本州における開花宣言から、遅れること一か月と少し……
ここ・北海道千歳市においても、ようやく大々的に桜の花が咲き出していた。
街のそこかしこで眩しく咲き乱れ、人々の目を楽しませてくれる美しい花。
そんな桜並木を見ていると、自然にみんなの心もうきうき沸き立ってくるもので
こうなるともう、どうにもじっとしてなどはいられない。
と、言うわけで。
毎度お馴染み「宙マンハウス」の住人たちの思考と行動もまた、
この時期ならではのお花見モード一択なのであった。
宙マン「さぁ、みんな――今年もまた、五月恒例のお花見だよ!」
ピグモン「はうはう~、お花見お花見、ピグちゃんお花見だいすきなの~♪」
ビーコン「みんなで集まって、今年もパーッとやるっスよ!」
宙マン「と言うわけで、落合さん。準備はいいかな!?」
落合さん「えぇ、お殿様、抜かりはございませんわ――
今年も美味しい御馳走で、皆さまの下をとろかして差し上げます!」
ビーコン「おおう、さすがっスねぇ、落合さん!」
落合さん「ふふふっ、それはもう、メイドの腕の見せ所ですもの♪」
宙マン「はっはっはっ、相変わらず頼もしいね~、落合さん。
ようし、それじゃ、そろそろ行こうか!」
落合さん「はいっ、お殿様♪」
……だが、ちょうどその時である!
「おぉ~いっ、宙マンさん、宙マンさ~んっ!」
息せき切って駆け込んできたのは、宙マンたちのご近所さん……
千歳市内で農業を営んでいる熊澤さんであった。
ピグモン「あ、熊澤のおじさん、こんにちはなの~」
宙マン「ちょうど今から、お迎えに行こうと思ってたところなんですよ。
そちらから来てもらえたとは好都合だ、このまま一緒に会場まで……」
熊澤さん「そう、それそれ。
……その会場が大変なんだ、とてもお花見どころじゃないよ!」
ビーコン「えぇっ、マジっスかぁ!?」
落合さん「それはないですわねぇ、せっかく準備万端ととのったところでしたのに……」
宙マン「詳しい事情を聴かせてもらえますね? 熊澤さん」
熊澤さん「(頷き)そのつもりで来たんだよ、実はかくかくしかじかで……」
熊澤さんが、宙マンたちに語って聞かせた「大変なこと」。
宙マンファミリーをはじめ、多くの人々がお花見の会場として利用しようとしていた
千歳市内の「開基百年記念の森」の中に、突如として怖ろしい宇宙怪獣が姿を現し
花見の場所取りや下見に訪れた市民らを、その怖ろしい形相と咆哮による威嚇で
ことごとく追い散らしてしまったのだ、と言うのである。
そして、ドタドタと言う騒がしい足音と共に、「開基百年記念の森」の敷地内を
我が物顔でのし歩く怪獣とは……こいつだ!
キーラー「よ~うようよう、俺の名前を知ってるか~い?
俺はキーラーだよ、キーラーってんだぁ~☆」
イフ「(呆れ)……ああ、分かっておる、今更言われんでもお前はキーラーだわい!」
イフ「それよりもキーラー、浮かれている場合ではないぞ!?
これからそちらに、ワシら怪獣軍団の花見本隊が大挙して向かうのだ……
その場所取りの大役を担う、お前の使命は極めて重いぞ!」
キーラー「ケケケーッ、任しといて下さいよ、魔王様!」
キーラー「花見の場所取りのひとつやふたつ……
このキーラー様にかかれば、チョチョイのチョイでお安い御用ですってば。
まァ見てて下さいよ、この森に入る奴は片っ端から追い散らして……」
「なるほど……そういう事だったのか!」
キーラー「ギョギョッ! だ、誰だっ!?」
驚き、辺りを見回すキーラーの目の前に……
華麗なる大ジャンプと共に現れたのは、もちろん正義の人・宙マンだ!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
怪獣軍団の悪企み、この私がとくと聞かせてもらったぞ――許さん!」
宙マン「そもそもここは、みんなの憩いの場として平等に開かれている森だ。
花見がしたいと言うのなら、ちゃんとマナーを守るがいい!」
キーラー「ケケケーッ、それじゃ怪獣軍団の名が廃るんだよ!」
宙マン「あくまで居直るか……ならば、止むを得ん」
キーラー「ケケケッ、腕づくで来いよ!」
宙マン「そうさせてもらうッ!」
全身にみなぎる怒りを力に変え……
ファイティング・ポーズをとって、敢然と身構える宙マン。
お互いにじりじりと間合いを詰め……遂に激突!!
