日に日に、過ぎ行く風も冷たさを増し……
それに伴って、山々の木の葉も美しく色づきはじめるこの季節。
そんな深まりゆく秋でなければ味わえない「旨いもの」があり……
例えば北海道のあちこちに顔を出してきたキノコ類もそのひとつ。
豊富な種類のそれらは、まさしく山からの恵みに他ならない。
と、言うわけで。
今回の『宙マン』は、まさにそんな北国のキノコにまつわる物語である。
さて、こちらは千歳市近辺の、とある山林の中――
毎度おなじみ宙マンファミリーと御近所の有志が、その一角にひっそりと建つ
登山者向けの山小屋を拠点に、山の奥へと歩を進めていた。
みくるん「さあ、それじゃ皆さん、張り切っていきましょうね!」
ながもん「(ボソッと)これこそ、秋の……風物詩」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんもキノコ狩りがんばるの~☆」
落合さん「ええ、いいですわよ皆様、その意気ですわ!」
落合さん「ボリボリ、イグチにラクヨウキノコ……
お店で買ったら、ほんのちょっとの量で随分高くお金を取られるところ
自分たちで山まで採りにいけばタダですものね、タ・ダ!」
ビーコン「っかー、いじましいっスねぇ、落合さん!」
ながもん「でも、これが案外……家計面では……ばかに、できない」
みくるん「だよねぇ~」
落合さん「ええ、ええ、ながもん様とみくるん様の仰るとおり。
節約は美徳、ケチと貧乏性は最大のホメ言葉ですわ!
このキノコ狩りで、どれほどの食費が浮いて家計が助かることか……」
ビーコン「で、その浮いた金でオイラのエロ同人誌購入っスね!?」
げ し っ !
落合さん「ねーい、お黙りんこっ!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、今回はまたいきなりキタっスねぇぇ~!?」
ピグモン「……あう~、落合さんとビーコンちゃんは相変わらずなの~」
ながもん「仲良きことは、美しき哉。……by実篤」
みくるん「そ、それでまとめちゃっていいのかな?(汗)」
……と、一同が例によってワイワイ賑やかにやっていると。
宇佐美さん「あー、でも皆さん、ちょっといいですかね?」
ビーコン「ん? なんスか、宇佐美さん?」
宇佐美さん「うん、実はちょっと気になることが……」
落合さん「もしかして、ここ数日の怪獣騒ぎのことでしょうか?
キノコ狩りに山へ入った方たちが、得体の知れない大きな「何か」に出くわして
慌てて逃げ帰ってきた、って言う……」
みくるん「夕刊の地域欄でも、けっこう話題になってますよねぇ~」
宇佐美さん「そう、それそれ!」
宇佐美さん「単なる噂話だよね、って片付けたいトコなんだけど……
昨日電話があって、どうやら熊澤さんも山で出くわしたらしいンですよね」
ビーコン「いやいやいや、噂はあくまで噂っスよ~。
幽霊の正体見たり何とやら、どこにでも転がってる話じゃないっスか」
宇佐美さん「うん、私もそう思いたいんだけどねぇ……」
ビーコン「だいじょぶ、だいじょぶ、心配ないっスよ~。
そんな時のために、用心棒役のアニキと落合さんがいるんじゃないっスか」
落合さん「ちょっ! あなた、居候の分際でお殿様になんて口を……
……って言うか、なんでそこで私にまで飛び火するんですの!?(汗)」
ピグモン「はうはう~、宙マンがいれば絶対だいじょうぶなの~」
宇佐美さん「うん、そうですよね、宙マンさんがいるんですもんねぇ。
……で、そう言えばその宙マンさんは?」
ビーコン「いや~、それがその……(汗)」
落合さん「何かと食べ物が美味しくなる季節なものですから、お殿様も嬉しくってつい
パクパクといつも以上に食べ過ぎてしまわれまして……」
ピグモン「それでね、今、山小屋のおトイレでうんこしてるとこなの~♪」
落合さん「……ぴ、ピグモンちゃんったら、露骨すぎですよっ!(赤面)」
ながもん「排泄は、切実で……深刻な、問題」
みくるん「ええっと、私からはノーコメントで……(赤面)」
宇佐美さん「なるほど、宙マンさんの事情はよく判りましたよ。
でも不安だなァ、もしもこんな時に噂の怪獣が出てきたら……」
ビーコン「ヒヒヒ、心配ないっスよ~、宇佐美さん。
怪獣の噂なんて、今やこの千歳じゃすっかりありふれてる話じゃないっスか。
いちいちそんなの怖がってちゃ、千歳じゃやってけないっスよ!」
落合さん「えぇ、そうですとも。
それにそうそう、滅多なトラブルなんて起こりやしないものでしょう?
