静かに夕焼けが、大地を包んでいく……
何時もと変わらぬ、日暮れ。
家路を急ぐものあり。
過ぎゆく一日にしみじみと思いを馳せるものあり。
そして……今夜の夕食に、早くも胸をときめかせるものもあり。
と言うわけで今回の『宙マン』もまた、暮れなずむ北海道千歳市の一角、
ほんわか町5丁目の「宙マンハウス」から物語を始めよう。
宙マン「いやぁ、ぼちぼちいい具合にお腹が減ってきたねぇ!
落合さん、今夜のおかずは何かな?」
落合さん「うふふ、今夜はぐっと庶民的かつパワフルに……
コロッケとハムカツ、この二本柱を軸にしてみましたわ」
ビーコン「おおっ、頼もしい響きっスねぇ!」
宙マン「庶民的けっこう。大いに結構だよ!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんも揚げ物大好きなの~♪」
宙マン「香ばしく揚がったこの上に、ソースをどぼどぼっと……
少々品がないくらいに、どぼどぼ行くのが私ゃ好きでねぇ!」
落合さん「えぇ、ご飯が本当に進みますのよね~。
食べ盛りだった、学生時代のことを思いだしますわ」
ビーコン「ヒヒヒ、食べ盛りなのは今も同じっしょ?
夜中、こっそりゴソゴソ起きてはカップ麺食ってたり……」
落合さん「(赤面)……ちょ、ビーコンさんっ!?」
ビーコン「それに落合さん、今なお育ちざかりでもあるじゃないスか。
ほーら、気がつけば、下腹部あたりに余分なお肉が……」
落合さん「っがー! それ以上仰ったら、鉄拳制裁ですわよ!?(汗)」
ビーコン「(ニヤニヤ)それでもなお、揚げもんの誘惑にゃ勝てねー、と!」
落合さん「……わ、判り切ったことを聞かないで下さいましっ」
宙マン「はっはっはっはっ」
夕餉前の、どこにでもある穏やかな団欒。
だが、そんな人々のやすらぎの時間を破るかのように!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
ピグモン「は、はわわわわわっ!?」
落合さん「この揺れ方……只事ではございませんわね!」
ビーコン「どひ~っ、ってコトは、また……!?」
そう、その通り!
街を揺るがし、大地を裂いて……今回もまた怪獣軍団の刺客が
夕陽に染まった千歳市のド真ん中へその巨体を現した!
「グルルル……クエェェェ~ッ!!」
ピグモン「ああっ、おっきい怪獣なの!」
ビーコン「こ、古代怪獣ツインテールっス!」
落合さん「いえ、あれは確かオーストラリア出身の……」
宙マン「(頷き)……双脳地獣ブローズじゃなかったっけな!?」
そう、まさしくその通り――
二つの頭部に二つの脳を分散している彼は、双脳地獣ブローズ。
言うまでもなく、暗黒星雲から送りこまれた怪獣軍団の一員だ!
ブローズ「クェェェ~ッ、そうとも、そうだとも!
このブローズ様が、こうして千歳に来てやったからには……
お前らはもう、呑気に晩飯食ってる場合じゃないんだぜ!?」
ビーコン「ど、どひ~っ!
全然有難くないうえに、最悪の宣誓頂きましたっス!(汗)」
落合さん「ああもう、何てことでしょう!?
せっかくこれから、揚げ物に舌鼓を打つところでしたのに……」
ピグモン「これじゃ、ハムカツもコロッケもお預けなの~!」
宙マン「……うぬっ!」
イフ「わははは! そうだ、今こそ行くがよい、ブローズよ!
お前の俊敏性を武器として、てきぱき使命を果たせ!」
イフ「判っておるな、それは即ち――
地球征服の手始めとして、千歳の街の徹底破壊だ!」
ブローズ「クェェェ~ッ、お任せ下さい、魔王様!」
異形に似合わぬ俊敏さで、おもむろに動き出すブローズ!
迫り来る巨体を前に、散り散りに逃げ惑う千歳の人々である。
ビーコン「どひ~っ、よりにもよって晩飯時にっス~!」
落合さん「食べる寸前でのお預けが、一番こたえますわねぇ!」
宙マン「いいから、とにかく逃げるんだ――さぁ、こっちへ!」
大怪獣ブローズの出現により、千歳市内は大混乱。
だが、この緊急事態を、航空防衛隊は座して見ているだけではない。
落合さん「あらまぁ、(ピー)がタンクで……」
ビーコン「……もとい、防衛隊がジェットでやって来たっス!」
ピグモン「はうはう~、おじさんたち、がんばってなの~!」
「ようし……全機、一斉攻撃開始っ!」
戦闘機編隊から叩きこまれる、ロケット砲の一斉攻撃!
人間相手の戦争ならば、絶大な威力であろう通常兵器……
だが、異形の荒くれ者・ブローズには全く通用しない。
ブローズ「クェェェ~ッ、ザコは引っ込んどれィッ!」
「……う、うわぁぁぁぁ~っ!?」
ブローズ頭部の角から放たれるのは破壊閃光。
断続的フラッシュが周囲に走った次の瞬間、上空の戦闘機は
次から次へと撃ち落とされていく。
怪獣ブローズ、傍若無人の大暴れ。
爆発! 炎上!
