入浴後に化粧水が必要ないほど、素肌に潤いをもたらすところから
「美人の湯」とも呼ばれる芦別温泉……
そんな温泉の評判から、道内における一大観光地のひとつとして
賑わいを見せていた、北海道・空知地方の芦別市。
今回の『宙マン』は、その芦別市から物語を始めよう。
とは言うものの……
毎度お馴染みの宙マンファミリー、何も温泉に入りたいがために
この芦別を訪れていたわけではない。
ビーコン「ヒヒヒ、オイラたちの目的はっスねぇ!」
落合さん「ご当地名物の“ガタタン”、これに尽きますわ!」
宙マン「あちこちで、美味しいと言う評判は聞くものだから……
ぜひ一度、機会を見つけて食べてみたかったんだよねぇ」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんも今からワクワクなの~♪」
そも“ガタタン(含多湯)”とは何ぞや?
結論から言ってしまえば、ボリュームがあってとろみのついたスープのこと。
村井豊後之亮(むらい・ぶんごのすけ)氏が、同市の中華料理店
「幸楽」で供したのが始祖である、と伝えられている。
白菜・人参・豚肉・イカ・ホタテ・山菜・団子・玉子などの豊富な具材の旨味を
鶏ガラベースと塩味の、あっさり優しいスープのとろみに閉じ込めたおかげで
ご当地の厳しい寒さにおいても、旨さや熱さを逃すことなく頂ける一杯。
そんなガタタンを求め、宙マンファミリーが訪れた市内のレストラン。
何はなくともメニューの注文、と思いかけたその時!
ピグモン「(ピクっと震えて)……あっ」
落合さん「あら、どうしましたの、ピグモンちゃん?」
ピグモン「んっとね、なんかね、変な感じがしたの~。
ぞわぞわっとして、ちょっと怖いような、嫌な感じ……」
落合さん「嫌な感じ……ですか?」
ビーコン「ヒヒヒ、なんともないっスよ~、ピグモン。
気のせい、気のせい、ただの考え過ぎ……」
宙マン「いや、ピグモンは勘の鋭い子だからね。
ただの気のせいとばかりも言えないと思うよ」
落合さん「まぁ……お殿様も、何か事件の前兆とお考えで?」
宙マン「そればっかりは、実際に確かめてみない事にはね。
……私も気になってきた、ちょっと様子を見てくる!」
ビーコン「ちょ、今からっスか!?(汗)」
落合さん「お殿様、お殿様ったら!
……メニューのご注文はどうなさいますの!?」
宙マン「ガタタン一択。……なぁに、すぐに戻るよ!」
ビーコン「……ちょ、アニキ! アニキってばー!」
一度気になり出すと、どうにもこうにも止まらない。
かくして宙マンは、店を飛び出し……一路、芦別市の郊外へ。
そんな宙マンの懸念が、杞憂であってくれればよかったのだが。
ああ、だがしかし……
事件の予感は、不幸にも的中したのである。
見よ、芦別市郊外の原生林に忽然と姿を現した不気味な姿を!
「ぐおおお~んっ!!」
異様な唸り声、鎧のように分厚い髭、巨大発達した耳……
幾度も地球を襲い、宙マンとも死闘を繰り広げた異次元宇宙人。
怪獣軍団の一員、イカルス星人の同族だ!
イカルス星人「ぐぉぉ~んっ……魔王様、ゾネンゲ博士!
不肖・イカルス星人、ただいま地球に到着致しました!」
ゾネンゲ博士「うむうむっ、ご苦労!」
ゾネンゲ博士「さて、恒星間長距離移動の直後で悪いが……」
イフ「お前には早速、仕事にかかってもらわねばならん。
ワシがお前に与えたる使命、それは即ち――」
イカルス星人「我々の悲願、北海道への前線基地建設!」
イフ「そうだ、その通りだ、イカルス星人!
