まばゆい青空と、太陽に暖められて……
今や、大自然の生命力が活き活きとみなぎっている北海道。
そんな北海道の一角、「空港のまち」として知られる千歳市。
緑がいっぱいの山道を、独り行くのはお馴染みの顔――
そう、ほんわか町5丁目在住のプラネット星人。
元「銀河連邦」の英雄であり、現役引退後の今は気楽な隠居暮らしを満喫中の
ご存じ・宙マンその人であった。
心地よい好天と木々の薫りを愉しみながらの、ぶらぶら気ままな山歩き。
まさに、平和そのものの光景と言ってよかったのだが……。
宙マン「(訝しげに)……うン?」
不意に感じた不穏な気配に、ふと立ち止まって周囲を見渡す宙マン。
こういった事に未だ敏感なのは、現役ヒーロー時代からのクセというやつか。
だが、見たところ穏やかで、何かが起ころうと言う気配すらも感じられない
この平和な山の中に、騒動の火種が転がっていたりするものだろうか?
いっそ、宙マンの考え過ぎ、気のせいであってくれればどんなによいか。
……ああ、だが親愛なる読者諸氏よ。
残念ながら、宙マンの感じた違和感と懸念は見事に的中したのだ。
「ヴォッフォッフォッ……!」
誰もが知っている、あの特徴的な笑い声とともに……
千歳郊外の山の中を、傲然とのし歩いてくる巨体。
そう、もはや説明不要の宇宙忍者。
「怪獣星」において、他の怪獣たちを相手のケンカに明け暮れた
バルタン一族の中でも屈指の武闘派である。
イフ「ぐふふ、バルタンよ……
今こそお前のその力を、存分に奮ってもらう時だぞ!」
バルタン「ヴォフォッフォッ、勿論ですともさ、魔王様!」
バルタン「早いとこ暴れたくて、こちとら腕がムズムズしております。
さぁ魔王様、一刻も早くこの俺にご命令を!」
イフ「おお、元気が良いな、結構結構!」
イフ「その意気があれば、使命の遂行は容易いことよな」
バルタン「我らが悲願、地球侵略前線基地の建設!」
イフ「(頷き)そうだ、そのためにも……
まずは千歳の街を、徹底的に破壊することが必要なのだ。
なればこそ……」
バルタン「おう、なればこそ!」
イフ「これから一気に攻撃をかけ、速やかに任務を遂行するのだ。
そう、特にあの宙マンに気取られる前にな……!」
バルタン「心得ました、魔王様!」
バルタン「早きこと風のごとく、侵略すること火のごとく。
俺の手際のよさにかかりゃあ、宙マンが気が付いた時には
時すでに遅し、ってなもんで……」
「はて、この私がどうしたって?」
バルタン「(驚き)ムムッ! 誰だ!?」
宙マン「この私の他に、誰がいる!」
バルタンの前に、敢然とその姿を見せた者……
そう、それは勿論、我らが宙マン・その人に他ならない。
バルタン「ゲゲェッ、宙マン!」
宙マン「はっはっはっ、私に気づかれず事を進めるどころか……
君らの悪企みは、しっかり筒抜けってわけさ!」
バルタン「こ、この野郎っ……
おかげで、俺の面子は丸つぶれじゃねぇかっ!(赤面)」
宙マン「ああ、だから悪い事は言わない。
下らん侵略などやめて、暗黒星雲に帰りたまえ!」
バルタン「うるせぇ、このっ! 踏み潰してやる!」
巨大な足を振り上げ、宙マンめがけて迫ってくるバルタン!
宙マン「むうっ、やむを得ん! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うバルタンの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
宇宙忍者バルタン、悪の野望はここで行き止まりだ!」
ズ、ズーンっ!!
バルタン「えぇい、俺はな、やると言ったらやるんだッ。
邪魔するなら容赦なく叩き潰すぞ、宙マン!」
宙マン「聞く耳持たずか……分からず屋め!」
ファイティングポーズをとり、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今回もまたビッグファイトの幕開けだ!
