遥かなる宇宙の彼方、暗黒星雲の奥深くから……
美しい緑の星・地球を我が物にせんと狙い続けている怪獣軍団。
今日も配下の怪獣たちに向かって、怪獣魔王・イフの檄が飛ぶ。
また恐るべき侵略の魔の手が、僕らの母なる星に迫るのだ!
イフ「よいか者ども!
ワシら怪獣軍団の悲願、それは地球征服である……
そして、くどいようだが今は年末である!」
イフ「失敗続きの鬱屈した気分を、新しい年にまで引きずらないためにも
何が何でも今年のうちに、宙マンを倒して地球を征服せねばならんのだ。
さぁ、誰か、ワシらの前途を明るく照らしてくれる者はいないか!?」
ゾネンゲ博士「そのことでしたらご安心を、魔王様!」
ゾネンゲ博士「次なる怪獣は既に、地球を目指しておりますゆえに!」
イフ「おお、そうかそうか!
今度という今度こそ、宙マンと地球人に一泡吹かせてやるのだぞ!」
かくして、怪獣魔王の絶大なる期待を背に――
暗黒星雲から、また一匹の怪獣が地球を目指して飛びたった。
ズゴゴゴグワーンっ!
北海道千歳市の中心部に落下して、大爆発を起こす赤い光球。
噴き上がる爆炎と、濛々たる煙の中から姿を現したのは!?
「ゲボファハハ~っ!!」
屑鉄を寄せ集めて形作られたような、異形にして異様なる巨体。
怪獣軍団の一員、磁石怪獣ガルバンだ!
ガルバン「ゲヴォハハ、地球は間もなく怪獣軍団のものになるのだ~っ!
恐れろ、怖がれ、震えおののけ人間ども……」
「……っと、あれれっ?」
ドスをきかせて凄んではみたものの、地上の反応がイマイチ鈍い。
さすがに怪訝に思って、ガルバンが周囲をきょろきょろ見回してみると……。
「さぁ、張り切って参りましょうか!」
さてこの日、「宙マンハウス」に集まったお馴染みの面々。
気のおけない仲間同士でアツアツの鍋料理でもつつきながら
楽しく盛り上がろう、という趣旨である。
ピグモン「はうはう~、おなべさん、おなべさんなの~♪」
宙マン「今日もうんと美味しいのを頼むよ、落合さん」
落合さん「ええ、お任せ下さい、お殿様!」
みくるん「落合さんの作るお料理、いつもとっても美味しいから……
今から出来上がりがとっても楽しみですぅ~。
ね、ながもん?」
ながもん「(ボソッと)まさに……絶品」
ビーコン「まー、鍋物なんざ汁の中に材料ぶちこんで煮りゃあ恰好つくんで
むしろ失敗する方が難しいくらいなんスけどね、ヒッヒッヒ!」
落合さん「んーまっ、失敬な!」
落合さん「ようございますわよ、そんな憎まれ口を叩くのでしたら……
ビーコンさんにはもう、一口たりとも差し上げませんから!」
ビーコン「ひぇぇ、ジョークっスよぉ。いつもの他愛ない軽口っス!
いけずなこと言わないで、オイラにも食わせて欲しいっス~!」
落合さん「(ジト目)口は災いの元。良い教訓になりましたでしょ?」
宙マン「(苦笑)……たっはっはっはっ」
宇佐美さん「さぁさぁ、なにはともあれ始めようじゃないですか」
……と、いつものように和気藹々。
楽しく呑気に、師走の午後を楽しんでいる宙マンたちである。
ガルバン「あー、ちくしょう、いいな~、鍋美味そう……
……じゃなくてっ!(汗)」
ガルバン「ふふふ、てめぇら、いい度胸してるじゃねぇかよお……
だが、これでもまだ余裕ブッこいてられるかな!?」
ガルバンの目から迸る怪光線!
その威力の前に、林立するビル群がいともたやすく破壊され
平和な千歳の街は、みるみる炎の地獄に変わっていく。
ガルバン「ゲヴォハハ、どうだどうだ~! 見たか、俺の強さ!
恐れろ、怖がれ、震えおののけ人間ども~!」
「あー、ちょっとちょっとっス!」
ガルバン「おおっ、お前たち……
そうか、ようやく俺様の偉大な力に恐れをなしたってわけだな!」
ガルバン「うんうん、そうだろ、やっぱそうこなくっちゃ!」
ビーコン「……ハァ、なに言っちゃってるんスか~、おたく?」
ピグモン「あんまりうるさくすると、ご近所さんにめ~わくなの~。
プンプンなの~!」
落合さん「そういう事ですわ、怪獣さん。
お若いんでしょうし、エネルギーが有り余ってるのは分かりますけど……
もう少し、礼儀とかその他もろもろを弁えて頂きませんと!」
みくるん「ホント、そうですよぉ~」
宇佐美さん「これじゃあねぇ、鍋料理パーティが出来ないじゃないか」
ながもん「(ボソッと)少しは、空気……読んで」
……ぶ ち ぶ ち ぶ ち っ !
ガルバン「(ワナワナ)う、うぐぐっ……
て、て、てめぇらぁぁぁっ!!」
ガルバン「俺様がせっかく気合入れて暴れてるってのに!
なんだ何だ、揃いも揃ってそのリアクションは!?
