遥かなる宇宙の彼方、暗黒星雲の奥深くから……
美しい緑の星・地球を我が物にせんと狙い続けている、恐怖の怪獣軍団。
今日も配下の怪獣たちに向かって、怪獣魔王・イフの檄が飛ぶ。
またまた恐るべき侵略の魔の手が、緑の地球に迫るのだ!
イフ「うぬぬぬっ……それにしても、忌々しい宙マンめ!
奴の顔を思い出すだけで、ムカムカと腹が立ってくるわ――
ああ、この気分をスカッとさせてくれる者はおらんか!?」
「ケッケッケッケッ、だったら……
この俺がやらせてもらいますぜ、魔王様!?」
自信たっぷりの宣言とともに、怪獣魔王の前に進み出てきたのは
軍団の幹部候補生たる五人衆「ダークネスファイブ」の一角をなす
グローザ星系人、“氷結の”グロッケン。
イフ「おおっ、やってくれるかグロッケン!」
グロッケン「ケッケッ、勿論ですとも――」
グロッケン「俺の選んだ怪獣が、既に地球へ到着し……
いつでも動ける態勢で、現地にスタンバってますぜェ!」
イフ「うむ、実に結構、頼もしいことよ!」
おお、今まさに……悪の胎動は蠢動へ変わろうとしている。
危うし地球、危うし宙マン!
だが、ひとまずそれはそれとして――。
本シリーズの舞台、北海道千歳市における名所はと問われたなら
多くの人がその名前をあげるであろう支笏湖。
生命力が沸騰する夏本番を、少し過ぎつつある今の時期も……
日本一の水質透明度を誇る国立公園として、多くの観光客が訪れ
連日のように楽しい賑わいを見せている。
毎度お馴染み、千歳在住の宙マンファミリーとコロポックル姉妹も
ちょうどこの日、支笏湖畔の「ポロピナイキャンプ場」へと足を運び
和気藹々の楽しい時間を過ごしていたのであった。
みくるん「は~い、スマイル、スマイル!
いいですか皆さん、撮りますよぉ~っ!」
ながもん「にっこり、笑って……セイ・チーズ」
パ シ ャ リ っ !
宙マン「さてと! 記念撮影も済んだところで……」
ビーコン「あとはもう、チップめがけて一直線っス~!」
ここ・支笏湖においては、6月~8月の僅かな期間だけ漁が解禁され
様々な料理を味わう事の出来るチップ。
チップとは本州で言うところの「ヒメマス」のことであり、
アイヌ語の「カパ・チェップ(薄い体、平たい魚)」から来ている愛称。
……と、そんな薀蓄はともかくとして。
宙マン「大事なのは、味わえるのが今だけってことだよね!」
ながもん「これを、逃すと……また、来年まで……おあずけ」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんも凄く楽しみだったの~」
ビーコン「いえっふ~、怒濤の勢いで貪り食っちまうっスよ~!」
落合さん「……ちょ、何ですか、ビーコンさんったら!
くれぐれもお行儀よくですわよ、お行儀よくっ!?(赤面)」
などと言いつつ、宙マンたちが食堂に向かっていたところ。
……なんだか俄かに、キャンプ場内の様子が騒がしい。
みくるん「あれれっ、何の騒ぎでしょう!?」
ビーコン「う~ん、なんかイベントでもあるんスかねぇ?」
落合さん「いえ、そんな楽しげなムードではございませんわ」
ピグモン「どう見ても、何から逃げてる感じなの~」
宙マン「何か? 何かって、いったい――」
ながもん「(ボソッと)……多分……あれ」
「ギャウウ~ッ!!」
みくるん「(驚き)あ、ああっ!?」
ビーコン「なるほど、こりゃみんな全力で逃げるワケっスね!」
落合さん「納得してる場合ですか、ビーコンさんっ!(汗)」
怪獣軍団の一員、脳波怪獣ギャンゴ。
“氷結の”グロッケンの命を受けて、地球に飛来し……
そして今、ポロピナイキャンプ場にその不気味な姿を現した!
ほれほれ、地球人ども、もっと怖れおののけィ!」
落合さん「あらまぁ、どうしましょう、お殿様!」
ビーコン「これじゃとっても、チップ料理どころじゃないっスよ!」
宙マン「う~ん……色んな意味で、参るなぁ!(汗)」
グロッケン「ケッケッケッケッ、早速やってるな――
いいぞ、いいぞギャンゴ、期待以上の暴れっぷりじゃねぇか!」
ギャンゴ「ギャウウ~っ、俺はいつでもバリバリだぜ、グロッケン!」
グロッケン「(頷き)その調子で、もっと思いっきり暴れ回って……
呑気な地球人どもを、うんと震えあがらせてやるがいい!
魔王様も、お前の働きぶりを見守って下さってるぞ!」
ギャンゴ「ギャウウ~っ、だったらますます張り切っちゃうぜィ!」
グロッケン「いかがでしょうか、魔王様。
平和ボケの奴らに、恐怖と言う名の冷や水をぶっかける――
こんなにスカッとする話も、ちょっと他にありませんぜ!」
イフ「ううむっ、見事だ!
……頑張って大いに励めよ、ギャンゴ。
使命を果たした暁には、臨時ボーナスを弾んでやるぞ!」
ギャンゴ「ギャウウ~っ、臨時ボーナス! 何て甘美な響き!
