大地を覆っていた雪も急速に溶け去って行き……
ここ・北海道にも、いよいよ本格的な春が訪れていた。
北海道千歳市の一角・ほんわか町5丁目も、うららかな春の陽気に
ほんのりと暖められ、のどかな平和の中にある。
そんな和やかムードの中で幕を開ける、今回の『宙マン』。
毎度お馴染み、「宙マンハウス」の庭先から物語を始めよう。
宙マン「いやー、ここ数日はすっかり暖かくなってきたねぇ!」
ピグモン「はうはう~、おんもで遊ぶの気持ちいいの~」
落合さん「北国の春、ですわね。こうでなくてはいけません」
ビーコン「ヒヒヒ、そしてそして……
雪が溶けたら、そこから出てくる山菜もお楽しみっスよね!」
宙マン「ほのかなほろ苦さが、舌に心地よくて……
春の山菜と言うのも、何とも言えずいいもんだよねぇ。
今の時期なら、まずはフキノトウ……ってところかな?」
落合さん「そうそう、フキノトウと言えば……
早速みくるん様たちが今朝、近場の山へ採りに行かれたようですよ」
宙マン「おお、流石に早いなァ!」
ビーコン「北国の山菜採りにかけちゃ、あの二人は達人っスもんねぇ。
ヒヒヒ、オイラたちもご相伴に与れるっスかねぇ?」
……などと、噂をすれば何とやら。
「ふぇぇん……宙マンさん、宙マンさ~んっ!」
宙マン「やぁ、こんにちは、みくるんちゃんにながもんちゃん!」
ビーコン「ヒヒヒ、フキノトウ狩りの首尾はいかがっスかぁ?」
みくるん「(切羽詰って)……そ、それどころじゃないんですぅ!」
ビーコン「……へっ?」
落合さん「(察して)……山で、何か事故でもありましたの!?」
ながもん「オゥ……事故と言うか……何というか」
みくるん「山を歩いてたらずっと、変な音が……
唸り声みたいなものが、ず~っと聞こえてくるんですぅ」
ながもん「気のせいか、風も……何となく……生臭い」
ビーコン「……な~る。で、怖くなって帰ってきちまった、と!」
みくるん「……(コクコクっと頷き)」
落合さん「……どう思われます? お殿様」
宙マン「引っかかると言うか、どうにもクサいね――
もしかすると、またお定まりの話ってやつかもしれないよ」
ビーコン「……まさか、またまた怪獣軍団の仕業っスか!?」
宙マン「(頷きつつ)まだ、確証があるわけじゃないが……」
と、この時点においてはあくまで慎重な宙マン。
だが読者諸氏よ、結論から先に言ってしまおう――
またも千歳の山中で暗躍していたのは、他ならぬ怪獣軍団である。
怪獣魔王の命を受け、地上に送りこまれてきた恐怖の使者とは?
その問いに対しての答えは、不意に山中で起こった大爆発……
濛々たる土煙の中から発せられることとなった。
ズゴゴゴグワーンっ!
……おお、見よ! 驚愕せよ!
これこそがその答え、人知を越えたこの恐るべき異形!
「クエァァァァーンっ!!」
土砂を巻き上げ、すっくと立ち上がる不気味な巨体。
持ち前の知性、それ以上の攻撃性が前面に顕れた悪魔的表情。
怪獣軍団屈指の喧嘩好きで知られる宇宙の無法者、その名は!
「クェクェクエァァァーッ、宇宙鳥人・アイロス星人参上!
今の季節の北海道は、春の風が心地いいねぇ……
この風が血生臭い臭いに染まると思うと、更にぞくぞくするぜィ!」
イフ「うむうむ! やる気充分だな、結構けっこう!」
イフ「その上でアイロス星人よ、今一度確認しておくぞ。
ワシがお前に与えた使命、それは……」
アイロス星人「ははっ、千歳に前線基地を築くことでございます!」
千歳の山中に人知れず前線基地を築き、地球侵略の拠点とする。
これまで幾多の怪獣・宇宙人が臨み、そして果たせなかった計画は
今また、このアイロス星人へ引き継がれていたのであった。
イフ「よろしい、よく判っているな!」
イフ「基地の完成までは、何人たりとも山に近づけてはならん。
そのためにこそ、お前を用心棒として派遣したのだ」
アイロス星人「クェェェ、全てこの私にお任せ下さい、魔王様!」
アイロス星人「うかうか山に足を踏み入れる輩は、その都度おどかして
ほうほうのテイで追い返してやりましたとも。
これで最早、この山に近づこうと言う物好きなどは……」
「……おおっと、そいつはどうかな!?」
アイロス星人「(訝しんで)むむっ、どこの誰だ!?」
不意に響いてきた凛たる声に、慌てて振り返る宇宙鳥人。
山道を踏みしめて毅然と歩いてきたのは、もちろんこの男だ!