もっと真面目にやれ、真面目にっ!!」
宙マンファミリーの呑気なリアクションに、ガルバン大逆上!
更に激しく暴れ回り、いよいよ洒落にならない事態に。
宇佐美さん「ひえぇぇっ、こりゃどうしたもんかねぇ!?」
ビーコン「どひ~っ、マジで本気の緊急事態っス!
これじゃとっても、鍋パーティどころの騒ぎじゃないっスよ~」
ながもん「それは…………困る(切実)」
宙マン「仕方ないなぁ……よし、ここは私が何とかするからっ。
みんなはその間、鍋料理の支度を頼むよ!」
落合さん「はい、お殿様!」
宙マン「うん、それじゃ行ってくるよ――
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
空中回転とともに、暴れ回るガルバンの前へ舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
……まぁ、その、何て言ったらいいんだろうねぇ――」
ズ、ズーンっ!!
宙マン「……まぁ、そういうワケだから。
私でよければお相手するんで、料理の邪魔はしないで貰えるかな?」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日も世紀のビッグファイト開幕だ!
ピグモン「はうはう~、ほいじゃ、そういう事でぇ……」
落合さん「私どもは、早々に退散させてもらいますわねっ」
ビーコン「あとは任せたっスよ、アニキ~!」
宙マン「ああ、そっちこそ、美味しい鍋料理を頼んだよ!」
ガルバン「うがーっ!!」
ガルバン「宙マン、てめぇまでなんだ、そのやる気のない態度はよぉ~!?(泣)
ヒーローならヒーローらしく、もっとシャキっとしやがれっ!」
宙マン「う~ん、そのつもりなんだけどなぁ……
まぁいいや、さぁ、来いっ!」
ガルバン「だ~か~らぁ~、そういうトコがさぁ!?」
気の抜けるような会話の応酬だが、肝心のバトルは凄絶そのもの。
師走の街に火花を散らす、宙マン対ガルバンの一大攻防戦!
ガルバン「ゲボファハハ、これでもくらえっ!」
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
みくるん「ああんっ、このままじゃ宙マンさんが!」
ピグモン「宙マン、がんばって、負けないでなの~!」
ながもん「みんなが、ついてる……応援、してる」
ガルバン「ゲヴォホホホ……無駄よ、ムダムダ!」
イフ「よぉーし、よしよし、いいぞガルバン!
今度こそ、今回こそは、怪獣軍団の大勝利だ!」
ガルバン「勿論ですともさ、魔王様!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ……!」
ガルバン「そぅれ、とどめだ宙マン! 死んでもらうぜぇ!」
「なんの……やられて、たまるかッ!」
ガルバン「ゲヴォゴゴゴ~、死ねぇいッ、宙マン!」
目から怪光線を放つガルバン。
だが宙マンはあわてず騒がず、ひらりとかわして大ジャンプ!
正義のヒーロー、華麗なる空中一回転。
地上へと舞い降りざま、怪獣めがけて繰り出すその技の名は!
宙マン「それっ、食らえ!
宙マン・パルサーチョップ!!」
エネルギーを集中させた手刀で繰り出す、必殺の一撃……
パルサーチョップが、磁石怪獣の脳天を叩き割るように炸裂!!
ガルバン「お、お星さまチカチカ……ま、負けちゃった~!」
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「うぐぐぐっ、おのれぇ……おのれ宙マン、またしても!
覚えておれ、覚えておれ~っ!」
と、そんな毎度の負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍によって、恐るべき磁石怪獣ガルバンは斃れ
街には再び、のんびりした日常が戻ってきたのであった。
みくるん「宙マンさ~ん、お疲れ様でしたぁ!」
ながもん「さすが、宙マン……任せて、安心」
ピグモン「はうはう~、宙マン、今日もかっこよかったの~♪」
宙マン「はっはっはっはっ、なぁに、それほどでもないさ。
……っと、それより鍋料理の方はどうなったかな?」
「いえっふ~!
もう始めてるっスよ~、アニキ!」
宇佐美さん「はふはふ、うまうま……
ん~、冬はやっぱり鍋だよね~、宙マンさん!」
宙マン「……って、そのタイミングで私に同意を求めます?(汗)」
宇佐美さん「もぐもぐもぐ……
風味絶佳。この味付けの深さ、さすが落合さんですよ~」
ビーコン「早くしないと、アニキの分もぜんぶ食べちゃうっスよ~?」
げ し っ !
落合さん「私の目が黒いうちは、そんな事などさせるものですかっ!
……あ、でも本当にお急ぎになって下さいましね、お殿様。
材料はたっぷり用意したつもりなのですが、この調子ですと……」
みくるん「ふぇぇん、そんなのないですぅ~!」
宙マン「はっはっはっはっ、そりゃあまた大変だ。
……さぁ行こうか、みんな!」
ながもん「(頷き)もはや、一刻の……猶予も……なし」
ピグモン「はうはう~、お鍋にトツゲキなの~♪」」
かくして、怪獣騒動も一件落着し……
そしてそれとは全くの無関係に、落合さん謹製の美味しい鍋料理を
お腹いっぱい堪能した宙マンファミリーであったとさ。
めでたし、めでたし。
「……って、全然めでたくねェ~っ!!(泣)」
嗚呼、ふんだりけったりのガルバン君。
怪獣重視か、あるいは人間ドラマ重視か……
いやはやなんとも、微妙なバランスです。