千歳の街の命運は、今や紅蓮の炎の中に尽きようとしていた!
ビーコン「ひぇぇぇ、もうだめっス、おしまいっス!」
落合さん「こうなってはもう、お殿様だけが頼みの綱ですわっ」
ピグモン「はわわ……宙マン、宙マン、なんとかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うブローズの前へと舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
怪獣ブローズ、悪ふざけはそのくらいにしておくがいい!」
ズ、ズーンっ!!
ブローズ「クエェェ~ッ、相変わらずカッコつけやがって!
今すぐそのスカシっぷりを、惨めな泣きっ面に変えてやる!」
宙マン「そっちこそ……
恥をかく前に、さっさと退散するのが身のためだぞ!?」
ブローズ「(ムカッ)……言ったな、コノヤローっ!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
ブローズ「クエェェ~ッ、くたばれ宙マン!」
全身のイボの「孔」から、有毒ガスを噴きかけるブローズ。
しかし、宙マンのプロテクションがこれを見事に無力化。
ブローズ「ムムムッ!?」
宙マン「そんな小細工など、この私には通用しないぞ。
どうせやるなら、真っ向勝負で来るがいい!」
宙マン「私も真っ向から受けて立つ……そして、勝たせてもらうっ!」
ブローズ「……野郎ッ!!」
対決、宙マン対ブローズ!
人々が見守る中、ふたつの巨体が真っ向から激突する。
ブローズ「クェェェ~ッ、そりゃそりゃ、そぉりゃっ!」
右に左に、風を切って勢いよく唸りをあげる触手鞭!
そのトリッキーな動きに、宙マンもなかなか相手へ近づけない。
触手鞭攻撃で、宙マンを間合いに入らせまいとするブローズ。
その縦横無尽な軌道に手こずらされながらも、決して怯まずに
果敢に接近戦を挑んでいく宙マンである。
ブローズ「クェェェ~ッ、叩きのめしてやるぜ、宙マン!」
宙マン「――なんの!」
鞭を回避し、相手の懐に飛びこまんとする宙マン。
だが、嵐のように激しいブローズ鞭の一閃が、宙マンのボディを
ついに捉え、地面へと叩き伏せた!
宙マン「(悶絶)……ぐぅっ!」
ブローズ「クェェェ~ッ、お次はこれだぁ!」
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
落合さん「(愕然)……お、お殿様っ!?」
ビーコン「頭が二つだけに、悪知恵も二倍ってことっスかねぇ!?」
ピグモン「はわわわ、宙マン、まけないでなの~!」
宙マン「(苦悶)う、うう……っ!」
ブローズ「クェェェ~ッ!
恨み重なる宙マンよぉ、いよいよお前の最期だなぁ!?」
「なんの、これしき……負けて、たまるかッ!」
残された気力を振り絞り、大ジャンプする宙マン!
ブローズ鞭の一閃を、ひらりとかわしたところで――
宙マン「とどめだ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ブローズを直撃!!
ブローズ「あ、あビャあぁぁぁっ……
け、結構いいとこまで行ったと思ったんだけどなぁ~っ!?」
やったぞ宙マン、大勝利!
ビーコン「いえっふ~! 今日もアニキがやってくれたっスよぉ!」
落合さん「お見事ですわ、やはりお殿様は素敵です!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
イフ「うぐぐぐっ……おのれ、おのれ、またしても宙マンめが!!
どこまで、ワシら怪獣軍団の邪魔をすれば気が済むのか……。
だが、今に見ておれ、この次にはこうはいかんぞ!」
……などと言う、怪獣魔王の負け惜しみはさて置いて。
かくして我らが宙マンの活躍により、恐るべき大怪獣ブローズは撃退され
千歳市には再び、夕餉時の穏やかな時間が戻ってきたのであった。
落合さん「改めましてお殿様、大変お疲れ様でした!」
宙マン「いやぁ、怪獣退治で一汗かいたら……
すっかりお腹ペコペコで、もう目が回りそうだよ」
落合さん「(苦笑)……えぇ、無理もございませんわ」
ピグモン「はうはう~、さっそく帰って晩ごはんなの~。
揚げたてホカホカ、コロッケとハムカツが待ってるの~!」
宙マン「うんうん、ソースドボドボでいきたいね!」
ビーコン「ウヒヒ、いいっスよねぇ、ソースドボドボ!
そして食後のデザートも、ドボドボで行きたいっスねェ」
落合さん「(表情が引きつり)……はァ!?」
ビーコン「具体的には落合さんに、オイラ謹製のホワイトソースを……」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ! ほんとにまったく、この怪獣(ひと)はっ!!
誰も貴方の説明なんて求めてませんからッ!」
ビーコン「どひ~っ、結局今回もこうなっちまうっスねぇぇ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
ひとつの危機は去った……
だが、怪獣軍団の野望は未だ尽きない。
さぁ、次回はどんな冒険が待っているのかな?