渦巻く暗黒星雲の奥深く、怪獣軍団の本拠地では……
今日も今日とて、地球征服のための悪企みが進行中。
今、この瞬間もまた。
幹部候補生「ダークネスファイブ」の一人、“魔導の”スライが
新たな作戦を立案し、怪獣魔王に言上しているところであった。
スライ「んー、ふふふ。
魔王様、これこそ地球侵略の決定版でございます――
名付けて“ゴールド・レイン作戦”!」
イフ「ゴールド・レイン……黄金の雨、とな?」
スライ「左様にございます。
まずは世界各地に、大量のコイン・紙幣・金券もろもろ……
文字通り、黄金の雨を降らせるところから」
イフ「うむっ、なかなか奇抜なスタートだな。
……で、それからどうなる?」
スライ「欲の皮が突っ張った地球人どものこと。
誰もが食いつき、各地で暴動さながらの奪い合いとなっ
手のつけられないパニックになることは必定。
……んー、ふふふ、そして更に!」
スライ「それらは全て、我らが細工を施した“毒の金”。
拾い集め、溜めれば溜めるほどに毒の作用で凶暴化し…
それらの中毒者たちが本能のままに暴れ回る事によって
人心も、社会も、一気に荒み果てることは必至!
そして、その隙につけこんで攻め入れば……」
イフ「地球征服などたやすいこと、と言うわけか。
流石は“魔導の”スライ、大した悪知恵じゃの!」
イフ「だが、それだけの大掛かりな作戦ともなると……
そのための準備期間も、長くとらねばならんなぁ。
何より、その毒金の一定数をどう確保する?」
スライ「(頷き)心配ご無用。またとない適任者がおります」
スライ「“守銭奴の権化”と呼ばれるほど、金と儲け話にうるさく……
地球上の通貨はおろか、ウラー、ドルエン、ザギンと言った
宇宙共通の通貨まで、がっぽり溜めこんでいるあの怪獣。
コイン怪獣・カネゴン君の力を借りれば、容易いことかと」
イフ「おおっ、あやつか、あやつなら確かに!」
スライ「聞いてましたか、魔王様もこの通り大乗り気。
……さぁ、カネゴン君、やってくれますね!?」
「んん~……い や だ ガ ネ ☆」
イフ「……な、何ぃぃぃっ!?
カネゴン貴様っ、一体どういうつもりで、魔王たるワシにその態度……!」
カネゴン「やー、どう言うもこう言うもないガネ!」
カネゴン「たとえビタ銭の一枚、低額紙幣の一枚であっても……
お金ちゃんはみんな平等に愛しい、大事なものだガネ。
毒の金だの、黄金の雨みたいにバラまくだの……
そんな下らないことのために自腹切るなんて、とんでもない!」
スライ「く、下らないって、君ねぇ……
地球侵略のための必要経費と思えば、ねぇ!?」
カネゴン「何と言われても、ヤなもんはヤだガネ!」
イフ「えぇいっ、この強情っぱりめが!
ではカネゴンよ、貴様はこのワシに……
怪獣軍団と魔王に弓を引き、反逆すると申すか!?」
カネゴン「いやいやいや、そうじゃないガネ、魔王様!
僕ちゃんはただ、自腹切るのが嫌ってだけで……
そんな出費無しでも、地球なんて腕ずくで潰せるガネよ!?」
イフ「よーし、よく言ったカネゴン、ならばやって見よ!
お前の腕ずくとやらで、まずは千歳を制圧するのだ!」
カネゴン「グェヘヘヘ~、心得たガネ、魔王様!
自腹を切るのに比べりゃ、そんなのお安い御用だガネ!」
おお、売り言葉に買い言葉。
「自分の持ち金から出費するぐらいなら」と、千歳攻撃のために
勇んで飛び出していくカネゴンであった。
イフ「ふぅ、やれやれ。
相変らず、あいつのガメつさには困ったもんじゃの!
……スライよ、せっかくの計画がフイになり、お前も気の毒であったが……」
スライ「いいえ魔王様、全ては……計画通り!」
イフ「(驚き)何っ!?
……では、そなた、最初からこうするつもりで……」
スライ「(ニコニコ)んー、ふふふ♪」
イフ「……全く、大した悪知恵よのぉ!」
かくして、怪獣軍団の本拠地を離れ……
コイン怪獣カネゴンが、地球を目指して飛びたった。
……そして、今。
新たなる悪の使者は、無限に広がる宇宙空間を一気に飛び越えて
ここ・北海道千歳市の上空に達したのであった!
ゴ ウ ン ッ !
