遥かなる宇宙の彼方、暗黒星雲の奥深くから……
美しい緑の星・地球を我が物にせんと狙い続けている、恐怖の怪獣軍団。
今日も配下の怪獣たちに向かって、怪獣魔王・イフの檄が飛ぶ。
また恐るべき侵略の魔の手が、我らの地球に迫るのだ!
イフ「大地裂く爪、凶暴なる牙よ、怪獣魔王の名において命ずる……
今こそ立ち上がり、その力を地上の者どもに叩きつけてやるのだ!
行け!……狙うは千歳、そしてにっくき宙マンだ!」
ゴゴゴゴ……ドッガァァァーンっ!
怪獣魔王の声に応えるかのように、突如として不気味な地殻の変動。
火山の爆発、迸るマグマ……
「大地の叫び」に呼応するがごとき大地震と凄まじいまでの地割れが
今、恐るべき悪の使いを地上へと呼び寄せた。
……それは!?
「ガロロロロォーっ!!」
大地を引き裂き、ガバッと出てきた怪獣は――
かの名曲「怪獣音頭」でも真っ先に歌われた、“手にも負えない暴れ者”。
朝霧山出身の凶暴怪獣・アーストロンだ!
アーストロン「ガロロロ~ッ、そこのけ、そこのけ、ちっぽけな人間ども!
天下御免の最強怪獣、アーストロン様のお通りだ!」
巨体を唸らせ、のっしのっしと進撃を開始するアーストロン!
その恐るべき巨体を前にしてなす術もなく、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
「おおっ、今日も今日とて出てきたっスね~!」
アーストロン「!?」
不意に聞こえてきた呑気な声に、思わず歩みを止める凶暴怪獣。
怪訝に思って、自分の足元を見下ろしてみれば……。
落合さん「う~ん、今回の怪獣さんはいかにもこう、実に判りやすい
ストロングスタイルの正統派、といった感じですわね~。
とは言え、私のお殿様の敵ではございませんけれどもね!」
ビーコン「いやぁ落合さん、ああいう直球勝負のストレートな怪獣ほど
意外に粘り強く、しぶとい試合運びを見せたりするもんっスよ~。
……ヒヒヒ、なんなら賭けてもいいっスよ? オイラの唇とか♪」
げ し っ !
落合さん「そんなおぞましい賭けに、誰が乗るものですかっ!」
ビーコン「どひ~っ、やっぱこうなっちゃうっスねぇぇ~」
相次ぐ怪獣襲撃によって感覚が麻痺したか、それとも「鍛えられた」のか――
目の前にアーストロンがいるにも関わらず、緊張感のまるでないこの方々。
で、そうなると当然……。
アーストロン「が、ががっ、ガロロロロォーっ!!
おっ、お前ら、大概にせぇよ~!?」
ビーコン「ひぇぇ、怒ってるっス、めっちゃトサカに来てるっスよぉ!」
落合さん「ほら御覧なさい、ビーコンさんが場の空気を読まないからっ!(汗)」
ビーコン「お互い様っスよ、お互い様!(汗)」
アーストロン、大激怒!
口からのマグマ光線が、たちまち千歳の街を炎に包んでいく。
アーストロン「俺がせっかく意気こんで、真面目な悪に徹してるっていうのに……
なんだなんだ、お前らのその締りのない態度は!?
ブッたるむにも限度ってものがあるんじゃないのか~!?」
至極真っ当な正論ではあるが……
少なくとも、街を破壊しにきた怪獣にそれを言われる筋合いはない。
ピグモン「はうぅ、このままじゃ街がたいへんなことになっちゃうの~。
ええっと、宙マン、宙マンはどうしたの~?」
ビーコン「ああ、アニキだったら今うんこっスよ~」
落合さん「……ンまっ、もうちょっとお上品に仰って下さいなっ!(赤面)」
ビーコン「な~にを言ってるっスか、落合さん!
食事と排泄は大事な本能っス、上品もクソもないっスよ――
あ、でもうんこの話なら、とりあえず「クソ」ではあるんスよねぇ?」
落合さん「だから、そこで私に同意を求めないで下さいっ!(赤面)」
ピグモン「あ、そう言えばね~、落合さん。
さっき見たら、もうそろそろトイレの消臭剤が切れそうな感じだったの~」
落合さん「あらあら、それはいけませんわね!
では早いうちに、新しいものを買い求めておきませんと……」
アーストロン「ガロロロロォーっ!!
どいつもこいつも、コケにしやがって……もう許さんぞっ!」
憤慨したアーストロンが、落合さんたちを踏み潰そうとした時……
トイレでの「用足し」を済ませた宙マンが、いいタイミングで駆けつけてきた。
宙マン「いやぁ、お待たせお待たせ、おかげさまでスッキリ爽快!
……それはそうと、何だかさっきから騒々しいけど、どうしたんだね?」
ビーコン「ハァ、なんつーか、話せばいろいろ長いんスけど……」
落合さん「ビジュアル的には「ああいう感じ」ですわ」
落合さんが指差したその先にいるのは、当然……
もはや完全に、頭に血がのぼって暴れまくっているアーストロンである。
宙マン「……なるほどね。ものすごくよく判ったよ、ビジュアル的に」
ピグモン「宙マン、宙マン、早くなんとかしてなの~」
宙マン「ようし、行こうかね! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
さぁ、今日もまたまた正義の味方のお出ましだ!
