早や、2月も終盤。
3月も間近とは言え、まだまだしぶとい厳しい冷えこみと雪……
列島の最北端にあたるここ・北海道ともなれば、それは尚のこと。
だが。
かくのごとき寒い毎日だからこそ、そこに暮らす人々の表情はむしろ明るい。
気持ちだけでも元気を出さなければ、むしろやってられないのだ――
そんなこんなで、2024年の北海道千歳市はのどかな平和の中にあった。
みくるん「用事も済んだし、どっかでお昼でも食べて帰ろうか?」
ながもん「新しく、出来た……長崎ちゃんぽんの……店が、いい。
麺と、野菜の……大盛り無料が……ありがたい」
みくるん「……だ、だからって……その、程々にね?(汗)」
ながもん「……善処する」
みくるん「それにしても、お天気もいいし……
の~んびりしてて、すごく良い日だね~。
悪い怪獣さんも出てこないし、ずっとこうだといいんだけど」
ながもん「(頷き)……なべて、世は……こともなし」
のどかな、平和な日常。
それは千歳の人々にとって、永遠に続くものであるかのように思えた。
……だが、本当にそうだろうか?
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラッ!
みくるん「……きゃ、きゃあああっ!?」
ながもん「(無表情)おおうっ……これは……凄い、揺れ」
いいや、いやいや、ところがギッチョン!
皆が平和な空気にまどろみかけていたところへ、不意打ちのごとき局地地震。
こうでなければ本シリーズではないし、そもそも物語も進まない。
さて、今回……
大地を引き裂き、千歳の街に出現したのはいかなる怪獣か!?
「あんぎゃああ~っ!!」
ながもん「おおっ……あれは」
みくるん「知ってるの、ながもん!?」
ながもん「あれは確か……古代暴獣、ゴルメデ?」
「かーっ、惜しい、もう一声!
俺の名前はゴルメデβ(ベータ)、古代暴獣ゴルメデの縁者筋よ。
ここテストに出るよ、よ~く覚えておくようにねっ!」
ながもん「おう……自己紹介…有難し。
怪獣博士の、データバンクが……またひとつ……充実した」
みくるん「……って、ながもん!
そこで感謝してる場合じゃないってばぁ!(汗)」
イフ「わはは! 遠慮はいらんぞ、徹底的にやれィ、ゴルメデβ!
ワシら怪獣軍団の威力、全宇宙に見せ付けてやるのだ!」
ゴルメデβ「あんぎゃああ~、かしこまりですぜ、魔王様!」
ゴルメデβ、進撃開始!
大パニックの人々を追い散らすように、傍若無人に突き進む巨体。
ゴルメデβ「そうら、俺の熱いのを受けてみやがれ~っ!」
ゴルメデβの口から吐き出される火炎!
平和な千歳の街が、みるみる紅蓮の業火へと包まれていく。
と、そんな破壊と混乱の中……。
みくるん「あっ、航空防衛隊が!」
千歳市を蹂躙するゴルメデβの猛威を阻止すべく、直ちに防衛隊基地から
戦闘機隊がスクランブルをかけた。
猛禽類のごとき荒々しさで、ゴルメデβを迎撃する戦闘機!
対怪獣用のロケット砲が、二機の戦闘機から雨あられと叩きこまれるが
その集中砲火を浴びてなお、いささかも怯むことはないゴルメデβ。
ゴルメデβ「あんぎゃああ~、てめェらの出る幕じゃねぇっての!」
「う、うわぁぁぁ~っ!?」
ゴルメデβの灼熱火炎が、大空へと向けて吐き出される!
戦闘機は勇戦空しく、次から次に撃墜されていってしまう。
ながもん「おお……今日も……ダメだった」
みくるん「(慌てて)シーッ!
ながもん、「今日も」とか言っちゃダメ!」
ながもん「……それはともかく。
まずい……これは、まずい……非常に、よくない」
みくるん「ふぇぇん、こんな時に宙マンさんがいてくれたら……」
「――私ならここにいるぞ!?」
ながもん「おおっ、宙マン……ジャスト・タイミング」
みくるん「ちゅ、宙マンさんっ! 実は、あのその――」
宙マン「ああ、判っているとも、心配ない!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うゴルメデβの前に舞い降りる!
ゴルメデβ「あんぎゃあぁ~っ、やっぱり出て来たか、宙マン!」
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!」
宙マン「暗黒星雲からやって来た悪の使者、怪獣ゴルメデβ!
