長かった冬が過ぎ去り、分厚かった雪も綺麗に溶け去り……
待ってましたとばかりに、自然の息吹がそこかしこから溢れんばかりに萌えいずる
ここ・北海道千歳市の山の中。
季節は5月の上旬、これからの初夏に向けて山々が急速に緑色に染まる時期。
そんな、平和そのものの原生林において……
いま、何やら邪悪な気配が不気味に動き出そうとしていたのであった。
山の一角から、うっすらと立ちのぼり始めたいかにも怪しげな煙。
果たして、その中から現れ出てくるものとは!?
「ギャウルルルぅぅーっ!!」
おお、見よ! 驚愕せよ!
濛々と吹き上がる煙の中から、異様な咆哮とともに姿を現した一頭の大怪獣。
人呼んで囮怪獣プルーマ、もちろん怪獣軍団から送りこまれた悪の使者である。
イフ「よいかプルーマ、お前の使命はただひとつ。
ワシらの野望の前に立ちはだかる、あの忌々しい男……
恨み重なる宙マンめに、今度こそとどめを刺すことだ!」
プルーマ「ハイなぁ、魔王様。それはもう重々承知の上なんですけどぉ……」
イフ「……うン? 何だ、何か不満でもあるのか?」
プルーマ「いえいえ、滅相もない、そんなんじゃないんですけど。
……本当にここで待ってれば、宙マンの奴は来るんですかねぇ?」
「ぬふふふ……間違いなく、来ますとも!」
現地のプルーマのボヤきに対し、自信たっぷりの含み笑いで返してみせたのは
軍団の幹部候補生として将来を嘱望される若手五人組“ダークネスファイブ”の
実質的リーダーであるメフィラス星人“魔導の”スライ。
スライ「宙マンの日課であるほんわか町内の散歩……
その道すじにあるラーメン屋で、一番人気の味噌ラーメンを食べた後に、
すぐ近くの市民公園をのんびり、ぶらぶら歩きつつ腹ごなしをするのが
宙マンの散歩の定番コースである事は既に調査済み」
スライ「ゆえに、その散歩ルートである市民公園に罠を張り、刺客を配置すれば
必ずや宙マンは、死の罠の渦中へと自ら進んで飛び込んで来るでしょう。
……ああ、それはそうとですね、魔王様」
イフ「ん、何じゃ?」
スライ「そのラーメン屋の味噌ラーメン……
私も試してみましたが、それはもう絶品の味わいでございました!」
イフ「(呆れて)むむ、確かに魅力的な情報だが……今はどうでもよいわ!」
スライ「まぁ、とにかく、そう言った次第です。
あとは貴方の双肩にかかっています、健闘を祈りますよプルーマ君!」
プルーマ「なーんてこと、スライの旦那は言ってたけどよぉ……
どうもあの人の言葉って信頼しきれねぇんだよなぁ、フワフワ軽くって。
……ほ~んと、ここで待ってれば来るのかねぇ、宙マン?」
などと、物陰に身を潜めつつプルーマがぶつぶつ言っていると……
のんびりした足取りで、本当に宙マンがやって来た。
プルーマ.。oO(おおっと、来たよ来たよ、マジで来ちゃったよぉ!)
宙マン「いやぁ~、あの店の味噌ラーメンは相変わらず美味しかったし……
それに今日は、この通りのポカポカいい陽気と来てる。
……どれ、家に帰る前に、ここで少し昼寝でもしてこうかな?」
「おおっと、そうは問屋が卸すかよォッ!」
ガバッ! と言う効果音が、文字付きで見せてきそうなほどの勢いで……
物陰から勢いよく飛び出し、宙マンの前に立ちはだかってくるプルーマ!
宙マン「……うわっ、びっくりした! いきなり何だね!?」
プルーマ「ギャウルル~、待ってたぜ宙マン、今すぐここで俺と勝負しろ!
さもないと、千歳の街をめちゃくちゃに破壊してやるぞ!?」
宙マン「(頭、ポリポリ)いつもながら強引だなぁ……
それに、どうやら拒否権も認めてもらえなさそうだね。
……いいだろう、味噌ラーメンの腹ごなしにその勝負、受けてやる!」
ファイティングポーズをとり、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトルの幕開けだ!