怪獣さんの方だって、そんなに都合よいタイミングで出てくるわけが……」
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
みくるん「きゃ、きゃあああっ!」
ビーコン「ま、まさか今の一言で、出現フラグ立っちまったっスかぁ!?」
落合さん「……ちょ、私のせいにしないで下さいましっ!(汗)」
折も折、まさに絶妙のタイミングでもって……
激しい局地地震によって千歳の山が鳴動し、メリメリと大地が裂ける。
そして、巨大な地割れの中からその巨体を現したのは!?
「ゴゴッ、ゴッグォォォ~ンっ!!」
みくるん「ああっ、やっぱり出てきたですぅ!」
ピグモン「山の怪獣なの、ほんとにいたの~!」
宇佐美さん「ああ、だから言わないことじゃない!(汗)」
地響きをたて、生い茂る千歳の山の原生林を突き進んでいくのは……
怪力自慢の剛力怪獣シルバゴン、もちろん怪獣軍団の一員である。
シルバゴン「ゴッグォォ~ンッ、この山は俺たち怪獣軍団が制圧した。
痛い目にあいたくなかったら、お前らは今すぐ立ち去れ!」
落合さん「ちょっと、あなたっ!
いきなり出てきてなんですの、その横暴な言い草は!?」
ピグモン「そうなの、山のものはみんなで仲良く分け合うものなの~」
ビーコン「ンなこと言って、今度はいったい何が狙いっスか!?」
シルバゴン「ゴッゴッ、そんなの決まってるだろう。
今のこの時期、北海道の山と言えば……キノコだよ、キ・ノ・コっ!」
みくるん「(驚き)……キノコ!?」
シルバゴン「そうとも、秋のキノコはどれも格別な旨さだ――
だから俺たち怪獣軍団が、一本残らず味わい尽くすことにした!」
ビーコン「う~ん、判りやすい、判りやすすぎる動機っスけど……」
宇佐美さん「……出来れば判りたくないなぁ、そういうのは!?(汗)」
みくるん「ふぇぇん、キノコ独りじめなんて酷いですぅ~」
ながもん「(ボソッと)そんなの……ずるいっ」
「わはは! たわけ、何がずるいものかっ!」
イフ「自分たちの故郷である星の環境を汚し、物言わぬ自然を痛めつける……
そんな愚かなお前たちに、山の恵みを享受する資格などないわっ!
さぁやれシルバゴン、邪魔者どもは一人残らず山から追い出すのだ!」
シルバゴン「ゴッグォォ~ンッ、やってやりますぜ、魔王様~!」
暗黒星雲の怪獣魔王から檄を飛ばされ、大いに張り切るシルバゴン!
猛然と突き進んでくるその巨体に、泡を食って逃げ出す落合さんたちである。
ピグモン「はわわわ、大変なことになっちゃったの~!」
ビーコン「ど、どうするっスか、どうしたらいいんスかねぇ!?」
宇佐美さん「ひ、引き換えそう、とりあえず山小屋までっ!」
迫り来るシルバゴンに肝を潰し、何度も山道で転びながら……
それでも必死で逃げ、キノコ狩りの一同は集合拠点の山小屋に戻ってきた。
みくるん「ふぇぇん……宙マンさん、宙マンさ~んっ!(涙目)」
宇佐美さん「大変なんだよ、早く早く、急いで!」
「やぁ、みんな――おかえりっ!」
山小屋の中から、ひときわ爽やかな笑顔とともに顔を出したのは……
千歳市・ほんわか町在住、毎度おなじみ我らが宙マン。
落合さん「ああ、お殿様っ!」
ビーコン「出すもの出したみたいで、すっかりイイ顔になってるっスね~」
宙マン「はっはっはっはっ、いやぁ、おかげさまでね。……
毎日のお通じは、まさに健康と充実のバロメーターだよ!」
ピグモン「ぽんぽん苦しいの治って、ほんとによかったの~」
ながもん「健康こそ……なによりの……宝」
みくるん「あぁん、そんなこと言ってる場合じゃないですってばぁ!」
宇佐美さん「そうそう、ノンキに構えてる場合じゃないんですよ、宙マンさん!