お任せ下さい魔王様、この俺様の手で必ずや――」
「おおっと、悪ふざけはそこまでだ!」
ギャンゴ「(驚き)ギャウっ! だ、誰だ!?」
不意に響いてきた凛たる声に、驚いて振り返るギャンゴ。
次の瞬間、華麗な空中回転とともに舞い降りてきたのは……
もちろん、この男だ!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
怪獣ギャンゴよ、ここはみんなが楽しむキャンプ場だ――」
宙マン「その利用マナーを守れないなら、私がお灸を据えてやる!」
ギャンゴ「ギャウウ~っ、出たな宙マン!
仲間の噂通り、イイ子ちゃんぶっていけ好かない野郎だぜ!」
ギャンゴ「この際だ、まずはお前から片付けてやらぁ!」
宙マン「あくまでやる気か……ならば、お相手しようかね!」
ファイティングポーズを取り、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
ビーコン「だ~っ、今回もまたこうなっちまうんスねぇ!?」
落合さん「こうなると、お殿様のお力だけが頼みの綱ですわ;っ」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
ギャンゴ「ギャウウ~っ、行くぜ行くぜ、行くぜッ!」
宙マン「さぁ来い、ギャンゴ!」
真っ向激突、宙マン対ギャンゴ!
落合さんたちや観光客らが、固唾を呑んで見守る中……
支笏湖ブルーのきらめく湖畔は、凄絶なる決戦場と化した。
ギャンゴ「ギャウウ~っ、だいたいお前、出しゃばりすぎなんだよ!
何でそういつも、俺らがコトを成そうとした時に限って
都合よくそこにいるんだぁ!?」
宙マン「いやいや、それはこっちの台詞さ!
何でまたいつも、私たちがのんびり観光や食事を楽しもうかと言う
そんな時に限って、都合よく出てくるんだね!?」
言葉の応酬は、もはや水掛け論にしかならない――
となれば、お互いの打撃で決着をつけるより他にはない。
宙マン、ギャンゴ、お互いに一歩も引かぬパンチの応酬!
両者の技と力がしのぎを削り、戦いは最高潮にヒートアップする。
ギャンゴ「ギャウウ~っ、面倒臭ェ! 一気にケリつけちゃる!」
宙マン「(油断なく身構え)どう来る気だ!」
ギャンゴ「(ニヤリとして)ギャウウ~っ、こうよ!」
ギャンゴの両手から、素早く放たれるマグネチック・ビーム!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
みくるん「ああっ、宙マンさんが!」
ながもん「今の、攻撃は……あなどれない」
ビーコン「ひぇぇ、間抜けな怪獣だとばっか思ってたら……」
落合さん「なかなかどうして、とんだ曲者ですわ!」
ピグモン「はわわわ、宙マン……まけないでなの~!(涙目)」
宙マン「(苦悶)うう……うっ……!」
ギャンゴ「ギャウウ~っ、ざまぁないなッ、宙マン!」
ギャンゴ「このまま一気に、とどめ刺しちゃるぜィ!」
宙マン「ぬ、ううっ……!」
立ち上がりかけた宙マンめがけ、そうはさせじとのしかかり……
ヒーローにとどめを刺すべく、首じめにかかるギャンゴ。
宙マン、ピンチ!
だが、そうやすやすと、ここでやられるような彼ではない。
激しく地面を転がり、もみ合いながらチャンスを伺い……
「いいや、まだまだ……負けて、たまるかっ!!」
宙マン、パワー全開!
渾身の前蹴りを炸裂させ、ギャンゴの体を大きく吹っ飛ばす。
ながもん「おおっ。……さすが」
ビーコン「うお~い、アニキ~! 今がチャンスっスよ~!」
宙マン「(頷き)ああ、判ってるさ!」
ギャンゴ「ギャウウ……野郎、なめやがって!」
宙マン「この一発で終わりにしてやる!」
宙マン「それっ、食らえ!
宙マン・パルサーチョップ!!」
エネルギーを集中させた手刀で繰り出す、必殺の一撃……
パルサーチョップが、ギャンゴの脳天を叩き割るように炸裂!!
ギャンゴ「ギャギャギャ……こ、こりゃまた効いたぁぁ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
イフ「うぐぐっ! またしても宙マンめにしてやられるとは!
えぇい、だが認めん、断じて認めんぞ――
最後に笑うのは、ワシら怪獣軍団なのだからな!」
……などと言う、怪獣魔王の負け惜しみはさて置いて。
かくして我らが宙マンの活躍により、脳波怪獣ギャンゴは撃退され
支笏湖畔には再び、静かな平和と人々の笑顔が戻った。
みくるん「うふふっ、どうもお疲れ様でした、宙マンさん!」
宙マン「いやぁ、一戦交えたら腹ペコが限界寸前だよぉ」
ピグモン「はうはう~、でもこれで、安心してチップが食べられるの~」
落合さん「さぁ皆様、改めて食堂へ参りましょう!」
と、言うわけで。
宙マン一行が注文したのはこれ、食堂における人気No.1メニュー、
その名もずばりの“ポロピナイセット”。
姿焼きと姿フライ、支笏湖産のチップを二尾も供してもらえた上で
1180円と言う低価格が、あまりにも嬉しすぎる献立である。
ビーコン「ん~、この姿焼きの香ばしさ、堪んないっスねぇ!」
ピグモン「はうはう~、フライもさっくさくなの~」
ながもん「上品な、コクと……クセの、なさは……」
みくるん「(にっこり頷き)支笏湖のチップならでは、ですよねぇ~」
落合さん「あぁ、本当に美味しい……
はるばる支笏湖まで来たかいがございましたわね、お殿様!」
宙マン「ああ、そして……きっとまた、来年もみんなで来よう!」
平和を愛し、自然を愛し……
今日も行く行く、地域の味方。
ありがとう宙マン、次回も頼んだぞ!