プルーマ「ギャウルル~、さぁさぁ勝負だ、宙マン!
このプルーマ様の恐ろしさを思い知らせてやるぜィ!?」
宙マン「いいとも、どこからでもかかって来い!」
真っ向激突、宙マン対プルーマ!
超人の妙技と怪獣の野生が、切り立った岩山を舞台にぶつかりあった。
「俺こそ本命!」と息まき、持ち前の獰猛さ全開で襲いかかるプルーマ。
その太い腕から繰り出される怪力パンチを冷静にかわし、巧妙に受け流しながら
宙マンもまた、果敢に相手の内懐へと飛びこんでいく。
プルーマ「ギャウルルル、観念しろ宙マン……どうだ、これでもかァ!?」
宙マン「なんの、そう簡単にやられてなるものか!」
がっぷり組み合っての力比べから、再び両者の間合いが開く――
と同時に、すかさずプルーマの喉元めがけてパンチを叩きこんでいく宙マン!
プルーマ「(悶絶)――ぐハァッ!?」
宙マン「それっ、お次は宙マン・キックだ!」
パンチにキック、流れるようにスムーズな宙マンの連続殺法!
その神業的スピードに、プルーマは技を回避することもかなわず痛めつけられ
ズズッと後退を余儀なくされてしまう。
宙マン「どうだ、参ったか!」
プルーマ「ギャウルル~、調子に乗ってんじゃねぇぞ、宙マンよぉ!」
怒り、口から赤色光線を吐きだして反撃するプルーマ!
足元に炸裂した破壊エネルギーの威力に、宙マンの体が大きくよろめく。
宙マン「くッ!」
プルーマ「そォれ、そォれ、今度はこっちがお返しさせてもらう番だぜィ!」
更に、プルーマの連続パンチ、そして頭突き!
さしもの宙マンも、これにはたまらず大きく吹っ飛び、ブッ倒れてしまう。
宙マン「ううっ……うっ!」
プルーマ「さぁて、その首、ボキッとへし折ってやっちゃろうかね!」
倒れた宙マンに覆いかぶさり、ぐいぐいと首を絞めあげにかかるプルーマ。
宙マンもまた、残された力で必死の抵抗を試みる。
断崖絶壁の上で、激しくもみ合う両者。
状況的には、プルーマの方が優勢であるかのように見えていたが……
だがしかし、このままやられっ放しでいるような宙マンではなかった!
宙マン「なめるなよ……これしきで負けて、たまるかァッ!」
宙マン、瞬間的にパワー全開!
のしかかるプルーマのボディを蹴り飛ばし、吹っ飛ばした。
岩肌に叩きつけられ、大ダメージを受けたプルーマ!
すかさず宙マンがそこへ駆け寄り、プルーマの体を高々と持ち上げて――
宙マン「デェーイっ! 宙マン・リフターだ!!」
プルーマ「ひょんげぇぇぇ~っ、これはクヤシイぃ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
宙マン「(ホッとして)ふうっ。……これで、どうにかやれやれか!」
イフ「おのれェ……おのれおのれ、またしても宙マンめが!
貴様と言う奴は、どこまでワシの顔に泥を塗れば気が済むのだ……
覚えておれよ、この次こそは必ずお前をギャフンと言わせてやるわ!」
かくして宙マンの活躍により、大怪獣プルーマは撃退され……
ヒーロー打倒を狙った怪獣軍団のもくろみは、またも泡と潰えた。
そして千歳の山々にも、再び元通りの穏やかな静けさが戻ってきたことで
人々はまた、安心して自然散策を愉しむことが出来るようになったのであった。
宙マン「さて、こうなるともう、昼寝って気分じゃないな――
家に帰って、落合さんの用意してくれるおやつを味わうとしよう!
さ~て、今日はいったい何を用意してくれてるのかな~?(ウキウキ)」
自然の輝き、清冽な空気……
それら全てが、我らが宙マンの強さの秘密。
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?