一大事なんですから、一大事っ!」
宙マン「……一大事?
どうしたんだねみんな、そんなに慌てて一体何が……」
「ゴッグォォォ~ンっ!!」
ああ、まさしく「百聞は一見にしかず」。
逃げる落合さんたちを追って、追って、追い詰めて……
とうとう、彼らが集まる山小屋の間近にまで迫っていたシルバゴン!
ビーコン「……と、まぁ、こういうワケなんスよ~(汗)」
落合さん「ご納得頂けましたでしょうか、お殿様?」
宙マン「ああ、ものすごく納得したよ――そういうことなら、私の出番だね!
行くぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、猛り狂うシルバゴンの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
そこまでだ悪党怪獣、もう乱暴なことはさせないぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「っひょ~! シビレるっスねぇ、この圧倒的安心感!」
落合さん「当然ですわ、何と言っても私どものお殿様ですもの!」
「ピグモンはうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
宙マン「こらっ、改めて言わせてもらうぞ――
みんなの山の中で、むやみやたらに乱暴するのはよさないか!」
シルバゴン「ゴッグォォ~ンッ、うるせえ! 邪魔するなら容赦しないぞ!」
宙マン「あくまでやる気か。……ならば、やむを得ん!」
ファイティングポーズをとり、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまたビッグファイトの幕開けだ!
シルバゴン「ゴッグォォ~ンッ、叩き潰してやるぜ!」
宙マン「いいや、そうなるのは貴様の方だ!」
激突、宙マン対シルバゴン!
雄大な北海道の原生林をバトルフィールドとして、巨大ヒーローと巨大怪獣の
ほとばしるような闘志がしのぎを削る。
シルバゴンの武器はと言えば、何と言ってもその怪力!
持ち前の獰猛すぎる野生の本能と、けた外れの腕力とに物を言わせて
一切の小細工抜きで、真っ向から襲いかかってくる。
シルバゴンの猛攻撃を、軽快なステップで右に、左にかわしながらも
油断なく、攻撃のチャンスを伺い続ける宙マンである。
だが、それが分からぬほど愚鈍なシルバゴンでもない――
反撃の隙など与えまいとばかりに、凶暴性全開の突進アタックによって
宙マンを押して、押して、押しまくる!
シルバゴン「ゴッグォォ~ンッ、どうしたどうした、逃げの一手かぁ!?」
宙マン「いいや、お望みとあらばお返しするとも――そぉりゃッ!」
唸りをあげて炸裂する、宙マンの水平空手チョップ!
胸板に一撃を食らって、さしものシルバゴンもよろめいた。
宙マン「どうだね、気に言ったなら何発でもお見舞いするが!?」
シルバゴン「ゴッグォォ~ンッ、調子乗ってンじゃねぇぞぉっ!」
ヴァウウウンッ!
「ぐ、ぐわぁぁぁぁ……っ!」
シルバゴンの尻尾が鞭のようにしなって、宙マンを叩きのめす!
