季節は既に初夏、吹き抜ける風も爽やかに……
気持ちのよい五月晴れの青空の下にある、北海道千歳市。
そんな季節であろうと、なかろうと、お馴染み「宙マンハウス」の住人たちは
例によって例のごとくの変わらぬ調子なのであった。
ほらほら、覗いてみれば今回もまた……。
落合さん「ビーコンさん! いらっしゃいますでしょ、ビーコンさん!
ちょっと貴方にお使いをお願いしたいんですけどねぇ?」
ビーコン「お使いっスかぁ?」
落合さん「ええ、いつも使っているお醤油をうっかり切らしてしまいましたの。
ちょっとひとっ走り、ご近所のお店で買ってきて下さいな」
ビーコン「え~、イヤっスよ、めんどくさい! それにオイラは忙しいんス」
落合さん「(ジト目)な~にが「忙しい」ですか!
放っておけば一日ずっと、お部屋でゴロゴロなさってる癖に」
ビーコン「いやいや~、忙しいっよオイラ、やること一杯っス!
ネトゲにエロゲにエロ画像回収……というわけで、今日も手が離せねーんで
お買いモンならご自分でどうぞっス~☆」
落合さん「ンまぁっ、よくもぬけぬけと……
……判りました、ではこうしましょう。
(ボソッと)余ったお釣り、ビーコンさんの懐に入れて構いませんから」
ビーコン「(コロッと一変)了解っス、喜んで行かせてもらうっス!!」
ピグモン「はうはう~、ビーコンちゃん、行ってらっしゃいなの~♪」
落合さん「(呆れて)全く……この電波怪獣ときたら!」
と言うわけで、落合さんからお使い用の予算を受け取ったビーコン。
ウキウキ気分で、家のドアを開けて外に出ようとした時!
「……ど、ど、どひ~っ!!(汗)」
落合さん「どうしましたの、ビーコンさん!?」
ビーコン「いや、どうしたもこうしたも……コレ見てっスよ、コレ!」
宙マン「……うわ、何てことだ、凄い大雪じゃないか!」
ピグモン「えう~、もう五月なのに、こんなのおかしいの~」
落合さん「確かに妙ですわね、そんな予報はなかったはずですのに……」
宙マン「急すぎるな……それに、この荒れ方はどう見ても異常すぎる」
ビーコン「(ハッとして)まさか、今日もまたまた……」
落合さん「……怪獣の仕業、でしょうか!?」
ピグモン「(上空を指し)ああっ!……みんな、アレ見てアレ、なの!」
おお、またしても不気味な異変!
ピグモンが指差した方向の空……宙マンたちの頭上を、猛烈な勢いで飛んでいく
不気味な黒い黒雲!
ビーコン「飛行機雲……っスかねぇ?」
落合さん「いいえ、あんな黒い飛行機雲など前代未聞ですわっ」
宙マン「(頷き)それに、何か……こう、得体のしれない気配も感じるぞ」
ピグモン「はうう、ピグちゃん怖いの~」
「ガウガウ、ガオオオ~ンっ!!」
ピグモン「(目を見張り)は、はわわっ!?」
そう、宙マンの直感は正しかった――
黒煙に身を包んで千歳市の上空に飛来してきたのは、巨大な二枚の翼を備えた
見るも怖ろしい大怪獣であったのだ!
ピグモン「あっ! あの怪獣、ながもんちゃんの御本で見たことあるの!」
落合さん「(頷き)南極生まれの、冷凍怪獣ペギラさん……でしたわね、確か」
ビーコン「どひ~っ、道理で……
五月ももう下旬だってのに、とんでもねー冷え込み方なワケっスよ!」
「怪獣軍団」の古参メンバーにして、「冷凍怪獣派閥」のご意見番。
かつては東京都の全域を氷漬けにしてしまった実力の持ち主こと
冷凍怪獣ペギラが、またまた懲りずにその姿を現した!
ペギラ「ガオオーンッ! 寒気はやっぱりいいなぁ、心がウキウキ弾んでくるぜ!
そして、この俺が来たからにゃ、この地に再び春はやってこないんだぜ」
落合さん「なんですって!? それはどう言う――」
ペギラ「決まってらァな、これから地球は永遠の氷河期に入るのさ!