落合さん「!!(ハッとして空を見上げる)」
ビーコン「どひ~っ、前置きなしでいきなりっスかぁ!?」
ズゴゴゴグワーンっ!
大音響とともに、千歳市の上空から猛スピードで飛来して
一直線に落下、大爆発を起こす赤い球体。
吹き上がる赤い噴煙の中から立ち上がったのは、勿論……!
「グヘヘヘヘヘ……!!」
ピグモン「あっ、怪獣なの!」
落合さん「それにしましても、失礼ながら……
今日の方は、少々お間抜けなルックスですこと!」
宙マン「頭はがま口、体は火星人……
目玉は飛び出て、尻尾にはギザギザ付きときたか。
ううむっ、こいつは……!」
ビーコン「(頷き)リブラ・ゾディアーツっス~!」
「ねーい、カ ネ ゴ ンだガネ、カネゴンっ!!
わざとらしく間違えよって、全く!」
ピグモン「(ビクッと震えて)きゃあぁんっ、怖いの~!」
カネゴン「お間抜けなルックスとか、言いたい放題言いよって。
ちゃ~んと聞こえてたガネよ、ちゃんと!?」
ビーコン「うひ~、怒らせちまったみたいっス!(汗)」
落合さん「……失言でした、反省しきりですわ(汗)」
イフ「ようし、怒れ怒れ、もっと怒りを燃やせ!
猛り狂って、千歳の街を徹底的に破壊するのだ。
行けぃ、怪獣軍団の勇者・カネゴンよ!」
カネゴン「グェヘヘヘ~、まァ見てるガネ、魔王様~!」
猛然、進撃を開始するカネゴン!
迫り来るその巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う千歳の人々。
ビーコン「どひ~っ、えらいこっちゃ、えらいこっちゃっス!」
落合さん「ルックスの件はさて置きまして……
巨大サイズですと、やはりそれなりに怖いものですわねぇ!」
ピグモン「えう~、そんなコト言ってる場合じゃないと思うの~」
おお、早くも千歳は絶体絶命の大ピンチ!
そんな危機的状況に際して、今日もまた……
航空防衛隊の空の精鋭たちが、直ちにスクランブルをかけた。
ピグモン「あっ、防衛隊のおじさんたちが来てくれたの!」
ビーコン「う~ん、さすがに今日は大丈夫っスよねぇ?」
落合さん「えぇ、あの怪獣さん相手なら、ねぇ!」
「ようし……全機、一斉攻撃開始っ!」
戦闘機隊のミサイル攻撃!
が、度重なる爆発にも、カネゴンの勢いは止まらない。
カネゴン「グェヘヘヘ~、蚊トンボは引っ込んでるガネ!
くらえ、がま口ハリケーンっ!」
「……ど、どわぁぁぁ~っ!?」
カネゴンの口から吐き出される、猛烈な勢いの突風!
その威力に翻弄され、戦闘機隊は次々に叩き落とされていく。
ビーコン「どひ~っ、間抜けな顔して……フツーに強くないっスかぁ!?」
落合さん「あらまぁ、これは流石に予想外でしたわねぇ!」
平和な街が、みるみる炎に包まれていく。
ピグモン「はわわ……宙マン、宙マン、何とかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うカネゴンの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
怪獣軍団の小悪党め、それ以上はやらせはしないぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いえっふ~、待ってましたっス、アニキのコレを!」
落合さん「ここ一番で頼もしいのは、やっぱりお殿様ですわねぇ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
カネゴン「グェヘヘヘ……
わざわざやられに来るとはご苦労だガネ、宙マン!」
宙マン「いいや、お前を懲らしめに来たのさ!」
ファイティングポーズを取り、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまたビッグファイトの幕開けだ!
カネゴン「グヘグヘ、叩きのめしちゃるガネ!」
宙マン「どこからでもかかって来い!」
激突、宙マン対カネゴン!
落合さんたちの見守る中、巨大な両者が戦いの火花を散らす。
巨大な頭をふり、隙あらば宙マンを呑みこまんばかりの勢いで
猛然と迫って来るのはカネゴン。
その容姿とも相まって、ややユーモラスな感じもする攻撃だが
当たればダメージが大きいのも事実なので、いかな宙マンでも
決して気を抜くわけにはいかないのだ。
カネゴンの打撃を時にかわし、時に受け止め、受け流し……
果敢に、かつ冷静に、攻撃のチャンスを伺う宙マンである。
カネゴン「グヘグヘ、どうしたガネ、ビビってんのかかぁ!?」
宙マン「なんの、まだまだこれからさ――それっ!」
炸裂、宙マン得意の浴びせ蹴り!