アイロス星人「クエェェッ、お、お前は宙マン!?」
宙マン「あぁ、そうとも、宙マンだ。
見ての通り、どこにでもいるごく普通の、何の変哲もない千歳市民さ!」
アイロス星人「ぬううっ……いちいちツッコまんぞ!?(汗)」
宙マン「いやいや、ツッコミ入れたいのは私の方さ。
黙って聞いていれば……前線基地がどうしたって?
馬鹿な企みは捨てて、早く暗黒星雲に帰るがいいさ!」
アイロス星人「ぐぬぬっ……言ったな!?」
アイロス星人「我ら怪獣軍団の悲願、千歳への前線基地建設……
言うに事欠いて“馬鹿な企み”とは聞き捨てならんッ!」
宙マン「……では、あくまで「やる」と?」
アイロス星人「ああ、「やる」とも。お前を叩き潰してでもな!」
宙マン「(頷き)ならば、やむを得ん! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、アイロス星人の前へ舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
宇宙の無法者、この千歳で好き勝手はさせんぞ!」
ズ、ズーンっ!!
アイロス星人「クエァァァァーッ、大見得なんぞ切りよって……
このアイロス星人相手に勝てるつもりらしいな、宙マン!」
宙マン「あぁ、こんな勝負はもう何百回もやってきてるんでね――」
宙マン「今回もまた、サクッと勝たせてもらうつもりだよ!」
アイロス星人「(怒り)クエァーッ、言ったな。抜け抜けと!」
ファイティングポーズをとり、決然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまたスーパーバトルの幕開けだ!
真っ向激突、宙マン対アイロス星人!
北海道の原野を舞台に、巨大な両者の死闘が凄絶なる火花を散らせる。
好戦的な気質を全開に、荒々しく宙マンに迫ってくるアイロス星人。
その鋭い牙を、翼をかいくぐり、宙マンは務めて冷静さを保ちながら
相手の隙を伺い、果敢に敵の懐へと飛びこんでいく。
宙マン「えい! やぁ、タァァッ!
どうだ、参ったか――これでもか!」
アイロス星人「クエァァァー! 効かん、効かんわ、そんなもの!」
侵略宇宙人の中でも群を抜く、根っからの喧嘩好きにして凶状持ち。
宙マンの連続攻撃をアザ笑うように、アイロス星人はそれらの技を
敢えて真正面から受けることで、全く動じない自分をアピール。
アイロス星人「クェクェクェ、どうした!
お前さんの技は、そんな程度でもう在庫切れかぁ!?」
宙マン「ぬううっ、ならばーーこれならどうだ!」
腕をL字型に組み、星人めがけて発射する必殺光線。
伝家の宝刀、宙マン・エクシードフラッシュが迸る!
だが――
アイロス星人は、そんなエクシードフラッシュの正義の一閃を
大空に舞いあがり、軽々と回避してみせたではないか。
宙マン「(驚愕)何ッ!?」
アイロス星人「クエァァァーっ!
宙マンなんぞ、このアイロス星人の敵ではないわいな!」
大空をムササビのように舞い、地上めがけて発射する破壊光弾。
アイロス星人の口から吐き出される、破壊エネルギーの塊が
宙マンの周囲に次々と炸裂!
アイロス星人「クエァァァーっ! そ~れ、それそれそれ~っ!」
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
空中からの容赦ない連続攻撃!
爆風に吹っ飛ばされ、宙マンの巨体が地面に叩きつけられた。
イフ「わははは! よーし、よしよし……
流石はアイロス星人、上出来だ!
あとはこの機を逃さず、一気に宙マンへとどめを刺せ!」
アイロス星人「クェクェクェ、お任せを、魔王様!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ!」
アイロス星人「クェクェ……今すぐ楽にしてやるぞな、宙マン!」
宙マンにとどめを刺すべく、攻撃のモーションに入るアイロス星人。
だが、みすみすここでやられるヒーローではない――
宙マンもまた精神を一気に奮い立たせ、パワー全開で動いた!
宙マン「トゥアーッ!」
間一髪!
アイロスの吐きだした光弾をかわし、大空へ舞う宙マン。
アイロス星人「(狼狽)な、何っ!?」
宙マン「くらえ! 宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、空中からアイロス星人を直撃!!
アイロス星人「グエァァァッ……こ、これは……クヤシイぃ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「ぐぬぬぬっ……またか、またしても宙マンにしてやられたか!
覚えておれ、覚えておれ~ッ、次こそは必ず……!」
……と、怪獣魔王がいつもの負け惜しみを叫ぶまでが毎度の恒例。
かくして宙マンの活躍により、アイロス星人は追い払われ……
千歳の山林には再び、平穏なやすらぎが戻ってきたのであった。
宙マン「ふぅ、どうやらこれで一件落着、っと。
……あぁ、ひと仕事済んだら、お腹がすいちゃったなぁ!」
そして、そんな宙マンを待ってくれているお昼ごはんは……
落合さん謹製・フキノトウの天丼。
ほんのり広がる苦味が心地よい、春ならではのご馳走であった。
平和の春呼ぶ、宙マンパワーの素晴らしさ。
さぁ、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?