今日もまた、五月の青空の下で、正邪の超絶バトルが幕を開けた。
スコップのように巨大な両手で、パンチ攻撃を仕掛けてくるキーラー!
その猛攻に、怯むことなく真っ向から渡り合う宙マンである。
宙マン対キーラー、両者の技が拮抗!
若草の生い茂る「開基百年記念の森」が、むせ返るような戦いの熱気に包まれる。
キーラー「ケケケッ、どうだ、コノヤロ、これでもかっ!」
宙マン「なんの、まだまだ!」
がっぷりと四つに組み合った力比べでは、ほぼ両者ともに互角。
宙マンとキーラー、再びバッと離れて――
おおっと、ここでおもむろに、宙マンの素早いジャンプキック!
鞭のように翻った右足の一閃がキーラーを怯ませ、後退を余儀なくさせる。
宙マン「どうだ!」
キーラー「ケケーッ! 調子に乗るなよ、こうなりゃこっちも奥の手だァ!」
シュボボボッ!
ストロボのように炸裂した、「光熱怪獣」たるキーラーの奥の手。
恐るべき目つぶし閃光が、一瞬、宙マンの視力を奪った。
宙マン「ううっ!(汗)」
キーラー「ザマァ見やがれ、これでもくらえ!」
宙マンが怯んだ隙を逃さず、キーラーお得意のメガトン頭突きが炸裂!
まともにこの一撃を喰らって、ごろごろと斜面を転がり落ちていく宙マンである。
キーラー「ケケケーっ、このまま捻り潰してやるぜ!」
宙マン「ううっ……な、ん、とぉぉ……ッ!」
倒れた宙マンにのしかかり、首を絞めにかかるキーラー。
ああ、宙マン絶体絶命のピンチ!
キーラー「ケケケーっ、お前の首も併せての花見酒はさぞ旨いだろうぜ!」
宙マン「なんの……負けて、たまるかッ!」
おお、だがしかし……
相手が強く、追いつめられるほどカッと燃え上がるのが宙マンの闘志。
キーラー「(狼狽)お、おろろっ!?」
宙マン「見たか! これが私の……いいや、正義を愛する者の底力だ!」
激しく地面を転がりながら、形勢逆転!
今度は宙マンがキーラーの上にまたがって、パンチの連打をお見舞いだ。
宙マン「それっ、宙マン・チョップを受けてみろ!」
キーラー「ちょっ! た、タンマタンマタンマ……ひぇぇぇっ!?(汗)」
空中からのチョップがヒット!
脳天に食らった一撃に、キーラーが目を回したところへ――
「受けてみろ――宙マン・超破壊光線!!」
両手の間にエネルギーを集中させ、激しいスパークとともに放つ大技。
「超破壊光線」の直撃を受け、火花を散らすキーラーのボディ!
キーラー「うぎゃああっ……お、お星さま、キ~ラキラ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「うぐぐぐっ……おのれ、またしても宙マンめが!
だが、これしきのことで地球征服を諦めるような怪獣軍団ではないのだ……
覚えておれよ、この屈辱は何万倍にもして叩き返してやるわ!」
かくして、我らが宙マンの活躍によって……
恐るべき大怪獣キーラーは撃退され、千歳に再び平和が蘇った。
熊澤さん「いやぁ、さすがだねぇ宙マンさん、やっぱりお見事!
これで心置きなく、みんなでお花見ができるってもんだね」
宙マン「えぇ、私もそのつもりで頑張っちゃいましたよ」
落合さん「お花見の準備が無駄にならずに済んで、私もほっと一安心ですわ」
ビーコン「さぁて、こっからは思いっきり、飲んで食って大騒ぎっスよ~!」
ピグモン「はうはう~、お花見バンザイ、宙マンばんざいなの~♪」
と言うわけで、活気いっぱいに幕を開けた今年のお花見パーティー!
ビールやジュースの開缶される音が響き、肉が焼ける香ばしい匂いが広がる。
落合さんが趣向を凝らした料理の数々……
美しい桜を愛で、かつ気のおけないご町内の仲間たちが一緒であればこそ
その美味しさも二倍、三倍となるのは言うまでもないだろう。
みくるん「……ながもんは、花より団子?」
ながもん「(ボソッと)もちろん……両方」
宙マン「はっはっはっはっ、利口でいい答えだねぇ!」
桜を愛し、平和を愛するナイスガイ……
宙マンのいる限り、怪獣軍団の好きにはさせぬ。
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?