びしっと小気味よい打撃音を立てて、敵に鋭いキックが決まれば
さしもの元気なカネゴンも怯み、後退せざるを得ない。
宙マン「どうだ、参ったか!?」
カネゴン「グガァァァ~、調子に乗るんじゃないガネよっ!」
風圧が宙マンの巨体をも翻弄し、動きを鈍らせたところへ――
カネゴン「グヘヘ、お次は現金(ゲンナマ)攻撃だガネ!」
体内のコインを無数の爆弾に変え、吐きかけるゲンナマ攻撃!
理由を問わず「自腹を切る」のをとことんイヤがる、がめつい彼が
こういう戦い方をするのは、紛れもなくカネゴンが「本気」の証拠。
カネゴン「そぉりゃっ、仕上げは実弾攻撃だガネ~っ!」
「う、うわぁぁぁぁ……っ!」
カネゴンの投げつけた「実弾」、すなわち札束型の強力爆弾。
その威力に大きく吹っ飛び、地面に叩きつけられた宙マンである。
落合さん「ああっ……お、お殿様っ!?」
ビーコン「冗談みたいな武器なのに、威力がとんでもないっス!」
ピグモン「はわわ……宙マン、まけないでなの~!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ……!」
カネゴン「グヘヘへ、ヒーローもとうとうお終いだガネ!」
「なんの……負けて、なるものかッ!」
正義の雄叫びとともに、宙マンの反撃が始まる!
おもむろに、カネゴンの足元で回転し……
逆立ちとともに、両足で敵の脳天に見舞うカンガルーキック!
カネゴン「ぐ、グヒャアァァッ!?」
意表を突かれ、見事に直撃を受けてしまったコイン怪獣。
眩暈とともに、その巨体がズズーンと地面に倒れこんだ。
落合さん「お上手ですわ、これでお殿様のペースです!」
ビーコン「ここで手ェ緩めちゃダメっスよ、アニキ~!」
宙マン「(頷き)おうっ!」
倒れたカネゴンに駆け寄り、その巨体を引っ張り起こす宙マン。
そして、そのまま……
カネゴンの体を掴んだまま、もろともに大空高くジャンプ!
怪獣と超人、ふたつの巨体が大空に舞う。
宙マン「さぁて、これで終わりにさせてもらおうか!」
カネゴン「ひ、ひぇぇぇっ、な、何をなさるおつもりだガネ~!?」
「ドォリャァァーっ!
宙マン・天空風返し!!」
カネゴン「ひょ、ひょんげぇぇ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
落合さん「やりました、お殿様がやって下さいましたわ!」
ビーコン「さっすがアニキ、最後はバッチリ決めてくれるっスねぇ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
イフ「ぐはぁぁぁっ……お、おのれおのれ、又しても宙マンめが!
このままでは絶対に済まさんぞ、今に見ておれ!」
屈辱に全身を震わせ、呪いの言葉を吐き出す怪獣魔王……
それは取りも直さず、千歳の街に平和が戻ったことの確かな証。
かくて我らが宙マンの活躍により、コイン怪獣カネゴンは撃退され
怪獣軍団の野望は打ち砕かれたのであった。
落合さん「改めまして……お疲れ様でした、お殿様!」
宙マン「やぁやぁ、お待たせ、お待たせ!」
落合さん「それにしても、今日の怪獣さん……意外な強敵でしたわねぇ」
ピグモン「今度こそほんとに、宙マンが負けちゃうかと思ったの~」
宙マン「ああ、本気で危ないところだったよ――
みんなの応援がなければ、私もどうなっていたことか」
落合さん「えぇ……本当に、ご無事で何よりでしたわ」
ビーコン「いやいや~、そういう思わぬ番狂わせがあるからこそ
世の中は面白くもあり、楽しくもあり……
そして、だからこそ予定調和の良さも光るんスよねぇ」
落合さん「はぁ……急にどうなさいましたの、ビーコンさん?
そんな、とってつけたみたいに尤もらしいこと仰って……」
ビーコン「ヒヒヒ、つまりこういうことっスよ!
これから寝室で、オイラと一緒に甘くとろける時間を……
は~、落合さんの胸、やっぱ落ち着くっス~☆」
落合さん「(赤面)……きゃ、きゃああああっ!?」
げ し っ !
落合さん「っが~、遠いお空へ飛んでいって下さいっ!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、これもひとつの予定調和っスねぇぇ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
今日も本当にありがとう、宙マン!
だが、未だ怪獣軍団の野望は尽きない……
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?