かつて四次元世界に基地を築き、地球攻撃を有利に進めた
異次元宇宙人の手腕に、ワシは大いに期待しておる!」
イカルス星人「ぐぉぉ~んっ、万事この私にお任せ下さい!」
秘密基地の建設工事を進めたとて、誰にも気付かれは――」
「はっはっはっはっ……
果たして、そう思い通りにいくものかな!?」
イカルス星人「(ギョッとして)むむっ、何奴!?」
不意に響いてきた凛たる声に、驚いて振り返るイカルス星人。
次の瞬間、華麗な空中回転とともに舞い降りてきたのは……
もちろん、この男だ!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
地球侵略の前線基地など、この私が作らせはしないぞ!」
イカルス星人「ど、どうしてここが判った!?(汗)」
宙マン「ふとした勘と、日頃の行いの賜物さ!」
イカルス星人「な、何たる強引な! 納得いかんぞ!?」
怒り、息まくイカルス星人を前に……
宙マンもまた、ファイティングポーズをとり、身構える。
一気に高まる緊張感!
ただならぬ気配を察して、野鳥の群れが一斉に飛び立つ――
その荒々しい羽音が、両者の戦いのゴングとなった。
イカルス星人「ぐぉぉ~んっ……納得いかん、納得いかんっ!
納得いかんから、まずは貴様を叩きのめしてやる!」
宙マン「なんの、叩きのめされるのはお前のほうだ!」
片や軽快なフットワーク、片や不気味な瞬間移動で……
じりじりと間合いを詰め、同時に突進していく宙マンと星人。
さぁ、今回もまたビッグファイトの幕開けだ!
ついに激突、真っ向から相打つ宙マンとイカルス星人。
芦別の滝壺と岩場に、両者の繰り出す打撃音が響き渡る。
持ち前の獣性を前面に顕し、荒々しく迫り来るイカルス星人。
その猛攻をかいくぐりつつ、宙マンも怯まず渡り合っていく。
イカルス星人「ぐぉぉ~んっ、これでもか、まだ参らないかッ!」
宙マン「なんの、それしき!」
がっぷり四つに組み合っての力比べ、そこからのパンチ・チョップの応酬!
いささか泥臭いが、凄絶そのものの死闘がダイナミックに展開される。
宙マン「さぁ、どうした――もう手詰まりかね!?」
イカルス星人「ぐぉぉ~んっ、ナメおって!!」
怒りとともに、イカルス星人の右手から迸るエネルギー。
あらゆる物を焼き尽くす、集束アロー光線だ!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
イフ「よぉし、よしよし……その調子だ、イカルス星人!
地球侵略の前線基地建設、何人たりとも邪魔させてはならん!」
イフ「分かっておろうな、そのためにこそ……
ここで油断せず、一気に宙マンへとどめを刺してしまうのだ!」
イカルス星人「ぐぉぉ~んっ、お任せ下さい、魔王様!」
宙マン「(苦悶)う、ううっ……うっ!」
イカルス星人「ぐふぉふぉ……
馬鹿な奴め、ここで出しゃばったのが運の尽きよ。
……さぁ、潔く死んでもらうぞ、宙マン!!」
瞬間移動で一気に間合いを詰め、宙マンへと迫るイカルス星人。
だが、これしきで挫ける宙マンではない――
残された気力と体力を一気に振り絞り、パワー全開!
宙マン「なんの……負けて、たまる、かぁぁっ!」
イカルス星人「(驚き)ぐ、ぐおおおっ!?」
宙マン「エイヤァァーっ! 宙マン・ミラクル・キック!」
出た、電光石火の必殺技!
宙マン「受けてみろ! 宙マン・超破壊光線!!」
両手の間にエネルギーを集中させ、激しいスパークとともに放つ大技。
「超破壊光線」の直撃を受け、火花を散らす異次元宇宙人のボディ!
イカルス星人「(悶絶)……や、やられたっ、こりゃたまらん……
ちゅ、宙マンめ、覚えてろ~っ!!」
捨て台詞を残し、その場からふっと消え去るイカルス星人の姿。
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「ぐ、うぬうううっ……よくも、よくもやってくれたな!
だが、これしきの事で図に乗るでないぞ、宙マンよ。
怪獣軍団には、まだまだ強力な怪獣どもがおるのだからな!」
……などと言う、いつもの負け惜しみはさて置いて。
宙マン「ふぅっ。……これでどうにか、やれやれか!」
かくして、我らが宙マンの活躍によって……
そして、そんな正義の戦いに対するささやかな報酬として……
宙マンもまた、ファミリーから少し遅れて、芦別市の名物料理たる
「ガタタンラーメン」を心行くまで堪能したのは言うまでもないだろう。
今日もやったぞ、さすがだ宙マン――
だが、悪の野望はとどまるところを知らない。
さァて、次回はどんな冒険が待っているのかな?