落合さん「ああっ、これこれ、これですわ……!」
ビーコン「毎度ながらの、この絶対的安心感っスよねぇ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
アーストロン「ガロロロッ、出たな宙マン!」
宙マン「さぁて! すっきりしたところで、私も一暴れといくか!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ!
アーストロン「ガロロ~、アーストロン様の力を思い知らせてやる!」
宙マン「さぁ来い怪獣、勝負だ!」
激突! 宙マン対アーストロン!
落合さんたちが見守る中、ふたつの巨体が熱くぶつかり合う。
身につけた華麗な技で、アーストロンに猛攻をかける宙マン。
が、「正統派」を自負するだけあって、アーストロンの実力も侮れない。
宙マン「うぬっ――やるな!」
アーストロン「グロロロ、当たり前、当然、そして常識!
俺の正統派な強さの前にひれ伏して死ねぇ、宙マン!」
ズガーン! グワーンっ!
マグマ光線が周囲に、爆発と熱風を巻き起こす。
宙マンがひるんだ隙に、頭部の巨大な一本角を閃かせて、闘牛のように
怒涛の体当たりをぶちかますアーストロン!
アーストロン「ガロロロロォーっ! これがこの俺、アーストロン様の実力よ。
どうだ、思い知ったかお前ら……
これを見てもまだ、さっきみたいなグダグダでいられるか~!?」
勝ち誇り、ちらりと足元の落合さんたちを見やったアーストロンだったが……。
ピグモン「はうはう~、落合さん、冷蔵庫のアイス食べてい~い?」
落合さん「あらまぁ、何ですかピグモンちゃんったら……。
今食べちゃうと、肝心のお夕飯が入らなくなってしまいますわよ?」
ピグモン「えへへ、だいじょうぶなの~。
だってピグちゃん、今が育ち盛りの食べ盛りなんだもん♪」
落合さん「ふふっ、しょうがないピグモンちゃんですわねぇ。
……でも、ちょっとだけですわよ?(微笑)」
ピグモン「はう~♪」
……と、宙マンとアーストロンの戦いそっちのけで
あまりにも「普段どおり」の光景を繰り広げている宙マンファミリーである。
アーストロン「が、ががが、ガロロロロ~……おっ、お前らは~!?
俺がせっかく真面目にやってるのに、なんだその態度は!?」
あまりのグダグダ展開に、思わず大憤慨するアーストロン――
そしてそこに、アーストロン側の大きな隙が生じた。
宙マン「ようし、今だッ!」
絶好のチャンスを逃さず、宙マンのハイキックが炸裂!
顎への痛烈な一撃に、凶暴怪獣がたまらずブッ倒れたところへ――
宙マン「とどめだ! 宙マン・フラッシュボンバー!!」
シ ュ ッ パ ァ ァ ー ン ッ !!
右手に集中させた闘気を、裏拳とともに勢いよく解き放ち……
赤いエネルギー弾として、敵めがけて叩きこむ荒技。
フラッシュボンバーの一撃が、アーストロンに大炸裂!!
アーストロン「ぜ、贅沢は言わねぇ……
だが、せめてもっとシリアスな展開の話に出たかった~!!」
「巡り合わせの不運」を呪いつつ、必殺技の威力に敗れ去る大怪獣。
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「うぬぬっ、おのれおのれ……覚えておれよ、宙マンめ!
この次には必ず、今日の屈辱を何百倍にもして叩き返してくれる!」
……などと言う、もはや毎度毎度の負け惜しみはさて置いて。
かくして我らが宙マンの活躍により、ストロングスタイルの「正統派」を自負する
凶暴怪獣アーストロンは敗れ、千歳市は元の平和を取り戻したのであった。
宙マン「いや~、一汗かいたらすっかりお腹がすいちゃったな」
落合さん「うふふふっ、そう仰るだろうと思っておりましたわ~、お殿様。
準備は整っておりますから、少し早いですがお夕飯に致しましょう♪」
ビーコン「しっかし……なんか、ちょっと可哀想だったっスねぇ、今日のあの怪獣。
本人的には、シリアスな正統派として王道バリバリに大暴れする気マンマンだったのに
結局あ~んなオチがついちまって……」
落合さん「怪獣描写をとるか、はたまた人間ドラマをとるか……
この手のジャンル番組が抱える、根本的なジレンマというものですわねぇ(しみじみ)」
ビーコン「い、いやァ落合さん、それとはちょっち違うような……(汗)」
宙マン「はっはっはっはっ、いくら正道だ、王道だと言ってみたところでね。
みんなが仲良く、平和に暮らして行けること……
私からすれば、それ以上の王道なんてないってものさ♪」
ビーコン「お見事っ、最後にもっともらしく纏めたっスね、アニキ!」
ピグモン「はうはう~、さすが宙マンなの~☆」
かくして今日も、相変わらずノホホンと平和に暮らす宙マンファミリー。
だが……ルーティンワークな展開の後には、往々にして思いもかけない急展開や
大ピンチが待っていたりもするのも、またヒーロー路線における常套の作劇。
そう、だからこそ――
くれぐれも油断は禁物だぞ、宙マン!
いや、マジでマジで(笑)!