ギャオオーン、この俺の冷凍光線にかかりゃ容易いモンだぜぇ!」
ビーコン「どひ~っ、ずっと寒いままなんてマジ勘弁っスよぉ!?」
宙マン「ううむっ……また、ろくでもない事を企んでくれたものだな!」
ペギラ「ガオオーンっ、何とでもほざけやぁ!」
グロッケン「ケッケッケッ……
いかがですかィ魔王様、ペギラの旦那のあの張り切りよう!」
イフ「うむっ、素晴らしいぞ、流石に冷凍怪獣界の古豪だけはある!」
イフ「さぁ行けペギラ、今や天は完全にお前の味方だ!
昂ぶりのままに暴れ、千歳の街を徹底的に破壊せよ!」
ペギラ「ガオオーンっ、お任せ下さいやし、魔王様!」
怪獣魔王の命に、俄然奮い立つペギラ!
重々しい足音を周囲に響かせ、その巨体が進撃を開始する。
ビーコン「だーっ、もう、冗談じゃないっスよ!」
落合さん「初夏から冬に逆戻りだなんて、ご勘弁願いたいですわねェ!」
怪獣ペギラの出現により、またまた千歳は大パニック!
だが、こんな緊急事態を、航空防衛隊は放置などしない。
直ちに空の精鋭が、怪獣攻撃用の戦闘機でスクランブル!
ピグモン「あ、防衛隊が来てくれたの!」
ビーコン「う~ん、だけど……大丈夫っスかねぇ!?」
落合さん「あの怪獣……ペギラさん、でしたかしら?
その強豪ぶりときたら、怪獣界でも折り紙つきだそうですから……」
「はっはっはっ、なぁに、任せといて下さいよ――
そぉれっ! 全機、怪獣に一斉攻撃だっ!」
だが、その相次ぐ直撃にも、まったく怯むことのない冷凍怪獣。
ペギラ「ガオオーンっ、小うるさいハエどもがぁっ!」
上空の戦闘機めがけて、霧状の物体を吐き出すペギラ――
彼の「冷凍怪獣」たる所以、恐怖の冷凍光線である。
「いかん、うかつに接近しすぎるな!
アレの直撃を受けたら、この機体ではひとたまりもないぞ!」
勝ち誇るように、冷凍光線を吐き散らすペギラ。
街がたちまち凍りつき、五月の千歳が分厚い雪と氷に閉ざされていく!?
ビーコン「……ど、ど、どひ~っ!(汗)」
一気に凍結し、氷の地獄と化した街。
それによって、避難中の自動車も只では済まず……
次から次へと、玉突き上に追突、横転、そして爆発!
氷漬けの街と、炎に包まれた路上。
退くも、とどまるも、まさに両極端の地獄である。
ペギラ「ガオオーンっ、どんなもんだぁ~!」
ビーコン「どひ~、すっかり調子乗ってるっス~!」
ピグモン「このままじゃ街が、街がたいへんなの~!」
落合さん「お殿様、今日も一仕事……お願いできますかしら!?」
宙マン「(頷き)ようし、やろうか! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
さぁ、今日もまた正義の味方のお出ましだ!
ビーコン「あーもう、今はアニキだけが頼みの綱っスよ!」
落合さん「頼りにさせて頂きますわ、お殿様!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、しっかりなの~!」
ペギラ「ガオオーンっ、例え宙マン相手でも怖れるに足りねぇぜ。
俺の強さは、これまでの若造どもたァ一味もふた味も違うんだからな!」
宙マン「いやいや、所詮……悪は正義の前に屈するさだめさ!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ!
ペギラ「ガオオーンっ、捻り潰してやるぜ、宙マン!」
宙マン「さぁ来い、ペギラ!」
激突、宙マン対ペギラ!
落合さんたちが見守る中、二つの巨体が戦いの火花を散らす。
翼を激しくうち振り、チョップ攻撃を仕掛けてくるペギラ。
それを冷静に見切って回避し、時に受け流して、宙マンもまた
果敢にペギラの内懐へと飛び込んでいく。
ペギラ「ガオオーンっ! いだだ、あ痛ててててっ!」
宙マン「それっ、まだ参らないか――これでもかっ!」
羽の付け根を痛めつけ、更に空手チョップの連打。
宙マンの連続攻撃の前には、さしものペギラもたじろいだ。
宙マン「さぁどうだッ、正義の力を思い知ったか!?」
ペギラ「ガオオーンっ……
そこで油断するのが、お前の悪い癖ってヤツだぜ!」
バサバサバサバサっ!