宙マン「正義の力で、お前を打ち砕いてやる!」
バルタン「ほざくな、打ち砕かれるのはそっちだ!」
宙マン「さぁ、来いっ!」
激突、宙マン対バルタン!
千歳市郊外の山を舞台に、両者の壮絶な死闘が展開される。
硬質の鋏を構え、ボクシング・スタイルで襲い来るバルタン。
右から、左から、強烈なパンチが飛んでくる!
だが、そこはそれ、経験豊富な宙マンのこと。
バルタンの繰り出す殺人パンチを冷静に見切り、かわしながら
自らも敵めがけて肉薄していく。
バルタン「ぐぬぅぅっ、味な真似をしやがる!」
宙マン「まだまだ、ここからが本番さ!」
宙マンの繰り出すストレート・キック!
その直撃を食らっては、いかに「怪獣星」で鳴らしたケンカ好きとて
たじろぎ、後退せずにはいられない。
バルタン「ぐ、ぐふぅぅっ……!」
宙マン「どうだバルタン、退散するなら今のうちだぞ!?」
バルタン「おのれぇぇ……まだだ、まだまだっ!」
バルタン「フォッフォッフォッ……
見たか悪の名人芸、バルタン忍法の技の冴え!」
宙マン「……うムっ!?」
宙マンの目の前で、幾重にも別れて見え出すバルタンの体。
「宇宙忍者」たる彼らが、もっとも得意とする分身の術……
今度は宙マンが幻惑され、攻めあぐんでしまう。
宙マン「こ、これはっ……」
バルタン「フォッフォッ、そォら、隙ありっ!」
分身術に幻惑された宙マンの隙を突き……
ボクシングスタイルで突進したバルタンの、容赦ない鋏パンチ!
ズ、ズーンっ!
宙マン「(よろめきつつ立ち上がり)くッ……!」
バルタン「そうら、ボッコボコにしてやるぜ!」
宙マン「まだまだ……本当の勝負は、ここからだッ!」
宙マン、パワー全開!
バルタンの突進をかわしてジャンプし、大空に舞い上がる。
バルタン「(目をパチクリ)や、ややっ!?」
宙マン「行くぞ、バルタン!」
宙マン「ダァァーッ! 宙マン・回転フルキック!」
高速回転の勢いを加え、両足で蹴り込む正義のキック!
鋭い足先を食らって、バルタンがブッ倒れた。
バルタン「(悶絶)こ、こらまた……痛烈……っ!」
よろめきながらも立ち上がり、再び身構えんとするが……
バルタンの反撃もそこまでであった。
宙マン「くらえ――宙マン・閃光波!」
ピッキュイィィーンっ!
高らかな音とともに、宙マンの手にストロボ状の発光が生じ……
次の瞬間、バルタンのボディで激しい爆発が起こる。
宙マン「――どうだッ!?」
バルタン「ま、参ったぁぁ~っ!」
火花を散らして崩れ落ち、大爆発とともに吹っ飛ぶバルタン。
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「ぐぬぬぬっ……またしても邪魔だてを!
だが、これしきで、ワシらの野望の火は潰えやせん。
よいか宙マン、次こそ思い知らせてくれる!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
かくして我らが宙マンの活躍によって、宇宙忍者バルタンは
見事に打ち倒されたのであった。
ピグモン「あ~っ、やっぱり宙マンだったの!」
宙マン「やぁやぁ、こんにちは。ちょうど遊んでたところかな?」
ながもん「(頷き)……ども」
みくるん「大きな音がしたんで、急いで来てみたんですけどぉ。
……宙マンさん、今、このあたりで何かありましたぁ?」
宙マン「(にっこり)いやいや大丈夫、何にもないから心配いらないよ。
はっはっはっ、今日も平和でのんびりした良い一日だねぇ!」
ピグモン「うんっ♪」
先程までの凄絶なる死闘、敢えて語らぬナイスガイ・宙マン。
そんな彼が守り抜いた千歳は、そよ吹く風に木々の葉が揺れつつ
物言わぬまま、静かにヒーローの勝利を讃えていた。
今日も本当に有難う、宙マン。
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?