千歳の平和を守るため、5分……いや、3分でお前を倒してみせる!」
ゴルメデβ「(ムカッ)……ンだとぉっ!? てめぇ、ナメやがって!」
宙マン「非礼は詫びる、だが……
今回ばかりは私にも、そうせざるを得ない大きな理由があるんだ」
ゴルメデβ「……へっ、そうなの?」
宙マン「そうなんだ、実は――」
……と言うわけで、ここからはしばし宙マンの回想。
ちょうどゴルメデβが千歳市に姿を現していた頃、ほんわか町5丁目の
「宙マンハウス」の宙マンファミリーは、そんな事とは全く知る由もなく
のんびり、のほほんと昼食を堪能しようかというところであった。
ビーコン「っひゃ~、雪かきが一段落したらすっかりハラ減ったっスね~!」
宙マン「体を動かした後は、しっかり食べてエネルギー充填したいね。
落合さん、今日のランチは何かな?」
落合さん「はい、ずばり焼肉なんていかがでしょうか?」
宙マン「焼肉!」
ビーコン「おおう、何ちゅう魅惑的な響きっスかねぇ!?(うっとり)」
落合さん「登別の中津川さまから、お殿様の大好きなみついし牛が
この通り、年始祝いに届きましたもので。
あれやこれやと、料理の腕は鳴りますけれど……
やはりここは、シンプルに焼肉で味わうのがよいかと」
宙マン「うんうん、いいねいいね、全く異議なしだよ落合さん――
そして焼肉といえば、やっぱり炭火だよ炭火っ!」
ビーコン「ってことは七輪スタンバイっスね、アニキ!?」
宙マン「ああ、そうとも、みんなで七輪を囲んで焼肉ランチ!
シンプルながらも良い形の、なかなかに贅沢な昼食――」
「……待った待ったーっ! その焼肉待った!!」
落合さん「あらまぁ、こんにちは、宇佐美様!」
ビーコン「宇佐美さんも一緒に、オイラたちと焼肉どうっスかぁ?」
宙マン「北海道の誇る牛肉ブランド、最高級のみついし牛ですよ!」
宇佐美さん「ううっ、確かに魅力的ですけど……
でも今は、それどころじゃないんですってば!
実はかくかくしかじかで……」
宙マン「……なんですって、錦町2丁目に怪獣が!?」
宇佐美さん「このままじゃマズいと思って、街からすっ飛んできたんですよ~。
ひとつ宙マンさんのお力で、なんとかならないモンですかねぇ!?」
宙マン「ううむっ……しかし、焼肉が――」
落合さん「肉類・魚類は鮮度が命ですわ、お殿様。
特に、みついし牛のように質の良いものであるならば尚のこと――
だからこそ、厨房を預かる身としては食事最優先をお勧めしたいですわね」
ビーコン「つーか、前にも言ったっしょ?
現役を引退したアニキには、怪獣退治の使命も義務もないんスから!」
宙マン「うん、そうなんだよねぇ、そうなんだけど――」
宙マン「……そういう訳にはいかないよねぇ!?(苦笑)」
落合さん「あっ、お殿様!」
ビーコン「アニキー、焼肉どうすんスか、焼肉ー!?」
宙マン「ちょっとだけ待っててくれ、すぐ戻るから――
だから私の分、ちゃんと残しといてくれよ! 絶対、絶対だよ!?」
ビーコン「……ちょっ、アニキ、アニキーっ!?」
……かくして、強靭な精神力によって炭火焼肉の誘惑を振り切り、
我らが宙マンは怪獣の暴れる市街地へ全力で駆けつけたのであった。
以上、回想終わり。
ゴルメデβ「……く、く……くっだらねェ~っ!?」
宙マン「そういうわけだから、お前の相手に時間をかけていられないんだッ。
さぁ来いゴルメデβ、正義の力でお前を打ち砕いてやる!」
ゴルメデβ「グワルルル~、真顔で言ってるんじゃねェ、この能天気ヤロー!
えぇいクソッ、なめやがって、なめやがって!」
激突、宙マン対ゴルメデβ!
