毒がお前の全身に回ってるのさ――
かつてウルトラセブンをも苦しめた、シャドー星の猛毒がな!」
ピグモン「そ、そんな……そんなのってないの~!(涙目)」
ビーコン「せ、セブンの旦那も苦しめた猛毒って……」
落合さん「私も以前、文献で目にしたことのある記述ですわ。
……残念ですけど、どうやら只のハッタリではなさそうです!(汗)」
イフ「シャドー星生まれのガブラの毒、生半可なものではないぞ。
全身がしびれ、震え、五感が喪われ……
これまでワシらをコケにし続けてくれた分だけ、地獄の苦しみを味わいながら
のたうち回って死んでいくのだ、宙マン!」
宙マン「なんの……これしきの事で、私は……っ!」
ガブラ「痩せ我慢かィ、それもよかろうぜ――
だったら悪あがきのバカ踊り、ゆっくり見物させて貰おうか!」
勝利を確信し、目の前の宙マンを鼻で嗤って……
ゆったりと「その時」を待つガブラ。
そう、あとはただもう、ゆったりと……
もはや、直接攻撃で手を下す必要すらない。
……その、はずだったのだが!?
「あっれぇ~、おっかしいなぁ!?」
15分……20分……ついには30分間が経過してもなお、
ガブラと対峙し続ける宙マンの身には、何の変化も見られない。
ガブラ「え~と、あの……宙マン……さん?
つかぬ事をお伺いしますが、お体のほうは特に何ともないですか?
眩暈がしたりとか、寒気や吐き気があったりとか……」
宙マン「いやぁ、そういうのは特にないけどねぇ~」
ガブラ「そ、そんな馬鹿なっ! なぜなぜホワーイ、どうして~!?」
落合さん「そうか、アルコールですわ!」
ビーコン「どういうことっスか、落合さん?」
落合さん「猛毒のスズメバチやムカデなども、お酒の中に漬け込むことで
逆に火傷や虫刺されのお薬となったりするように……
きっとあの怪獣さんも、暴飲暴食の自堕落な生活を続けてきたことによって
体内の毒が、飲んだお酒で残らず浄化されてしまったんです!」
ガブラ「な、ナンタルチヤ……!!」
荒れに荒れた食生活のツケが、まさかこんな形で回ってくるとは。
ショックを受けたガブラに向けて、ここで一気に宙マンの大反撃!
宙マン「どうれ、ここらで幕引きといこうじゃないか!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ガブラを直撃!!
ガブラ「がううう~っ、ま、マイッタ~!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ピグモン「はうはう~! やったのやったの、宙マンが勝ったの~!」
ビーコン「さっすがアニキ、今日もシビレるビクトリーっス!」
落合さん「ありがとうございました、お殿様!」
かくして、ここに平和は蘇った――
千歳のヒーロー・我らが宙マンの活躍によって、猛毒怪獣ガブラは
地球征服の野望もろとも、見事に撃退されたのであった。
その一方で、ほうほうの体で暗黒星雲に逃げ帰ったガブラ。
怪獣魔王からのクビ宣告が待っている、かと思いきや……。
イフ「いやいやガブラよ、なかなかどうして見上げたものじゃ!」
イフ「宙マン打倒は叶わなかったとはいえ……
あの敢闘精神は実に見事であったぞ、ガブラよ!
クビの話はなかった事にしておくゆえ、これからも宙マン打倒のために
更なる精進に励むがよいぞ!」
イフ「……って、ガブラよ。
いつまでもそう卑屈にならずに、面を上げてだな……」
「……んあ? なんか仰いました、魔王様?」
なんと帰ってきた早々、コーラ片手にハンバーガーへかぶりついていたガブラ。
ガブラ「やー、久しぶりの戦いで腹ァ減っちゃって、つい……てへへっ☆」
イフ「……こっ、この……大馬鹿者めが~!!」
懲りずに頑張れ怪獣軍団、宙マンも負けるな!
では、また次回をお楽しみに!