ペギラの羽ばたきによって、凄まじい勢いの烈風が巻き起こる!
宙マン「う、うおおおっ!?」
横殴りの烈風をまともに食らい、宙マンの巨体も吹っ飛ばされる。
落合さん「お、お殿様っ!?」
ビーコン「っがー、ペギラのヤローはあの攻撃もあるから厄介っス!」
ピグモン「はわわわ……宙マン、負けないでなの~!」
グロッケン「っしゃ! 流石はペギラの旦那だぜ!」
イフ「さぁやれペギラよ、今度こそ宙マンにとどめを刺すのだ!」
宙マン「(苦悶)う……うう……っ!」
ペギラ「ガオオ~ンっ、心臓まで凍りつかせてやるぜ!」
「さっきの言葉、そのままお返しするぞ……
そこで油断するのが、お前の悪い癖だ!」
ペギラ「死ねェッ、宙マン!」
宙マン、とっさのパワー全開!
ペギラの冷凍光線を、得意の回転戦法で軽やかに回避していく。
ペギラ「ガオォォーンっ、こんにゃろ、こんにゃろっ!」
自棄のやんぱちで、冷凍光線を乱射するペギラ。
だが宙マンは、その一閃を華麗にかわして大空へジャンプ!
ペギラ「(目をパチクリ)が、ガオォォッ!?」
宙マン「くらえ――宙マン・閃光波!」
ピッキュイィィーン!
高らかな音とともに、宙マンの手にストロボ状の発光が生じ……
次の瞬間、ペギラのボディで激しい爆発が起こる。
たまらず、冷凍怪獣がドドーッと倒れたところへ――
宙マン「とどめだ! 宙マン・フラッシュボンバー!!」
シ ュ ッ パ ァ ァ ー ン ッ !!
右手に集中させた闘気を、裏拳とともに勢いよく解き放ち……
赤いエネルギー弾として、怪獣めがけて叩きこむ荒技。
フラッシュボンバーの一撃が、ペギラを直撃!!
ペギラ「うがぁぁぁっ……こ、これは痛烈ぅぅ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ビーコン「いえっふ~、やったっスねぇ、アニキ!」
落合さん「お殿様、素敵です……♪(うっとり)」
ピグモン「はうはう~、宙マン、どうもありがとうなの~♪」
人々の笑顔と歓声が、宙マンの勝利を讃える――
五月晴れの青空の下に立つ巨体は、どこまでも雄々しく、逞しかった。
イフ「うがぁぁっ……どこまでも小癪な宙マンめが!
だが、こんなことで怪獣軍団は挫けやせんぞ。
次こそは必ず、必ずや貴様の息の根を止めてやる!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍によって、冷凍怪獣ペギラは撃退され……
千歳には再び、温暖な初夏の気候と生命力が戻ったのであった。
落合さん「お殿様、どうもお疲れ様でした!」
宙マン「いやはや、それにしても……
季節外れの冷凍怪獣相手は、二重に厄介だねェ。
何しろお腹がぺこぺこになるわ、体が芯まで冷えちゃうわ!」
ピグモン「そういう時は、あったかいもの食べて元気出すの~」
落合さん「お任せ下さい、すぐに美味しい料理を用意いたしますから――
と言うわけで、ビーコンさん。
改めてお使いの方、よろしくお願いしますわね?」
ビーコン「ダーッ、とことんオイラをこき使う気っスね!? 鬼っスか落合さん!」
落合さん「鬼とは何です、私のような美人をつかまえて……」
ビーコン「いーや、鬼っス、般若っス、人でなしのケダモノっス!
お使いの釣り銭を小遣いにもらう程度じゃ、決して騙されやしねぇっス――
胸揉ませろ、乳吸わせろ、ついでに尻もこねさせろっス~!」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、このエロ怪獣! どさくさ紛れに何てことをっ!(怒)」
ビーコン「ひぇぇ~っ、やっぱり鬼メイドだったじゃないっスかぁぁ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
凍てつく風にも、消せない闘志……
宙マンの笑顔が、千歳の街に薫風を呼ぶ。
さァて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?