コロポックル姉妹らがハラハラと見守る中、巨大バトルが展開。
ゴルメデβ「あんぎゃ~、くたばれ宙マン!」
力と力、技と技が火花を散らし……
ふたつの巨体の戦う響きが、衝撃波となって千歳の街を揺さぶる。
恐竜型怪獣ならではのパワーと格闘能力の高さ、野生の本能剥き出しで
宙マンめがけて激しく襲いかかってくるゴルメデβ。
だが、ゴルメデβに恵まれた怪獣としての天賦があるならば、我らが宙マンにも
それに負けずとも劣らない、長年の経験で磨き抜かれたテクニックの鋭い冴えと
豊富な技がある。
ゴルメデβ「あんぎゃあぁぁ~っ、なかなかやるな!?」
宙マン「言ったはずだぞ、3分でケリをつけると!」
ゴルメデβ「(悶絶)ご、ごファァァッ……!」
宙マンの連続殺法に、さしもの古代暴獣もたまらずぶっ倒れる。
宙マン「ようし、やった! それじゃあ早く帰って焼肉を……」
ゴルメデβ「(激昂)……っがー、ふざけんなこのヤローっ!!」
ゴルメデβの得意技、メガトン頭突きが炸裂!
宙マンの腹部に炸裂して、ヒーローの巨体を大きく吹っ飛ばしてしまう。
ズ、ズーンっ!
みくるん「ああっ、宙マンさん!」
宙マン「(苦悶)う、ううっy……」
ゴルメデβ「あんぎゃあぁぁ~っ、どこまでもナメやがって!
今すぐ、その報いを受けさせてやるぜィ!」
宙マン「これしきで……負けて、なるものかッ!!」
ゴルメデβ「あんぎゃあぁぁ~っ、抜かせや!」
とどめとばかり、火炎を吐きかけるゴルメデβ。
だが宙マンは気力と体力を振り絞り、それをかわして大ジャンプ!
ゴルメデβ「(狼狽)……な、何ぃっ!?」
宙マン「正義の食い意地、受けてみろっ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ゴルメデβを直撃!!
ゴルメデβ「……こ、こんな負け方、認めたくなぁ~いっ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「お、おのれ、おのれおのれ、おのれぇぇッ……
よくもやってくれたな宙マンめ、だがこの仕返しは必ずしてやるぞ!
覚えておれ、覚えておれ~っ!」
みくるん「今日もほんとに有難うございましたぁ、宙マンさん!」
ながもん「これで、私たちも……安心して、ランチが……楽しめる」
宙マン「うンッ……ランチ……?」
宙マン「……ああ、そうだよランチだよ、焼肉焼肉っ!
こんなとこで呑気にポーズ決めてる場合じゃなかったんだ!(あたふた)」
……と、言うわけで。
ゴルメデβとの戦いを終え、とんぼ帰りの全速力で「宙マンハウス」へと
宙マンが帰ってみたらば、そこでは既に……。
宙マン「ふぃー、ただいまぁー……むむっ、この香ばしい匂いは!?」
落合さん「(にこやかに)あら。早かったんですのね、お殿様!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、おかえんなさいなの~」
宙マン「……って、やっぱりだよ、やっぱり焼肉だよ!
私が帰るまで待っててくれって、あれだけ言ったのになぁ!?」
落合さん「えぇ、だからちゃーんとお待ちしておりましたのよ。
炭火は熾るまでに時間がかかりますから、一足先にこうして準備を……」
ビーコン「で、ちょうどいいタイミングでアニキも帰ってきてくれた、と。
さっすが落合さん、伊達に長年ここんちのメイドやってないっスね~!」
落合さん「ほほほほ、それほどの事はございますけどね!(ドヤ顔)」
ピグモン「見て見て、宙マンの分のお肉もこんなにいっぱい!」
落合さん「お殿様の分は、お肉の一番よいところを吟味致しましたのよ~」
宙マン「(安堵)ああ、そっかぁ……うん、そうだよねェ……」
ビーコン「あーっ! まさかアニキ……
アニキのいない間に、オイラたちで食べちまったとか疑ってたっスかぁ!?」
宙マン「(ギクッ)えっ! それは、つまり……あの……何て言うか……
……たっはっはっはっ、面目も申し訳もない」
落合さん「(苦笑)……無理もございませんわ、お殿様。
何しろ我が家には、意地汚いビーコンさんがいるんですものねぇ!」
ビーコン「ちょっ、全くもう、このオネーチャンときたらっ!
涼しい顔で牛丼三人前ペロッと平らげる人にだけは言われたくないっスよ!?」
落合さん「(赤面)ムキーっ! 貴方、よくも乙女のシークレットを――」
宙マン「はっはっはっはっはっ、まぁまぁ、二人とも。
……んー、いい匂いだ、やっぱり焼肉は堪らないよねぇ!」
かくして、自宅前の雪かきと怪獣退治の「ふた仕事」を終え……
すきっ腹の宙マンには、ひときわ美味しい自宅での炭火焼肉であった。
体を動かし、もりもり食べて……
寒い冬でも、元気に乗り切る宙マンファミリー。
さぁて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?