その痛烈きわまる一閃に、大きく吹っ飛ばされて倒れ伏してしまう宙マン。
みくるん「ああっ、宙マンさん!」
ビーコン「なんてパワーっスか、ハンパじゃないっスよアイツ!」
宇佐美さん「このままじゃ、宙マンさんでも危ないかも……」
ピグモン「はわわわ、宙マン、負けちゃいや~んなの~!」
落合さん「(祈るように)……お殿様っ!」
宙マンのピンチに、手に汗握る落合さんたちの一方で……
ここ・暗黒星雲では、戦いを見守る怪獣魔王夫妻がヤンヤの大喝采。
サンドロス「をほほほ、その調子、いいドロスわよシルバゴンちゃん!」
イフ「行けぃシルバゴン、今日こそ恨み重なる宙マンにとどめを刺すときだ――
そして祝勝祝いに、パーッとキノコ鍋パーティだ!」
シルバゴン「ゴッグォォ~ンッ、いいでやすねぇ、キノコ鍋!」
シルバゴン「ようし、チャッチャと片付けてやるぜィ、宙マン!」
宙マン「ぬ……うっ……」
「……まだまだ、本当の勝負は……ここからだ!!」
宙マン、気力を振り絞ってパワー全開!
目の前での大ジャンプに、シルバゴンが驚いたところへ――
宙マン「トイヤァァーッ! 宙マン・キックだ!」
宙マンの跳び蹴りが、シルバゴンの脳天めがけて炸裂!
一撃を食らって吹っ飛び、シルバゴンがドドーッと倒れたところへ――
宙マン「受けてみろ、とどめだ!
宙マン・フラッシュボンバー!!」
シ ュ ッ パ ァ ァ ー ン ッ !!
右手に集中させた闘気を、裏拳とともに勢いよく解き放ち……
赤いエネルギー弾として、敵めがけて叩きこむ荒技。
フラッシュボンバーの一撃が、シルバゴンに大炸裂!!
シルバゴン「ぐはぁぁぁっ……あ、秋風とともに去りぬ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「うががががっ……またしても、またしても宙マンめ!
だが覚えておれよ、この仕返しは必ずしてやるからな……!」
かくして宙マンの活躍により、剛力怪獣シルバゴンは倒され……
秋の味覚、北海道のキノコ独占を図った怪獣軍団の目論見は水泡に帰した。
戦い終わって巨大化を解き、等身大サイズに戻る宙マン。
キョロキョロと周囲を見回すが……
どうしたことか、同道していた落合さんたちの姿がどこにも見当たらない。
宙マン「ありゃりゃ、おかしいな……。
おぉ~い、みんな~! どこ行っちゃったんだ~い?」
「うふふっ、ここですよぉ、宙マンさ~ん!」
すぐ近くの茂みから、ひょっこりと顔を出すコロポックル姉妹。
それに続いて、落合さんが、ビーコンが、ピグモンが、宇佐美さんが……
原生林のあちこちから、続々と姿を見せてきた。
宙マン「ああ、よかったぁ。……みんな、一体どこに行ってたんだね?」
ビーコン「どこって……ヒヒヒ、そんなの決まってるじゃないっスか、アニキ」
落合さん「お殿様、これですわよ、これっ!」
宙マン「おおっ! こりゃあ見事なキノコだねぇ!」
宇佐美さん「そうそう、そもそも私らはそのために来たんですからねぇ」
ピグモン「はうはう~、あっちの方にもい~っぱい生えてたの~」
ながもん「今回は……大収穫……間違いなし。ヴイッ」
みくるん「いろんなキノコ料理で、今年もいろいろ楽しめそうですぅ」
落合さん「そういう訳ですので、お殿様。
悪い怪獣退治が済んで、お疲れのところ恐縮なんですけど……」
ビーコン「つーか、ここからがむしろ本番っスよ、アニキ!
オイラたちのキノコ狩りのために、アニキの力も貸してもらうっス~♪」
宙マン「ああ、勿論だとも――
はっはっはっはっ、ようし、それじゃ張り切って行ってみようかぁ!」
怪獣騒動が一段落し、平和の戻った千歳の山。
宙マンファミリーや千歳の人々が、心置きなく秋の味覚・キノコ狩りに興じて
それぞれに「北国の秋」を満喫したことは言うまでもないだろう。
秋風の冷たさに負けず……
宙マンファミリーは、いつでも元気一杯。
次回もまたまた、ホットに大活躍だよ~!