北海道千歳市、「その日」の朝は……
かくのごとく、ひときわ深い霧に覆われていた。
時間は朝の五時ちょっと過ぎ。
ここ・千歳市ほんわか町の住人たちも、未だ眠っている人が多い時間帯。
今回の『宙マン』は、そんなひっそりした中から物語を始めよう。
さて、こちらは……
そんな、ほんわか町内の外れにある雑木林の中。
がさがさっ、ガサガサっ……
早朝の静かな空気を破るかのように、荒々しく響いてくる足音。
はてさて、一体何者だろう?
「ぐわおおぉ~んっ!」
おお、見よ! 驚愕せよ!
野太い咆哮とともに、我々の視界に飛びこんできたこの怖い顔。
怪獣軍団の一員、青色発泡怪獣アボラスだ!
イフ「おお! 朝からやっとるな、アボラスよ!」
ゾネンゲ博士「……元気があるのは結構、大いに結構。
だが任務遂行者たる者、それ以上に大切なのは慎重さだぞ?」
ゾネンゲ博士「私の開発した、マグマ層活性化マシーン……
これを使えば地底のマグマを暴走させ、地上を火炎地獄に出来ます。
そして、その手始めに……」
イフ「北海道千歳市を、跡形もなくマグマの中に消し去ってしまうのだ!」
ゾネンゲ博士「そのために……
マシーンの設置に最も適した場所を調査するのがお前の使命だ」
イフ「地味ではあるが大事な役目だ。しっかり頼むぞ、アボラスよ!」
アボラス「ぐわおぉぉ~んっ、お任せ下さいやし、魔王様!」
アボラス「さぁ~てと……
早朝特別手当も出ることだし、もうひと頑張り。
気合入れて、チャチャッと仕事を終わらせちまうとするかぁ!」
「いいや、そうは問屋が卸さんぞ!」
雑木林の奥深くへ分け入っていこうとするアボラスの耳に……
凛として響き渡った精悍な声。
その声の主は……もちろん、お馴染みの宙マンをおいて他にはいまい!
アボラス「(慌てて振り返り)ゲゲェツ、宙マン!?」
宙マン「はっはっはっ、ああ、そうとも――宙マン参上だ!」
アボラス「ど、どうしてお前がこんな時間に……」
宙マン「たまたま、朝の日課のウォーキング中だったのさ。
雑木林の方に、何やら気配を感じたので覗いてみたら……
……あぁ、お前たちの悪企み、全部聞かせてもらったとも!」
宙マン「町の一住民として警告しておく、朝から物騒な真似はよせ。
事を荒立てるのは好まない、大人しく暗黒星雲に帰るがいい!」
アボラス「ぐわおぉぉ~ん、そういうワケにはいかねぇんだよっ!」
アボラス「カッコつけやがって、相変わらず気に食わねぇ野郎だぜ!」
宙マン「私の言葉が聞こえないとみえる……やむを得ん、勝負だ!」
激突、宙マン対アボラス!
深い霧の立ちこめる雑木林の中で、またも死闘が展開される。
アボラス「ぐわおぉぉ~んっ! 死ね死ね、宙マン!」
宙マン「なんの、それしき!」
持ち前の野生のパワーを全開に、猛然と殴りかかってくるアボラス!
その接近戦を、宙マンもまた真っ向から受けて立つ――
双方ともに、力にものを言わせたガチンコ勝負の殴り合いである。
そんな格闘のさなか、一瞬の隙を見出した宙マンがジャンプ。
空中からの降下とともに、アボラスめがけて繰り出す技の名は!
宙マン「エイヤぁぁぁーっ!
宙マン・ミラクル・キック!!」
電光石火の必殺キックが、アボラスの鼻先めがけてヒット!
たまらず、ドドーッともんどりうって倒れる青色発泡怪獣である。
そのチャンスを逃さず、アボラスめがけて躍りかかる宙マン。
パンチとチョップの連打を、怪獣めがけて次々に叩きこんでいくが……。
アボラス「(激昂)ぐわおぉぉ~んっ、調子に乗るな宙マン!」
宙マン「(よろめき)う、うおおっ!?」
のしかかる宙マンを怪力で降りほどき、逆に頭突きを見舞うアボラス!
さしもの宙マンも、その怒りのパワーをまともに喰らってはたまらない。
スペインの闘牛のごとく、一本角を振りかざして頭突きの連打!
執拗な猛攻に、遂にふっとばされて地面に叩きつけられた宙マンである。
宙マン「(苦悶)う……うう……っ!」
アボラス「とどめだ、宙マン!!」
足音を荒々しく響かせながら、猛然と突進してくるアボラス。
だが、その瞬間――全身の力を一気に振り絞り、宙マンもまた動いた!
「なんの……負けて、たまるかっ!!」
宙マン、パワー全開!
豪快なジャンプとともに、アボラスの頭上から舞い降りざま――
出た! 宙マンの大技、「合掌打ち」!
脳天めがけて炸裂した鉄拳の威力に、アボラスが目を回してぶっ倒れたぞ。
「ようし、とどめだ!
宙マン・パワーショック!!」
アボラス「ぐはァァァっ……や、やられたぁ~っ……!」
閃光とともに放たれた必殺技の威力に、遂に力尽きて倒れ伏すアボラス。
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「うぐぐぐっ……おのれ宙マン、にっくき奴め!
よくもまた、ワシら怪獣軍団の邪魔をしてくれたな。
だが覚えておれよ……この次こそ、きっと目にもの見せてやる!」
……などと言う、毎度お馴染みの負け惜しみはさて置いて。
かくして宙マンの活躍により、青色発泡怪獣アボラスは撃退され……
千歳市ほんわか町の雑木林は、再び平和な静けさを取り戻したのであった。
そんなこんなで、日課のウォーキング(と、その流れでの戦い)を終えて
家に帰った宙マンは。
宙マン「ふぅ~、さっぱり、すっきり!
ひと汗かいた後のシャワーってやつは、何度浴びても格別だねぇ」
落合さん「(微笑)今朝のウォーキングは随分と長かったですわね、お殿様。
随分と熱の入った運動だったのでしょうか?」
宙マン「うん、まぁ、いろいろとね。
朝からうんとカラダ動かしたおかげで、すっかりお腹すいちゃったよ。
落合さん、ご飯まだかな?」
落合さん「えぇ、もうすぐですわ。今しばしのお待ちを!」
ビーコン「ヒヒヒ、相変わらず呑気っスねぇ、アニキは!」
ピグモン「はうはう~、宙マンはくいしんぼさんなの~♪」
宙マン「はっはっはっはっ」
先程までの壮絶なる死闘、敢えて語らぬナイスガイ・宙マン。
そして、迫りつつあった巨大な危機のことを知らぬまま……
ここ・千歳市ほんわか町は、今日も爽やかな朝の光に包まれていた。
平和の前に重くたちこめる悪の霧……
スカッと晴らすぞ、我らが宙マン。
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?