あれだけ分厚かった雪も、急速に溶け去っていき……
今や名実ともに春・真っ只中の北海道。
だが、それはまた同時に、長いあいだ冬眠していた怪獣たちが一斉に目を覚まして
再び地上へと攻め寄せてくる前兆でもある。
そしてまた一匹、「冬眠休暇」を終えた怪獣が地の底で蠢き始めた。
果たして、今回の敵はいかなる脅威を北海道にもたらすのであろうか?
イフ「今こそ目覚めよ、栄光ある怪獣軍団の戦士よ!
地球征服の悲願を成し遂げるため、お前の力を存分に奮う時が来たぞ!」
怪獣魔王の不気味な声が響き渡るとともに……
大地を引き裂き、煙を吹き上げ、地中からその巨大な姿を現した者とは!?
「クェクェクェェ~ッ!!」
異様な咆哮とともに這い出てきたのは、全身を堅い殻で覆った大怪獣――
幼虫から成虫への二段変身を遂げ、“変幻怪獣”の異名を持って一般に知られる
怪獣キングマイマイの幼虫態であった。
イフ「おお、目覚めたかキングマイマイ、元気そうで何よりじゃ!
……それはそうと、冬眠中に成虫への脱皮はしなかったのか?」
キングマイマイ「クェクェ~、恐れ入りますです、魔王様。
でへへ、何と言いますか、もう少し今のままでいたくって……(赤面)」
イフ「(呆れ)……いい歳をしてなんだ、モラトニアムでもなかろうに。
まァいい、冬眠明け早々で悪いが、お前の使命は……」
キングマイマイ「クェクェクェ、判ってますって、魔王様」
キングマイマイ「千歳の市街地に突撃して、これを徹底的に破壊する――でしょ!?」
イフ「よし、それを心得ているなら言うことなしだ。
さぁ行けキングマイマイよ、千歳の街を滅茶苦茶にしろ!」
キングマイマイ「クェクェクェ~、目覚めの一仕事、いっちょやったるかァ!」
「はっはっはっ……いいや、そうはさせないぞ!」
キングマイマイ「クエェッ、だ、誰だ!?」
不意に響いてきた凛たる声に、驚いて周囲を見回すキングマイマイ。
そして、次の瞬間に姿を現したのは……勿論、毎度おなじみのこのヒーローだ!
宙マン「はっはっはっはっ、私だよ、私!」
キングマイマイ「(驚き)ゲゲェッ、宙マン――ど、どうしてお前がここに!?」
宙マン「いやぁ、雪融けも進んできたことだしねぇ。
ぼちぼち春の山菜採りもイケる頃合いかなと思って、試しに山を覗いてみたら
山菜どころか、こんな物騒な手合いに出くわしてしまったってワケさ」
宙マン「例によっての悪企みなら、さっさと諦めて帰るがいい!」
キングマイマイ「クエェ~ッ、うるせェ! 邪魔するなら踏み潰しちゃる!」
宙マン「……聞く耳持たずか、やむを得ん! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、猛りたつキングマイマイの前へ敢然と舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
平和を乱す凶悪怪獣、天に代わってこの私が打ち砕いてやる!」
ズ、ズーンっ!!
キングマイマイ「クエェ~ッ、やるってのか、宙マン!?」
宙マン「お前がその考えを改め、頭を冷やしてくれるならその限りではない。
いま一度言う、大人しく暗黒星雲に帰るがいい!」
キングマイマイ「クェクェ~、そう言うワケにはいかねぇんだよッ!」
宙マン「いいだろう……ならば私も、とことん相手になってやる!」
ファイティングポーズをとり、キングマイマイに対して身構える宙マン。
さぁ、今日もまたスーパーバトルの幕開けだ!
激突、宙マン対キングマイマイ!
雪融けの進んだ千歳の山を舞台に、巨大な両者の攻防戦が火花を散らす。
両手の爪を激しく打ち振り、パンチ攻撃を仕掛けてくるキングマイマイ。
その打撃をかわし、かいくぐりつつ、宙マンも冷静かつ油断なく相手の隙を伺って
果敢な反撃へと転じて行く。
キングマイマイの突進戦法に、磨き抜かれた格闘技で渡り合う宙マン!
怪獣の力押しを巧みに受け流し、逆に相手の急所へとパンチの連打を叩きこむ。
キングマイマイ「クェクェ~、野郎、味な真似をッ!」
宙マン「そぉれッ、これでもくらえ!」
宙マンの脳天割りチョップが、キングマイマイの眉間に炸裂!
さすがの変幻怪獣も、これにはたまらずドドーッとぶっ倒れてしまう。
宙マン「見たか、これが正義の力と言うものだ!」
キングマイマイ「クェクェ~、いい気になるなよ宙マンめ……
キングマイマイ様のとっておき、見せてやる!」
ボフッ、ボフッボフゥゥッ!
言うなれば、奥の手ならぬ「奥の屁」――
キングマイマイのお尻の穴から、断続的に放たれる放屁上の可燃ガス弾攻撃が
宙マンめがけて襲い掛かり、その周囲に凄まじい爆発を生じさせる!
「う、うわぁぁぁぁ……ッ!!」
イフ「わははは! 素晴らしいぞ、その調子だキングマイマイ!
お前の持ち味を十分に生かし、宙マンをとことんまで追い詰めろ。
……そして、今度こそヤツを倒せ!!」
宙マン「(苦悶)う……ううっ……!」
キングマイマイ「クェクェ~、いよいよ最後だな、死ねィ宙マン!」
キングマイマイの猛攻の前に、絶体絶命の宙マン。
だが、そんなピンチの瞬間にこそ、宙マンの気力と闘志は激しく燃え盛る――
今まさに、彼の必殺技が唸りをあげる時なのだ!
「受けてみろ! 宙マン・超破壊光線!!」
両手の間にエネルギーを集中させ、激しいスパークとともに放つ大技。
「超破壊光線」の直撃を受け、火花を散らすキングマイマイのボディ!
宙マン「どうだ、今度こそ思い知ったか!」
キングマイマイ「クェェェっ、こいつぁ堪んねえッ……
ちゅ、宙マンめ、今に見てろよ……覚えてやがれ~っ!」
ボフッと一発、捨て台詞とともに最後っ屁!
その噴煙と臭気に、思わず宙マンも目がくらみ……
そして、放屁ガスが晴れたとき。
……既に怪獣キングマイマイの姿は、その場のどこにもなかった。
宙マン「しまった。……逃がしたか!」
決着こそつかなかったものの、勝者が誰かは言うまでもあるまい。
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「うぐぐぐっ……おのれ、またしても宙マンめが!
だが、これしきのことで地球征服を諦めるようなワシではないのだ。
覚えておれ、次こそ貴様に怪獣軍団の恐ろしさを思い知らせてくれる!」
……と言う、怪獣魔王の毎度毎度な負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍により、冬眠から目覚めた怪獣キングマイマイは退けられ
その千歳襲撃は未然に防がれた。
そして、戦いを終えた宙マンの目に飛び込んできたのは……
ささやかながらも健気で眩しい、フキノトウの美しい薄緑色であった。
宙マン「おおっ、これは素晴らしい、さっそく帰って皆に知らせなくては。
……うん、これはどうやら、今年の山菜も期待できそうだぞ!」
今日も本当にありがとう、宙マン!
だが未だ、怪獣軍団の野望は尽きない……
さァて、次回はどんな冒険が待っているのかな?